この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】自分の「得意」を活かせる場所は、探せば必ず見つかります。安藤寿康が示す、絶対優位・比較優位という経済学の視点と、顔の見える規模のコミュニティという発想から、適材適所を実現する組織と社会のつくり方を考えます。
1.比較優位という発見:一番得意でなくても、自分の中で一番得意なことに専念すれば貢献できます。
2.規模の発見:巨大な組織ではなく、顔の見える規模のコミュニティにこそ、自分の才能が活きる場があります。
3.旅を続ける姿勢:才能は環境と出会って発現するものであり、大人になっても学び続ける旅は終わりません。
- 自分より優れた人がいる分野では、貢献できないと感じてしまうことはないでしょうか。
- 実は、そこにこそ大きな誤解があります。
- なぜなら、経済学が示す「比較優位」という考え方は、一番でなくても貢献できる道を教えてくれるからです。
- 本書『日本人の9割が知らない遺伝の真実』は、遺伝という手札を前提にした上で、それぞれの才能をどう社会の中で活かしていくかを具体的に描いています。
- 本書を通じて、組織や社会を「キッザニア化」していくという発想を、経営とリーダーシップの視点から考えてみたいと思います。
安藤寿康さんは、1958年東京都生まれ、慶應義塾大学文学部を卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程を修了されました。現在は慶應義塾大学文学部教授として、行動遺伝学と教育心理学を専門にされています。主に双生児法による研究を通じて、遺伝と環境が認知能力やパーソナリティにどう影響するかを長年追い続けてこられました。
著書には『遺伝子の不都合な真実』『心はどのように遺伝するか』などがあり、遺伝という誤解されやすいテーマを、データに基づいて誠実に語り続けている研究者です。
一番でなくても、貢献できる場所がある
自分の得意なことを見つけるという作業は、実は「一番になる」ことではありません。
自分の中で一番得意なことに専念するという、比較優位の発想に立つことが出発点になります。
比較優位という経済学の発見
本書では、ノーベル経済学賞を受賞したポール・サミュエルソンの逸話が紹介されています。
弁護士の仕事にもタイピングにも優れた人物Aと、タイピングだけが得意な秘書Bがいたとします。
Aがすべての仕事を自分でこなした方が効率的に思えますが、
実際にはAが弁護士業に専念し、Bにタイピングを任せた方が、
社会全体としての利益は大きくなります。
これが比較優位の考え方です。
組織づくりにおいても、この発想は極めて実践的です。
すべての領域で一番を目指す必要はなく、自分の中で相対的に得意なことに専念し、他の領域は得意な人に任せる。
この分業の発想こそが、チーム全体の力を最大化させます。経営者として大切なのは、誰が何を「絶対的に」得意かではなく、それぞれが自分の中で「相対的に」何を得意としているかを見極めることだと思います。
あなたにとって一番の得意なことができれば、一番の貢献をすることができます。
自分より優れた人がいる分野でも、卑屈になる必要はありません。
自分の中で一番得意なことに専念すれば、それは必ず誰かの役に立つのです。
得意と好きを掛け合わせる
本書はさらに、「得意」と「好き」という2つの軸を掛け合わせることを提案しています。
得意なことと好きなことが一致していれば理想的ですが、そうでなくても、タイプを打ち分けるように、状況に応じて両方を使い分けることができます。
組織の中で人材を評価するとき、単に成果だけを見るのではなく、その人が何を得意とし、何を好んでいるかという二つの軸で捉え直すことは、適材適所を実現するための重要な視点になります。
巨大組織ではなく、顔の見える規模で才能を発現させる
人間が本来能力を発揮しやすいのは、巨大な組織の中ではなく、顔の見える規模のコミュニティだと本書は指摘します。この視点は、組織設計そのものへの問いかけになります。
ダンバー数という150人の壁
人類学者ロビン・ダンバーは、人間が安定した社会関係を維持できる人数はおよそ150人程度だと主張しました。狩猟採集社会における小規模なコミュニティの中でこそ、人間同士が密接にコミュニケーションを取り合い、個々の能力が可視化されていたのです。
現代の巨大企業では、個人差は依然として大きいにもかかわらず、平均的な知識やカリキュラムを無理やり一通り学ばせて一人前に仕立てようとします。
周りの環境に適応して生き延びていくのが生物としての大原則である以上、巨大な組織の画一的なルールに、すべての人材がうまく適応できるとは限りません。
あなたの持っている遺伝的な資源を配分して生き延びようとするものです。それらはすべて「有限」です。
顔の見える規模のコミュニティ、たとえば専門店や地域に根ざした中堅企業では、一人ひとりが自分の役割を果たしていることが周囲から見えやすく、経済的にもうまく回っているケースが少なくありません。
組織の規模そのものが、才能の発現しやすさを左右しているのです。
ローカルな絶対優位という強み
本書はまた、グローバル化した巨大資本の下で働く人と、地域に根ざした比較優位を持つ人という対比を描いています。
世界中どこでも通用する絶対優位を目指すことだけが正解ではありません。
自分にとって心地よい規模のコミュニティの中で、ローカルな絶対優位を築くという生き方にも、確かな価値があります。
経営者として、自社の組織をどれだけの規模で、どれだけ顔の見える関係性を保ちながら運営していくか。
この問いは、単なる効率化の議論を超えて、そこで働く人たちの才能がどれだけ発現しやすいかという、経営の根幹に関わる問題だと考えています。
社会をキッザニア化し、大人も旅を続ける
本書が最終的に提案するのは、社会全体を「キッザニア化」していくという発想です。
多様な仕事を実際に体験できる仕組みを社会の中に増やしていくことで、それぞれの適性を見つけやすくなります。
職業体験としての社会をつくる
子ども向けの職業体験施設キッザニアのように、実際にやってみることで初めて見えてくる自分の適性があります。本書は、学校教育だけでは伝えきれない社会の仕組みを、体験を通じて理解させることの重要性を説いています。
これは組織における人材育成にも当てはまります。研修やマニュアルだけでは、その人が本当に何に向いているかは見えてきません。
実際に複数の役割を経験してもらい、その中で本人も周囲も気づいていなかった得意分野を発見していく。
キャリア教育の一環として語られていたキッザニアの発想は、実は企業内の人材配置においても、極めて実践的な示唆を持っていると思います。
かわいい子には旅をさせよ、そして自分も
遺伝的な素質は、環境と出会うことで初めて発現します。本書はことわざ「かわいい子には旅をさせよ」を引きながら、多彩な経験の場を意図的につくり出すことの大切さを説いています。
そしてこれは、子どもだけの話ではありません。学校を終えたら学びが完結するわけではなく、私たちは生涯を通じて、環境に適応しながら「本当の自分」になっていく旅を続けています。
大人自身が新しい環境に飛び込み、変わり続ける姿勢を持たなければ、部下や子どもに旅をさせることの本当の意味も伝わらないはずです。
私たちはみな死ぬまで旅をし続けるのです。
経営者やリーダーとしての役割は、組織という枠の中に多様な「旅先」を用意し、自分自身もまたその旅を続けていくことなのだと思います。
やってみる!というマインドセットを優先してみるには、こちらの1冊「【あなたは硬直型!?それとも、しなやか型!?】マインドセット:「やればできる!」の研究|キャロル・S・ドゥエック」も背中を押してくれるでしょう。ぜひご覧ください!!

まとめ
- 比較優位という発見――一番でなくても、自分の中で一番得意なことに専念すれば、それは必ず組織やチームへの貢献になります。
- 規模の発見――巨大な組織の画一的なルールよりも、顔の見える規模のコミュニティの中でこそ、才能は発現しやすくなります。
- 旅を続ける姿勢――遺伝的な素質は環境との出会いによって発現するものであり、大人になっても学び続ける旅を止めないことが、才能を活かす鍵になります。
実践のためのQ&A
本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
