内部の問題解決のためには、外部へ向かわなければならない!!というパラドックス:「越境度」という視点

内部の問題解決のためには、外部へ向かわなければならない!!というパラドックス:「越境度」という視点

みなさん、こんにちは。増田みはらし書店・店主の増田浩一です。 私は、広告会社でマーケティングプランナー(マネジャー)の役割をいただきながら、中小企業診断士としても活動しております。

現代社会において、私たちが直面する問題はますます複雑化しています。

組織内の課題、個人的な成長の壁、社会的な難題――これらに共通するのは、その解決策が必ずしも問題が生じた「内部」だけでは見つからないという現実です。

ここにひとつのパラドックスがあります。内部の問題を解決するためには、外部へと目を向け、境界を越えなければならないのです。

この記事では、「越境度」という新しい概念を提案します。

越境度とは、個人や組織が既存の境界を超えて外部と交流し、異なる視点や知識を取り入れ、統合する能力の度合いを表すものです。問題解決やイノベーションの鍵となるこの越境度について、その本質と実践方法を探っていきましょう。

越境度の本質:なぜ内部問題の解決には外部視点が必要なのか?

私たちは知らず知らずのうちに、自分の専門領域、所属組織、あるいは慣れ親しんだ思考パターンという「箱」の中で考え、行動しています。

この「箱」は安定と効率をもたらす一方で、同時に視野を狭め、創造性を制限する壁となりえます。

組織論の研究では、長期間同じメンバーで構成されたチームは「集団思考(集団浅慮)」に陥りやすく、イノベーションが停滞する傾向があることが示されています。

個人レベルでも、同じ思考回路で問題に取り組み続けると、行き詰まりを感じることが多いのではないでしょうか。

この状況を打破するのが「越境」です。組織の壁、専門分野の壁、思考の壁を超えて外に出ることで、私たちは新たな視点、知識、そしてインスピレーションを得ることができます。これらは内部の問題に対する革新的な解決策となる可能性を秘めています。

例えば、医療現場の問題を解決するために工学的アプローチを取り入れたり、企業の組織文化改革に人類学的手法を応用したりするケースが増えています。これらはすべて、境界を越えることで生まれる価値の証拠です。

越境については、こちらの1冊「【越境人材は、2度死ぬから、生きる!?】越境学習入門|石山恒貴,伊達洋駆」やこちら「【経産省も注目する人材開発法とは!?】「越境企業」のはじめ方|瀬戸口航」もあわせてご覧ください。

「越境度」の5段階モデルとは!?

越境度は連続的なプロセスであり、個人や組織が徐々に発展させていくものです。

以下に、越境度を5つの段階で表現したモデルを提案します。

1. 認識段階:この段階では、自分の領域の限界を認識し始めます。
「自分(たち)だけでは解決できない」という気づきが生まれ、外部の存在を意識するようになります。しかし、まだ積極的な交流は行われていません。

2.探索段階:外部の情報や知見を積極的に収集し始める段階です。
異なる分野の知識やアプローチに関心を持ち、自分の領域と他領域の接点を模索します。書籍を読んだり、セミナーに参加したりして情報収集を行いますが、まだ直接的な交流は限られています。

3.接触段階:異なる領域の人々と直接対話や交流を始める段階です。
他分野のイベントやコミュニティに参加し、自分の専門知識を他領域に適用してみる試みが見られます。ここでは、異なる「言語」や価値観を理解することの難しさに直面することもあります。

4.統合段階:複数の領域の知識やアプローチを組み合わせ、境界線を超えたプロジェクトを立ち上げる段階です。
異なる視点や方法論を自分の思考に取り入れ、融合させることができます。この段階では、異なる専門性を持つ人々との効果的なコラボレーションが鍵となります。

5.創造段階:複数の領域を融合した新しい概念や方法論を生み出す段階です。
従来の境界線を再定義するような価値を創出し、越境そのものが自然な思考・行動パターンとなります。この段階では、越境を促進する環境づくりや、他者の越境活動を支援することも行います

越境度自己評価アンケート

自分自身の越境度を測定し、改善点を見つけるためのツールとして、以下の自己評価アンケートを活用してください。


各質問に対して、以下の5段階で自己評価してみてください。

1 = まったくあてはまらない
2 = あまりあてはまらない
3 = どちらともいえない
4 = ややあてはまる
5 = 非常にあてはまる

第1段階:認識段階(気づき)

  • 自分の専門分野や所属組織だけでは解決できない問題があると感じることがある
  • 自分の考え方や視点に限界があることを自覚している
  • 他の分野や領域の知識が自分の課題解決に役立つかもしれないと考えることがある
  • 自分とは異なる背景を持つ人の意見に興味を持っている
  • 自分の知識やスキルの不足している部分を具体的に説明できる

認識段階スコア合計: ___/25

第2段階:探索段階(情報収集)

  • 自分の専門外の書籍や記事を定期的に読んでいる
  • 異なる分野のセミナーやウェビナーに参加することがある
  • 自分の領域と他の領域の接点について考えることがある
  • SNSやメディアで多様な分野の情報をフォローしている
  • 自分の専門外の人に質問や相談をすることがある

探索段階スコア合計: ___/25

第3段階:接触段階(交流)

  • 異なる専門分野の人と定期的に対話する機会がある
  • 自分の専門外のコミュニティやグループに参加している
  • 多様なバックグラウンドを持つ人とのネットワークを意識的に広げている
  • 異なる分野の人と共同で何かに取り組んだ経験がある
  • 自分の知識や経験を他分野の人に共有する機会を作っている

接触段階スコア合計: ___/25

第4段階:統合段階(融合)

  • 複数の分野の知識やアプローチを組み合わせたプロジェクトに取り組んでいる
  • 異なる領域から学んだ手法を自分の分野に応用している
  • 多様な専門性を持つチームで協働した経験がある
  • 境界線を超えた視点で問題を再定義することができる
  • 異なる分野の人と効果的にコミュニケーションするためのスキルを持っている

統合段階スコア合計: ___/25

第5段階:創造段階(革新)

  • 複数の分野を融合した新しいアイデアや方法論を生み出したことがある
  • 従来の境界線を越えた製品、サービス、プロジェクトを創出した経験がある
  • 異分野融合による新たな価値創造を促進するような環境づくりに貢献している
  • 境界を越えた思考が日常的な習慣となっている
  • 他者の越境活動をサポートし、メンタリングしている

創造段階スコア合計: ___/25

総合評価とスコア解釈

総合スコア*: ___/125
*上記1~5段階のスコアを足し算して算出してみます。

上記の総合評価をみながら、ご自身のスコアに合わせて、「越境度」をメタ認知してみましょう。

スコア範囲 レベル 解説と次のステップ
25-40点 越境初期段階 越境の意識が芽生え始めています。より積極的に他分野に目を向けてみましょう。
41-65点 越境探索者 他分野への興味を持ち、情報収集を始めています。より積極的な交流を試みましょう。
66-90点 越境実践者 異なる領域との交流を実践し始めています。さらに深い融合と創造に挑戦しましょう。
91-115点 越境リーダー 複数の領域を統合し、新たな価値を創出しています。他者の越境も促進できます。
116-125点 越境マスター 境界を超えた思考と行動が自然となり、新たな領域を創造しています。社会全体の越境度向上に貢献できます。

越境の障壁とその克服方法

越境を実践しようとする際、私たちはさまざまな障壁に直面します。これらを認識し、克服する方法を考えましょう。

1)心理的障壁

心理的障壁は、越境において最も深刻な課題のひとつです。

例えば、専門家であることに価値を見出している場合、その安全地帯を離れるのは心理的抵抗を伴います。また、未知の領域に踏み出す不確実性は不安を引き起こし、新しい分野では初心者として失敗する可能性も高まります。

これらを克服するには、成長マインドセットの構築が効果的です。

「私はまだできない」ではなく「私はまだ学んでいる過程だ」と捉え直すことで、挑戦への抵抗が減少します。また、大きな越境ではなく小さな一歩から始めることで心理的ハードルを下げられます。そして最も重要なのは、失敗を恥ずべきことではなく、貴重な学びの機会として再定義することです。これにより、失敗への恐怖が前進のための燃料に変わるのです。

成長マインドセットについては、こちらの1冊「【あなたは硬直型!?それとも、しなやか型!?】マインドセット:「やればできる!」の研究|キャロル・S・ドゥエック」もあわせてご覧ください。

2. 組織的障壁

組織的障壁は、越境を阻む構造的な問題として広く存在しています。

縦割り組織構造では部門間の壁が高く、専門性による分断が自然発生してしまいます。また多くの組織では評価システムが既存業務の効率性に焦点を当てており、越境的な活動は評価されないか軽視される傾向があります。

さらに、日々の業務に追われる環境では、越境のための時間や資源を確保することが難しいという現実もあります。

これらの障壁を克服するには、組織レベルでの意図的な介入が必要です。

クロスファンクショナルなプロジェクトやチームを意図的に設置することで、異なる専門性を持つ人々の交流が促進されます。また、越境活動を正式な評価システムに組み込むことで、組織として越境の価値を認めるシグナルを送ることができます。

さらに、Googleの「20%ルール」のように、勤務時間の一定割合を自由な探索活動に使える「越境タイム」を公式に設定することで、越境のための時間と正当性を確保することができるでしょう。

3.コミュニケーション障壁

コミュニケーション障壁は、越境活動において最も見えにくい障害のひとつです。

専門分野ごとに独自の専門用語や概念が発達しており、異なる領域間では共通言語が不足していることが多々あります。また、各分野には固有の価値観が存在し、何を重視するかが大きく異なることがあります。

例えば、エンジニアが効率性を重視する一方、デザイナーが美的価値や使用感を優先するといった違いです。さらに、情報共有や意思決定の方法も領域によって異なり、これがスムーズな協働を妨げることがあります。

これらの障壁を超えるためには、複数の専門領域に精通し、それらの「言語」を相互に翻訳できる「ブリッジビルダー」の存在が不可欠です。

組織はこうした人材を意識的に育成し、その価値を認識すべきでしょう。

また、異なる分野の人々が共通の理解を構築するためのワークショップやディスカッションを定期的に実施することも効果的です。そして何より、多様なコミュニケーションスタイルを尊重し、状況に応じて自らのアプローチを適応させる柔軟性を養うことが、長期的な越境成功の鍵となります。

言語の可能性について触れる1冊「言葉は壁を超える!?『パフォーマンスを最大化させるドキュメンテーション技術』千田和央」もあわせてご覧いただくのはいかがでしょう!?言語の限界と可能性を同時に触れることができます。

コミュニケーションの媒介手段としてのAIという位置づけについてもレビューをしておりますので、こちらの#観ゲルノート「AIは架け橋?~世代を超え、言葉を超える、新しい協働プラットフォームとしてのAI活用~」もぜひご覧ください。

越境度を高めるための具体的アプローチとは?

アンケートの結果から、自分の課題領域が見えてきたと思います。

ここでは、越境度の各段階を高めるための具体的なアプローチを紹介します。

認識段階を高めるために

  • 定期的な振り返りの時間を設け、自分の限界や課題を書き出す
  • 異なる視点からのフィードバックを積極的に求める
  • 「なぜ」を5回繰り返す問いかけを行い、問題の根本原因を深掘りする

探索段階を高めるために

  • 毎月異なる分野の書籍を1冊読む習慣をつける
  • 多様なポッドキャストやオンラインコースを活用する
  • 異分野のニュースレターに登録する
  • 好奇心を刺激する「学びのバケットリスト」を作成する

接触段階を高めるために

  • 異分野交流イベントやミートアップに定期的に参加する
  • SNSやオンラインコミュニティで異なる分野の専門家とつながる
  • 「学習インタビュー」を実施し、異なる分野の人の思考プロセスを理解する
  • 多様なバックグラウンドを持つメンターを見つける

統合段階を高めるために

  • 異なる専門性を持つ人と共同プロジェクトを立ち上げる
  • 学んだ概念や手法を自分の領域に適用する実験を行う
  • 複数の分野を結びつけるコンセプトマップを作成する
  • 異分野コラボレーションのための「翻訳スキル」を磨く

創造段階を高めるために

  • 複数分野を融合させたアイデアを毎週1つ考える習慣をつける
  • 既存の枠組みに挑戦する「越境ハック」を試みる
  • 越境思考を促進するコミュニティやプラットフォームを構築する
  • 他者の越境活動をサポートし、知見を共有する機会を作る

おわりに:境界を越えた未来へ

歴史を振り返れば、真の革新は常に境界を越えたところに存在しました。

スティーブ・ジョブズがカリグラフィの美学をコンピューターデザインに取り入れたことで生まれた直感的インターフェース、エリヤフ・ゴールドラットが物理学の原理から制約理論という経営革命を起こした洞察、ジャネット・フォードが心理学とデザイン思考を融合させて確立した新しいキャリア開発アプローチ――。

これらはすべて「越境」がもたらした贈り物です。

組織レベルでも、IDEOがデザイン思考を通じて多様な専門性を統合し革新的問題解決を実現した事例や、フジフイルムがフィルム衰退の危機に直面しながらも写真技術の知見を活かして化粧品や医薬品分野へと大胆に越境し再生を遂げた軌跡は、私たちに勇気を与えてくれます。

私たちが直面する課題はますます複雑化し、単一の専門性や視点だけでは解決できないものになっています。

内部の問題を解決するためには、パラドキシカルに外部へと視線を向け、境界を越える必要があるのです。

今回作成し、ご紹介してみた「越境度」という概念とその5段階モデルを、個人や組織が自らの現状を把握し、進化の道筋を見出すための羅針盤を見出す一助としていただけると嬉しいです。

定期的に自己評価を行い、弱点を認識し、意識的に越境の実践を重ねることで、私たちは革新的な問題解決者へと成長していくことができるでしょう。

境界を越えることは容易ではありません。

しかし、その先には創造と革新の無限の可能性が広がっています。勇気を持って第一歩を踏み出し、越境の旅を始めてみませんか?

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