この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
「もっと横の連携がしたい」 そう言われたとき、あなたはどう受け取りますか。 言葉をそのまま受け取ると、見えなくなるものがあります。 今回は、言葉の奥を読んだときに起きたことをお話しします。
あるとき、若いチームと向き合う機会がありました。
広告会社の中でも特に若いメンバーたちで、全員が90年代以降生まれ。いわゆるZ世代と呼ばれる世代です。人数は7、8人ほどでした。
壁打ちの場を設けて、一人ひとりと話しました。 最初の問いはシンプルです。
「最近、どうですか」
話を聞いていくうちに、共通するテーマが浮かび上がってきました。
「もっと横の連携がしたいんです」 「メンバー同士、もっとお互いのことを知りたくて」
複数のメンバーが、同じようなことを言いました。
私はその言葉を聞きながら、少し考えました。
横の連携がなくても、仕事は前に進みます。 実際、このチームの業務はそれぞれが独立していて、連携しなければ回らないわけではありませんでした。
では、なぜ彼ら彼女たちはそれを求めているのか。
言葉をそのまま受け取ると、「連携の仕組みをつくればいい」という結論になります。
でも私には、その奥に何か別のものがある気がしました。
属性的なことは、話さなくても分かります。 どの大学を出たか。どんな仕事をしているか。
でも彼ら彼女たちが本当に知りたいのは、そういうことではないのかもしれない。
もっと深いところで、お互いにつながりたいのかもしれない。 さらに言えば、自分自身とは何者なのか、という問いを誰かと一緒に考えたいのかもしれない。
Z世代は、定常社会を生きてきた世代です。 経済が右肩上がりだった時代ではない。 目標や目的を、外から与えられることに慣れていない。 むしろ、自分の中から意味を見つけることを、どこかで求めている。
その感覚が、「お互いのことをもっと知りたい」という言葉になって現れていたのだと思います。
そこで試してみたことがあります。
マイパーパスを、タグラインの形で言語化してみよう、と提案しました。
広告会社のメンバーですから、言葉を扱うことは得意です。 自分の存在意義を、短い一文で表現してみる。
全員が言葉にできました。 解像度はそれぞれ違いましたが、みんなが自分の言葉を持ってきた。
そして、その発表の場で不思議なことが起きました。
誰かがマイパーパスを語ると、必ず誰かがこう聞くのです。
「それって、なんで?」
この「なんで?」が連鎖しました。
なんでそう思うの? → 昔こんなことがあって。 → それってどういう体験? → 子どもの頃から、ずっとそうで。
気づけば、話は生い立ちや価値観にまで辿り着いていました。
マイパーパスは、目的ではありませんでした。 原体験への入口だったのです。
言葉が問いを誘発し、問いが深層に届いた。 そして深層に触れたとき、メンバーの間に何かが生まれました。
「この人がなぜこう動くのか、分かった気がする」 「自分のことも、少し整理できた」
そうした言葉が、自然に出てきました。
変化は、大きなことからではありませんでした。
たとえば、スラックの一言返信。 以前は「了解です」で終わっていたものが、少し違って見えるようになった。
送ってきた相手が、どんな原体験を持っているか。 何を大切にしているか。 なぜこのタイミングでこの言葉を選んだのか。
同じ「了解です」でも、意味が変わります。 文字に色がついたような感覚、とでも言えばいいでしょうか。
メールもチャットも、表面は同じです。 でも深層を知っていると、言葉の奥が見えるようになる。 コミュニケーションの解像度が、静かに上がっていきます。
その後、チームは変わりました。
コミュニケーションが増えました。 自然に協力し合う場面が増えました。 そして最終的に、このチームは設定された目標を達成しています。定量的にも、定性的にも。
仕組みを変えたわけではありません。 制度を作ったわけでもありません。
お互いの深層に触れた。 それだけで、チームは動き始めました。
前回、意味はすでにそこにあると書きました。
このエピソードは、その実証だったと思います。
「横の連携がしたい」という言葉の奥には、すでに意味がありました。
一人ひとりの中に、原体験がありました。
その意味に触れる場をつくっただけで、チームは自分たちで動き始めた。
意味は、外から与えるものではありません。 すでにそこにある。 読む力があれば、それに触れることができる。
あなたの周りにいる人の言葉の奥には、どんな意味が流れているでしょうか。
今回は、Z世代のチームとの対話から見えてきたことをお話ししました。 言葉をそのまま受け取らず、奥を読む。すると、すでにそこにある意味に触れることができます。 次回(第15話)は、第2章の締めくくりとして「意味に気づくとは何か」という問いに向き合います。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
