なぜ、気づいても動けないのか。——「見えないものを読む経営」第7話

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この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール


違和感に気づいている。でも、口にできない。

そんな経験はないでしょうか。会議の中で「何かがおかしい」と感じながら、結局何も言えないまま終わってしまう。あとになって「実は気になっていたことがあって」と、こっそり打ち明ける。

なぜ私たちは、気づいていても動けないのでしょうか。

今回は、違和感が流れてしまう理由について、ふたつの角度から考えてみます。


理由は、大きくふたつあると思っています。

ひとつは、忙しさ。
もうひとつは、組織の空気です。


現代の仕事は、とても速い速度で進みます。

メールが届く。チャットが届く。会議が始まる。ひとつの仕事を終える前に、次の仕事がやってきます。考える前に判断を求められ、問いを深める前に結論を出さなければならない。

そうした環境の中では、違和感に立ち止まる時間がなかなか生まれません。

「とりあえず進めましょう」「あとで考えましょう」。そう言いながら、私たちは次の作業へと移っていきます。違和感は、忙しさの中に静かに沈んでいく。

しかしここで、少し立ち止まって考えてみたいことがあります。

「あとで考えよう」と思った違和感を、実際にあとで考えたことが、どのくらいあるでしょうか。

おそらく、ほとんどない。違和感は、流したその瞬間に、ほぼ消えてしまいます。記憶の片隅にも残らないまま、次の情報に上書きされていく。

忙しさとは、思考の時間を奪うだけではありません。問いそのものを消してしまうのです。


もうひとつの理由が、組織の空気です。

こちらは、忙しさよりも少し厄介です。

組織には文化があります。長い時間をかけて育まれた価値観や行動様式。それはとても大切な資産です。「うちの会社らしさ」として人々を束ね、判断の拠り所になり、新しいメンバーを自然に染めていく。組織文化が強い会社は、それだけで大きな強みを持っています。

しかし、その同じ文化が、違和感を封じてしまうことがあります。

「うちではそういうやり方はしない」「ずっとこうしてきたから」。そうした言葉が、無意識のうちに場の空気をつくっていきます。文化が強ければ強いほど、その文脈から外れることへの抵抗感も強くなる。違和感を口にすることが、空気を読めない行為のように感じられてしまう。

組織の会議には、時間の制限があります。結論を出さなければならない。決めなければならない。そうした状況の中で、違和感を口にすることは、ときに勇気がいることです。

「話の流れを止めてしまうのではないか」「細かいことを言っていると思われるのではないか」。そんな気持ちが、ふと頭をよぎります。

そして多くの場合、違和感はそのまま心の中にしまわれてしまいます。

私はこれまで、さまざまな企業の会議に立ち会ってきました。経営会議、事業戦略の会議、ワークショップ。その中で、何度も見てきた光景があります。

会議が終わったあと、誰かがぽつりと言うのです。

「実は、少し気になっていたことがあるんです」「会議では言えなかったんですけど……」

私はその言葉を聞くたびに、もったいないと思います。もしその違和感が、もう少し早く共有されていたら。議論の方向は変わっていたかもしれない。意思決定の質も、変わっていたかもしれない。

違和感は、議論を邪魔するものではありません。むしろ、議論を深めるための入口です。

しかし組織の空気は、その入口をそっと閉じてしまうことがある。文化という資産が、思考の障壁になってしまう瞬間です。


忙しさと組織の空気。このふたつが重なるとき、違和感はほぼ確実に流れていきます。

しかし本当に重要な問題ほど、最初は小さな違和感として現れるものです。

組織の文化の問題も、事業の方向性の問題も、顧客のニーズの変化も、多くの場合、最初はっきりした形では現れません。「何かがおかしい」という曖昧な感覚として現れます。そしてその感覚を丁寧に見つめた人だけが、その奥にある構造に気づきます。

私がこれまで出会ってきた経営者の中で、印象に残っている人たちがいます。

優れた経営者ほど、違和感を大切にします。

小さな変化に気づく。言葉にならない引っかかりを無視しない。そしてその違和感を、ゆっくりと言葉にしていく。その過程の中で、新しい問いが生まれます。新しい視点が生まれます。そしてときには、まったく新しい未来が、そこから立ち上がることもあります。

違和感を流す人と、違和感を手放さない人。

その差は、最初はとても小さい。
でも時間が経つにつれて、見えている世界の解像度が、大きく変わっていきます。


では、どうすればいいのか。

難しい話ではないと思っています。

違和感を感じたとき、すぐに流さず、少しだけ立ち止まる。それだけです。答えを出す必要はありません。「なぜだろう」という問いを、もう少しだけ持ち続ける。

その小さな習慣が、思考の深さを少しずつ変えていきます。

次の話では、その違和感をどう言葉にしていくか——中小企業診断士の試験で学んだ、ある考え方を手がかりに、考えていきたいと思います。

忙しさと、組織の空気。このふたつが重なるとき、違和感はほぼ確実に流れていきます。

しかし本当に重要な問題ほど、最初は小さな違和感として現れるものです。優れた経営者ほど、その小さな引っかかりを手放しません。違和感を流す人と、手放さない人。その差は最初はとても小さい。でも時間が経つにつれて、見えている世界の解像度が大きく変わっていきます。

次回は、「標準を知れば、ズレが見える。」——中小企業診断士の試験を通して学んだ、違和感を思考に変えるある考え方について話します。


この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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