正解ではなく、それを超える意志を。——「見えないものを読む経営」第4話

正解ではなく、それを超える意志を。——「見えないものを読む経営」第4話の手書きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール


前回、こんな話を書きました。

提案書を捨てて、未来の情報だけを持って会議室へ向かった日のことです。社長が語り始めました。商品のこと、組織のこと、人材のこと。それまで止まっていた時間が、急に動き出したような感覚でした。答えは私の中にはなかった。答えは最初から、社長の中にあったのだと思います。

あの体験から、しばらくのあいだ、私はずっと考え続けていました。

あの会議室で、いったい何が起きていたのだろう、と。


最初は、こう解釈していました。

未来の情報が、社長の思考を刺激した。だから言葉が出てきた。つまり「きっかけ」の問題だったのだと。

しかしそれだけでは、どこか腑に落ちないものが残っていました。

あのとき社長が語ったのは、商品のアイデアだけではありませんでした。会社の強みのことを話した。これまでやってきたことの意味を話した。そして最後には、自分がなぜこの事業を始めたのかという、創業の原点まで話してくれた。

あれは、未来の情報に触発されて生まれた言葉ではなかった気がします。

むしろ社長は、未来を前にして、過去を確認していたのではないだろうか。

自分はこれまで何をしてきたのか。なぜこの事業を続けてきたのか。そしてこれから、どこへ向かうのか。

その問いを、自分の内側でゆっくりと確認していた。そのプロセスが、言葉として外に出てきた。そう考えると、あの会議室の出来事が、少し違う景色で見えてきました。


社長は、揺らいでいたのだと思います。

ビジョンはある、とおっしゃっていた。しかしそのビジョンを、どう言葉にすればいいのか。どう形にすればいいのか。その接続がまだ、できていなかった。

当初私が持ち込んだ戦略の提案は、その揺らぎに何も触れていませんでした。

ロジックは整っている。しかし社長が本当に必要としていたのは、正しい答えではなかった。

未来の問いを前にしたとき、社長は自分の過去と向き合わざるを得なかった。過去を辿ることで、自分がどこへ向かうのかが、少しずつ見えてきた。そしてその方向が見えたとき、言葉が出てきた。

つまりあの瞬間に起きていたのは、もしかすると、単なる意志の発見ではなかったのだと思います。

たぶん、「意志の確認」だった・・・。


このことは、経営という仕事の本質に触れている気がします。

私たちはしばしば、経営者の仕事を「正しい判断をすること」として捉えます。

市場を分析し、競合を整理し、合理的な選択肢を選ぶ。それが経営だと思っています。

しかし未来には、正解がありません。

まだ起きていないことだからです。どれだけデータを集めても、どれだけ分析を重ねても、未来を完全に予測することはできない。だからこそ経営者は、最後に自分で決めなければならない。

その決断を支えるものは、ロジックだけではありません。

自分はなぜこの事業をしているのか。何を大切にしてきたのか。どんな未来をつくりたいのか。

そうした問いへの、自分なりの答えです。

つまり、言い換えれば、意志です。

意志とは、突然生まれるものではありません。これまでの経験の積み重ねの中で、少しずつ育まれるものです。過去と未来を自分の中で接続したとき、意志は言葉になります。

経営とは、正解を選ぶ仕事ではないのかもしれません。

自分の意志を確認しながら、未来を選び取っていく仕事なのかもしれない。

あの会議室で、私はそのことを、初めて実感として理解したように思います。


しかしそのとき、もうひとつの問いが浮かびました。

意志は、どこから来るのか。

社長の言葉が出てきたのは、未来を前にして、過去を確認できたからでした。しかしなぜ、その過去が意志を支えていたのか。

あの日、社長が創業の話をしてくれたとき、私にはひとつのことが見えた気がしました。

意志の奥には、もっと深いものがある。

それが何なのかを、次回は考えていきたいと思います。


この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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