この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】成果を分けるのは、知識やスキルの量ではありません。それらを運用する「頭の土台」の性能です。本書は税務とソフトウェア開発という異なる現場で結果を出してきた二人の著者が、「素アタマ」という視点から、思考の型を変える45の実践を示します。
1.素アタマという土台認識:知識やスキルをアプリケーションだとすれば、それを動かすOSにあたるのが「素アタマ」であり、この土台の性能が成果を左右します。
2.真因を追う思考法:表層の問題に飛びつくのではなく、根本原因まで踏み込んで解決する姿勢が、構造的な変化を生みます。
3.当事者意識という自責:危機意識から問題意識、そして当事者意識へと、自分に問いかける習慣こそが「素アタマ」を鍛えます。
- 同じ仕事をしていても、日々成果を積み上げていく人と、いつまでも足踏みしてしまう人がいます。この違いは、いったいどこから生まれるのでしょうか?
- 実は、その差は知識やスキルの量ではなく、それらを運用する「頭の土台」の性能にあります。
- なぜなら、どれほど知識やスキルを集めたとしても、それを使いこなす土台が育っていなければ、成果には結びつかないからです。
- 本書『頭の回転数を上げる45の方法』は、税務会計のプロフェッショナルである久保憂希也氏と、ソフトウェア開発の現場を率いてきた芝本秀徳氏が、それぞれ異なる分野で見出した共通の結論を、「素アタマ」という一つの言葉に集約した一冊です。
- 本書を通じて、知識やスキルをいくら積み上げても届かなかった「頭の回転数」を上げるための、思考の型と実践の手がかりを持ち帰っていただければと思います。
久保憂希也氏は、東京国税局において国税調査官として税務調査を担当した後、株式会社光通信に転職し、新規事業の立ち上げを担当しました。後発の事業でありながら業界シェア上位に育て上げた実績を持ち、現在は「結果がすべて」を掲げる経営コンサルティングに携わっています。
芝本秀徳氏は、品質と納期がすべてを決める世界に身を置き、プロジェクトマネジャーとして百五十名を超えるメンバーを率いてきました。その後、企画から開発、販売までを一貫して手がけるプロダクトマネジャーとして現場を指揮し、現在はプロセス設計とマネジメントのコンサルティングを行っています。
税務会計とソフトウェア開発という、まったく異なる領域で結果を出し続けてきた2人が、それぞれの現場で出会った「すごいと思う人」を観察し、議論を重ねた末にたどり着いた結論が「素アタマ」でした。分野の違いを超えて共通していたのは、知識やスキルの量ではなく、それらを運用する頭の土台そのものの性能だったということです。
知識やスキルではなく、頭の土台が成果を分ける
成果を出し続ける人と、いつまでも足踏みする人の違いは、持っている知識やスキルの量にはありません。両者を分けているのは、それらを運用する「頭の土台」の性能です。本書はこの土台を「素アタマ」と名付け、思考の出発点に据えています。
知識やスキルはアプリケーション、素アタマはOS
コンピュータにたとえると、知識やスキルはその上で動くアプリケーションソフトウェアです。
一方で「素アタマ」は、それらを動かす土台となるOSにあたります。
頭の回転が速い人は、このOSレベルの能力が高いのだと考えると理解しやすいものです。
いくらアプリケーションが優秀でも、OSの性能が低ければ動作は重くなります。
同じように、いくら知識やスキルを集めても、それを運用する土台が育っていなければ、成果として結実させることはできません。
ビジネスの現場でよく見かける「知識は豊富なのに成果が出ない人」と「知識量は平均的でもどんな分野でも結果を出す人」の違いは、まさにここに理由があります。
経営者やリーダーの立場で考えると、この視点は組織づくりにも直結します。研修やスキルアップ講座に投資することは大切ですが、それだけでは「アプリケーションを増やす」投資にとどまります。土台であるOSそのものを鍛える機会をどう設計するかという問いは、人材育成のもう一段深いテーマだと感じています。
スキルアップ本を百冊読むより、型を学ぶ
スキルアップ本や仕事術本には、それぞれのテクニックにあった理由があります。
しかし、テクニックは文脈に依存するものであり、ある文脈で通用しても、別の文脈ではまったく役に立たないことがよくあります。テクニックをコレクションしても、成果には直結しないのです。
これに対して「素アタマ」は、分野をまたいで機能する汎用的な知的運用能力です。テクニックという個別の武器を集める前に、それらを使いこなすための土台を鍛えることの方が、長期的にはるかに大きな効果を持ちます。
これは、私自身、中小企業診断士として企業の経営支援に携わる中でも、繰り返し実感し、自らを戒めてきたことにも近いです・・・。
テクニック論に終始するコンサルティングは、その場では効果があるように見えても、経営者自身の思考の土台が変わらなければ、同じ課題が形を変えて再発します。ビジョナリー・ブランディングやパーパスの構築支援においても、最終的に問われるのは、経営者やチームがどれだけ「自分の頭で考える型」を持っているかということです。
一方で、経営支援とは、そういう考える状態、つまり「問いを持てる状態」をいかに創り、支援者が抜けても駆動する組織になっているかが、一つの指標になると思います。
表層の問題ではなく、真因まで踏み込んで解決する
問題が起きたとき、多くの場合は目の前に見えている現象に飛びつき、対症療法で片づけてしまいます。
しかし本書が繰り返し強調しているのは、表層の問題と根本原因はまったく別物であり、両者を混同したままでは同じ問題が何度でも再発するという指摘です。
問題は与えられるものではなく、自分で探し、自分で作るもの
学校では問題は与えられるものでした。
しかし仕事における問題は、誰も答えを用意してくれません。
自分で問題を発見し、自分で定義するところから始まります。
会社では、問題というのは与えられるものではないのです。自分で問題を探して、自分で解かなければならないのです。
これは、学生時代の成功体験がそのまま通用しない典型的な場面です。
「与えられた問題をパターンで解く」ことが得意だった優等生ほど、社会に出てから戸惑うことがあります。仕事において優れた解決方法を考えることよりも、実は「解くべき問題そのものを把握すること」の方がはるかに難しく、非効率な仕事の多くは、この問題把握を怠っていることに起因します。
書評という活動(仕事?)に置き換えても、この指摘は重く響きます。
単に本の内容を要約するだけであれば、それは「与えられた問題」への解答にすぎません。読者である経営者のみなさまが本当に抱えている経営課題は何かを自分で探し、その課題に本書の視点をどう接続できるかを考えることこそが、書評という仕事における「問題を自分で作る」行為だと、私は考えています。
なぜを繰り返し、表層ではなく真因を突き止める
問題が起きたとき、原因を突き止めることが大切だとされます。しかし、原因が見つかったつもりでも、それが本当の原因、すなわち真因であるとは限りません。
トヨタの生産現場で生まれた手法として知られているのが、「なぜ」を5回繰り返すという考え方です。提案書のレビューができなかったという表面的な事象に対して、なぜレビューをしなかったのか、なぜ時間が確保できなかったのか、なぜ他のタスクが優先されたのかと、問いを重ねていくことで、直接的で表面的な原因の奥にある、本当の原因にたどり着くことができます。
経営の現場でも、売上が伸びないという事象に対して、営業体制を変えましょうという対策だけで終わってしまう場面をよく見かけます。
しかし、これはただの評論家的な指摘にとどまっており、権限と責任を持って根本原因を止めにいく人がいなければ、問題は解決されないままになります。表層の問題に対処しながら、同時に根本原因の解消にも取り組むという二段構えの視点が、経営における問題解決には欠かせません。
危機意識から当事者意識へ、自分に問いかける
「自分のせいではない」という感覚は、誰にとっても心地よいものです。しかし成果を出し続ける人ほど、この感覚から距離を置き、あえて自分に責任を引き寄せる思考の習慣を持っています。
危機意識・問題意識・当事者意識という3つの段階
意識には3つの段階があります。今やっている仕事に問題を感じなければ改善の行動は生まれません。これが問題意識です。しかし問題意識だけでは足りません。その手前に、そもそも仕事が存続できているのは自分のおかげではないという危機意識が必要になります。
問題意識をもたない人が危機意識をもつということはなく、危機意識があるからこそ当事者意識が芽生えるのです。
そして最後にたどり着くのが当事者意識です。自分にもっとできることがあったのではないかと、自分に問いかけることのできる人間になることが、この段階の実践です。
他責の姿勢が染みついていると、上司のせいにする、会社のせいにする、他部署のせいにするという発想から抜け出せません。しかしすべてをコントロールすることは不可能だとあきらめてしまえば、成長するために必要な意識も同時に手放すことになります。
悪いことは自分のせい、良いことは他人のおかげ
当事者意識を醸成するための実践として、自分に問いかける、他部署の仕事を率先して請け負う、悪いことは自分のせいにして良いことは他人のおかげにするという3つの姿勢が挙げられています。
コントロールできる領域を自分から広げにいくという発想は、経営者やリーダーにとって特に重要な視点だと感じています。他部署が担当している業務であっても、自分が率先して引き受けてみることで、コントロールできる範囲は着実に広がっていきます。
もう後には引けなくなるということが、かえって当事者意識を醸成する最高の実践になるという逆説・・・。私自身も、実は身を持って経験しております。
伴走支援において、クライアントの経営課題を「相手の問題」として距離を置いて眺めているうちは、本質的な変化は起こりません。あえて自分の問題として引き受け、コントロールできる領域を広げにいく姿勢を持てるかどうかが、支援の質を決めると考えています。
「素アタマ」が示す当事者意識という概念は、経営支援という仕事そのものの姿勢を問い直す視点でもあります。
問題というのは、人から与えられるものではなく、自分で手繰り寄せるものであるという論点については、こちらの1冊「【起業家の思考法とは!?】Love the Problem 問題に恋をしよう|ユリ・レヴィーン」もぜひご覧ください。

まとめ
- 素アタマという土台認識――知識やスキルはアプリケーションであり、それを動かすOSにあたる「素アタマ」の性能こそが、成果を分ける本当の理由です。
- 真因を追う思考法――問題は自分で探し、自分で定義するものであり、表層の原因ではなく根本原因まで踏み込むことで、構造的な解決が可能になります。
- 当事者意識という自責――危機意識、問題意識を経て当事者意識へと至る過程で、悪いことは自分のせい、良いことは他人のおかげと考える姿勢が、思考の土台そのものを鍛えていきます。
実践のためのQ&A
本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
