ないのではない!!捉え方!!『限られた条件で勝ち続ける!「地方ビジネス」成功のルール』木下秀鷹

『限られた条件で勝ち続ける!「地方ビジネス」成功のルール』木下秀鷹の書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】「ないない尽くし」の離島で年商を伸ばした経営者が明かす、地方ビジネスの逆転発想と組織づくりの実践論。制約を強みに変える思考法と、理念を評価制度に落とし込む具体的な方法を学べます。
 
1.制約の逆転:「ないない尽くし」の地方だからこそ生まれる希少性と個性の活かし方
2.MVVの実装:理念を人事評価制度と対話に落とし込み、現場の行動に変える仕組みづくり
3.仲間とともにある経営:ビジョン共感型採用と連携で、孤独な経営者が組織をつくる方法

  • 「この地域では無理だ」と思ったことはありますか?
  • 実は、その「無理」のほとんどは都市の論理で地方を測ることから来てるんです。
  • なぜなら、地方には地方の文法があって、「ないない尽くし」という制約こそが、他にはない強みの源泉になり得るからです。
  • 本書は、東京から1100㎞離れた長崎・五島列島に移住し、さつまいも加工食品を手がける『ごと株式会社』の社長として経営を立て直した木下秀鷹さんが、地方ビジネスで勝ち続けるための思考法と実践論をまとめた一冊です。
  • 本書を通じて、制約を逆手にとる発想法、理念を制度と対話に落とし込む組織づくり、そして「仲間とともにある経営」の実像が見えてきます。

木下秀鷹(きのした・ひでたか)さんは、オリコン社やオールアバウト社などのメディア企業で営業・通販・広報・事業立ち上げを経験した後、34歳のときに縁あって長崎県五島列島・福江島に移住。

さつまいもを中心とした食品製造・販売企業『ごと株式会社』を引き継ぎ、経営企画室長として入社した1年後に社長に就任しました。

経営の現場で必要に迫られながら、専門職大学院で技術経営修士(MOT)を修了し、中小企業診断士の資格も取得。現在は地方ビジネスの経営者・支援者として活動しています。

「ないない尽くし」が強みになる逆転の発想

地方ビジネスを語るとき、「ハンデがある」という前提から入りがちです。人口が少ない、交通が不便、情報が届きにくい、優秀な人材が集まらない——そういう話は、地方の経営者なら誰でも身に覚えがあるはずです。

でも本書が示しているのは、その前提そのものを問い直すことの大切さです。

木下さんが移住した五島列島は、離島の中でも特に「ないない尽くし」の環境でした。東京から直線距離で約1100㎞。大消費地からは遠く、物流コストもかかる。地元で採用できる人材も限られている。SWOT分析をすれば、弱みと脅威の欄がすぐに埋まってしまうような場所です。

それでも木下さんはそこで経営を続け、事業を成長させてきました。その根底にある発想が、「弱みと脅威を別の角度から見ると、強みと機会になる」というものです。

本書にはこんな言葉があります。

「都会には ない もの 」 、 「 ここ にしか ない もの 」 に フォーカス し 、 上手 に 活かせ ば 、 逆 に 個性 や 希少 性 が 際立ち ます 。

これは単なるポジティブ思考ではありません。「島の伝統原材料×島への想い=消費者の心をつかむ商品」という公式に象徴されるように、希少性と物語を掛け合わせることで、都市の競合にはできない価値を生み出すという戦略的な発想です。

木下さんが五島列島に移住する決め手になったのは、現地の冷凍焼き芋『ごと芋』を東京で口にしたときの衝撃でした。「こんなにも甘くておいしいさつまいもが、この世にあるのか!?」という驚き。その確信が、すべての出発点でした。

素材の力を信じること。そして、その素材が持つストーリー——どこで、誰が、どんな想いで作っているか——を丁寧に伝えていくこと。これは、資本や規模では太刀打ちできない差別化の軸です。(何事もそうなのかもしれませんよね・・!)

地方にいるからこそできることがある。都市の文法で勝とうとするのではなく、ここにしかない文法で市場をつくっていく。その姿勢が、木下さんの経営の根幹にあります。

中小企業の経営支援に携わっていると、「うちには強みがない」とおっしゃる経営者に出会うことが少なくありません。でも多くの場合、それは強みがないのではなく、強みの見つけ方がわからないか、強みを強みとして認識できていないだけだと感じます。本書はその「見つけ方」の視点を、実体験を通じて教えてくれます。

MVVを「制度」と「対話」に落とし込む

理念(Mission・Vision・Values)を掲げている会社は多い。でも、それが本当に現場の行動に落ちている会社は、驚くほど少ないんです。

木下さんが『ごと』の社長になったとき、前任の社長がカリスマ型のリーダーで、阿吽の呼吸で組織が動いていました。それはそれで機能していた部分もある。でも同時に、役割や権限、評価基準が文書として明確になっていなかったために、責任感が育ちにくく、モチベーションも上げづらいという課題があったと言います。

つまり、「いい雰囲気」はあるけれど、「いい仕組み」がなかった。

そこで木下さんが取り組んだのが、理念を人事評価制度に落とし込むことです。

評価制度を「ミッション(個人別目標)」と「コンピテンシー(行動特性)」の2つに分けて設計しました。

ミッションシートでは、各メンバーごとに個人目標を設定し、「100%達成とはどの状態か」をあらかじめ明確にします。
さらに複数の目標に比重を設定し、重要なミッションを達成した場合には、傾斜配点で総合点に大きく寄与される仕組みにした。重要なのは、上司の評価点だけでなく、自己評価とコメント、上長評価とコメントを並べて記入する形式にしたことです。これによって、成果に対する認識のズレを、対話を通じて丁寧にすり合わせられるようになりました。

一方のコンピテンシーシートは、成果そのものではなく、理念に沿った日々の行動や姿勢を評価対象にするものです。
これが重要で、「成果だけを評価する」制度では、どうしても短期的な数字に目が向きがちになる。
でも、理念に沿った行動を評価に組み込むことで、「どう働くか」そのものが問われる文化をつくっていけます。

本書にはこんな言葉があります。

理念 や ビジョン も 同じ です 。 掲げる こと 自体 が 目的 に なる のでは なく 、 日々 の 判断 や 行動 の 拠り所 として 、 現場 で 使わ れ 続け て いる か どう かが 何より 重要 です 。

これは、理念を「飾り」にしないための核心的な指摘だと思います。理念を「壁に貼るもの」から「現場で使うもの」に変えるためには、評価制度や目標設定、上司との対話といった具体的な仕組みに落とし込むしかない。

さらに木下さんが大切にしたのが、制度と並行して行う「対話の場づくり」です。

年に一度、役員とメンバーが日々の業務や今後のキャリアパスについて話し合う時間を設けました。この対話を通じて、役割や成長課題が共有され、個人の目標と会社の方向性が少しずつ重なっていく。その積み重ねが、主体的に動く人を増やし、組織全体の一体感につながったといいます。

制度は「骨格」で、対話は「血流」。

どちらが欠けても、理念は組織に宿らない。木下さんの実践はそれを証明しています。

人事評価制度の設計というと、難しく聞こえます。でも本書が示しているのは、むしろシンプルな原則です。「何を評価するか」を明確にして、「それをきちんと対話する場をつくる」。それだけで、組織の空気は変わり始めます。

仲間とともにある経営——孤独な意思決定者の戦い方

木下さんは本書の中で、経営者の孤独についても率直に語っています。

そもそも 経営者 とは 、 意思 決定 の 最終 責任 を 一人 で 背負う 、 孤独 な 存在 です 。

これは、大企業の経営者でも感じることかもしれない。でも、地方の中小企業の経営者はその孤独をより強く感じやすい環境に置かれています。大消費地から物理的にも心理的にも距離があり、販路開拓や情報収集において不利になりがちだからです。

だからこそ「仲間とともにある」ことが、地方経営者にとって死活問題になる。一人で考え、一人で決断する場面を少しでも減らすために、仕組みとして「仲間」をつくっていく必要があるんです。

木下さんが実践した人材の採用・定着へのアプローチは3つです。

1つ目が、ビジョン共感型採用。SNSやYouTubeで積極的に会社の取り組みと「中の人」を紹介し、会社のビジョンや社員の人柄に共感してもらうことで、地域内外からの応募者を集める。給与・福利厚生を地域内で高水準に保ちながら、「田舎暮らしへの憧れ」ではなく「この会社で一緒に働きたい」と思って入社してもらうことを重視しました。

これは、採用の軸を「スペック」から「共鳴」に移す発想です。どんなに優秀でも、ビジョンに共感していない人が入ってくると、組織の文化が希薄になっていく。逆に、多少経験が浅くても、「なぜここで働くのか」が腹に落ちている人は、壁にぶつかっても踏ん張れます。

2つ目が、他の地方企業との連携です。単独では人材確保が難しい離島でも、「同じ志」を持つ事業者同士が組むことでスケールメリットを生み出せる。これは、自社だけで資源を完結させようとしない、開かれた経営の姿勢です。

3つ目が、人事制度の整備による離職率の低減。前のセクションで詳しく触れましたが、やりがいを持って仕事ができるように設計された評価制度が、定着に直結します。

この3つのアプローチに共通しているのは、「仲間を選ぶ」と同時に「仲間に選ばれる会社をつくる」という双方向の視点です。

経営者が孤独なのは、最終的な意思決定を一人で背負うからです。でもその孤独は、信頼できる仲間がいることで質が変わる。一人で重さを受け止めることには変わりないけれど、「誰かとともにある」という感覚が、経営者の踏ん張りを支えます。

人はひとりでは仕事ができない——これは木下さんの経営の根本にある信念だと思います。だからこそ仲間をつくることに、これだけ丁寧に向き合ってきた。その実践の記録が本書には詰まっています。

チームの重要性については、こちらの1冊「ポジで行こう!?『チームは未来志向の対話でうまくいく』ジャッキー・スタブロス,シェリ・トレス」もぜひご覧ください。

まとめ

  • 「ないない尽くし」が強みになる逆転の発想――地方・離島という制約は、「都会にはないもの」という希少性と物語に変換できます。都市の文法ではなく、ここにしかない文法で市場をつくることが、地方ビジネスの本質的な競争力になります。
  • MVVを「制度」と「対話」に落とし込む――理念は掲げるだけでは機能しません。ミッションシートとコンピテンシーシートで評価を設計し、対話の場をつくることで、理念は現場の行動に宿り始めます。
  • 仲間とともにある経営――孤独な意思決定者である経営者が踏ん張り続けるためには、ビジョン共感型採用・他社との連携・人事制度の三位一体で「仲間とともにある」組織をつくることが不可欠です。

実践のためのQ&A

本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。

理念を人事評価に落とし込むとき、最初に何から手をつければいいですか?

まず「評価の目的」を明確にすることから始めるといいと思います。「評価のための評価」ではなく、メンバーの成長とモチベーションを高めるために評価があるという前提を経営者自身が持つこと。

そのうえで、ミッション(個人目標)とコンピテンシー(理念に沿った行動)を分けて設計し、半期ごとに見直す運用から始めると現実的です。

地方・中小企業がビジョン共感型採用を実践するには、何が必要ですか?

SNSやYouTubeで「会社の取り組み」と「中の人の顔」を継続的に発信することが出発点です。採用候補者が「どんな人たちと働くのか」をイメージできる情報を積み重ねていく。それと並行して、給与・福利厚生を地域内で相対的に高水準に保つことも重要です。「憧れ」ではなく「就職先として選ばれる」ための地道な環境整備が、ビジョン共感型採用の土台になります。

経営者の孤独を和らげるために、具体的にどんな取り組みが有効ですか?

社内では、役員とメンバーが定期的に対話する場をつくることが有効です。また社外では、同じ志を持つ他の地方企業との連携や情報交換が、孤独感を和らげる大きな力になります。

「一人で決断する」という本質は変わりませんが、信頼できる仲間がいることで、その重さの質が変わっていきます。

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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