どこかに「正解」を探していた頃。——「見えないものを読む経営」第1話

どこかに「正解」を探していた頃。——「見えないものを読む経営」第1話の手書きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール


連載を始めることにしました。

タイトルは「見えないものを読む経営」
サブタイトルは「戦略ではなく、意味で人は動く」です。

経営の話です。 でも、戦略の話ではありません。

数字の話でも、フレームワークの話でも、ありません。

もっと見えにくい、しかし確かに存在するものの話です。

価値観。意志。歴史。違和感。

組織の奥に静かに流れているもの。 言葉にはなっていないけれど、 人の行動を大きく左右しているもの。

私はこれまで、広告会社でブランドや経営に関わる仕事をしてきました。中小企業診断士として、多くの企業の現場に立ち会ってきました。そして今は、パーパスワークショップや未来構想の実践を通じて、組織の意味と意志を言語化する仕事をしています。

その中でずっと感じてきたことがあります。

正しい戦略を提示しても、人は動かないことがある。しかし意味を感じたとき、人は自分から動き始める。

この連載では、その問いを丁寧に追いかけていきます。

経営者の方に読んでほしい。 次世代のリーダーに読んでほしい。 そして、組織の中で違和感を感じながら働いているすべての人に読んでほしい。

答えを提示する連載ではありません。

一緒に問いを深めていく連載です。

よろしければ、ご一緒ください。


振り返ると、私はずっと「正解」を探して生きてきたように思います。

いや、正しいニュアンスはもう少し違うかもしれません。

正解を探していたというより、 まわりが正解を求めていることに、 子どもの頃から気づいていた・・・。

そしてその度に、 小さな違和感を覚え続けていました。


小学生の頃、私は絵を描くことが好きでした。

絵画教室にも通っていました。

そこでの時間は、とても自由でした。

先生は「好きなように描いていい」と言いました。

何を描いても、どう描いても、否定されることはありません。私は、この時間が大好きで、のびのびと、絵をかいてみたり、ねんどで遊んでみたり、模型を作ってみたり、とにかく気の向くままにいろんなことに挑戦していました。

しかし学校の図工の時間は、少し違いました。

運動会の絵を描く授業がありました。 私は大玉転がしをしている自分と友達を描いたんです。

漫画のようなタッチで。 生き生きと動いている感じを出したくて、 自分なりに一生懸命描いた絵でした。

すると先生に言われました。 「漫画みたいな表現はどうなの?」

私は少し考えてから答えました。 ――「それでいいんです」

先生はそれ以上何も言いませんでした。 私もそれ以上何も言いませんでした。

でも、そのやりとりの後、 私の中に何かが残りました。

絵画教室の先生は「自由でいい」と言った。
学校の先生は「こう描いた方がいい」と言った。

どちらも先生です。 しかし、求めているものがまるで違う。

そのとき私が感じたのは、 反抗心でも、不満でもありませんでした。

ちょっとした疑問。

「正解」ってなんだ・・・。

「正解」とは、いったい誰が決めるのか・・・。

もっと言えば、「正解」があれば、いいのか・・・。

その「?」は、子どもの私には まだ言葉になりませんでした。 でも確かに、そこにあったんだと思います。

小学校の先生も、べつにいじわるがしたくて、私に言葉を投げかけたんじゃないと思います。とても素晴らしい先生でした、卒業まで、クラスかえで担任を離れても、気にかけてくれた。

でも、小学校の先生、絵画教室の先生、同じ先生でも、私に対して投げかける言葉がまるで違ったので、おさなごころにも、不思議な違和感として残ったんだと思います。


社会に出てからも、 正解を求める世界に自然と入っていきました。

広告会社に入社し、 企業の経営課題やマーケティング課題に向き合う仕事をするようになりました。

求められるものは明確でした。

役に立つこと。 価値を出すこと。 正しい答えを出すこと。

私はそのために、思考の道具を学びました。

状況を整理し、合理的な戦略を描く方法です。

それらは確かに役に立ちました。 多くのプロジェクトが前に進んでいきました。

けれど、あるときから 小さな違和感を感じるようになりました。

正しい分析をしているのに、 なぜかものごとが動かない。

正しい戦略を提示しているのに、 なぜか誰も本気にならない。

会議室の空気が、どこか重たくなる瞬間があります。

誰も反対はしていない。でも、誰も本気で動こうとしていない。

ロジックは整っている。 数字も説明できる。 それでも、何かが届いていない。

私はそのたびに思いました。

――「何かが足りない」

しかしその「何か」が、 なかなか言葉になりませんでした。

企業というのは、 単純なロジックだけで動くものではありません。 そこには人がいる。 歴史がある。 価値観がある。 数字には表れない、しかし確かに存在する 空気のようなものがある。

そしてそれこそが、 組織の意思決定を静かに、しかし大きく左右している。


これは・・・、あの頃、図工の時間に感じた違和感と どこかよく似ていると思いました。

正解とされているものの外側に、 もっと本質的な何かがある。

見えているものだけが、すべてではない。

子どもの頃から感じていたその感覚が、 仕事の現場で、繰り返し姿を現していたんだと思います。

問題は、戦略でも分析でもなかった。

見えないものを、どう読むか。

その問いに気づくまでに、 私はずいぶん時間がかかりました。


この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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