事業成功の鍵は「流れのデザイン」にあり ~シナリオ思考で描く未来への道筋~

事業成功の鍵は「流れのデザイン」にあり ~シナリオ思考で描く未来への道筋~

みなさん、こんにちは。増田みはらし書店・店主の増田浩一です。 私は、広告会社でマーケティングプランナー(マネジャー)の役割をいただきながら、中小企業診断士としても活動しております。

中小企業診断士として数多くの経営者の方々と事業計画を策定する中で、ひとつの重要な気づきを得ました。

それは「いかに他者に伝わる事業計画を作れるか」が、成功の分かれ目になるということです。

経営者の方々との対話を重ね、事業の本質を掘り下げていく過程で見えてきたのは、単なる数字や目標の羅列ではなく、「なぜそうなるのか」「どのような流れでそこに至るのか」を説得力をもって説明できるかどうかが、計画の実効性を大きく左右するという事実でした。

つまり、これは「流れのデザイン」とも言えるでしょう。

なぜ「流れのデザイン」が計画の実効性を左右するのでしょうか。

それは、ふたつの重要な好循環を生み出すからです。

まず、説得力のある「流れ」を描くことで、ステークホルダーの共感と参画を得られやすくなります。投資家、取引先、従業員など、計画実現に必要な関係者が「なるほど、こういう流れならうまくいくかもしれない」と納得することで、事業や立案者に共感し、積極的な協力を引き出せるのです。

さらに重要なのは、自分自身のマインドセットへのポジティブなブーメラン効果です。他者に説明できるほど具体的な「流れ」を描ききることで、経営者自身の確信と行動の一貫性が強化され、それがさらなるステークホルダーの信頼を生む——という好循環が生まれるのです。

この発見から生まれたのが、「流れのデザイン」という考え方です。

今回の投稿では、経営者の方々と共に見出した、事業を「流れ」として捉え、デザインするアプローチについてご紹介してみたいと思います。

「点」ではなく「流れ」で捉える経営視点

多くの事業計画や経営戦略が失敗する原因のひとつに、「点」での思考に留まっていることがあります。

現状分析をし、目標を設定し、そのためのアクションを考える。一見、論理的に見えるこのアプローチですが、ここに決定的に欠けているものがあります。それは「流れのデザイン」という視点です。

事業とは本来、静的な「点」の集合ではなく、動的な「流れ」そのものです。

「何が、こうなって、その結果こうなる」というシナリオ、つまり因果関係の連鎖として事業を捉えることで初めて、実行可能な戦略が生まれます。

なぜ「流れのデザイン」が見過ごされるのか

多くの経営者やビジネスパーソンが、「流れの視点」を持てない理由はいくつかあります。

  1. 数字への過度な依存:KPIや売上目標などの「点」に注目するあまり、それらを実現するためのプロセスという「流れ」が軽視されがち
  2. 成功事例の表層的な模倣:他社の成功要因を表面的に取り入れようとするが、その背後にある「流れ」を理解せずに失敗
  3. 変化への対応力の欠如:固定的な計画に固執し、環境変化に合わせて「流れ」を調整する柔軟性を持てない

所与の条件だけでものごとをみていくと、自分が何をどのような基準で考えているのかを俯瞰した視点で捉えづらい状況に陥ってしまいます。

経営者はシナリオを積極的に創り、そして、現場環境の状況を絶えずウォッチして、方向転換や意識向上の施策を次々に繰り出していく必要があります。

常にアイドリング状態であることが求められると言ってもよいでしょう。アイドリング、つまり、流れを絶えず感じ、見つめ、そしてその中に自分自身を浸してある状況が理想です。

虫の目・鳥の目・魚の目 ~流れを捉える3つの視点~

事業計画を策定する際、多くの経営者は「虫の目・鳥の目・魚の目」の3つの視点をバランスよく持つ必要があると言われます。

しかし、これらは単なる分析の視点以上の意味を持ちます。それは「流れのデザイン」の基盤となる思考法なのです。

  • 虫の目:細部を精密に観察する視点 現場の具体的な課題や顧客の微細な反応を捉える力。流れを構成する「一つ一つの要素」を理解することで、どこに阻害要因があるかを特定できます。
  • 鳥の目:全体を俯瞰する視点 市場環境や競合状況を広く見渡す力。「全体の構造」を把握することで、流れの方向性や大きな潮流を認識できます。
  • 魚の目:流れそのものを感じ取る視点 水流の中で最適な位置取りを判断する魚のように、ビジネスの潮流の中で自社がどう動くべきかを動的に捉える力。「変化の連鎖」を時間軸で見通すことができます。

この3つの視点のうち、経営計画で最も見落とされがちなのが「魚の目」です。

多くの計画が「今の課題」(虫の目)と「あるべき姿」(鳥の目)は描けていても、「どのような流れでそこに至るか」(魚の目)の説得力ある説明が不足しています。

魚の目で事業を捉えるとは、市場の流れ、顧客行動の変化の流れ、技術革新の流れなどを敏感に感じ取り、その中で自社がどう泳いでいくか——つまり「流れのデザイン」そのものを意味します。

経営者との対話の中で、この「流れ」をどれだけ具体的に描けるかが、計画の実現可能性を大きく左右するのです。

「流れのデザイン」成功のためのチェックポイント

「流れをデザイン」を作れているのか?のためのチェックポイントを作ってみました。

  1. 因果関係の連鎖を描けているか 「なにが、こうなって、こうなる」という連鎖をストーリーとして説明できるか。単なる願望ではなく、論理的必然性をもったシナリオになっているか。
  2. ステークホルダーの行動変化を想定できているか 顧客、取引先、従業員などの関係者が、どのような理由でどう行動を変えるのかを具体的に描けているか。
  3. 障害や反発要因を織り込んでいるか 計画通りに進まない要素も含め、リアルなストーリーになっているか。
  4. 時間軸を明確に設定しているか 変化には時間がかかります。短期・中期・長期の時間軸をどう設定し、それぞれのフェーズでどんな変化が起きるのかを描けているか。
  5. 他者に説明できるか 最も重要なチェックポイントとして、あなたの描いた「流れのデザイン」を他者に説明し、理解・納得してもらえるかどうか。

上記の5つを点検してみて、不足するところを補ってみると良いかもしれません。

「流れのデザイン」実践のための具体的アプローチ

それでは、「流れのデザイン」を実際のビジネスに取り入れるための具体的なステップを考えてみましょう。

細かい内容もありますが、以下の5つのステップを意識してみることが理想でしょう。

  1. 「現状の流れ」と「理想の流れ」を可視化する
    • 現在のビジネスプロセスや顧客体験を一連の流れとして図式化する
    • 同時に「こうあるべき」理想的な流れも描き出す
    • 例:顧客が情報を得てから購入に至るまでの現状と理想のカスタマージャーニーを比較する
  2. 「流れの阻害要因」を特定する
    • 理想の流れを妨げている障壁やギャップを具体的に列挙する
    • これらの阻害要因こそが、新たな事業機会やイノベーションの源泉となる
    • 阻害要因の種類を分類する。例えば、以下の視点をご参考にされてください。
      • 情報の非対称性(必要な情報が届いていない)
      • 信頼の欠如(安心して行動できない)
      • 技術的障壁(実現手段がない)
      • 心理的障壁(行動変容への抵抗)
      • コスト障壁(金銭的・時間的コストが高すぎる)
  3. 「流れの転換点」を設計する(これが「事業」となります!)
    • 阻害要因を取り除き、流れを変える具体的な施策を設計する
    • この転換点が、実質的にはビジネスモデルの核心部分となる
    • 転換点は「なぜ人々がこの施策によって行動を変えるのか」という説得力を持つ必要がある
  4. 小さな実験で「流れの変化」を検証する
    • 大規模な投資前に、最小限の規模で転換点の有効性を検証する
    • 実験では「人々の行動が本当に変わったか」を客観的に測定する
    • 例:MVP(機能を証明するための最小限のプロダクトのこと)を作って顧客の実際の反応を観察する
  5. 「流れの修正」をデータと直感の両面から繰り返す
    • 定量データと定性データの両方を用いて流れを継続的に修正する
    • 短期的な数値だけでなく「流れがよくなっている感覚」も大切にする
    • 「失敗」を流れの理解を深める機会と捉え、迅速な軌道修正を行う

事例:流れのデザインによる事業変革

いくつかの事例にふれることで「流れのデザイン」のイメージを持ちやすくなるのではないでしょうか。

事例1:ネット通販における「不安」という流れの阻害要因を解消したZOZO ZOZOTOWNは、ファッション通販における「サイズが合うかわからない不安」という購入の流れの阻害要因に着目しました。「ZOZOSUIT」の開発により体型を正確に計測し、その後の「おすすめサイズ」機能によって、この阻害要因を解消。結果として購入検討から実際の購買という流れをスムーズにし、返品率の低減と顧客満足度の向上を実現しました。

事例2:飲食店予約の「流れ」を変革した食べログ かつての飲食店予約は、電話での問い合わせと予約という煩雑な流れでした。この「情報収集→比較検討→予約」という流れの複数の阻害要因(情報不足、予約の手間、キャンセルの気まずさなど)に着目し、オンライン予約システムを構築。顧客と飲食店の双方にとっての「流れ」を改善することで、新たな市場を創出しました。

事例3:製造業における「流れのデザイン」によるサプライチェーン改革 ある中小製造業は、部品調達から製造、出荷までの「流れ」を徹底的に可視化することで、最大のボトルネックが「情報共有の遅れ」にあることを発見。クラウドベースの情報共有システムを導入し、リアルタイムでの進捗管理を実現。結果として、リードタイムを40%短縮し、顧客満足度の大幅向上につながりました。

キーは、内外資源が有機的につながっているということが自分で意識できるかどうかということです。点ではなく、それをコネクトして、流れにするイメージ。大切にしたいですね。

魚の目で未来を描き、好循環を生み出す

事業成功の鍵は、単に目標を設定することではなく、「どのようにしてそこに至るか」という流れをデザインすることにあります。

「魚の目」で市場や社会の潮流を読み取り、その中で自社がどう泳いでいくかを具体的にシナリオ化する。そして何より、そのシナリオを他者に説明し、共感を得られるかどうかが成功の分かれ目となります。

この「流れのデザイン」がもたらす効果は、単なる計画の実現可能性向上にとどまりません。それは組織全体のポジティブスパイラルを生み出します。

  1. ステークホルダーの参画を促進する 説得力ある「流れ」は関係者の共感を呼び、積極的な協力を引き出します。
  2. 経営者自身のマインドセットを強化する 他者に説明できるレベルまで練り上げられた「流れ」は、経営者自身の確信と行動の一貫性を高めます。
  3. 想定外の事態への適応力を向上させる 「点」ではなく「流れ」で考えることにより、変化に対する感度と柔軟性が増します。
  4. 組織全体の方向性を明確にする 共有された「流れのデザイン」は、組織の意思決定の指針となり、分散した行動の統一性を確保します。

事業計画を立てる際、ぜひ、「これが実現すれば成功」という点の思考ではなく、「なにが、こうなって、こうなるから」という流れの思考で描いてみてください。おすすめです。

そして、その流れを他者に説明してみてください。他者の理解と共感を得られたとき、それはあなた自身の理解も深めることになり、さらに良い「流れのデザイン」へと発展していく好循環が生まれるでしょう。

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