この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】「ご機嫌」は才能ではなく、日々の習慣によって自分で設計するものです。松浦弥太郎が実践する小さな作法の積み重ねが、自分を引き受け続けるリーダーの姿を静かに照らし出しています。
1.自己引き受けの解像度:他者への指示より先に、自分への問いを持つ人だけが、本当の意味でチームを導けます。
2.減らすことの豊かさ:足すのではなく引くことで、暮らしも仕事も本質に近づいていきます。
3.ご機嫌の設計力:感情は管理するものではなく、習慣によって育てるものだという視点が、組織の空気を変えます。
- リーダーとは、何かを「目指した」人のことでしょうか?
- 実は、そうではないと思います。
- なぜなら、本当に信頼されるリーダーとは、誰かの上に立とうとした人ではなく、自分自身を引き受け続けた結果として、気づけばそこに立っていた人だからです。
- 本書は、松浦弥太郎が日々実践する小さな習慣と哲学を、静かな言葉で綴ったエッセイ集です。
- 本書を通じて、「ご機嫌」を自分で設計する力こそが、リーダーとしての土台になるという、シンプルで深い気づきを得られます。
松浦弥太郎さんは、1965年東京生まれ。高校中退後にアメリカへ渡り、古書の世界に入ったのち、東京でセレクト古書店「Cowboys & Indians」を開業します。
その後、雑誌『暮しの手帖』編集長を務め、独自の生活哲学と丁寧な言葉遣いで幅広い読者に支持されました。
現在はクリエイティブディレクターとして活躍しながら、著作を通じて「よく生きること」を問い続けています。
飾らない誠実さと、自分の言葉で語る姿勢が、多くのビジネスパーソンや経営者からも深く共感を集める書き手です。
自分を引き受けるとは、逃げないことである
リーダーシップについて語るとき、私たちはついスキルや戦略の話に向かいがちです。
でも、松浦さんの文章を読んでいると、そういう方向とはまったく異なる問いが浮かんできます。
それは「あなたは今、自分を引き受けていますか?」という問いです。
「ぼくの基本」が語るもの
本書に収められた「ぼくの基本」というエッセイの中に、こんな言葉があります。
「はじめてのこころ」とは、たとえば、人と関わる、食事をする、学ぶ、遊ぶ、考える、作る、など、そういった毎日のいつものことに、うきうき、わくわく、どきどき、一生懸命な、初心者でいること。
「はじめてのこころ」という言葉が、静かに刺さります。
毎日同じことを繰り返しているように見える日々の中で、常に初心者でいるということ。
これは単なる謙虚さの話ではないと思います。
自分の行動のひとつひとつに、意識を向け続けるということです。
惰性に流されず、「今日のこれ」として受け取り直す。
そういう姿勢がなければ、自分への解像度は上がらない。
リーダーとして、長く組織を率いてきた人ほど、この「はじめてのこころ」を失いやすいと思います。
経験が積み重なるほど、パターンで処理することが増え、自分が何を感じているか、何を選んでいるかを丁寧に見る機会が減っていく。
松浦さんの言葉は、そこに静かに警鐘を鳴らしています。
失敗を「引き受ける」とはどういうことか
「失敗について考える」というエッセイの中で、松浦さんはこう書いています。
失敗とは、勇気の表れであり、チャレンジをした証である。
失敗を「自分の外側に置く」人と、「自分の内側に引き取る」人では、その後の歩みがまったく変わります。
松浦さんが言う「失敗を引き受ける」とは、自責で消耗することではなく、失敗を自分というものの一部として、正直に見つめ直すことです。
これはリーダーにとって、非常に重要な姿勢だと思います。
なぜなら、組織の中で失敗を「なかったこと」にしようとする空気は、リーダーの姿勢から生まれることが多いからです。
リーダー自身が失敗を引き受けている姿を見せることで、チームに「ここは正直でいていい場所だ」という安心感が生まれます。
松浦さんは「失敗ノート」をつけていると書いています。
失敗を記録し、冷静に見つめ、そこから何かを探す。
この習慣の根底にあるのは、自分の行動の結果を、誰かのせいにせず、自分のものとして受け取るという覚悟です。
自分を引き受けるということは、こういうことだと思います。
逃げない。言い訳しない。ただ、正直に自分を見る。
ご機嫌は設計するもの
松浦さんの習慣の中で、特に印象的なのが「ご機嫌」に対する向き合い方です。
ご機嫌というと、気分や感情の話のように聞こえますが、松浦さんにとってそれは、毎日の習慣によって意図的に育てていくものです。
感情を「管理する」のではなく、「設計する」という発想が、ここにあります。
「心の作法」という習慣
夜、ベッドに入るときに手を合わせて感謝をする。
一日が終わるとき、「ありがとう」と「はじめてのこころ」を思い浮かべる。
本書に描かれる松浦さんの夜の習慣は、非常にシンプルです。
でも、このシンプルさの中に深いものがあります。
「ありがとう」という感謝の言葉は、すべてのモチベーションになり、起点にもなっている。
感謝は、感じるものではなく、習慣として「する」ものだという視点です。
感謝できる状況だから感謝するのではなく、感謝するという行為を日々繰り返すことで、物事のとらえ方そのものが変わっていく。
これはリーダーの日常設計として、非常に示唆深いと思います。
経営者・リーダーというのは、不確実な情報の中で判断し続ける立場です。
その中で「ご機嫌」を保つためには、感情が動かされるたびに対処するのではなく、毎日の習慣によって、心の基準点を整えておくことが必要です。
早寝早起きという「減らす」選択
「早寝早起きのため減らす」というエッセイの中で、松浦さんは夜の会食を週に一度と決めたことを書いています。
それは、残業や夜の付き合いを「減らす」という選択です。
多くのリーダーは、何かを足すことで状況を改善しようとします。
新しい施策、新しい仕組み、新しい会議。
でも松浦さんの発想は逆で、まず「減らす」ことから始まります。
減らすことで、何が大切かが見えてくる。
減らすことで、自分の本来のリズムが取り戻せる。
そして、ご機嫌な状態で朝を迎えることができる。
これは組織運営にそのまま重なります。
「増やす経営」から「減らす経営」へ。
何を手放すかを決める力こそが、リーダーの判断力の本質かもしれません。
仕事とは、感動を与えることである
松浦さんの仕事観は、非常に明快です。
給料は、感動の量と比例する。
これほどシンプルに、仕事の本質を語った言葉を、最近あまり聞かなくなったと思います。
でも、言われてみれば、深く納得できます。
感動の量が、報酬を決める
「仕事とは感動を与えること」というエッセイの中で、松浦さんはこう書いています。
給料の多い理由はなんだろうか。少ない理由はなんだろうか、と考えてみた。その多い理由は、感動の量と比例するのではないかと思いついた。
プロのサッカー選手が世界中の人々に感動を与えるから、天文学的な報酬を得る。
お笑い芸人がテレビを通じて何百万人もの人に笑いを届けるから、高い給料が成立する。
この視点を持つと、自分の仕事に向かう姿勢が変わります。
どれだけの人に、どれだけの感動を届けられているか。
それが仕事の価値の本質だとすれば、規模や効率よりも先に問うべきことがある。
リーダーが持つべき問いは、「いかに効率よく動かすか」ではなく、「いかに深く感動させられるか」ではないでしょうか。
チームを感動させる。顧客を感動させる。社会を感動させる。
その問いを持ち続けるリーダーのもとに、人は集まってきます。
「仕事とは何か」を問い直す
松浦さんが書く仕事観の中で、もうひとつ印象的なのは「大人になってからも学び続ける」という姿勢です。
「常識だから正しい」という考え方に対して、松浦さんは静かに疑問を持ち続けます。
大人になった今、あらためて「普通とは何か」「正しさとは何か」を問い直す。
これは、シニアなリーダーほど難しいことだと思います。
経験があるほど、「こういうものだ」という固定観念が強くなる。
でも、松浦さんのように、常に「はじめてのこころ」で問い直す姿勢があれば、どんな立場になっても学び続けられる。
組織の中で「なぜ?」と問える文化をつくるのは、リーダー自身が「なぜ?」と問い続けているかどうかにかかっています。
松浦さんの仕事観は、そのことを静かに、しかし力強く示しています。
松浦弥太郎さんのご著書については、こちら「松浦弥太郎『いちからはじめる』――原点に立つことで、思考のクセを手放す」もぜひご覧ください。リーダーこそ、持っていたい、「はじめてのこころ」について、深く触れることができます!!おすすめです。

まとめ
- 自分を引き受けるとは、逃げないことである――「はじめてのこころ」を持ち続け、失敗を自分のものとして正直に見つめる姿勢が、信頼されるリーダーの土台になります。
- ご機嫌は設計するもの――感謝の習慣と「減らす」という選択によって、毎日の心の基準点を整えることが、不確実な環境でも安定したリーダーシップを生み出します。
- 仕事とは、感動を与えることである――効率や規模より先に「どれだけ深く感動させられるか」を問い続けるリーダーのもとに、人と仕事は集まってきます。
実践のためのQ&A
本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
