問いは未来を照らす装置である──「問い」が対立を越え、関係を変え、物語を生み出すとき

問いは未来を照らす装置である──「問い」が対立を越え、関係を変え、物語を生み出すとき

増田みはらし書店・店主の増田浩一です。

ある食品メーカーの中期経営計画の支援をしていたときのことです。 プロジェクトの起点にいたのは、社長と本部長陣──いずれも経験豊富なリーダーたちでしたが、両者の間には見えない壁がありました。経営ビジョンは掲げられていても、それが現場の行動に落ちていかない。会議は形式的になり、発言も少ない。

しかし、状況が一変したのは「未来に向けた問い」を立てた瞬間からでした。

私たちが取り組んだのは「ミラスト」という、未来から逆算して意志を言語化するプロジェクト。

これは、2030年や2040年の未来社会を描いたカードを使って「その時代に、私たちは何を提供していたいか?」を考えるセッションです。参加者は、現在の立場や制約を一度脇に置き、まず理想の未来像を共有します。そこから逆算して、今の自分たちに必要なアクションを見つけていく──そんなバックキャスティングの手法を用いています。

すると、それまで距離のあった経営層同士が、肩書や立場を超えて「こんな社会になっていたらいい」「そのために私たちができることは──」と、語り始めたのです。

未来を共有する問いには、不思議な力があります。 過去の対立を再解釈し、現在の立場を相対化し、組織の関係性を静かに編み直していく。 このとき私は、問いとは未来を照らす装置なのだと強く実感しました。

ミラストについては、こちらのJAAAの冊子もぜひご覧ください。
リンク先のプロフィールページ中程にございます!!

 

「なぜ?」の問いが開く世界、閉ざす世界

問いには、創造と否定の両義性があります。 特に「なぜ?」という問いは、文脈によって人を救うことも、傷つけることもある。

たとえば、子どもがミスをしたときに「なんでこんなことしたの?」と聞けば、それは詰問になります。
でも、「なぜあなたはそれをやろうと思ったの?」と聞けば、その奥にある意思や背景に光を当てる対話になります。

人格にフォーカスするのではなく、人の行動を誘発した外部環境にフォーカスするということです。

問いは、未来に向かって投げかけるか、過去を責めるかで、まったく異なる意味を持つのです。

AIが日常化し、答えが簡単に手に入る時代。 それでも私たちが「問いを持つ」ことの意味は、そこに態度や関係性がにじむからです。 問いはただの言語ではなく、あなた自身の在り方のメッセージでもあります。

 

ストア派の知恵と、想像が過去を変える力

古代ギリシャの哲学者エピクテトスは、こう述べました。 「我々にできることとできないことを区別せよ。できないことを変えようとするな。できることに集中せよ」

この言葉は、問いの力を考える上で重要な示唆を与えてくれます。

私がミラストで何度も目にしたのは、未来を描くことで、過去の意味が変わっていく瞬間です。

過去の判断や衝突にこだわっていた人が、未来を一緒に描いたことで、「あの時のあれは、もしかしたらこういう意志だったのかもしれない」と語るようになる。 過去の事実は変えられません。

でも、その意味づけは、未来によっていくらでも変えられる。

問いを持つとは、エピクテトスの言葉を借りれば、「変えられないもの(過去の事実)」を受け入れつつ、「変えられるもの(未来への意志と行動)」に集中すること。

「私たちは、これからどう在りたいか?」という問いは、昨日までの自分や組織の物語を書き換える手がかりになります。

ちなみにストア派・エピクテトスの教えについては、こちらの1冊「【世界の定義は、自分にある!?】エンキリディオン(ストア派哲学の手引書)|エピクテトス,湊凛太朗」もぜひご覧ください。

 

問いの技術ではなく、問いの構えを

よく「良い問いを持つにはどうしたらいいか?」と聞かれます。 もちろん5W1Hで問いの形式を見直すことも有効です。

例えば、以下のように並べて比較してみましょう。

Why(なぜ):責めではなく、意味や願いの探求に使う
What(何):問題の言語化に
How(どうすれば):可能性を広げる設計に

でも何より大切なのは、問いの構えです。 それは、答えを引き出すための技術ではなく、共に考える姿勢。 答えの正しさより、問いの深さを信じる姿勢です。

ミラストのセッションでも、私たちファシリテーターが「正解」を持っているわけではありません。

参加者と一緒に未来を想像し、一緒に驚き、一緒に悩む。その姿勢があるからこそ、場に安心感が生まれ、本音の対話が始まるのだと思います。

 

今日から始める「未来への問い」

あなたの問いに、未来はあるか?

問いには、世界を編みなおす力があります。 でもそれは、「問い方」ではなく、「問いに込める想像力」にかかっているのだと思います。

まずは小さなところから始めてみませんか。

今日の会議で:「この課題を解決した先に、どんな状況が生まれているでしょうか?」
家族との時間で:「10年後、私たちはどんな関係でいたいかな?」
一人の時間に:「私が本当にやりたいことは何だろう?それはなぜ大切なのだろう?」

小さな問いから始まって、やがてそれは組織を、関係性を、そして自分自身を変えていく力になります。

あなたが今、心の中に持っている問いはなんですか? それは過去を責めるための問いですか?
それとも、まだ見ぬ未来へと手を伸ばすための問いでしょうか?

私たちはきっと、問いによって世界を描き変えることができる。

エピクテトスが教えてくれたように、変えられないものを受け入れ、変えられるものに向かって問い続ける。 そのことを、今日もまた、信じてみたいのです。

それでは、また来週お会いしましょう。

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