「目玉シール」が教えてくれる、愛着のメカニズム~自己投影がブランディングのキー?~

「目玉シール」が教えてくれる、愛着のメカニズム~自己投影がブランディングのキー?~

今回の投稿は、なんともキュートな事例をもとに、人間の性(さが)について触れて、ブランディング実践の可能性を探してみましょう。ベースとなるのはこちらの事業構想のニュース記事「目玉シールで規格外野菜が売れる 形が悪い農作物を値引きではなく擬人化した研究」です。

ブライアント大学の准教授であるキム氏は、学術誌「Psychology & Marketing」で最近発表された研究の主執筆者であり、目玉シールを形が悪い野菜の写真に貼り付けたり、奇形の果物に人間の名前を付けたりすると、消費者は「醜い」農産物を購入しやすくなることを発見した。

「目玉シール」が貼られた規格外野菜
Copyright: Kacy Kim and Sukki Yoon
「目玉シール」が貼られた規格外野菜 Copyright: Kacy Kim and Sukki Yoon

この事例は、おもわず「愛着を覚えてしまう」心理をたくみに利用したものとなっています。スーパーに行って、野菜コーナーを見ると、規格外のしかも“こちらを見ている”野菜たちと目があってしまうのです。

ついつい買ってしまいますよね。「目玉シール」だけで規格外の野菜を購入促進させてとても販促費用はかからないというメリットがありながらも、そもそも規格外とはなにか?について意識を向ける効果がこの事例にはあります。

私たちは知らず知らずのうちに、「こうあるべき」を規定して、そのようにものごとを選択してしまっているのです。

別に規格外だって、野菜の品質や味はそうでないものと比べてもそんなに変化はないでしょう。でも、それらが積極的に選ばれないという状況が作られてしまっているので、安く売られていたり、あるいは破棄されたりしてしまっています。

人は相手の中に自分を見出す?

ついつい目が合う野菜たち。

そんな野菜たちは、人に多くのことを訴えます。

  • なぜ形のいい子ばかりが選ばれていくの?
  • なぜ、私たちは同じ野菜なのに選ばれないの?
  • 見た目形がちがうだけで、選ばれないのはおかしくない?

そして、究極こんな問いかけを私たちにしてくるようにも思います。

あなたたち、人間だって同じじゃない?

こうして、単に規格外の野菜に「目玉シール」が貼ってあるだけの商品についつい、想像力を膨らませて、いろんな思いや感情を一瞬のうちに想起させて、知らず知らずに「愛着」を感じてしまうものと思われます。

事実として、人が愛着を覚える対象には、自分自身との類似性や、感情移入できる要素が含まれていることが多いです。

自己投影と呼ばれるこの現象は、私たちが無意識のうちに自分の価値観や経験を相手に重ね合わせることで起こります。

例えば、物語の主人公が自分と似た境遇にあったり、共感できる悩みを抱えていたりすると、読者はそのキャラクターに感情移入しやすくなります。また、商品やサービスに自分の好みや価値観が反映されていると感じると、消費者はそのブランドや商品に愛着を持つようになるのです。

それが、規格外の野菜に「目玉シール」が貼ってあるものでも。

「愛着」ののりしろをどうやってつくる?

「目玉シール」の事例を参考にしながら、どうしたらブランドや商品は人と愛着を共有できるのか?について、検討してみましょう。

例えば、3つのステップを考えてみました。

ステップその1:ターゲットの設定

まず大切なのは、愛着を引き出したい対象と、ターゲットとなる相手を明確にすることです。「目玉シール」の事例では、規格外野菜という商品と、それを購入する消費者層がターゲットとなります。

さらにもっというと、規格外の野菜は見た目上、なんとなく選んでいなかった方というのが、よりよいターゲットのとえ方になるかも知れません。そういう方、多そうですよね。私もです。

ターゲットのことを考えるときには、年齢や性別、ライフスタイルなどの基本的な情報に加え、価値観や悩み、願望といった心理的な側面も把握しておくのがよさそうです。

どういった内容を「自己投影」させたいと思っているか、その潜在性にふれるためです。

ステップその2:「擬人化・ストーリーテリング」のための要素抽出

次に、対象に人間的な要素や感情を付与する方法を探ります。

「目玉シール」の事例では、シールによる擬人化が、野菜に愛らしさや個性を与えています。また、「不完全さ」を逆手に取ったストーリー性も効果的です。

商品やサービスの場合は、ブランドの背景にある物語や、ユーザーの共感を呼ぶエピソードを掘り下げることが大切です。

「自己投影」を促すような背景設定や、感情移入しやすい性格づけがポイントとなるでしょう。

ステップその3:見える化(ビジュアライズ、ブランディング)

最後に、擬人化やストーリーを視覚的に表現し、ブランドイメージとして定着させます。

「目玉シール」の事例では、シンプルな目玉デザインが親しみやすさを演出し、「個性的な野菜」が、多くの方の目を引くことで、ターゲットに感情移入させて、考えて頂くきっかけを提供しています。

おわりに

「目玉シール」を規格外の野菜にはる事例からは、人間の「愛着心理」を活用したユニークな取組であると読み取ることができそうですが、さらに深く考えてみると、人間の性(さが)にふれることもできそうです。

「人は相手の中に自分を見出す」という心理です。

上記3つのステップでも、やはりターゲット(価値を届けたい人)のパーソナリティや心理にふれることがまず大切だと思いました。それが、相手が無意識に自己投影をしたいと思っている要素に接続するためです。

いま、「共感」とか「シンパシー」とかがブランディングのキーワードになっていることが多いですが、その解像度を上げていくと、もしかすると「自分が映し出されているかどうか?」という論点も見えてくるようです。

相手はもしかしたら、自分かもしれない。自分はもしかしたら、相手かもしれない。

そんな、他者を見る目を養いながら、経験を積んでいくと、きっとブランディング役立てられるようなものごとの見方や視点を得ることができるのかも知れません。

規格外野菜の「心の声」が、リフレインして聞こえてきそうです。

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