増田みはらし書店・店主の増田浩一です。
経営者という立場は、時に孤独だと言われます。
孤高の経営者、なんて美しい言葉もありますが、 実際に、本当にひとりで抱え込んでいると、それはそれで厳しいんです。
ふと気がついた、うまくいく会社の共通点
中小企業診断士として、日々スモールビジネスの現場を支援しています。
製造業、小売業、飲食業、サービス業。 業種も業態も規模も異なる、多種多様な企業の経営者に寄り添いながら、 それぞれの課題や可能性に触れさせていただく日々です。感謝。
その中で、うまくいっている会社と、なかなか成果が出ない会社。多くの企業を支援し、比較しているうちに、ふと気がついたことがあります。
両者の違いを生み出している要素。
それは、経営者がひとりかどうか。
言い換えれば、同じ目線で相談できる相手がいるか、いないかなんです・・!
経営者がひとりで抱え込んでいないか
相談相手がいない経営者のまわりでは、会議が静まり返り、意思決定が遅くなります。
社員が経営者の顔色をうかがい、現場の声が届かなくなる。
一方、相談相手がいる経営者のまわりでは、自然な会話が生まれ、組織が自ら動いていきます。
ここで言う「ひとり」とは、単に人がいないということではありません。
むしろ、周囲に人はいても、ビジョンやミッション、あるべき姿について、同じ目線でディスカッションできる相手がいない状態を指します。 形式的な報告や表面的な会話だけが行き交い、互いの思考が交わらない。 そんな静かな断絶が、組織の中に広がっていく。
これが、経営者の孤立なんです。
らしさは、壁打ちの中でしか生まれない
なぜ、こうした対話とその相手が必要なのでしょうか。
それは、「らしさ」は、他者との壁打ちの中でしか生まれないからです。
一人で考え続けても、自分の型は見えてきません。 誰かと対話し、問いかけられ、反応を受け取る。 その繰り返しの中で、「自分たちは何を大切にしているのか」「どこに向かおうとしているのか」が、少しずつ輪郭を持ち始めます。
そして、この「らしさの認識」こそが、実はスモールビジネスにとって欠かせない経営資源なんだと思うんです。
大企業には、資金力や組織力、ブランド力があります。 でも、スモールビジネスが本当に勝負できるのは「らしさ」なんです。 「この会社らしさ」「このお店らしさ」が、他にはない価値を生み出し、差別化の源泉になる。
だからこそ、その「らしさ」を認識できているかどうかが、 経営資源を持っているかどうかを決めます。
対話がない経営者には、3つの欠如が生まれます。
1つ目は、関係の欠如。 助言や多様な視点が入らず、判断が独り歩きしていく。
2つ目は、らしさの欠如。 自分を映す他者がいないために、会社や自分の“型”が見えなくなる。
3つ目は、発展性の欠如。 意見がぶつからない環境では、新しい挑戦も生まれません。
逆に言えば、ビジョンやブランド、あるべき姿について対話できる組織は、とても強いのです。
なぜなら、その対話ができていること自体が、既にチームになれている証拠だから。
辻褄が合わなくても、聞き合える関係性
では、どんな対話が必要なのでしょうか。
それは、建設的な議論や効率的なコミュニケーションだけではありません。
むしろ、矛盾に満ちていても、辻褄が合わなくても、長く聞き合える関係性こそが、対話の土台なんです。
「今日はなんかうまくいかなかったんだよな」 「どうしたいのか自分でもよく分からないけど」
そういうまとまらない話を、相手が「うんうん」と聞いてくれる。
逆に、相手の愚痴や迷いを、自分も黙って聞いてあげられる。
この関係性があるからこそ、少しずつ考えが整理され、 「自分たちは何を大切にしているのか」が見えてくる。
そして、その中から新しいアイデアや挑戦が生まれていくんです。
これが、チームデザインの出発点です。
ブランドとは、価値を分かち合うデザイン
チームデザインとは、「誰が、どんな距離感で、どのように関わるか」という関係性の構造を設計すること。
そして、その設計の核にあるのが、ブランドです。
ここで言うブランドとは、外に向けたアピールではありません。
そこに関わるステークホルダーが、互いにどのような価値を分かち合えるかというデザインです。
経営者が大切にしている価値観と、従業員が感じている価値観。このふたつが対話を通じて融合し、「この会社らしさ」を作り上げていく。それが、ブランドなんです。
そして、そのブランドを共に作るプロセスこそが、 立場の違いを超えて同じ目線を作る装置になります。
発射台の角度を変える投資
スモールビジネスにおいて、「5年後、10年後にありたい姿」を言葉にする機会はなかなかありません。
日常業務に追われる中で、立ち止まって未来を語ること自体が、ある種の贅沢に感じられてしまう。
でも、これが日常を生きていくためには、とても重要なんです。
最初は手間がかかると思います。 でも、5年10年の育成を決める発射台の角度を変える、とても重要なアクションです。わずかな角度の違いが、5年後10年後には大きな着地点の差になる。
だからこそ、最初に時間をかけて「あるべき姿」を言葉にし、共有すること。
それが、結果的には最も効率的な投資になります。
関係を再設計するチームデザイナー
私は、コンサルタントの役割を、「関係を再設計するチームデザイナー」だと考えています。
ひとりで悩んでいる経営者を支援するとき、最初に着手すべきは戦略でも数字でもありません。 「誰と、どんな対話をするか」という関係性の構造そのものです。
経営者の周囲に、ビジョンやブランドについて語り合える相手を見出し、 その関係が自走するように設計していく。 それが、チームデザインです。
そして見逃せないのが、家族の存在です。 家族は会社のメンバーではありませんが、経営者にとって最も影響力のある非公式チームです。 直接は経営に関わらなくても、「もう少し休んだら?」「あの人の話、もう一度聞いてみたら?」という一言が、方向を変えることもあります。
家族との対話も含めて、経営者の周囲にどんな関係性があるか。
それをデザインすることが、孤立を解く鍵になります。
対話ができることが、チームの証
結局のところ、こういったテーマの会話や対話ができている組織は、とても強いのです。 なぜなら、チームになれているから。
対話ができるチームには、冗長性が生まれます。 一人の判断や視点だけに依存せず、複数の視点や能力が重なり合うことで、 全体としてのバランスと持続可能性が育まれていく。
経営者の孤立を解くのは、支援ではありません。 対話が生まれる関係性を設計することです。
チームデザインとは、戦略以前の経営基盤であり、 「らしさ」と「発展性」を生み出すための、見えない装置なのかもしれません。
あなたのまわりには、ビジョンやブランドについて、 矛盾に満ちていても、辻褄が合わなくても、長く聞き合える家族や仲間がいるでしょうか!?
それでは、また来週お会いしましょう。
チームの可能性については、こちらの1冊「【大切なのは、“パーパス”のすり合わせ?】成果が出るチームをつくる方法|知念くにこ」もぜひご覧ください。

