地方に眠る資源を仕組みで発掘し、循環の中に取り入れる!?『稼ぐ地方』近藤繁

『稼ぐ地方』近藤繁の書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】地方衰退の根因は努力不足ではなく、中央集権モデルの構造的限界です。テクノロジーは今、その構造を根底から書き換える力を持っています。
 
1.構造問題の直視:人口流出・後継者不在・DX遅延は、個別の努力ではなく「仕組みの再設計」によってのみ解決できる
2.テック×地域資源の掛け算:守りのDXで生産性を上げ、攻めのDXで地域の強みを全国・世界の市場へ接続する
3.「らしさ」の経済化:人口増加ではなく地域固有の価値を磨き、それを経済循環の中に組み込む視点を持つ

  • 地方に住む経営者は、なぜこんなにも頑張っているのに報われないのでしょう。
  • 実は、その問いの立て方自体を変える必要があります。
  • なぜなら、地方の衰退は個人の努力不足ではなく、長年積み重なった「仕組みの構造的限界」から来ているからです。
  • 本書は、株式会社ココペリ代表の近藤繁さんが、テクノロジーの力で地方中小企業の可能性を解き放つための実践的視点を提示した一冊です。
  • 本書を通じて、地域資源をデジタルネットワークで経済循環に接続し、地方が「自ら再設計できる時代」を生き抜く思考軸が手に入ります。

近藤繁さんは1978年生まれ、愛知県春日井市出身。慶應義塾大学理工学部情報工学科を卒業後、みずほ銀行で中小企業向け融資業務に従事しました。

ITベンチャーを経て2007年に株式会社ココペリを設立。2018年には中小企業向け経営支援プラットフォーム「Big Advance」をリリースし、全国の金融機関と連携しながら中小企業の成長支援を続けています。2020年12月に東証マザーズへ上場。銀行員としてのリアルな現場経験と、テクノロジーの実装力を持つ稀有な経営者です。

地方衰退の本質は「仕組みの問題」だった

「地方が元気を失ったのは、地方の人たちの努力が足りないからだ」――そんな言葉を聞いたことはないでしょうか。でも、本書を読み進めるとすぐにわかります。それは違う、と。

現在、日本の人口の約3割が東京圏に集中し、全国市町村の約5割が過疎地域に指定されています。中小企業の約5割が後継者不在のまま事業を続け、基幹的農業従事者の平均年齢は68歳を超えている。この数字が示すのは、個人の頑張りの問題ではなく、中央集権的な構造の限界です。

地方の衰退は、「努力不足」などではなく、「仕組みの問題」なのです。

この一文が、本書全体の出発点です。

地方では進学・就職期の若い世代がごっそりと三大都市圏に流出しています。茨城・奈良・佐賀の3県では、若者流出率が80%を超えるというデータもあります。そしてその流出が、地域の労働力を奪い、賃金水準を下げ、さらに若者が去るという「負のスパイラル」を生んでいる。

しかも、地方の中小企業はDXへの投資が遅れがちで、生産性の低迷が競争力の低下につながる。民間経済の「稼ぐ力」が弱いまま国の財政に依存する構造が続いています。これは、誰かが悪いというより、長年かけて積み上げられた仕組みの問題です。

中小企業診断士として地方の中小企業と向き合うとき、わたしはこの構造をよく実感します。経営者は真剣に考えているし、従業員も頑張っている。でも、「何かが噛み合わない」感覚がある。本書が整理してくれるのは、その「噛み合わない」の正体です。

課題は6つに整理されています。①販路開拓、②商品開発・新規事業、③情報発信、④人材不足、⑤DX・AIへの対応、⑥後継ぎ問題。どれも「ちょっと頑張ればすぐ解決する」ような話ではありません。だからこそ、構造ごと見直す視点が必要なんです。

かつて地方の藩は、自らの資源と知恵で地域を豊かにしていました。江戸時代の北前船のように、地域の産品が経済圏を形成していた時代があった。本書はその歴史的事実を踏まえながら、「再び地方の時代が来る」という確信をもって書かれています。

地方は「決められる側」から、再び「自ら決める側」へ。その転換に必要なのは、気合いではなくテクノロジーです。

テックが距離の呪縛を解く

地方中小企業が抱える最大の制約のひとつが「距離」です。都市部の大企業に比べて、顧客が少ない。情報が届かない。人材が集まらない。でも今、テクノロジーはその制約をことごとく取り払いつつあります。

インターネット、AI、電子商取引――。テクノロジーの進化は距離の制約を取り払い、地方と世界を直接つなげます。

町工場がオンラインで海外企業と取引し、農家が都市の消費者と直接つながり、職人がSNSを通じて全国の顧客を得る。本書が描くこの風景は、すでに各地で現実になっています。

本書はDXを「守り」と「攻め」の2つに分けて整理しています。

守りのDXとは、社内の業務プロセスを見直してコストや時間を削減すること。電話・メールからコミュニケーションツールへの移行、勤怠管理や請求書発行のデジタル化がその例です。これだけでも、人手不足が深刻な地方の中小企業にとって大きな効果があります。

一方、攻めのDXは、売上や利益を直接生み出すための取り組みです。これまで地元の顧客だけに商品を届けていた会社が、ホームページで自社の魅力を発信し、オンライン商談会で全国の企業と接点を持ち、販路を広げていく。自社商品やサービスそのものにデジタルを組み込むことも選択肢になります。

ここで大切なのは、この2つをセットで考えることです。守りだけでは「効率化」に終わる。攻めだけでは「基盤なき拡張」になる。業務プロセスを整えながら、外への展開に投資する。この両輪が地方中小企業の競争力を根本から変えます。

伴走支援の現場でも、DXへの取り組み方に二極化が見えます。「うちにはまだ早い」と言いながら先送りする経営者と、小さくてもやってみる経営者。その差は、数年後に大きな格差になって現れます。テクノロジーは「大企業だけのもの」ではなくなっています。むしろ、小さい会社ほど導入のコストが低く、変化の速度も速い。そこに地方中小企業の勝機があると思っています。

商談においても、テクノロジーと同じ発想が応用できます。本書は「仮説が対話のきっかけをつくる」と言います。

対話の深度は、仮説の深度で決まります。

相手が課題を言語化できていないとき、「これが必要か?」という二択の問いでは対話が広がりません。「御社の課題を一緒に考えましょう」という姿勢で掘り下げてこそ、本当の課題が見えてくる。DXの文脈でも、ただツールを提案するのではなく、「その企業がどんな価値を出したいのか」という仮説を持って接することが、支援の深さを決めます。

距離の呪縛が解けた今、問われているのは「つながる意志」と「仮説の力」です。

「らしさ」を武器に、地域資源を経済循環へ

人口を増やすことで地方を救おうとする発想は、長年多くの地域で取り組まれてきました。でも、本書はその前提に疑問を投げかけます。人口が増えなくても、地域は豊かになれる。必要なのは「らしさの追求」だ、と。

人口を増やすのではなく「らしさ」を追求する

「らしさ」とは何でしょう。地域固有の産品、風景、文化、歴史、人のキャラクター。それらは東京にはない希少な価値です。でも長い間、それは「地方には何もない」という自己否定の裏側に隠れていました。

所沢市のアニメ聖地活用の例が印象的です。『となりのトトロ』の舞台となった狭山丘陵、『ソードアート・オンライン』と西武鉄道所沢駅のコラボ。これは新しいものを作ったのではなく、すでにある「らしさ」を上手に情報発信した結果です。観光消費の文脈でも、訪問者数という量ではなく、体験価値という質への転換が「地方創生2.0」の軸になっています。

ブランドプロデューサーとして、わたしがいつも思うことがあります。「人は戦略ではなく意味や物語によって動く」。これは地域でも同じです。数字や機能ではなく、「なぜここでなければならないのか」というストーリーが人を引きつける。それを言語化し、発信し、共鳴させること。それがテクノロジーとかけ合わさったとき、地域の資源は初めて経済循環の中に入れる力を持ちます。

「あなたの会社で人が働く理由は何か」という問いも、本書は立てています。採用に苦しむ地方企業の多くは、給与や待遇ばかりを競ってしまいます。でも人が動くのは条件ではなく意味です。「ここで働く意義は何か」を語れる会社は、都市部と条件が違っても人を惹きつけられる。それは採用だけでなく、顧客との関係においても同じです。

地域資源を経済循環に接続するとはどういうことか。農産物があれば、それをECで全国に届けるだけでなく、生産者のストーリーを発信し、ファンをつくり、リピーターと関係を深める。職人技があれば、動画で工程を見せ、SNSで哲学を語り、体験型のプログラムをつくる。テクノロジーはその「接続の回路」として機能します。

かつての藩は、自らの資源と知恵で地域を豊かにしていました。今はテクノロジーによって、地域が自らを「再設計」できる時代です。規模の論理で戦うのではなく、固有性の論理で輝く。それが地方中小企業の、これからの戦い方だと思います。

まとめ

  • 地方衰退の本質は「仕組みの問題」だった――人口流出・後継者不在・DX遅延は個人の努力不足ではなく構造的限界から来ています。その現実を直視することが、再設計の出発点です。
  • テックが距離の呪縛を解く――守りのDXで生産性を高め、攻めのDXで販路を広げる。仮説を持った対話がテクノロジーの活用を深め、地方中小企業の競争力を根本から変えます。
  • 「らしさ」を武器に、地域資源を経済循環へ――人口増加ではなく地域固有の価値を磨き、ストーリーで発信し、テクノロジーで接続する。その掛け算が、地域を自ら再設計できる時代を切り拓きます。

実践のためのQ&A

本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。

地方の中小企業がDXを始めるとき、何から手をつければいいですか?

まず「守りのDX」から入るのが現実的です。勤怠管理や請求書のデジタル化など、日常業務のコスト削減から始めることで、現場の負荷を下げながらデジタルへの抵抗感を薄らげます。その次に「攻めのDX」として、ホームページ整備やSNS発信で外への接点をつくる順番がスムーズです。

地域の「らしさ」を見つける方法がわかりません。どこを見ればいいですか?

「よそから来た人が驚くもの」に着目するのが近道です。地元にいると当たり前に見えているものが、外の目線では希少な価値を持っていることが多い。観光客の反応、移住者が語る魅力、地域外の取引先が褒めるポイント――そこに「らしさ」の原石があります。

人口が少なくても地域を豊かにできると言うけれど、具体的にどんなモデルがありますか?

消費単価と体験価値を高める「稼ぐ観光」がひとつの答えです。訪問者数を増やすのではなく、来た人が深く体験してお金を使う仕組みをつくる。EC販売で地域産品を全国に届けながら生産者のストーリーを発信し、ファンベースを育てるモデルも有効です。量より質、広さより深さへの転換が鍵になります。

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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