この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】「眠れない」のは、自分に正直になれていないサインかもしれません。松浦弥太郎が自らの葛藤と習慣から導き出す、心のおだやかさを取り戻すための思考の作法です。
1.自分に正直であること:「よほどの理由」という言葉が示すように、感情や状況を肯定的に受け止める姿勢が、心の安定をつくります。
2.ルーティンという土台:毎朝・毎晩の小さな習慣が、揺れる心に一定のリズムをもたらし、自分を取り戻す基盤となります。
3.考えることから逃げない:不安やコンプレックスを避けるのではなく、自分の頭で向き合い続けることが、本当の意味でのおだやかさへの道です。
- 眠れない夜が続いているとき、あなたはどこに原因を探しますか?
- 実は、眠れないことの多くは、心の外ではなく内側に理由があります。
- なぜなら、人間は本来弱い生き物であり、傷つきやすく、壊れやすい。それは欠点ではなく、人間らしさそのものだからです。
- 本書は、エッセイスト・松浦弥太郎が自らの人生経験から紡いだ、心をおだやかに保つための44のコツを収めた一冊です。
- 本書を通じて、「自分に正直であること」と「他者に優しくあること」が実は同じ根を持つという気づきを、静かに受け取ることができます。
松浦弥太郎(まつうら やたろう)は、1965年東京生まれのエッセイスト・クリエイティブディレクターです。
高校を中退してアメリカへ渡り、ロサンゼルスとサンフランシスコでセレクトショップを経営した経験を持ちます。
帰国後は古書店「COW BOOKS」を立ち上げ、カルチャー誌『暮しの手帖』の編集長を務めるなど、生活文化の領域で独自の視点を発信し続けてきました。
現在は料理・ライフスタイルメディア「クックパッド」などでもクリエイティブ活動を展開し、丁寧に生きることの具体を言葉で伝え続けています。
本書は2023年9月に小学館より刊行され、「読んでから夜が怖くなくなりました」という読者の声が多数寄せられたベストセラーです。
一見すると穏やかで淡々とした語り口に見えますが、読み進めるうちに、その言葉の奥には深い葛藤と、自分自身と向き合い続けてきた熱量が宿っていることに気づきます。
「よほどの理由」が心を解放する
「あんなこと言われて絶対に許せない」「なんでこんな目に遭うのか」――心の中にある怒りやざわつきに、この本は真正面から向き合います。
その処方として登場するのが、「よほどの理由」という言葉です。
あらゆる出来事には「いろいろな側面がある」という視点から、ちょっと角度を変えて見てみれば、それが自分にとっての「学び」や「新しい気づき」になりうる。この思考の作法が、眠れない夜を少しずつ変えていきます。
感情を否定しない、受け取り直す
本書で印象的なのは、怒りや悲しみを「消す」ことを目的としていない点です。
怒りを感じること自体は自然なことで、むしろ大切なのは「この怒りは一体何の役に立つのだろう?」と考えてみることだと語られます。
怒りの感情を覚えたとき、すぐに許すという心境に至るのはむずかしい。けれども、「この怒りは一体何の役に立つのだろう」と考えてみる。
怒りは「立ち位置」を保つための防衛でもあり、時に成長の燃料にもなります。問題は怒ることではなく、怒りにこだわり続けて自分を攻撃する方向へ向かうことです。
「よほどの理由」という一言で自分を納得させると、感謝する気持ちが生まれてくることがある。このプロセスこそが、心をほどく技術です。
自分に正直であることが他者への優しさになる
この本を読んで気づくのは、松浦弥太郎の言葉が「いつもそうしている人」のものではないということです。
コンプレックスについて書かれた章では、自分が高校生の頃から貧乏であること、四畳半の部屋でひとりで生きてきたことが率直に語られます。
コンプレックスをゼロにすることはできない。でも、その中にプラスのエネルギーとして頑張ってきたことがある。そこに気づくことが、自己否定のループを断ち切るきっかけになります。
「いくつかあるはずです。そんなコンプレックスの中にも、自分の至らなさからくる感情を、エネルギーとして頑張ってきたことがあり、今思い返すと、感謝の気持ちになれることが必ずある
自分のコンプレックスに正直でいられるとき、人は他者のそれにも静かに寄り添えるようになります。自分に厳しいあまり周囲にも厳しくなる、という構造が逆転する瞬間です。
これは組織においても同じで、リーダーが自らの弱さや葛藤に正直でいられるとき、チームの心理的安全性は自然と高まっていきます。弱さを「開示するもの」として扱えるかどうか、それが関係性の質を決定的に変えます。
ルーティンは心の骨格をつくる
睡眠の質が上がらない人の多くが、一日のリズムを持っていません。
本書が提案する「ルーティンをつくろう」という章は、単なる「習慣化のすすめ」ではありません。それは、揺れやすい心に「骨格」を与えることです。
松浦弥太郎自身、毎朝5時に起きて、朝食のあとに1時間のマラソン、午前中はデスクワーク、午後1時にランチ、午後に打ち合わせ、夕方5時に夕食、夜1時間のウォーキング、読書を経て10時に就寝という一日を丁寧に刻んでいます。
「つまらない毎日」こそ豊かさの証拠
若いころの松浦弥太郎は、毎日が刺激に満ちていないと感じると「退屈だ」「つまらない」という言葉が浮かんでいたと打ち明けます。
しかし大人になってから気づいたこと――変わらない毎日こそが、心に余裕を生んでいる証拠だということです。
毎日同じことをしているから、安定した状態で仕事をし、人間関係や暮らしにはしあわせを感じられる。ルーティンは単調さではなく、「安心という豊かさ」です。
朝の習慣が一日の質を決める
特に大切なのは、眠る前の習慣だけでなく、朝の習慣です。朝、自分がリラックスしている状態を保てれば、その日一日は落ち着いて過ごせます。
起きた直後に何かに追われることなく、静かに朝を迎えられる環境をつくること。それだけで、夜の眠りの質は変わります。
組織という文脈で読み直すと、この「ルーティン」は個人の話にとどまりません。
チームや組織においても、繰り返されるリズム――週次の対話、定点での振り返り、一貫した判断基準――こそが、変化の激しい環境においてメンバーの心理的安定の基盤になります。戦略よりも先に、リズムをつくること。本書はそのことを静かに教えてくれます。
考えることは、自分の頭で生きること
最後に、この本でもっとも深く刺さった章があります。「考えることから逃げない」という言葉です。
不安になると、人はスマホで何かを調べたり、他人やテクノロジーに依存して思考停止に陥りがちです。しかし、それは考えているのではなく、「情報収集」をしているだけです。
「自分で考える」とはどういうことか
考えるということは、今自分の目の前にある問いを、自分の頭でじっくりと向き合うことです。
答えは一つではないし、そもそも「正しい答え」を見つけることが目的ではありません。答えを見つけることよりも、「さまざまな側面から考えてみること」そのものに、自分自身が向かうべき道が見つかっていくと本書は語ります。
「この試練が自分に与えられているのは、大変だけど、この先に未来がある、これはありがたい学びなんだ」
こういう習慣を持つことで、状況が深刻になっていく前に、自分自身を取り戻すことができます。
読書という行為が考える力を育てる
本書の終盤、「読書を忘れない」という章が心に残ります。
インターネットは情報を「面」として与えてくれますが、本は「線」として深く連なります。一冊の専門書を書くには、膨大な参考文献が脈々とつながっており、その結晶として書かれたものを読むことで、知性は本の中に育まれていきます。
本を読むという時間は、考えることの「素地」を育てる時間です。眠れない夜にそれを積み重ねることで、心の経験は確実に豊かになっていきます。
リーダーシップの観点から言えば、考えることから逃げないということは、問題の構造を直視する誠実さでもあります。現象に飛びついて解決策を探すのではなく、「なぜそうなっているのか」を自分の頭で問い続けること。思考の主体性こそが、組織の判断の質を決定する根本にあると思います。
読書については、こちらの1冊「」もぜひご覧ください。日々の読書習慣は、私たちに思考の骨格を磨く機会を提供居してくれますね。
まとめ
- 「よほどの理由」が心を解放する――怒りやコンプレックスを消そうとするのではなく、角度を変えて受け取り直すことで、心はおだやかさを取り戻します。自分に正直であることが、他者への優しさと根本をともにしているとも気づかせてくれます。
- ルーティンは心の骨格をつくる――変わらない毎日は退屈ではなく、心の安定を支える基盤です。個人だけでなく、組織においても繰り返されるリズムが、人の心理的安全性を守る土台になります。
- 考えることは、自分の頭で生きること――情報に流されず、自分の問いと向き合い続けること。読書という習慣はその力を育て、心の経験を豊かにしていきます。
実践のためのQ&A
本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
