言葉にしなければ、沈んでいく。——「見えないものを読む経営」第10話

言葉にしなければ、沈んでいく。——「見えないものを読む経営」第10話の手書きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール


見えないものを感じ取る。五感で場を読む。文脈の奥にある構造を見つける。

しかし、感じ取るだけでは、まだ半分です。

感じ取ったものは、放っておくとどんどん沈んでいきます。書くか、話すか、何らかの形で言葉にしなければ、霧の中に消えていってしまう。

今回は、言葉にするという行為の意義について考えます。


見えないものを感じ取る。

五感で場を読む。文脈の奥にある構造を見つける。書かれていないことを読む。

ここまで、そうした話をしてきました。しかし、ここでひとつの問いが生まれます。

感じ取ったものを、そのままにしておいていいのでしょうか。

答えは、おそらくノーです。感じ取るだけでは、まだ半分です。それを言葉にして初めて、思考は完成します。


人は、言葉にする前から、多くのことを感じています。

会議の空気がおかしい。この提案には何かが足りない。あの経営者は、言葉とは別のことを考えているのではないか。そうした感覚は、言葉になる前から、身体の中にあります。

しかしそれは、まだ霧の中にあるものです。

輪郭がない。形がない。他者に伝えることもできない。自分自身でも、それが何なのかよくわからない状態です。

言葉にするということは、その霧に輪郭を与えることです。

「この会社の問題は、戦略ではなく、意志の欠如だ」「この経営者が本当に言いたいのは、数字の話ではなく、誇りの話だ」。そうした言葉が生まれた瞬間、霧だったものが、急に形を持ち始めます。

そして不思議なことに、言葉にすることで、自分自身の理解も深まります。

なんとなく感じていたことが、言葉になることで、初めてその意味がわかる。書くことで考えが整理される、という経験をしたことがある方も多いと思います。あれと同じです。言葉にするという行為は、思考を外に出すだけでなく、思考そのものを深めます。

私自身も、現場でそれを実感してきました。支援先の資料を読みながら、気になる言葉に丸をつける。引っかかったキーワードにハイライトをかける。その作業をしているうちに、ばらばらだった断片が、少しずつつながり始めます。診断士の現場では、ペアを組んだ士業の先生と、気づいたことを声に出して話し合うこともあります。話しながら、「あ、そういうことか」と自分でも気づく瞬間がある。

言葉にしなければ、感じ取ったものはどんどん沈んでいきます。霧は深くなるばかりです。書くこと、話すこと。その行為が、沈みかけたものを意識の上に引き上げてくれます。


もうひとつ、言葉にすることには大切な意味があります。

それは、他者と共有できるということです。

感じているだけでは、それは自分の中にしかありません。しかし言葉になった瞬間、それは他者に届くものになります。組織の中で共有できるものになります。

私はこれまで、多くの経営者との対話の中で、ある瞬間を何度も見てきました。

それは、経営者が自分の言葉で、会社の未来を語り始める瞬間です。

それまで資料の中にあった数字や戦略が、突然、生きた言葉に変わる。「この会社は、こういう価値を大切にしてきた」「だから、これからもここにこだわりたい」。そうした言葉が出てきたとき、会議室の空気が変わります。

それまで静かだった場に、エネルギーが生まれます。

言葉になった意志は、人を動かします。言葉になっていない意志は、どれだけ強くても、組織には伝わりません。


見えないものを読む。そして、読んだものを言葉にする。

このふたつは、セットです。

読むだけでは、霧の中にとどまります。言葉にすることで、霧は晴れます。そして言葉になったものが、他者と共有され、組織を動かし、未来を形づくっていきます。

序章では、違和感という思考の入口から始まり、読むという行為の本質について考えてきました。違和感に気づくこと。それを流さずに立ち止まること。書かれていないものを読むこと。五感で場を感じ取ること。そして、感じ取ったものを言葉にすること。

これらはすべて、ひとつながりの思考です。

では、その思考を通して、何が見えてくるのか。

次の章では、見えないものを読んだ先に何があるのかを考えていきます。
人や組織の深層には、何が潜んでいるのか。その問いから、始めていきましょう。

繰り返しになりますが、言葉にすることで、霧に輪郭が生まれます。自分自身の理解が深まります。そして他者と共有できるものになります。

読みながらキーワードにハイライトをかける。ペアの先生と声に出して話し合う。そうした小さな行為が、沈みかけたものを意識の上に引き上げてくれます。

見えないものを読む。そして、読んだものを言葉にする。このふたつはセットなのです。

本章では、違和感という思考の入口から始まり、読むという行為の本質について考えてきました。次章からは、その思考を通して何が見えてくるのか——人や組織の深層に潜むものへと、踏み込んでいきます。


この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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