この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
第3章では、見えないものをどう読むかを考えてきました。
言葉になっていない方に、本質がある。 身体は、言語化より先に知っている。 文脈の中に置くと、事実は意味を持ち始める。 仮説は、相手の言葉を引き出すための問いかけだ。
その往復の中で、意味は少しずつ言葉になっていく。
でも、ここで立ち止まって考えてみたいことがあります。
読む力は、確かに大切です。 しかし、読んだだけでは、経営は動きません。
読んだ意味が、意志になる。 意志が、戦略を立ち上げる。 戦略が、組織の行動を変える。
その連鎖が起きて初めて、意味は経営の力になります。
第4章では、その連鎖を辿ります。
ひとつの居酒屋の物語を通して。
意味が失われたとき、組織に何が起きるのか。 意味を取り戻したとき、何が変わるのか。
読んだ意味を、戦略へ。
その道筋を、一緒に見ていきたいと思います。
この文章をご覧のあなたは今、自分の仕事の意味を、言えますか。
すぐに答えられる人もいるでしょう。 少し考えてしまう人もいるかもしれません。 あるいは、問われて初めて、「そういえば……」と思う人もいるかもしれません。
意味が失われるのは、突然ではありません。 じわじわと、気づかないうちに、起きていきます。
少し前のことを振り返ります。
あるクライアント企業のホームページを改定する仕事でした。 最初は、丁寧に考えていたと思います。 このホームページは、何のためにあるのか。 どんなメッセージを届けたいのか。 誰に、何を、伝えるのか。
しかし、作業が進むにつれて、気づかないうちに、私の関心は別のところへ移っていきました。
どうしたら見栄えがよくなるか。 どうしたら閲覧者の目を引けるか。 構造をこう変えれば、もっとアピールできるのではないか。
それ自体は、悪いことではありません。 デザインも構造も、大切な要素です。
でも、ある日、その会社の経営者にこう言われました。 「ホームページは、メッセージが重要です。それをきちんと表現したうえで、見え方の話に落とし込みましょう。」
その言葉を聞いたとき、私は「あ、やっちゃった・・・」と思いました・・・。
いつの間にか、手段が目的になっていた。
メッセージを届けるための手段として、デザインや構造があるはずでした。 なのに、いつからか、デザインをよくすることが目的になっていた。
怖いのは、それが「ちょっとずつ」だったことです。 最初から意味を忘れていたわけではありません。 どこかの瞬間に一気に変わったわけでもない。 ページのデザインを少し直し、構造を少し変え、その繰り返しの中で、少しずつずれていった。
そして気づけば、最初の問いがどこかへ消えていました。
この感覚は、私だけのものではないと思います。
日々の仕事の中で、私たちはたくさんのタスクをこなしています。 資料を作る。会議に出る。数字を確認する。 それぞれに理由があって、意味があってはじめた仕事のはずです。
でも、気づかないうちに、「こなすこと」が目的になっていることがある。
目標を達成することが目的になっていることがある。 プロセスを回すことが目的になっていることがある。
意味は、失われるというより、「薄れる」のだと思います。 少しずつ、じわじわと。
組織の中でも、同じことが起きます。
事業を始めたとき、必ず理由がありました。 誰かの役に立ちたかった。 社会に届けたいものがあった。 この技術で、何かを変えたかった。
その思いが、事業の出発点になっていた。
しかし、組織が大きくなり、仕組みが整い、業務が複雑になっていくにつれて、 最初の意味は少しずつ日常の中に溶け込んでいきます。
当たり前のものになっていく。 語られなくなっていく。 問われなくなっていく。
そして気づいたときには、「なぜこの事業をしているのか」という問いに、すぐに答えられなくなっている。
意味が失われた組織に何が起きるのか。
行動は続いています。 数字も動いています。 会議も開かれています。
でも、どこかが変わっています。
人が、指示を待つようになります。 誰かが決めてくれるのを待つようになります。 「やらされている」という感覚が、じわじわと広がっていきます。
逆に言えば、意味があるとき、人は違います。 誰に言われなくても動きます。 役割の枠を超えて、考えます。 困難な場面でも、踏みとどまります。
意味は、外から見えません。 でも、確かに、組織の力に影響しています。
この章では、一軒の居酒屋の物語を辿ります。
純米酒を280種類そろえた、恵比寿の日本酒居酒屋です。 その店が、いつの間にか「なんでも居酒屋」になっていた。
なぜそうなったのか。 意味を取り戻したとき、何が変わったのか。
意味と戦略の関係を、そこから読み取っていきたいと思います。
意味が失われるのは、劇的な瞬間ではありません。 ちょっとずつ、気づかないうちに、起きていきます。
だからこそ、問い続けることが必要です。 なぜ、これをやっているのか。 この仕事は、誰のためにあるのか。
次の話では、その問いを見失った一軒の居酒屋の話から始めます。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
