見えないものを『仮説』で読む。——「見えないものを読む経営」第20話

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この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール


ここまで、身体で読む、文脈で読む、という話をしてきました。

しかしどれだけ丁寧に観察しても、どれだけ歴史を辿っても、見えないものはまだ眠ったままのことがあります。

そのとき、もうひとつの方法があります。

仮説を当てる、ということです。


私はときどき、意図的に「乱暴な仮説」を相手に向けることがあります。

「この会社が本当にやりたいのは、これじゃないですか」
「あなたが一番怖いのは、こういうことではないですか」
「この事業の本質は、実はここにあるんじゃないですか」

根拠が完全に揃っているわけではありません。むしろ、少し踏み込みすぎているくらいの仮説です。

当然、「違います」と返ってくることもあります。しかしその「違う」という反応も、私には情報です。何が違うのかを言おうとするとき、相手は自分の輪郭を自分で発見し始めます。仮説が間違っていたとしても、それが引き金になって、本当のことが出てくることがある。

一方で、「なるほど、そうかもしれない」となることもあります。本人も気づいていなかった何かが、仮説という形で言葉になった瞬間です。

どちらに転んでも、仮説を当てることで、対話は動きます。


ただし、これは単なる当てずっぽうではありません。

仮説を当てるとき、私が意識していることがあります。

ひとつは、自分の感性と肌感を手放さないこと。

相手の話を聞きながら、私は私として反応しています。何かが引っかかる。何かが気になる。何かが腑に落ちない。そうした自分の身体的な反応を、観察の道具として使います。

もうひとつは、人としての視点に立つこと。

経営の話であっても、戦略の話であっても、最終的にはそこに人がいます。この人は何を大切にしているのか。何を怖れているのか。何に向かいたいのか。そうした人間としての普遍的な問いを、常に持ちながら関わります。

そしてこのふたつを持ちながら、仮説を当てる。

これを私は「介入」と呼んでいます。


介入というのは、中立的な観察者でいることを、意図的に手放す行為です。

コンサルタントや支援者というのは、ともすれば「客観的な第三者」でいようとします。しかし本当に意味のある対話は、関わる人間が自分の感性を持ち込んで初めて生まれることがある。

外から眺めているだけでは、引き出せないものがあります。踏み込んで初めて、動くものがある。

介入は、乱暴に見えるかもしれません。しかしそれは、相手への敬意がある上での乱暴さです。この人の中に何かがある、という確信があるから、踏み込めます。


仮説を当てるとき、私がもうひとつ意識していることがあります。

最大公約数と最小公倍数、という考え方です。

最大公約数とは、みんなに共通するものです。人として誰もが持っている感覚。認められたい、役に立ちたい、意味のあることをしたい。そうした普遍的な欲望の核。

最小公倍数とは、それぞれの違いを活かしながら重なれる最小の単位です。この人ならではの経験、この組織ならではの歴史、この文脈ならではの意味。

仮説を当てるとき、私はこのふたつを同時に意識します。

人として共通する何かに触れながら、でもこの人にしかない何かにも触れる。普遍と個別の両方を、仮説の中に込める。

それが精度の高い仮説と、ただの思いつきの違いだと思っています。


この仮説を当てるという行為は、実は、とてもフィジカルなものだと思うのです。

身体を持った人間が、関係性の中に入り込んで、自分の感性を使いながら、相手の反応をリアルタイムで受け取りながら、次の言葉を選んでいく。

その場の空気を読む。声のトーンの変化を感じる。わずかに前のめりになる瞬間を見逃さない。

これは、情報を処理することではありません。関係性の中で生きることです。

身体があり、感性があり、その場にいるからこそできる行為です。どれだけ精度の高いAIでも、この介入はできない。なぜなら、これは分析ではなく、存在することだからです。


ここまで第3章では、見えないものを読む方法を考えてきました。

言葉になっていない方に本質がある。身体で読む。文脈で読む。そして仮説で引き出す。

これらはすべて、別々の技術ではありません。ひとつながりの行為です。

言葉になっていないものに気づき、身体で受け取り、文脈の中に置き、仮説として相手に返す。その往復の中で、意味は少しずつ、言葉になっていきます。

次の章では、読み取った意味を戦略へと変えていくプロセスを考えます。意味が戦略に変わるとき、何が起きているのか。そしてその意味が失われたとき、組織には何が起きるのか。


この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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