加藤俊徳『1万人の脳を見た名医がつきとめた 機嫌の強化書』――脳は、成長したがっている

加藤俊徳『1万人の脳を見た名医がつきとめた 機嫌の強化書』の書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】上機嫌は、脳が成長し続けている生理的なサインです。加藤俊徳氏が1万人以上の脳画像を通じて明らかにした、機嫌と脳のパフォーマンスの関係を、経営とリーダーシップの視点から読み解きます。
 
1.成長本能としての機嫌:脳は本来、成長を渇望しており、上機嫌はその発露です。
2.優先順位という技術:感情を脇に置き、今すべきことを絞り込む思考の型があります。
3.視点の転換力:不機嫌の原因を見つめ直すことで、組織の機嫌そのものを変えられます。

  • なぜ、機嫌のいい人ほど、成果を出し続けるのでしょうか?
  • 実は、機嫌のよさは単なる性格や気分の問題ではなく、脳が本来持っている成長への欲求が満たされているかどうかを示すサインです。
  • なぜなら、脳科学者・加藤俊徳氏によれば、上機嫌な状態こそ脳が最も高いパフォーマンスを発揮している証拠であり、不機嫌はその逆に、脳が防衛本能に支配され、成長を止めている状態だからです。
  • 本書は、1万人以上の脳画像を診断してきた著者が、機嫌という一見あいまいなテーマを脳科学の視点から解き明かし、機嫌を整えるための具体的な思考法と行動を提示する一冊です。
  • 本書を通じて、経営やリーダーシップにおいても、機嫌という切り口が組織の成長を左右する重要な変数であることに気づかされます。
加藤俊徳
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加藤俊徳氏は、脳内科医・医学博士として、加藤プラチナクリニックの院長を務めています。株式会社脳の学校の代表であり、脳科学とMRI脳画像診断の専門家として知られています。

14歳のときに「脳を鍛える方法」を知りたいという思いから医学部への進学を決意したそうです。1991年には、世界700カ所以上の施設で使われている脳活動計測法「fNIRS」を発見し、1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事しました。

独自に開発した「脳番地」という理論を軸に、子どもから高齢者まで1万人以上の脳を診断・治療してきた実績を持ちます。本書は、その膨大な臨床経験から導き出された「機嫌」と脳の関係を、実践的な視点でまとめた内容になっています。

脳は本来、成長を渇望している

人はなぜ、これほどまでに機嫌に振り回されるのでしょうか。加藤氏は、その理由を「脳の成長欲求」という視点から説き起こします。ここでは、上機嫌と不機嫌が持つ、それぞれの脳科学的な意味を見ていきます。

上機嫌は、脳が伸び続けている証拠

加藤氏によれば、上機嫌とは単なる気分の良さではなく、脳が成長し続けているときに生まれる生理的な反応です。人は本来、生まれながらにして成長を渇望する生き物であり、赤ちゃんが泣きながらも歩行を練習し続ける姿は、まさにその欲求の現れだと述べています。

「機嫌のよさは、身体の生命反応。上機嫌は、脳の細胞が喜んでいる証」

この論点は、機嫌を単なる感情の問題として片づけるのではなく、脳という臓器の生理現象として捉え直す視点を与えてくれます。

仕事も人間関係も、健康や運までもがその成否を「機嫌」によって左右されるという指摘は、経営における人材マネジメントを考えるうえでも示唆に富んでいます。組織の中で「機嫌がいい」状態を保てているメンバーは、それだけ脳が本来の力を発揮できている可能性が高いということになります。

不機嫌は防衛本能であり、悪者にする必要はない

一方で、不機嫌もまた、脳にとって意味のある反応だと加藤氏は指摘します。不機嫌は、脳が生存本能として発する危険信号のようなものであり、無理に消し去るべきものではありません。ただし、不機嫌な状態が続くと、脳細胞自体が本来の機能を発揮できなくなり、成長が止まってしまいます。

興味深いのは、不機嫌の要素をひとつずつ取り除いていくだけでは、上機嫌にはたどり着けないという指摘です。

健康で経済的に満たされていても常に不機嫌な人がいる一方で、多くを重ねてもなお機嫌よく成長し続ける人もいます。両者を分けるのは、不機嫌の要素の有無ではなく、成長し続けようとする姿勢そのものだと言えるでしょう。

このことは、組織における「不満をなくせば士気が上がる」という発想の限界を示しているように思います。福利厚生や労働環境の改善だけでは、社員の主体的な成長意欲を引き出せない場面が数多くあります。不満要素を取り除くことと、成長への意欲を引き出すことは、まったく別の課題として扱う必要があるということです。

「序列づけ」という優先順位経営

機嫌を左右するのは、感情そのものだけではありません。加藤氏は、思考系脳番地という脳の部位が「一方的な命令」を嫌う性質を持つことに着目し、優先順位のつけ方こそが機嫌を左右する具体的な技術だと説きます。ここでは、本書が示す4つの工夫点を、経営における意思決定のあり方として読み解いていきます。

思考系脳番地は「一方的な命令」で不機嫌になる

思考系脳番地は、「考えること」を司る脳の部位です。加藤氏によれば、この番地は自分自身が考えたいことを自由に考えているときに機嫌がよくなる一方で、上司や親から一方的に「これをやれ」と命じられると、途端に不機嫌になるという性質を持っています。

「思考系脳番地は、その名のとおり『考えること』を担う番地です。一方的に命令されると不機嫌になります」

これは、組織における指示命令系統のあり方に、直接的な示唆を与えてくれます。トップダウンで細かく指示を出すマネジメントスタイルは、短期的には効率がよく見えても、メンバーの思考系脳番地を継続的に不機嫌にし、結果として自発性やパフォーマンスを損なう可能性があるということです。

感情を脇に置き、「今すること」を絞り込む4つの視点

本書では、不機嫌な感情に振り回されず、目の前の物事に優先順位をつけるための具体的な方法が紹介されています。目の前の物事を、次の4つに分類するというものです。

1.比較的早く処理できて、優先順位が高いもの
2.比較的早く処理できるが、優先順位はそれほど高くないもの
3.ある程度時間がかかりそうで、優先順位が高いもの
4.処理能力があまり高くないうちに着手する、時間がかかりそうなもの

いったん感情は脇に置いて、「今、すること」を絞り込むというこの技術は、単なるタスク管理の技法にとどまりません。

機嫌が回復しないうちに、時間がかかりそうなものにも少しずつ着手しておくという発想は、経営における優先順位づけの精度を高めるヒントになると思います。

すべての判断を、機嫌が万全なときにしかできないというのは、組織にとって大きな制約になります。感情のコンディションに左右されない意思決定の型を、あらかじめ持っておくことの重要性を、この4分類は教えてくれます。

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視点の転換力がイノベーションを生む

同じ出来事であっても、それをどう受け止めるかによって、機嫌は大きく変わります。加藤氏は、ネガティブな状況を意図的にポジティブに捉え直すことで、機嫌そのものを修復できると説きます。ここでは、視点の転換という技術が、個人だけでなく組織の変化をも生み出す力について考えていきます。

ネガティブな状況を、意図的にポジティブに捉え直す

本書では、嫌いな上司に仕事を振られて「嫌だな」と感じた瞬間を例に、視点の転換の技術が具体的に紹介されています。同じ出来事を、「これを完遂することが自分の成長につながる」と考え直すことで、機嫌は修復されるという指摘です。

「そんなときこそ、ネガティブな状況を、意図的にポジティブに捉え直すことで、機嫌を修復する」

これは根性論やポジティブシンキングの押しつけとは異なります。誰にでも言われて渋々取り組む「やらされ脳」というコンディションで生きるのではなく、自ら進んで積極的に取り組む「やりたい脳」へと変換する技術として位置づけられている点が重要だと思います。

リーダーの視点転換が、組織の機嫌を変える

この視点転換の技術は、個人の心がけにとどまらず、リーダーシップのあり方そのものに応用できると思います。組織の中で起きるネガティブな出来事を、リーダー自身がどう意味づけるかによって、チーム全体の機嫌は大きく変わってきます。

同じ失敗や困難な状況に直面しても、それを「成長の機会」として語り直せるリーダーのもとでは、メンバーの思考系脳番地も不機嫌になりにくいはずです。

逆に、リーダー自身が状況を悲観的に語れば、その機嫌はそのままチームに伝播していきます。視点を転換する力は、個人の技術であると同時に、組織文化そのものを形づくる力でもあるのだと感じます。

脳の機能については、こちらの投稿「好奇心とは、不確実性である!?『脳の本質 いかにしてヒトは知性を獲得するか』乾敏郎,門脇加江子」もぜひご覧ください。おすすめです。

まとめ

  • 脳は本来、成長を渇望している――上機嫌は脳が伸び続けている証拠であり、不機嫌の要素を取り除くだけでは上機嫌にはたどり着けません。
  • 「序列づけ」という優先順位経営――感情を脇に置き、「今すること」を絞り込む4つの視点が、意思決定の精度を高めます。
  • 視点の転換力がイノベーションを生む――ネガティブな状況を意図的に捉え直す技術は、個人だけでなく組織の機嫌をも変える力を持っています。

実践のためのQ&A

本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。

機嫌をよくするために、まず何から始めればいいですか?

不機嫌の原因を取り除くことよりも、目の前の物事に優先順位をつけ、感情に振り回されずに動き出すことから始めるのがおすすめです。小さくても「今すること」に着手できたという感覚が、機嫌を上向かせるきっかけになります。

部下や後輩に一方的に指示を出すと、なぜ不機嫌になりやすいのですか?

「考えること」を担う思考系脳番地は、自分で考える自由が奪われると不機嫌になる性質を持っています。指示を出す際は、目的や背景を共有し、考える余地を残すことが機嫌よく動いてもらうための鍵になります。

リーダー自身が不機嫌なとき、どう対処すればいいですか?

起きている出来事そのものではなく、その出来事をどう意味づけるかに意識を向けることが有効です。同じ状況でも「成長の機会」として捉え直すことで、自分自身だけでなくチームの機嫌にも良い影響を与えられます。

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この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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