この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】構造化とは、複雑な情報を目的に最適な形で整理し、視覚的にわかりやすくまとめる技術です。『構造化思考のレッスン』は、AIロボット「コウゾウ」と主人公タカシくんの対話を通じて、5つのPを使い、具体と抽象を往復しながら思考を磨く方法を描いています。
1.Purposeの解像度を上げる:目的を「誰が・いつ・誰と・何のために」まで具体的に定義することが、すべての構造化の起点になります。
2.広げて、上がって、下がる思考運動:断片(Piece)を広げ、視点(Perspective)へと抽象度を上げ下げする往復こそが、思考の質を決めます。
3.支柱(Pillar)で束ね、物語にする:どのくらいの単位でまとめるかを定めることで、他者に伝わるナラティブが生まれます。
- 頭の中にある散らかった情報を、なぜ人に伝わる形に整理できないのでしょうか?
- 実は、その答えは「目的」を定義する解像度の低さにあるかも知れません。
- なぜなら、目的が曖昧なままでは、どれだけ情報を集めても、何を優先して整理すべきかを判断できないからです。
- 本書『構造化思考のレッスン』は、AIロボット「コウゾウ」と主人公タカシくんとの対話を通じて、Purpose(目的)、Piece(断片)、Perspective(視点)、Pillar(支柱)、Presentation(表現)という5つのPを使った構造化思考の技術を、ストーリー形式で解き明かしていきます。
- 本書を通じて、AIと共に働く時代だからこそ経営リーダーが持つべき「目的を定義し、検証する力」について、一緒に考えていきたいと思います。
著者の荒木博行さんは、住友商事、グロービス経営大学院副研究科長を経て、株式会社学びデザインを設立された方です。株式会社フライヤーなどスタートアップのアドバイザーを務める一方、武蔵野大学や金沢工業大学大学院、グロービス経営大学院でも教鞭を執っておられます。北海道の地方創生にも携わり、学びの現場を実践的に広げてこられました。
『裸眼思考』や『独学の地図』など、思考法や学び方をテーマにした著書を多数執筆されており、本書もその系譜に連なる一冊です。ビジネスパーソンが陥りがちな「頭の中がぐるぐるしてしまう」という悩みに対して、物語形式でやさしく寄り添う姿勢が印象的です。
Purposeの解像度が構造化のすべてを決める
本書が繰り返し強調するのは、構造化の出発点は情報整理の技術ではなく、目的(Purpose)の定義そのものにあるという点です。目的の解像度が粗いままでは、どれだけ丁寧に情報を並べても、使えない構造化に終わってしまいます。ここでは、Purposeを具体化する視点を2つの角度から掘り下げます。
「誰が・いつ・誰と・何のために」で目的を分解する
本書に登場するコウゾウは、目的を考えるときに「誰が」「いつ」「誰と」「何のために」という4つの問いに分解することを提案しています。抽象的な目的を、こうした具体的な問いに落とし込むことで、輪郭のはっきりした目的が立ち上がってきます。
これは経営の現場にもそのまま当てはまる発想です。「売上を伸ばしたい」という目的は、誰にとっての、いつまでの、誰と実現する、何のための売上なのかを分解しない限り、実行可能な構造にはなりません。私が、言語化している「ビジョナリー・ブランディング」の実務でも、パーパスを掲げるだけでは組織は動きません。
ちなみにビジョナリー・ブランディングについては、こちらの私のプロフィール・ページもぜひご覧ください。

パーパスを「誰が・いつ・誰と・何のために」体現するのかまで分解して初めて、日々の意思決定の指針として機能します。
Purposeの定義によって、正しい構造は変わってきます。常に正しい構造表現というのはありません。
目的次第で構造は変わり続ける
本書はさらに踏み込んで、Purposeは一度定義して終わりではなく、状況に応じて更新され続けるものだと述べています。だからこそ、最初の段階で丁寧に言語化しておくことが、後に控えている残りのPを考える工程で、余計な手間をかけずに済む近道になります。
経営ビジョンも同様です。市場環境や組織のフェーズが変われば、掲げるべきパーパスの解像度も変わっていきます。目的を固定的なものと捉えず、繰り返し問い直す姿勢こそが、構造化思考を経営に生かす第一歩だと感じます。
「広げて、上がって、下がる」――具体と抽象を往復する思考運動
Purposeが定まったあとに必要になるのが、断片(Piece)を集め、視点(Perspective)でつなぐ作業です。本書はこのプロセスを「広げてから、上がって、下がる」という3つのステップで説明しており、ここに具体と抽象を往復する思考運動の本質が凝縮されています。
Pieceは大きさをそろえて、細かく砕く
本書の物語の中で、タカシくんは17個のタスクを目の前に置きながら、なかなか整理できずに悩みます。コウゾウが指摘するのは、断片(Piece)の大きさにばらつきがあると、全体像が捉えにくくなるという点です。粒度をそろえ、できるだけ具体的なレベルまで細かく砕くことで、初めてPerspectiveを考える土台ができあがります。
経営の現場でも、報告や議論の対象となる情報の粒度がバラバラなまま会議に臨むと、議論そのものが噛み合いません。粒をそろえる作業は地味ですが、構造化の質を左右する重要な下ごしらえです。
抽象と具体を一度に考えず、行き来する
構造化思考の核心は、Perspectiveを見つけるための3つのステップにあります。
断片のグルーピング案をたくさん広げてから、
目的のイメージの解像度を上げるために抽象へと上がり、
最後に目的を踏まえて適切なものを選ぶために具体へと下がる。
この順番を守ることが、良い視点を生み出す鍵だと本書は説いています。
3つのステップに分けてバラバラに考えるということはどういうことなんだろう。その3つのステップとは、広げてから、上がって、下がるです。
多くの人は、抽象と具体をまとめて一度に考えようとして行き詰まります。
私自身、ブランディングの現場で企業のビジョンを言語化するとき、まず個別のエピソードやデータをできるだけ広く集め、いったん抽象度を上げて共通項を探り、そこから再び具体的な言葉に下ろしていくという順番を意識しています。
本書が示す往復運動は、まさにこの実務感覚を、誰もが再現できる手順として言語化したものだと感じます。
支柱(Pillar)で束ねることが、AI時代の経営リーダーの仕事になる
Purposeを定め、PieceとPerspectiveを往復させたあとに待っているのが、Pillar(支柱)で束ねる工程です。
本書はここで、構造化されたビジョンがどのように他者に伝わる物語へと変わっていくのかを描いています。あわせて、この工程がAIと共に働く時代における人間の役割そのものであることも、実務者として強く感じた点です。
支柱の本数と時間軸で、伝わりやすさが決まる
本書の物語では、コウゾウが提案する「3日以内」「1週間以内」「しばらく放置」という3本の支柱によって、17個のタスクがすっきりと整理されていきます。支柱の数を絞り込み、時間軸のような分かりやすい軸で束ねることで、散らばった断片が一つの構造として立ち上がってきます。
経営ビジョンの言語化でも、伝えるべきメッセージの本数を絞り込む作業は避けて通れません。あれもこれも詰め込んだビジョンは、結局誰の記憶にも残りません。支柱を3本前後に絞る本書の姿勢は、Co-Missionを掲げる際にも参考になる発想です。
構造化思考とクリティカル・シンキングは対になっている
本書の終盤では、構造化思考とクリティカル・シンキングの関係が語られます。構造化のスキルなく批判的に考えようとすると、既存の考えに対して過度に細かく、あるいは大雑把にツッコミを入れるだけで終わってしまいます。
まず対象を構造的に整理しておくことで、初めて根拠を持った批判が可能になるという指摘は、AIの出力を検証する場面にもそのまま当てはまります。
構造化のスキルなくしてクリティカル・シンキングを実践するためのアプローチです。
AIが瞬時に答えらしきものを出してくれる時代だからこそ、人間に求められるのは、その出力を構造化して受け止め、目的に照らして検証する力です。
Purposeを定義できるのも、Pieceの粒度をそろえられるのも、Perspectiveを選び取れるのも、結局は人間の側の仕事です。AIを便利な道具として使いこなすためには、まず自分の中に構造の枠組みを持っておく必要があります。
聴く力もまた、構造化から育つ
本書はさらに、タカシくんが営業の現場で「相手の話を聴く力」を身につけていく過程を描いています。相手の話を構造的に整理できるようになると、間を空けずに一方的に話してしまう癖が減り、相手の要望を受け止めた返答ができるようになったという変化です。
構造化思考は、自分の頭の中を整理する技術であると同時に、他者の話を受け止め、共に考えるための土台にもなります。
経営リーダーが掲げるビジョンも、一方的に発信するだけでは浸透しません。現場の声という断片を丁寧に聴き取り、構造化し、共に紡ぎ直していく姿勢があってこそ、ビジョンは組織の中で生きた物語になっていきます。AIとの対話も、人との対話も、根っこにある姿勢は変わらないのだと、本書を読みながら感じました。
具体と抽象という論点も、とても大切ですね。こちらの1冊「【「わかりやすい!!」は、本当に価値なのか!?】具体と抽象|細谷功」もぜひご覧ください。

まとめ
- Purposeの解像度を上げる――目的を「誰が・いつ・誰と・何のために」まで分解することが、構造化の出発点になります。
- 具体と抽象を往復する――断片を広げてから抽象へ上がり、目的を踏まえて具体へ下がるという順番が、良い視点を生み出します。
- 支柱で束ね、物語にする――絞り込んだ支柱で情報を束ねる力は、AIの出力を検証し、他者と共創していくための土台にもなります。
実践のためのQ&A
本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
