自由のパラドクス〜古代ローマの奴隷制度から学ぶ、新しい組織デザインの可能性とは?〜

自由のパラドクス〜古代ローマの奴隷制度から学ぶ、新しい組織デザインの可能性とは?〜

みなさん、こんにちは。増田みはらし書店・店主の増田浩一です。

私は、広告会社でマーケティングプランナー(マネジャー)の役割をいただきながら、中小企業診断士としても活動しております。

「組織って、もっと自由でいいんじゃないか?」「どうしたら、一人ひとりがもっと自由闊達に活躍できる場が作れるのだろう?」「一人ひとりが自分の生まれ持った特性を120%活かして働くことができるのか?」

――そんな思いを持ちながら日々の業務に向き合っているのですが、最近、とても興味深い発見がありました。

今回は、少し変わった視点から組織について考えてみたいと思います。

その切り口とは、なんと「奴隷制度」

え?なぜ奴隷制度?と思われた方も多いのではないでしょうか。

でも、古代ローマと大航海時代の奴隷制度を比べてみると、現代の組織について考えるヒントが隠れているんです。

制度の違いは、人の可能性を変えるのか?

みなさんは、エピクテトスという哲学者をご存知ですか?ストア派の哲学者として2000年以上たったいまでも、愛読者は多くあります。最近では、ストア派がシリコンバレーでも再注目されて話題沸騰中です。

でも、実は彼、元奴隷なんです。

しかも彼だけではありません。

テレンティウスという劇作家、プブリリウス・シルスという作家、フェードルスという寓話作家―彼らも全て奴隷から身を起こした人たちです。

「えっ、奴隷なのに、そんなことができたの?」

そうなんです。

古代ローマの奴隷制度には、ある特徴がありました。確かに身体的な自由は制限されていましたが、知的活動の自由は意外なほど認められていたんです。

具体的には、以下の表で比較してみましょう。

観点ローマ時代の奴隷制度大航海時代の奴隷制度
奴隷の出自戦争捕虜、債務奴隷、海賊による拉致、奴隷の子供など、人種に関係なく様々主にアフリカ大陸出身者。人種に基づく差別が制度化
奴隷取引の規模地中海沿岸地域を中心とした比較的限定的な範囲で行われたアフリカ・ヨーロッパ・南北アメリカを結ぶ大西洋三角貿易の一環として大規模に実施
主な労働内容家事使用人、教師、医師、芸術家など知的労働から、鉱山労働や農業まで多様プランテーションでの農作業(砂糖、綿花、タバコなど)が中心。過酷な肉体労働が主
解放の可能性比較的高い。教養のある奴隷は解放され市民となることも。解放奴隷の子は完全な市民権を得た極めて低い。世代を超えて奴隷身分が継承された。人種による差別が解放後も継続
法的地位所有物として扱われたが、一定の権利を認められ、財産所有も可能な場合があった完全な所有物として扱われ、ほぼ一切の権利を認められなかった
社会的地位教養のある奴隷は比較的高い社会的地位を得ることも。都市部では重要な役割を担った最下層に固定。人種に基づく差別により、解放後も社会的地位の上昇は極めて困難
文化的影響ギリシャ文化などを伝播する役割も果たし、ローマ文化の発展に貢献アフリカの伝統文化は抑圧されたが、音楽や宗教などを通じて新しい文化を形成
経済的重要性都市経済の一部として機能。農業生産でも重要だが、経済全体への依存度は比較的低い植民地経済の基盤となり、近代資本主義の発展に大きく寄与
家族関係家族の形成が認められ、主人の家族と密接な関係を持つことも家族の絆は意図的に破壊され、親子が引き離されることも頻繁
現代への影響古代の制度として歴史的に研究されている人種差別や社会的不平等など、現代社会に大きな影響を残している

いかがでしょうか?みなさんが仮に奴隷の立場だったとき、2つの環境のどちらでどんな気持ちになると想像するでしょうか。

これって、現代の組織を考える上でとても示唆的だと思いませんか?

私自身、広告の現場で、厳格すぎる承認プロセスが新しいアイデアの芽を摘んでしまうケースをたくさん見てきました。

逆に、適度な自由度があるときこそ、素晴らしいクリエイティブが生まれるんです。

エピクテトスについては、こちらの1冊「【世界の定義は、自分にある!?】エンキリディオン(ストア派哲学の手引書)|エピクテトス,湊凛太朗」をぜひどうぞ!

「できる」と思えることの大切さ

ここで、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授の理論を紹介させてください。「成長マインドセット」と「固定マインドセット」という考え方です。

実は、古代ローマの制度は、知らず知らずのうちに「成長マインドセット」を育む環境を作っていたんです。「頑張れば状況は変えられる」という希望があったからこそ、奴隷という立場でも、多くの人が素晴らしい才能を開花させることができたのではないでしょうか。

「成長マインドセット」と「固定マインドセット」を以下で比べてみましょう。

観点成長マインドセット固定マインドセット
能力観努力や学習によって能力は成長・向上できる能力は生まれつきで変えられない
失敗への態度学習の機会として捉え、次への改善点を見出す能力不足の証として捉え、回避しようとする
努力に対する考え方成長のために必要不可欠なプロセス能力がない人が行うもの、無駄なもの
課題への取り組み方チャレンジングな課題を好んで選択するできる範囲の安全な課題を選択する
フィードバックの受け止め方改善のための情報として積極的に求める批判として受け止め、避けようとする
他者の成功に対する態度学びの機会として捉え、刺激を受ける脅威として捉え、比較して落ち込む
目標設定学習目標を重視(能力向上を目指す)遂行目標を重視(高評価を得ることを目指す)
結果が出ないときの対応方略を変更し、粘り強く取り組む諦めやすく、回避行動をとる
自己効力感への影響努力により成長できる信念から高まりやすい失敗を恐れる気持ちから低下しやすい
長期的な成果持続的な成長と高いパフォーマンスを実現成長が限定的で、潜在能力を発揮できない

皆さんの組織はいかがでしょう?

社員一人ひとりの可能性を信じ、成長の機会を提供できていますか?

キャロル・ドゥエック教授のマインドセットに関してはこちらの1冊「【あなたは硬直型!?それとも、しなやか型!?】マインドセット:「やればできる!」の研究|キャロル・S・ドゥエック」をぜひご覧ください。

現代の組織に見る希望とは?

実は、すでに多くの企業が面白い取り組みを始めているんです。

例えば、Googleの20%ルールはご存知でしょうか!?

社員が労働時間の20%を自分の好きなプロジェクトに使えるんです。GmailやGoogle Newsは、実はこの制度から生まれました。

私の経験でも、チームメンバーに適度な自由を与えると、想像以上の成果が生まれることが多いです。

先日も、あるプロジェクトで、目的とゴールイメージだけを共有して、あとの手段(HOW)の部分を権限委譲させて進行してみたのです。

すると、それぞれのメンバーが自分の領域でベストを尽くすことはもちろん、自発的に互いに協力しあいながら底力を引き出すことに成功し、得意先とともによりよいプロジェクトのあり方を切り拓くことができたんです。

これからの組織づくり、一緒に考えてみませんか?

私が思うに、これからの組織に必要なのは、個人の「内なる自由」を解放するOSのような機能です。

でも、これって人事部だけでできることじゃありませんよね。

そこで重要になってくるのが「チーム」という単位です。

私が実際のコンサルティングで提案している3つのポイントを共有させていただきます。

  • パーパスの対話的発見: 個人の志を言語化し、共有する場を作ります。これは、広告制作の現場でよく行われる「アイデア出し」のような、創造的な対話の場づくりに近いものです。
  • 創造的な環境デザイン: 異なる価値観との出会いを促進します。私の所属する広告会社でも、部門を超えたプロジェクトチームが新しい発想を生み出すことがよくあります。
  • 組織価値との共鳴: 個人の志と組織目標の自然な統合を促します。これは決して強制的なものではなく、相互理解に基づく共鳴を目指すものです。

特に重視したいのが、小さなチームという単位で共有されている暗黙知の言語化です。

どうしてそのチームが最高のパフォーマンスを出せているのかについて意識を向けて、「あたりまえに共有できていること」を言葉にしてみるとよいです。

そのことによって、チームメンバーが自己認識を進めることができますし、次に別のチームでもそのマインドセットを転用して、さらにより良い環境を作ることができるようになります。

AIがさらに浸透する中で、人の「管理」はもっと機械によって自動化されていくようになるでしょう。

その反面、やはり人のマインドセットを構築するのは、人にしかできない領域となります。私たちは、仕事の中身だけでなく、その向き合い方からデザインしていくことが求められる時代によりなっていくのだと思います。

常に自由なものとは?

歴史の教訓って、意外と身近なところで活きてくるものです。古代ローマの賢人たちは、私たちに大切なことを教えてくれています。「制約があっても、心の自由があれば人は輝ける」ということを。

皆さんの組織でも、一人ひとりの内なる自由を育む仕組みづくりを始めてみませんか?

それは、管理から「支援」へ、押しつけから「共鳴」へ。

――そんな新しい組織の形を作っていく第一歩になるはずです。

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