なぜ「営業会議」を習慣にしている会社の業績は、伸びないのか?―追えば追うほど遠ざかるパラドクス―

なぜ「営業会議」を習慣にしている会社の業績は、伸びないのか?―追えば追うほど遠ざかるパラドクス―

みなさん、こんにちは。増田みはらし書店・店主の増田浩一です。 私は、広告会社でマーケティングプランナー(マネジャー)の役割をいただきながら、中小企業診断士としても活動しております。

中小企業診断士として、私はこれまでさまざまな経営者の方々とご縁をいただき、経営支援や対話の機会を重ねてきました。

その中で、今回ご紹介する経営者との出会いは、私自身の「当たり前」を大きく揺さぶるものでした。

「時間の無駄遣いはもうやめませんか?」

「なぜ毎週、数字の確認のために貴重な時間を使っているんですかね」

創業数十年の老舗企業で、新規事業も成功させているA社の社長は、静かにそう語り始めました。

「うちの会社では営業会議なんてやっていません。数字の管理や報告?そんなものはAIに任せればいい。経営者である私が責任を持って見ればいいんです」

取材中、私の目の前でスマートフォンを取り出したA社長。画面には、リアルタイムの売上データや顧客動向が一瞥してわかるグラフで表示されています。

「これだけで十分でしょう?わざわざ全員を集めて数字の確認なんてする必要はない。そんな時間があったら、もっと価値のあることに使うべきです」

強い確信に満ちた社長の言葉は、私たちが当たり前のように行っている「営業会議」の存在意義そのものに、大きな問いを投げかけていました。

営業会議が抱える本質的な課題

なぜ営業会議は時間の無駄になるのか――A社長は続けます。「営業会議の多くは、過去の数字を確認して、なぜ目標が達成できなかったかの言い訳を聞く場になっている。これのどこに価値があるんですか?

確かに、現代のデジタルツールを使えば、販売実績や顧客データはリアルタイムで把握できます。にもかかわらず、多くの企業は依然として「報告のための会議」に貴重な時間を費やしています。

A社での「対話の場」の作り方

「うちでは、毎週違うアプローチを取っています」とA社長。

具体的には、以下のようなシーンを創り出しているとのこと。

  • 顧客からのフィードバックや市場の変化を共有する場
  • 部門を超えたアイデア交換の場
  • 新しい価値を生み出すためのブレインストーミングの場

「例えば先週は、営業部門から上がってきた顧客の困りごとに対して、技術部門とマーケティング部門が一緒になってソリューションを考えました。その場で生まれたアイデアが、今新規事業の柱になりつつあります」

対話から生まれる創造性――「結局のところ、人が集まる時間って貴重じゃないですか」とA社長は語ります。「その貴重な時間を、なぜ後ろ向きの数字の確認に使うんでしょう?」

A社の会議室には、ホワイトボードいっぱいに書かれたアイデアの痕跡が残っています。それは、単なる数字の報告会とは全く異なる、創造的な対話が行われている証でした。

経営者の本当の仕事とは

「私の仕事は、社員たちの知恵と経験を最大限活かせる場をつくること。数字の管理なんて、それに比べたら副次的なものです」

A社長はそう語る一方で、経営指標の管理もおろそかにしているわけではありません。むしろ、デジタルツールとAIを積極的に活用することで、より効率的な管理を実現しているのです。

営業会議が抱える本質的な課題 ―追えば追うほど遠ざかるパラドックス

「営業会議には不思議な現象が起きるんです」とA社長は指摘します。

数字を追えば追うほど、本当の課題から遠ざかっていく。

確かに、多くの企業で悪循環が起きているのかもしれません。

  • 業績を上げるために営業会議で数字を厳しく追う。
     ↓
  • 数字への執着が強まり、表面的な報告や言い訳が増える。
     ↓
  • 本質的な課題(顧客ニーズや市場変化)への視点が失われる。
     ↓
  • 結果として、さらなる業績低下を招く。

「これに気づいたとき、私は営業会議のあり方を根本から見直すことにしました」

これからの時代に必要な「対話の場」とは

1. 価値創造にフォーカスした対話――A社の事例が示唆するように、これからの「会議」は、単なる情報共有の場から、新しい価値を生み出す創造の場へと進化する必要があります。

2. 組織の知恵を結集する場――部門間の壁を取り払い、異なる視点や経験を持つメンバーが自由に意見を交換できる場。それこそが、これからの時代に求められる「対話の場」の姿なのかもしれません。

3. 未来志向の時間活用――過去の数字を追うのではなく、未来に向けた価値創造に時間を使う。A社の実践は、その具体的なモデルケースと言えるでしょう。

対話を活性化させる経営者の重要な役割

「場を作るだけでは不十分です」とA社長は続けます。「その場で社員一人一人が自分の考えを自由に話せる雰囲気づくりが重要なんです」

ビジョンの明確化による動機づけ――A社では、全社員が共有する明確なビジョンを掲げています。「私たちは何のために存在するのか」「どんな価値を社会に提供したいのか」。こうした本質的な問いに対する答えを、経営者自身が率先して語り続けているそうです。

「ビジョンが明確だからこそ、社員たちは自分の意見を出せるんです。自分たちの提案が会社のビジョンにつながっているという確信があれば、誰でも積極的に発言できます」

「働く意味」を考える仕組みづくり――さらにA社では、定期的に全社員が自身の「働く意味」を見つめ直す機会を設けています。部門や役職を超えた小グループでの対話セッション、個人の価値観とビジョンの接点を探るワークショップなど、様々な取り組みを通じて、各自の存在意義を深く考える場を創出しています。

「結果として、社員たちは自分の仕事の意味を深く理解し、より主体的に対話に参加するようになりました」

真の対話を生み出す経営の責任

取材を終えて改めて感じたのは、私たちの「当たり前」が、実は大きな機会損失を生んでいるかもしれないという事実です。しかし、単に従来の営業会議を廃止すれば良いわけではありません。

重要なのは、経営者が以下の役割を果たすことです。

  • 数字の管理はデジタルツールとAIに任せ、人と人が集まる時間を創造的な対話の場として確保する
  • 明確なビジョンを示し、社員一人一人が自由に発言できる環境を整える
  • 各自が自身の「働く意味」を見出せる仕組みを作り、主体的な参加を促す

「会議のための会議」から脱却し、真に価値ある対話の場を作り出す。

そして、その場で一人一人が自分の考えを自由に語れる環境を整える。それこそが、これからの時代における経営者の重要な責務なのではないでしょうか。

皆さんの会社では、人が集まる「貴重な時間」をどのように活用していますか?

そして、その時間がより創造的な対話の場となるよう、どのような工夫を行っていますか?

なぜ「営業会議」をする会社の業績は伸びないのでしょうか。

このパラドックスに、目的と手段を真剣に見直すことの意義意味を感じずにはいられません。

追えば追うほど遠ざかる

この取材を終えて、「追えば追うほど遠ざかるもの」という深い示唆に、私は強く心を揺さぶられました。

営業会議における数字の追求は、実は私たちの日常に遍在するパラドックスのひとつの形なのかもしれません。

例えば、幸せ、信頼関係、イノベーション、組織の一体感、ブランド価値――。

これらはすべて、直接的に追求すればするほど、かえって遠ざかっていくものではないでしょうか。

ふと気づけば、これは東洋の古い知恵、特に禅の教えとも響き合います。意図的に結果を求めるのではなく、本質的な価値の追求に身を任せる。その自然な流れの中でこそ、本当の成果は生まれてくる。

先のA社長の言葉を借りれば、「数字はあくまでも結果」なのです。それは決して目的ではありません。

このことは、私たちに問いを投げかけているように思えます。

  • 私たちは何を本当に追求すべきなのか。
  • 目の前の数字の向こうにある、本質的な価値とは何か。
  • どうすれば自然な形で成果を生み出せるのか。

古来の知恵が、現代の経営課題に対して示唆を与えてくれる。

そこには、営業会議の在り方を超えた、より普遍的な真理が隠されているのかもしれません。

ものごとの普遍性について、考えるガイドとして禅的考え方、教えについては、こちらの投稿「【まず動くこと!?】考える前に動く習慣―――始める、進める、続ける 禅の活かし方|枡野俊明」や「【捨てれば幸せに近づける!?】捨てる幸せ―――シンプルに、ラクに生きる「禅の教え」|藤原東演」もぜひご覧ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!