社会のもやもやを、動きだす物語に。―点を線に、そして、物語へ。共感を生む企画の設計論―

社会のもやもやを、動きだす物語に。―点を線に、そして、物語へ。共感を生む企画の設計論―

みなさん、こんにちは。増田みはらし書店・店主の増田浩一です。

私は、広告会社でマーケティングプランナー(マネジャー)の役割をいただきながら、中小企業診断士としても活動しております。

今回は、現代における「よい企画」とは何か?そして、そういう企画を生み出していくために、組織として日常的にアイドリング的に、準備できることはないか?という視点を、考えていきたいと思います。

情報があふれる現代社会で、企業からのメッセージは届きにくくなる一方です。スマートフォンやSNSの普及により、人々は膨大な情報の中から、自分が関心のある情報だけを主体的に選び取るようになりました。このような環境では、企業が一方的に「伝えたいこと」を発信しても、なかなか響かなくなっています。

そもそも、私たちの周りには数多くの企画が存在しています。新商品の告知や、キャンペーン、イベントなど、その形は様々です。しかし、その多くは企業からの一方的な情報発信に留まり、人々の心に残り、実際の行動を動かすところまでは至っていないのではないでしょうか。

では、このような時代において、本当に効果的な企画(よい企画)とは、どのようなものなのでしょうか。

企画に求められる新しい視点

実は、今の時代に求められる企画の本質は、単に「企業が言いたいことを伝える」ということではありません。一方的な情報発信ではなく、もっと深いところで人々の共感を呼び起こし、自発的な行動を促すような企画が必要とされているのです。

それは、社会の中にすでに存在している人々の「もやもや」した気持ちに気づき、それを明確な言葉として表現し、新しい「当たり前」として定義すること。

そして、その「当たり前」を実現する手段として、企業の商品やサービスを位置づけていく。このような文脈づくりこそが、現代の企画に求められる本質的な価値なのです。

「絶メシリスト」に見る企画の力

皆さんは「絶メシリスト」という取り組みをご存知でしょうか?

これは、群馬県高崎市で行われている興味深い企画です。店主の高齢化や後継ぎ問題で、どんどんなくなっていく地方の街の名店を、“絶やすには惜しすぎる絶品グルメ”として「絶メシ」と名付け、市民に愛される老舗食堂を紹介する取り組みです。

 群馬県高崎市・博報堂・博報堂ケトルが共同で企画し、2017年9月にウェブサイトを公開しました。

企画は発展して、レシピを再現した料理を東京・新橋のコンセプトストアで販売するなどの体験装置としての取り組みを拡大させています。

一見すると、単なるグルメ情報の紹介に見えるかもしれません。でも、この企画の本当の素晴らしさは、その奥にある「企画によるレバレッジ(てこの力)」にあるのです。

よい企画が生み出す3つのレバレッジ

この「絶メシリスト」の例を通じて、効果的な企画が持つ3つの「レバレッジ」について見ていきましょう。

1. 認識のレバレッジ

まず1つ目は、物事の捉え方を変える力です。

「なくなりゆく店」という問題を、「守るべき地域の文化資産」という新しい文脈に置き換えています。これにより、同じ現象でも、その受け止め方が大きく変わるのです。

「なくなるのは仕方ない」という諦めから、「守っていきたい」という積極的な気持ちへと、人々の認識が変化していきます。

同時に、少子高齢化や後継者問題という社会的な問題に連想が進む中で、こうした問題を憂う気持ちにも連鎖反応を引き起こす気持ちの起爆点として機能しているようにも思います。

2. 共感のレバレッジ

2つ目は、個人の感情を社会の価値へと広げる力です。

誰もが持っている「懐かしい味」や「思い出の店」への個人的な感情を、「私たちの地域の誇り」という集合的な意識へと拡張しています。個人の中にある感情が、地域全体で共有される価値として生まれ変わるのです。

また、これらのことは、同時に人々の心象風景に訴えかけて、儚い感情を生み出すことに寄与しています。多くの人が個別バラバラだっとしても、町の小さな飲食店に関わる経験を持っています。

それは、ロードサイドのチェーン店を利用するシーンとはまた異なる、とても個別性の高い記憶として心に淡いシミを残しています。

3. 行動のレバレッジ

そして3つ目は、日常的な行動に新しい意味を与える力です。

普段の「食事」という行為を、「地域の文化継承への参加」という大きな文脈に位置づけています。これにより、いつもの食事が特別な意味を持つ行動へと変わっていくのです。

よい企画を生み出すための3つのステップ

では、このような効果的な企画を生み出すために、具体的にはどのようなステップが必要なのでしょうか。

Step 1:社会洞察

まず必要なのは、社会の中にある「もやもや」を見つけ出すことです。これは決して容易なことではありません。なぜなら、多くの場合、人々は自分が感じている「もやもや」を明確な言葉で表現できていないからです。

だからこそ、私たちは注意深く社会を観察し、人々の声に耳を傾け、その奥にある本質的な願いや不安を見出していく必要があります。

Step 2:言語開発

次に重要なのは、見出した「もやもや」に適切な言葉を与えることです。

「絶メシ」という言葉は、その好例と言えるでしょう。「絶品」という positive な価値と、「絶やす」という negative な危機感を、絶妙なバランスで表現しています。このように、人々の心に響く言葉を創り出すことで、漠然とした感情が共有可能な価値として生まれ変わるのです。

Step 3:行動設計

そして最後に、人々の具体的な行動を促す仕組みづくりが必要です。

いくら素晴らしい理念や言葉があっても、それが実際の行動に結びつかなければ意味がありません。「絶メシリスト」の場合、「お店に行って食事をする」という、誰にでもできる具体的な行動が明確に示されています。

これからの企画づくりに向けて

さて、ここまで見てきた企画の考え方を、これからの時代にどのように実践していけばよいのでしょうか。

実は、この新しい時代には心強い味方がいます。それは、AIや情報技術という新しいツールです。

  • SNSを含めた生活者の声を継続的に収集・分析することで、潜在的な「もやもや」をより早く、より正確に見出すことができます。
  • データ分析により、どのような言葉や文脈が人々の心に響くのか、より科学的に理解することができます。
  • 効果測定をリアルタイムで行い、より効果的な企画へと改善を重ねていくことができます。

ただし、ここでひとつ重要な点があります。

それは、最終的に人々の心を動かし、行動を促す物語を紡ぎ出す部分については、依然として人間の創造性が重要な役割を果たすということです。

テクノロジーは私たちの「目」や「耳」として機能しますが、その情報をもとに心揺さぶる物語を作り出すのは、やはり人間の仕事なのです。

どのような準備ができるか?

これからの企画とは、1)社会に存在する小さな「点」を見出し、2)それらを意味ある「線」として接続し、3)新たな価値の文脈を創造していく営みと言えるでしょう。

その実現のために、テクノロジーという新しい同行者を得た私たちは、より豊かな可能性を手にしています。この可能性を活かしながら、人々の心に響き、社会をより良い方向に動かしていけるような企画を、共に考えていきたいですね。

あなたの周りにも、きっと「もやもや」は存在しているはずです。それに気づき、言葉を与え、新しい文脈を作り出していく。そんな創造的な営みがさらに求められるように思います。

そんな時、AIや情報技術をどのように活用し、人ひとりの企画力や組織としてのアイデアづくりをどれだけバックアップすることができるか?

そういう論点で、新たな「ナレッジ」の在り方を検討してみてもよいのかもしれません。

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