本当に“人を活かす”ために(前編)― 式年遷宮に学ぶ 人間社会の自然なリズムと組織の知恵 ―

本当に“人を活かす”ために(前編)― 式年遷宮に学ぶ 人間社会の自然なリズムと組織の知恵 ―

みなさん、こんにちは。増田みはらし書店・店主の増田浩一です。

私は、広告会社でマーケティングプランナー(マネジャー)の役割をいただきながら、中小企業診断士としても活動しております。

今回の投稿では2回に分けて、伊勢の式年遷宮にヒントを得ながら、私たちがどのように成長し、そして社会(会社)に貢献するのりしろを作りながら、自分たちらしく生きていけるかを考えてみたいと思います。

私たちは今、大きな変革期の只中にいます。

AI技術の急速な発展は、組織や働き方に根本的な変化をもたらそうとしています。このような時代だからこそ、「人を本当の意味で活かす」とはどういうことなのか、改めて考える必要があるのではないでしょうか。

その手がかりとして、今回注目したいのは、1300年以上もの間、持続可能な形で技術伝承と人材育成を実現してきた「式年遷宮」というシステムです。20年に一度、神社を建て替えるという一見シンプルな営みの中に、実は現代にも通じる深い組織の知恵が隠されているのです。

人間社会に内在する自然なリズム

式年遷宮の最も興味深い特徴の一つは、20年という周期です。この期間は、偶然ではなく、人間社会に内在する自然なリズムと深く関係していると考えられます。

例えば、私たちの周りには、様々な20年周期が存在します。

産業・技術革新のサイクルを見ると、
1950年代のテレビ、
1970年代のマイクロプロセッサ、
1990年代のインターネット、
2010年代のスマートフォン・SNSと、
約20年ごとに大きな技術革新が起きています。

都市開発においても、日本の多くの大規模再開発は約20年周期で行われてきました。
1960年代の東京オリンピックに向けた開発、
1980年代のバブル期の再開発、
2000年代の六本木ヒルズ、
そして、2020年代の渋谷駅周辺再開発という具合です。

さらに興味深いのは、このサイクルが人間の成長や学習のリズムとも合致している点です。

一人の人間が「学ぶ者」から「教える者」へと成長するのに要する期間とほぼ一致し、技術や知識が社会に定着し、十分に理解され、批判的に評価されるまでにかかる期間とも重なります。

柔軟性と開放性を備えた組織設計

式年遷宮のもう一つの特筆すべき点は、その組織設計です。

最低限の技能を伝承するために必要な30名の技能者を常勤職員として確保する一方で、遷宮の実施時期には約160名まで人員を拡大します。しかも、この追加の技能者は必ずしも宮大工である必要はなく、一般の大工から育成していくのです。

このシステムの優れた点は、以下の3つに集約されます。

1)技術の本質を維持するために必要最小限の「核」を保持しつつ、外部との交流を通じた革新を可能にしている点です。コア技能者30名という数字は、技術の確実な伝承と、組織の機動性・効率性のバランスを取った結果と考えられます。

2)外部での経験を認める開放性です。遷宮と遷宮の間の期間、多くの職人たちは他の現場で経験を積むことが許されています。これにより、新しい技術や知見が自然と組織に流入する仕組みが作られているのです。

3)プロジェクトベースでの柔軟な人材活用です。必要な時期に必要な人材を集め、プロジェクト完了後は解散するという形態は、現代で言う「アンバウンドな組織」の先駆けと言えます。

アンバウンドとは、人が解き放たれた・束縛されないという意味です。

伝統と革新の両立

このように式年遷宮システムは、伝統の維持と革新の促進を巧みに両立させています。

注目すべきは、このシステムが単なる技術伝承の仕組みではなく、組織と個人の持続的な発展を可能にする総合的なシステムとして機能している点です。

技能の証明が次の機会につながり、外部での経験が組織の革新を促し、個人の成長が全体の発展に寄与するという循環的な構造は、現代の組織が抱える課題にも大きな示唆を与えてくれます。

ちなみに、式年遷宮がはじめられたのは、690年。これは持統天皇の時代です。

次のような政治的・宗教的な目的が会ったと推察されています。

壬申の乱のあと、新たな支配体制を速やかにかつ安定的に確立することが目的であったため、天皇の神的権威を強化する必要がありました。伊勢神宮は皇室の祖神である天照大神を祀る場所であり、定期的な社殿の建て替えを通じて、天皇家と神との特別な結びつきを視覚的に示すことができます。

さらに、持統天皇の夫であり先代の天皇である天武朝は律令国家の形成期にあたります。式年遷宮という国家事業を通じて、中央集権的な体制を強化できます。材木の調達や工匠の組織化など、国家の統制力を示す機会を持ちたかったこともあげられるでしょう。

式年遷宮とは、このように、時代の大きな変革期において、取り入れられたシステムなんですね。変化に対して変化で対応しようとしたことについては、非常に示唆深い取り組みであったと思います。

変わっていくことで、残る。

現に1300年以上という時代を経ても残り続けていることがそれを証明しているようです。

次回後編「本当に“人を活かす”ために(後編)― 式年遷宮に学ぶ 持続可能な発展の核心 ―」は、さらに式年遷宮から見える、現代組織や現代人の働き方へのフィードバックに触れてみたいと思います。

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