この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】任せているつもりで、実は自分が一段上の問いを補い続けていた。数年前のある仕事を振り返って気づいたその感覚を、成人発達理論という地図に重ねてみると、驚くほど腑に落ちました。
1.問いにも積み上がる段階がある:情報整理から全体最適まで、問いの立て方には育っていくプロセスがあります。
2.無意識に担っていた役割に気づく:自分が続けてきた「一段上の問い」を見える化すると、これまでの関わり方の意味が見えてきます。
3.非効率を懐かしく肯定する:何度も考え直す遠回りこそが、後から振り返ると一番の財産だったと思えてきます。
- これは、私自身が数年前に経験した、ある仕事の記憶を振り返っての気づきです。
- チームで進めていたプロジェクトを思い返すと、自分が、チームに対する問いのレイヤーを間違っていたことに気づいたんです。
- 実は、それは誰かの力不足というより、問いを立てるという行為そのものが、まだ仕事の型として身についていなかっただけなのだと、今なら思います。
- なぜなら、問いには積み上がる順序があり、いきなり高い抽象度の問いを求めても、そこに至るまでの経験がなければ同じ場所で足踏みが続くからです。
- 瀬田千恵子さんの『完璧なリーダーをやめたら、人と組織が動き出した』は、成長を一律の階段ではなく、点・線・面・立体という重なりとして描いています。
- 本書を通じて、あの頃の自分が無意識にやっていたことに、ようやく名前がついたような感覚を得られました。
瀬田千恵子さんは、株式会社スタイルクルーズの代表取締役であり、株式会社チームボックスの取締役COOも務めていらっしゃいます。
コーチング、リーダーシップ開発、組織開発を専門領域とし、企業のマネージャーやチームの成長支援に長く携わってこられました。
本書の骨格にあるのは、成長を「できる/できない」で裁くのではなく、今どの階層で仕事をしているのかを見立て、次の階層へ進むためにどんな経験が必要かを考える。そうした、育成のまなざしなのかもしれません。
あくまでも他者への評価ではなく、「見立て」として発達段階を扱うという姿勢は、当時の自分の経験を振り返るときにも、静かに支えになってくれる視点でした。
前回の投稿はこちら「瀬田千恵子『完璧なリーダーをやめたら、人と組織が動き出した』――違和感の解像度が、リーダーを自分自身に還す」からぜひご覧ください。
気づけば、自分が一段上の問いを補い続けていた
数年前、あるプロジェクトを振り返っていたとき、一緒に進めていたメンバーの案が、いつも同じ深さで止まっている(得意先の要望をそのまま受け止めて、作業に落とし込むところで止まっていた・・・だったのかも知れない)ことに気づいたことがありました。
案そのものは丁寧に作られているのに、その一段上にある「そもそもこれは本当に取り組むべき論点なのか」という問いには、なかなか届かない。
答えを渡すのではなく、問いの欠損だけを返す
当時の自分は、その一段上の問いを、代わりに立てて渡していました。
けれども、それを続けている限り、自分がいなくなった瞬間にチームは同じ深さのまま止まってしまうだろうと、うすうす感じていました。それは得意先のためにどうなのか・・・。
そこで少しずつ変えていったのは、答えや上位の問いを渡すことをやめて、「この案の一段上の問いは何だと思いますか」と問い返すことでした。
出てこなければ、問いを作る手順そのものを一緒にたどる。
今振り返ると、あの試行錯誤自体が、良い時間だったように思います・・・。
リーダーシップで大事なのは、誰かを導く力ではありません。対話を通じて自分自身も変わり続け、周囲と共に育っていく「あり方」そのものです。
この一節を読んだとき、当時の自分が手探りでやっていたことに、はっきりと名前がついたように感じました。
答えを渡すことは、一時的には仕事を前に進めます。
けれども、問いを立てる機能そのものをチームの中に残さなければ、成長の型は次には引き継がれません。
「まだ任せられない」と決めつける前に、できたこと
問いがなかなか出てこない状況を見て、「主体性が足りない」と早々に判断してしまいそうになったこともありました。
ただ、そこで立ち止まって考えたのは、問いを開くことに価値があると学ぶ機会を、その人がこれまでどれだけ積んできたかということでした。
短納期で正解にたどり着くことが評価されてきた環境では、むしろ問いを開くほど時間がなくなり、評価が下がるという学習をしていることもあります。
だとすれば、必要なのは叱咤ではなく、問いを開いてよいという許可と、そのための小さな成功体験を意図的に用意することだったのだと、今は思います。
問いは、感覚運動から原理原則へと積み上がる
本書が示すダイナミックスキル理論の発達段階は、リーダーシップだけでなく、日々の仕事における「問いの成熟度」を見立てる地図としても、かなり実用的だと感じています。
問いの成熟度を、5つの段階として振り返る
具体的な案件名は伏せますが、当時の記憶を振り返りながら整理すると、問いの深さはおおよそ次のように積み上がっていったように思います。
| レベル | 状態 | 問いの例(一般化) |
|---|---|---|
| レベル1〜2 | 指示への反応・型の反復 | 言われたことを、いつもの型で整理する |
| レベル3〜4 | 文脈への適応・自分なりの見立て | この状況なら、こういう方向が良さそうだと考える |
| レベル5〜6 | 意味づけ・対話による再構成 | なぜ今、これが求められているのかを問い直す |
| レベル7〜8 | 構造分析・複数視点の統合 | この件の背景にある、もっと大きな構造は何かを探る |
| レベル9〜10 | 全体最適・問いを持ち続ける文化 | この選択は、数年先の全体にとってどうなのかを見る |
未熟さも含めて「発達の一部」とみなすことです。
この視点は、当時の記憶を振り返るときにも、救いになると思いました。
レベル3〜4にいたことを否定するのではなく、そこから5〜6へ進むために、どんな対話の経験が必要だったのかを、今なら落ち着いて考えられます。
いきなり高い抽象度を求めなかったこと
構造を理解できると同時に、いきなりレベル7〜8の問いを求めることの危うさにも、当時から薄々気づいていたように思います。
まず「自分はどう考えるか」という見立てを持つ経験があり、それを対話の中で更新する経験があって、はじめて構造として捉える力に手が届く。
順番を飛ばして高い抽象度を求めていたら、きっと戸惑わせるだけで終わっていたと、今振り返ってそう思います。
非効率に見えた遠回りこそ、懐かしい財産になっている
問いの成熟度という地図を手に入れた今、当時を振り返ってあらためて効いてくるのが、効率とは一見相反する「余白を許可する」という視点です。
評価基準を変えなければ、行動は変わらなかった
当時、「情報が揃っているか」「資料ができているか」で仕事の完了を評価していた時期がありました。当然、そこに最適化した動き方が育ちます。
評価基準を「経営課題まで遡れているか」「前提を疑えているか」「自分たちなりの選択肢を持てているか」に組み替え、それを言葉にして伝え始めてから、少しずつ空気が変わっていきました。
「非効率でいい」という許可を、意図的に渡していたこと
短期的な生産性だけで見れば、何度も問いを立て直す進め方は、かなり非効率に映っていたはずです。
けれども、長期的に組織や事業そのものへ深く入り込めるかどうかは、その非効率の積み重ねにかかっていたのだと、今振り返るとよく分かります。
「効率よく処理しなくていい」「正解を当てなくていい」「感じたことを持ってきてほしい」。
あの頃、意識的にそう伝えていたことが、今になって一番良い判断だったと思えてきます。
まとめ
- 気づけば、自分が一段上の問いを補い続けていた――答えを渡すのではなく、問いの欠損だけを返すことで、問いを立てる機能を少しずつ周囲へ移していくことができました。
- 問いは、感覚運動から原理原則へと積み上がる――問いの成熟度を段階として見立てると、育成は評価ではなく設計の話になります。
- 非効率に見えた遠回りこそ、懐かしい財産になっている――評価基準を組み替え、非効率を許可する余白を意図的に渡したことが、今振り返ると一番の財産だったと思えてきます。
実践のためのQ&A
本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
