経営は、自然に習え!?『リジェネラティブデザイン』greenz.jp

『リジェネラティブデザイン』greenz.jpの書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】経営とは、自然のエコシステムと同じく、循環の中に位置づけられるものです。greenz.jpが探究した7つのデザインコードは、「すこやかさ」を取り戻す経営の本質的指針を示しています。
 
1.見えない資源への眼差し:土壌の微生物のように、数字に現れない関係性・文化・信頼が経営の土台をつくる
2.すでにある資源の再発見:外部調達より先に、組織や地域の中の無形の資産に気づき、循環させる
3.内なる自然を持つリーダーシップ:矛盾を抱えながらも問い続ける姿勢が、リジェネラティブな経営者の倫理観を育てる

  • 経営者は、いつから「効率」と「成長」だけを羅針盤にするようになったのでしょう?
  • 実は、その問いへの答えが、意外なところから届いています。
  • なぜなら、土を耕さず、草を生やしたままにする農法が、収量を上げながら環境を再生するという事実が、経営の本質を照らし返しているからです。
  • 本書は、Webマガジン「greenz.jp」の連載「リジェネラティブデザイン」をまとめた一冊。人と社会と環境に「すこやかさ」を取り戻す仕組みを、7つのデザインコードと豊富な実践事例で探究しています。
  • 本書を通じて、経営を自然のエコシステムの循環の中に位置づけ直す、新しいビジョンの地図が手に入ります。

本書は、greenz.jp編集部による共同著作です。

greenz.jpは、「いかしあうつながりがあふれる社会」をビジョンに掲げ、2006年の創刊以来、サステナビリティやソーシャルデザインの最前線を伝え続けてきたWebマガジンです。

本書の編集長・増村江利子氏をはじめ、土壌生態学者の金子信博氏、環境活動家の坂田昌子氏ら多彩な実践者との対話を通じて、リジェネラティブデザインという概念を日本の文脈で丁寧に紡いできました。英治出版より2026年5月刊行。

見えないものが経営を支えている

土壌の中に、ミミズや微生物が棲んでいます。

その小さな生きものたちが、根の張りを助け、水を蓄え、栄養を循環させています。地上から見れば、ただの「土」にしか見えない。けれど、その見えない営みなくして、豊かな実りはありえません。

土壌生態学者・金子信博さんが辿りついた「不耕起草生栽培」は、この事実を農業の現場で証明しています。耕さず、草を生やしたまま。一見すると手抜きに見えるこの農法が、土壌の微生物を豊かにし、炭素を固定し、農薬コストをゼロにしながら、収量まで上げてしまうんです。

「不耕起草生栽培の一番のポイントは、〝味〟だと思います。美味しさで惹きつけることほど強力なものはありません」

この言葉を経営に重ねたとき、深く響くものがあります。

経営の現場でも、同じ構造が働いていると思います。数字に現れない部分——チームの信頼関係、地域との長年のつながり、組織の中に根づいた暗黙知、顧客との間に育まれた物語。これらは、バランスシートのどこにも登場しません。けれど、その見えない土壌が豊かかどうかが、経営の実りを決定的に左右しています。

本書が提示するデザインコード「#01 見えないものに目を向ける」は、このことを正面から問いかけています。

地上の樹木だけでなく、土壌、根っこ、地下水、あるいはそうしたものがどこから来て、どこへ行くのかというライフサイクル全体など、目には見えない本質的なシステムと、その健全性に意識を向けます。

KPIを眺めているだけでは、経営の土壌は見えません。数字は「地上の樹木」にすぎず、本当に問われるべきは、その根がどこまで張っているか、土壌がどれだけ豊かかということです。

しかもこれは、単に「人間関係を大切に」という精神論ではありません。生態系が教えてくれるのは、見えないところへの眼差しが、結果として最も確かな実りをもたらすという、再現性のある原理です。

シアノバクテリアという微小な藻の仲間が、光合成によって酸素を排出し、オゾン層をつくり、やがて多様な生命が生きられる地球を形成しました。最初の陸上植物である苔が菌と共生し、土壌を生み出した。生命の歴史そのものが、見えない関係性の積み重ねでできています。

経営においても、この視点の転換は本質的な問いを生みます。

あなたの組織の「土壌」は、今どんな状態にありますか?
微生物が棲めるほど豊かですか?
それとも、過度な耕作で痩せ細っていませんか?

デザインコード「#02 多様な関係性をつくる」も、この問いと深く結びついています。

人と自然環境、人と社会、さらには異文化や異分野の知恵といった、あらゆる要素との健全な相互作用とネットワークを構築し、システム全体の再生力(レジリエンス)を高めます。

多様な関係性こそが、システムのレジリエンスをつくります。単一の作物だけを育てた畑は、病気や気候変動に脆弱です。同じように、同質な人材・同質な顧客・同質な価値観だけで構成された組織は、変化の波にもろくなります。

見えないものに目を向けるとは、効率性の論理を手放すことではありません。むしろ、長い時間軸で見たときの本当の効率を、取り戻すことです。

見えないものについては、わたしも最近連載をスタートさせています。ぜひご覧ください。こちら「どこかに「正解」を探していた頃。——「見えないものを読む経営」第1話」からどうぞ!!

「すでにある資源」を再発見する経営

多くの経営者が、新しいものを求めます。

新しいテクノロジー、新しい市場、新しい人材。「今ここにあるもの」より「まだないもの」に価値があると、無意識のうちに思い込んでいないでしょうか。

本書のデザインコード「#03 すでにある資源をいかす」は、この発想を根本から問い直します。

外部から資源を持ち込むことを極力避け、地域内の自然資源、そこに根づいた文化や精神性といった無形の資産、そして放置された未利用資源を再評価し、循環させます。

このコードには、5つのサブコードがあります。

  • 「当たり前の価値を再発見する」
  • 「無形の資産に着目する」
  • 「地域資源を活用する」
  • 「視点を転換する」
  • 「複合的に組み合わせる」

これらを並べてみると、共通するメッセージが浮かびます。

「あなたの経営の中に、まだ気づかれていない価値が眠っている」

中小企業の経営者と対話していると、このことを強く感じる場面があります。長年続けてきた技術を「当たり前」と思い、外部の新技術を探している。地域との深いつながりを「昔からそうだから」と軽く見て、大手のマーケティング手法を真似ようとしている。自社のスタッフが持つ独自の知恵を「うちはそんな大したものじゃない」と見くびっている。

しかしその「当たり前」こそが、他には真似できない土壌なんです。

土壌の比喩で言えば、外から肥料を持ち込み続けることは、一時的に収量を上げるかもしれません。けれど長期的には、土壌の自律的な再生力を損ないます。持ち込んだ肥料がなければ育たない、依存した農地ができあがってしまいます。

経営でも、外部調達に頼り続ける組織は、内側に資源を育てる力を失っていきます。

一方で「すでにある資源をいかす」視点を持った組織は、外部環境が変化しても、内側から再生する力を持っています。地域に根づいた文化的資本、長年の顧客との物語、スタッフが体に覚えた技術と哲学。これらは、お金で買えないし、一朝一夕では育ちません。

パタゴニアプロビジョンズの事例が、本書の中でも印象的です。同社は「より良い選択」と「透明性」という哲学を食の分野へ展開し、土壌の回復力そのものを高める「リジェネラティブ・オーガニック農法」を推進しました。重要なのは、彼らが外から新しいものを取り込んだのではなく、自分たちがすでに持っている哲学と姿勢を、新しいフィールドで深化させたという点です。

「地球が私たちの唯一の株主」と宣言し、2022年には、同社の議決権付き株式の100パーセントをパタゴニア・パーパス・トラストに、無議決権株式の100パーセントを環境危機と闘う非営利団体Holdfast Collectiveに譲渡した

これは、「すでにある資源をいかす」の究極の形かもしれません。すでに持っている価値観と意志を、組織の構造そのものに刻み込む。

中小企業でも、同じ発想はできます。規模の大小ではなく、「自分たちが何者か」という問いへの深さが、リジェネラティブな経営の鍵です。

「視点を転換する」というサブコードは、特に示唆深いです。

廃棄物を資源と見る、弱点を個性と見る、遠回りを蓄積と見る。視点が変わると、すでにある資源の見え方が変わります。

そして見え方が変わると、経営のストーリーが変わります。

「内なる自然」を持つリーダーシップ

本書の終章には、環境活動家・坂田昌子さんとの対話が収められています。

この章を読んで、リーダーシップについての考えが変わりました。

坂田さんは「内なる自然」という言葉を使います。

「内なる自然」とは、外的な自然と関わることを通して享受する、道徳や精神性のことでした。山や海との暮らしから生まれる倫理観が、生活者の規範となる。人類がまぎれもなく、生態系の中で生かされる動植物の一種であることを実感します。

かつて、自然は人間と対立するものではありませんでした。山や海との暮らしの中で、「無闇な殺生はしない」「自分たちだけが根こそぎ奪わない」という倫理観が、自然と醸成されていた。それが「内なる自然」です。

この言葉は、経営者論として読んだとき、強烈な問いを投げかけます。

あなたは、経営者として「内なる自然」を持っていますか?

効率を追い求め、数字を最大化し、競合に勝つことだけを考えている経営は、外なる自然を収奪するだけの近代農業と、構造が同じです。一時的な収量は上がるかもしれない。しかし土壌は痩せ、やがて何も育たなくなります。

坂田さんの言葉で、最も心に残るのはここです。

この地球で、食事して排泄して生きている以上、自然に対して影響を与えない人なんていないんです。誰も完全に無罪ではいられない。それなのに、まるで自分だけが自然に対して無罪かのように生きるなんて。そんな自己満足は、意味がないと思います。

これを経営に置き換えると、こうなります。

ビジネスを営む以上、社会に対して影響を与えない経営者はいません。誰も完全に無罪ではいられない。それを知りながら、「うちは小さい会社だから関係ない」「自分さえよければいい」という態度で経営することは、内なる自然を失った姿です。

しかし坂田さんは、完璧であれとは言っていません。

だから私たちも、飛行機に乗ったり圏央道を使ったりする現実と、本来の自分が願う社会像の狭間で揺れ動かないといけない。そうしなければ、どうしたらいいのかわかるはずがない。

矛盾を抱えて、揺れ動くこと。これがリジェネラティブなリーダーの姿だと思います。

利益と倫理の間で、効率と関係性の間で、短期と長期の間で。その矛盾から目を逸らさず、「現状に対してちゃんと悩むこと」。

現状に対してちゃんと悩むこと。そのためにも、内なる自然をちゃんと宿すこと。内と外のつながりを断ち切ったり、内なる声を抑え込んだりしない。それこそが、人間の役目。

「人間の役目」という言葉が、重く響きます。

経営者は、効率のために内なる声を抑え込むことを覚えていきます。感情より数字、倫理より利益、長期より短期。その積み重ねが、組織の土壌を痩せさせていく。

リジェネラティブデザインが提示するのは、この流れへの根本的なオルタナティブです。

経営を、循環の中に位置づけること。

リジェネラティブデザインとは、この水との、生命とのかかわりを再構築する試みである。もう一度、清らかな水の源流に立ち返ること。現代の知恵と、いにしえの人がもっていた生命への畏敬の念とを重ね合わせ、自らの「生きる」ことを、この島の脈々たる循環の中に位置づけること。

「生きる」ことを循環の中に位置づける。これは、経営を「稼ぐ機械」として捉える視点からの、根本的な転換です。

経営は、生態系の一部です。土壌を枯渇させながら収穫し続けることはできない。いかに豊かな土壌をつくり、その循環の中で実りを得るか。リジェネラティブデザインの問いは、最終的にそこへ戻ってきます。

内なる自然を持つリーダーとは、この問いを手放さない人のことだと思います。

まとめ

  • 見えないものが経営を支えている――土壌の微生物が農地を再生するように、数字に現れない信頼・文化・関係性こそが経営の土台をつくります。見えないシステムの健全性に意識を向けることが、長期的な実りへの確かな道です。
  • 「すでにある資源」を再発見する経営――外部調達より先に、組織や地域の中に眠る無形の資産に気づくこと。当たり前と思っていた技術・物語・つながりが、他には真似できない経営の土壌です。視点を変えると、すでにある資源の見え方が変わります。
  • 「内なる自然」を持つリーダーシップ――矛盾を抱えながらも「現状に対してちゃんと悩む」こと。内なる声を抑え込まず、倫理観と現実の狭間で揺れ動き続けることが、リジェネラティブな経営者の本質です。

実践のためのQ&A

本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。

リジェネラティブデザインは、中小企業でも実践できますか?

むしろ中小企業こそ、実践しやすい立場にあります。地域との深いつながり、顔の見える顧客関係、スタッフ一人ひとりの個性——これらはすべて「すでにある資源」です。大企業のように外部調達に頼らずとも、足元にある無形の資産を再発見することから始められます。规模の大小ではなく、「自分たちが何者か」という問いへの真剣さが、実践の深さを決めます。

「内なる自然」を持つとは、具体的にどういうことですか?

自分の経営が社会や環境に与える影響から目を逸らさず、「現状に対してちゃんと悩む」姿勢を持ち続けることです。完璧である必要はありません。利益と倫理、効率と関係性の矛盾を抱えながら揺れ動くこと——その誠実な葛藤こそが、内なる自然を育てます。答えが出なくても、問い続けることをやめないことが大切です。

「続くための仕組み」をつくるには、何から始めればいいですか?

本書が示す5つのサブコードの最初は「問題意識の種をまく」ことです。まず、自分が経営を通じて本当に解きたい問いを言語化してみましょう。次に「語れるストーリーを磨く」——数字ではなく意味と物語で、共感してくれる仲間を集めることが、持続可能な経営の土台をつくります。

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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