年商100億は、いかにして目指すのか!?『BtoBグロースプレイブック』大島周

『BtoBグロースプレイブック』大島周の書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】B2Bスタートアップが売上100億円を目指す道には、乗り越えるべき「壁」が連続して現れます。本書はその壁の正体を明らかにし、仮説をアップデートしながら成長し続けるための実践的な地図を提供しています。
 
1.幻のPMFを疑う:初期の成功は経営者個人の力によるものかもしれない。プロダクトの力で売れているかを常に問い直す視点を持つ
2.Go to Market戦略の設計:誰に・何を・どの順番で届けるかを明確に設計することが、キャズムを越える鍵になる
3.共創による市場開拓:アーリーアダプターと事例をともにつくり、その声を次の顧客への橋渡しにする

  • B2Bで事業を伸ばしていくのは、思っている以上に孤独な戦いです。プロダクトが売れている。顧客が増えている。数字が積み上がっている。 それでも、どこかに「このままでいいのだろうか」という感覚がつきまとう。
  • 実は、その感覚には根拠があります。
  • なぜなら、B2Bの成長には「壁」が繰り返し現れるからです。 最初のPMFを達成しても、次の市場に進むためには、また仮説を問い直さなければならない。 その繰り返しに気づけるかどうかが、売上5億円と100億円の分岐点になります。
  • 本書は、B2Bスタートアップが売上100億円を実現するための「プレイブック」です。 PMFの本質から、Go to Market戦略の設計、キャズムの越え方まで、成長の地図を丁寧に描いています。
  • 本書を通じて、仮説をアップデートし続ける経営の思考法と、顧客とともに市場を広げていく実践の輪郭が見えてくるはずです。

大島周さんは、B2Bスタートアップの成長支援を専門とするコンサルタントです。多くのスタートアップの事業開発や営業戦略に携わってきた実務経験をもとに、日本市場特有の課題と向き合いながら、成長の「型」を言語化してきました。本書はその知見を体系化した一冊で、現場で使える実践的な視点が随所に盛り込まれています。

PMFは一度ではない――仮説の更新が成長を決める

B2Bスタートアップの経営者が最初に直面する罠は、「PMFした」という思い込みです。

売上が上がり始めると、手応えを感じます。顧客から「ありがとう」の声が届き、契約が続く。 それは本物の手応えのように見えます。でも、ここに落とし穴があります。

経営者が優秀で熱心であればあるほど、思わぬ落とし穴に陥りやすくなります。それは「PMFした」という勘違いが生まれること。

売上が伸びているのは、プロダクトの力なのか、それとも経営者個人のネットワークや熱量によるものなのか。 この2つは、初期フェーズでは区別がつきにくい。

本書はこれを「幻のPMF」と呼んでいます。

PMFを見極めるための視点は3つです。 顧客が適切に利用し満足しているか売上構造が経営者依存になっていないか営業に再現性があるか。 この3点を同時に問い続けることが、「幻」を「本物」に変えていくプロセスです。

そして、本物のPMFを達成した後にも、次の壁が待っています。 それが「拡大の谷」です。

アーリーアダプター層を中心に事業が安定し、「成長している」と感じられる時期。 でも実は、この層はそれほど厚くありません。特に日本市場では、米国と比べてアーリーアダプターの絶対数が少なく、初期市場の限界が早く来ます。

日本はアーリーアダプター層が米国に比べて薄く、初期の市場が早く限界に達しやすい構造になっています。

ここで多くの経営者が犯すミスは、「初期の成功体験に引きずられ、同じ訴求価値・同じ営業手法を続けてしまう」ことです。 マジョリティ層には、アーリーアダプターとは異なる価値提案が必要です。

これが「2nd PMF」という発想です。

多くの経営者は「一度PMFしたのだから、このまま拡張すればいい」と考えがちです。

でも現実は違います。 次の市場に向けて、Who(誰に)/What(何を)/How(どうやって)を再設計する必要がある。 仮説をアップデートしながら、もう一度PMFをつくり切る。

この繰り返しに気づき、実行できる経営者だけが、売上の壁を越え続けます。

伴走支援の中でも、この「2nd PMFへの移行」が一番難しい瞬間です。 最初の成功が、次のステップへの視野を狭めてしまうことがある。 だからこそ、外から問いを立て続ける存在が必要なのかもしれません。

Go to Market戦略――誰に・何を・どの順番で届けるか

「良いプロダクトをつくれば売れる」という考え方は、B2Bではほぼ通用しません。

誰に届けるか、何を価値として伝えるか、どの順番で市場を開拓するか。 この設計なしに、成長は再現できません。

本書では、Go to Market戦略を3つの問いで整理しています。

①目標売上を達成するときの顧客構成は何か

売上100億円を実現するとき、どんな顧客が何社いるのか。 大手が少数なのか、中小が多数なのか。サブスクなのか、プロジェクト型なのか。 この「顧客ポートフォリオ」を描けるかどうかが、戦略の起点になります。

②顧客と提供価値の組み合わせは何か

同じプロダクトでも、顧客によって「刺さる価値」は違います。 コスト削減なのか、業務効率化なのか、売上向上なのか。 Who(誰に)とWhat(何を)の組み合わせを明確にすることで、初めてHow(どう届けるか)が決まります。

③どの順番で顧客開拓を行うか

これが特に重要です。

初期に開拓する顧客は、その後のブランディングに大きく影響するという点です。

最初に誰と組むかで、「このプロダクトは誰のものか」という市場認知が決まります。

Marketoがスタートアップ・オブ・ザ・イヤー受賞企業を最初の導入先にしたように、初期顧客の選定は戦略です。

freeeとマネーフォワードの事例も示唆的です。 同じSMB領域を狙いながら、freeeはウェブマーケティングで東京のITベンチャーから広げ、マネーフォワードは会計事務所をパートナーにした再販モデルで全方位展開した。

同じ市場でも、Go to Market戦略の設計次第で戦い方はまったく異なります。

初期の1年目は「都心のSMBを中心にこの単価で売上をつくる」、2年目は「エリアや業界を横展開して単価を引き上げる」、3年目は「大手企業に進出して一気にARRを伸ばす」といった具合に、Go to Marketのステップを事業計画に落とし込む必要があります。

この「ステップの設計」こそが、GTM戦略の本質です。

「価値仮説」(このプロダクトは顧客に価値を提供できているか)と「成長仮説」(どうやって顧客を増やすか)の両輪を回すこと。 どちらかだけでは、持続的な成長にはなりません。

B2Bの支援の現場でも、この「どの順番で」という問いを一緒に考えることが増えています。 最初の顧客が次の顧客を連れてくる構造をどうつくるか。 それは単なる営業の話ではなく、市場設計の話です。

事例を共につくり、仲間を広げていく

B2Bスタートアップの支援をしていて、いつも感じることがあります。

プロダクトの力だけでは、市場は開かれない。 最初の顧客と、いかに深く関わり、いかに本物の事例をつくれるか。 それが、次の市場への扉を開く鍵になります。

本書が指摘するキャズムの壁は、アーリーアダプターからアーリーマジョリティへの断絶です。

イノベーターやアーリーアダプターからアーリーマジョリティへと広がる過程には大きな断絶があります。これを、「キャズム」と呼びます。理論上は世界共通の現象ですが、日本市場ではこの壁が特に早く、厚く立ちはだかります。

この断絶を越えるために必要なのは、広告でも資金でもなく、「信頼できる事例」だと思っています。

アーリーマジョリティは、新しいものに飛びつかない。 「自分と似た誰かが、すでに使って成果を出している」という事実を求めます。 だからこそ、アーリーアダプターとの共創で生まれた事例が、キャズムを越える橋になります。

いま複数のB2Bスタートアップと伴走する中で、この「事例をともにつくる」プロセスを大切にしています。

最初の顧客は、単なる売上の数字ではありません。 その顧客と深く向き合い、プロダクトの価値を一緒に言語化し、成果を可視化する。 そのプロセス自体が、次の顧客への最も強いメッセージになります。

「誰と最初に組むか」は、市場への宣言です。

仲間を広げていくというのも、単純な紹介営業の話ではありません。 同じ課題意識を持つ経営者同士がつながり、「このプロダクトがあれば変わる」という実感を共有するコミュニティを育てていくこと。 そのプロセスに伴走者として関わることで、スタートアップの成長と市場の拡張が同時に起きる。

これは、B2Bの支援において最も手触りのある仕事のひとつです。

本書が示す成長の地図を見ながら、「仮説をアップデートし続けること」と「顧客とともに事例をつくること」は、実は同じことを指しているのだと気づきます。

仮説は、顧客との対話の中でしかアップデートできない。 事例は、その対話の積み重ねから生まれる。

顧客を知るということは、データを集めることではなく、関係を深めることです。 B2Bスタートアップが壁を越え続けるためのエネルギーは、結局そこにあると思っています。

顧客を知るという論点では、こちらの1冊「【価値はレイヤーで捉えよ!?】顧客がほしいと思う30の「価値要素」|エリック・アルムキスト,ジョン・シニア,ニコラス・ブロック,他」もご覧ください。

まとめ

  • PMFは一度ではない――「幻のPMF」という落とし穴を知り、売上構造が経営者依存になっていないか・営業に再現性があるかを問い続けることが、本物の成長の起点になります。仮説をアップデートしながら、2nd PMFへの移行を恐れないこと。
  • Go to Market戦略の設計――誰に・何を・どの順番で届けるかを明確に設計することが、再現性ある成長をつくります。初期顧客の選定はブランディングであり、GTMのステップを事業計画に落とし込む視点が競争優位につながります。
  • 事例を共につくり、仲間を広げていく――キャズムを越える鍵は、アーリーアダプターとの共創で生まれた「信頼できる事例」です。最初の顧客と深く向き合い、成果を可視化するプロセスが、次の市場への最も強いメッセージになります。

実践のためのQ&A

本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。

自社がPMFできているかどうか、どうやって判断すればいいですか?

売上が伸びていても、それが「プロダクトの力」によるものか「経営者個人の力」によるものかを区別することが第一歩です。営業に再現性があるか(自分以外のメンバーが同じように成果を出せるか)、顧客が適切に活用して満足しているかを定期的に確認しましょう。解約率だけでなく、活用率や顧客の声の質を見ることが重要です。

2nd PMFに向けて動き出すタイミングはいつですか?

アーリーアダプター層への販売が安定し始めた段階、つまり「このままでも売れそう」と感じた瞬間が、実は動き出すべきタイミングです。初期の成功体験に引きずられて同じ訴求・同じ手法を続けていると、マジョリティ層には届かなくなります。Who/What/Howを再設計する問いを、早めに経営チームで共有しておくことをおすすめします。

キャズムを越えるために最初にやるべきことは何ですか?

アーリーアダプターとの事例を丁寧につくることです。アーリーマジョリティは「自分と似た誰かが成果を出している」という事実を求めます。そのため、初期顧客と深く向き合い、成果を数字と言葉で可視化することが先決です。その事例が、次の顧客への最も信頼性の高いメッセージになります。

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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