目の前のことに全力を尽くせば、意味が見つかる!?『人生から逃げない戦い方』わび

『人生から逃げない戦い方』わびの書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】人生の戦い方は「意味を先に持つ」より「足元を照らし続ける」ことで開けてきます。元幹部自衛官が語る、逃げない生存戦略の本質です。
 
1.生きる意味は後払い:意味を先に求めず、小さな灯火を灯し続けることで軌跡が生まれる
2.兵站こそ戦略:回復・休養・環境整備を後回しにしない、持続可能な戦い方の設計
3.迂回が最速:突破より迂回、正義より共存、消耗しない人間関係と仕事術の実践

  • 経営者として、「意味」をいつ手に入れるべきか、悩んだことはないでしょうか?
  • 実は、意味は出発点ではなく、到達点なんです。
  • なぜなら、足元の一歩一歩を灯し続けることが、やがて生きた軌跡となり、意味へと転化するからです。
  • 本書は、元幹部自衛官として激務とパワハラによるメンタルダウンを経験した著者・わびが、自衛隊で培った戦略・戦術・危機管理の知見を人生に応用した、徹底的に実践的な一冊です。
  • 本書を通じて、「人生から逃げない戦い方」とは、意味を前払いで持つことではなく、回復と迂回を繰り返しながら前に進み続ける技術であることが、深く腑に落ちてきます。

著者のわびさんは、X(@Japanese_hare)で活動する危機管理の専門家です。

かつては幹部自衛官として師団司令部や方面総監部に勤務し、入隊後10年間は順風満帆なキャリアを歩んでいました。

しかし、激務とパワハラが重なり、メンタルダウン。第一線からの異動を経て、「人に認められるためではなく、もっと楽しく生きたい」という思いで転職を決意します。

現在は会社員として働きながら、畑仕事や狩猟などを楽しむ生活を送っています。その傍ら、自衛隊での経験から得たメンタルコントロール術や仕事・人間関係への向き合い方をXで発信。普通の会社員でありながら、その投稿はネットニュースにも取り上げられ、多くのフォロワーに支持されています。

2022年に刊行した『メンタルダウンで地獄を見た元エリート幹部自衛官が語るこの世を生き抜く最強の技術』に続く、本書が2冊目の著書となります。

生きる意味は後払いでいい

「死のうと思っていた」という書き出しで始まる、太宰治の「葉」という短編があります。

「死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。」

夏に着る着物をもらったから、夏まで生きる。

たったそれだけの理由で、人は生きていけるんです。

わびさんはこの一節に出会って以来、「別に生きる意味や大きな目標を持っていなくても、こういう感じで生きていくのもありかな」と思い続けていると語っています。

これを読んで、ものすごく大事なことに気づきます。

私たちはしばしば「生きる意味」を、出発点に置こうとしてしまいます。

ビジョンを先に持て、パーパスを明確にしろ、なぜ自分はここにいるのかを語れ——そういうプレッシャーを、経営者もリーダーも、そして普通の社会人も、常に受け続けています。

でも、意味は前払いで手に入れるものじゃないと思うんです。

わびさんの言葉を借りれば、「生きる意味なんて、前払いか後払いのようなもので、前もって意味を持って生きるか、後から生きる意味を知るかの違いだけ」なんです。

天台宗の開祖・最澄が説いたとされる「一燈照隅万燈照国」という言葉があります。

ひとつの灯火だけでは隅しか照らせない。でも、その灯火が万という数になれば、国中を照らすことができる。

これを人生に当てはめると、「少し先まで生きる理由」は一瞬を照らす小さな灯火にすぎない。でも、そんな小さな灯火をその都度しっかりと灯し続ければ、その光が人生の軌跡となり、やがては生きる意味にもなる。

これは経営にも、そのままあてはまります。

創業したての会社が「壮大なパーパス」を語れないことを恥じる必要はありません。

目の前の顧客を喜ばせ、チームを守り、今週の問題を解決し続ける——そのひとつひとつの灯火が積み重なったとき、初めて「なぜ自分たちはここにいるのか」という意味が後から浮かび上がってくるんです。

大きな矢印(人生や事業の方向性)の中で、小さな矢印(日々の行動)が多少揺れても構わない。

本書が繰り返し語るのは、この「振れ幅を許容する強さ」です。

直進行軍が必要な局面もある。でも、人生のような長い道のりでは、ある程度の振れ幅がないと、道から外れることや立ち止まることをひどく恐れて、無理を重ねてしまう。

足元を照らし続けること。それが「逃げない戦い方」の、最も根本にある思想だと思います。

兵站が尽きれば、戦いも尽きる

「兵站の限界が戦いの限界」

自衛隊の学校でわびさんが教わったこの言葉は、シンプルですが、ものすごく核心を突いています。

第二次世界大戦におけるスターリングラードのドイツ軍、インパールの日本軍——彼らは相手に敗れたのではなく、後方支援を軽視した結果、物資の不足によって自滅したとも言われています。

「どう戦うか」はよく考えられる一方で、「どう回復するか」といった後方支援は軽く見られがちです。

この一文は、現代のビジネスパーソンにも、そのまま刺さります。

戦略を練る、目標を立てる、どう攻めるかを考える——ここには多くの時間とエネルギーが注がれます。
でも、「どう回復するか」「どう自分を維持するか」は、後回しにされがちです。

わびさんが提唱する思考環境を整えるための3つのポイントは、「健康管理」「身辺整理」「身だしなみ」です。

体調が悪ければ論理的に考えることが難しくなる。机の上が散らかっていれば集中できない。一緒に仕事をする人の身だしなみが乱れていれば、それが気になって生産性が落ちる。

これは個人の問題だけじゃなく、組織の問題でもあります。

チームのコンディションを整えることは、リーダーの責任です。メンバーが疲弊し、回復の時間も場所もない状態で、どれだけ優れた戦略を立てても、実行力は落ちていく一方です。

わびさんはさらに、「ごはん」「お風呂」「睡眠」の快適な環境を作ること、具体的にはそれぞれにしっかりと課金することを勧めています。

これは一見、単純な話に聞こえますが、実は深いんです。

「自分への投資」という概念は、スキルアップや学習に向かいがちです。
でも、回復の質を高めることこそが、最もROIの高い投資である
——そういう発想の転換を、この本は促しています。

「決断」の前には唐揚げを食べよう、というわびさんの言葉も印象的です。

大好きなものを食べたいか、それをおいしく感じられるかを確認することは、自分の状態を把握するための良い目安になる。

コンディションが整っていない状態で下した判断は、往々にして後悔を生みます。経営判断も、採用の決断も、重要なコミュニケーションも——自分の後方支援態勢が整っているかどうかを確認してから臨む。それだけで、アウトカムは大きく変わります。

「おうち入院」という概念も、この本で初めて出会いました。

入院生活を自宅で再現する。激しい運動や遠出は控え、読書やゲームや音楽でゆっくり過ごし、22時には消灯する。身体と心への負担を徹底的に排除する時間を、意図的に作る。

これは「怠け」じゃありません。後方支援態勢の確立です。

戦い続けるために、回復を戦略に組み込む。そういう発想を持てているかどうかが、長期戦を生き抜けるかどうかの分岐点になると思います。

迂回こそ、最速のルートである

戦略シミュレーションゲームをやったことがある人なら、わかると思います。

戦いでは、ただ敵を撃破することだけでなく、いかに自分の損害を最小限に抑えるかが大事です。なぜなら、ひとつの戦いで終わることはなく、次の戦いに備えなければならないからです。

そう考えると、敵とまともにぶつかり合う「突破」から考えるのは、あまり得策ではなく、敵とまともにぶつからずに目標を達成する「迂回」を追求するほうがいいことがわかります。

この「迂回」という発想は、仕事術にとどまりません。

人間関係においても、自己認識においても、同じ原理が働いています。

劇団「社会人」という概念が、この本の中で特に好きな部分です。

会社にいる人たちの多くは、会社という舞台で「社会人」を演じているだけです。デキる人に見える人のほとんどは、役を演じているだけで、劇団の「中の人」はみんなそんなに変わらない。

受験生のときも同じでした。試験会場で参考書を開いて勉強している周りの人たちが、みんな賢そうに見えた。でも入学してみたら、自分とそんなに変わらない人ばかりだった。

この気づきは、肩の力を抜く許可を与えてくれます。

そして、自分を含めた全員が役を演じている舞台の上で、「本当の自分と折り合いをつけて社会人を演じる」という態度は、消耗しない生き方の基盤になります。

人間関係における「迂回」は、自分だけの正義を手放すことでもあります。

自分だけでなく、相手にも正しさがあるのではないかを考えるんです。

自分の正しさだけに固執すると孤立する。孤立すると、威嚇や脅威を与えることでしか自分の存在感を示せなくなる。これはどこかの国の外交政策の話ではなく、職場や家庭の中で日々起きていることでもあります。

「迂回」の先にあるのは、おすそ分けの関係性です。

「人に優しく」という教えの「人」には、自分も含まれている。
自分に優しくして、溢れそうな分を人におすそ分けする——この順序が大事なんです。

自分の兵站を整えずに、他者への優しさを無限に供給しようとすると、枯渇します。

これは経営者にも、チームリーダーにも、そのまま当てはまります。

メンバーへの配慮、顧客への誠実さ、チームへの投資——これらはすべて、自分自身の後方支援態勢が整っていてこそ、持続できるものです。

仕事においても、「言われる前にやっておく」「すぐできることは今やる」「面倒くさいことほど先に潰す」という攻めの姿勢は、実は最大の省エネです。

催促される側になると、期限や完成度を相手に合わせる必要が出てきて、主導権を失います。先手を打つことで、自分のペースで動ける。がんばらないためにも、仕事は攻める——この逆説が、迂回戦術の本質を言い表しています。

前を向く生き方に関する論点については、こちらの1冊「自分を知っているか!?『知足たる人生:執着を手放して、賢くシンプルに生きる 幸せな生き方』谷崎玄明」もぜひご覧ください。おすすめです。

まとめ

  • 生きる意味は後払いでいい――足元の一灯を灯し続けることが軌跡になり、意味はその後からついてくる。前払いで意味を持てなくても、怖くない。
  • 兵站が尽きれば、戦いも尽きる――「どう戦うか」より「どう回復するか」。ごはん・お風呂・睡眠に課金し、おうち入院を戦略に組み込む。コンディション管理こそ、最高のパフォーマンス投資。
  • 迂回こそ、最速のルートである――突破より迂回、正義より共存、消耗より持続。劇団「社会人」の舞台で、本当の自分と折り合いをつけながら、おすそ分けできる余白を持って生きる。

実践のためのQ&A

本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。

生きる意味やビジョンが見つからないまま経営を続けていいのか?

意味は出発点ではなく、到達点です。目の前の顧客を喜ばせ、チームを守り、今週の問題を解決し続ける——その一灯一灯を灯し続けることで、やがて軌跡が生まれ、意味は後から浮かび上がってきます。「まだ意味が見つかっていない」ことは、弱さではなく、誠実さの証でもあります。

回復やセルフケアを優先することへの罪悪感をどう手放すか?

「兵站の限界が戦いの限界」という言葉を思い出してください。スターリングラードもインパールも、後方支援を軽視した結果の自滅でした。回復に投資することは怠けではなく、次の戦いへの準備です。ごはん・お風呂・睡眠の質を上げることは、スキルアップより先に取り組むべき、最もROIの高い投資です。

職場の人間関係で消耗してしまうとき、どう向き合えばいいか?

まず「相手にも正しさがある」という視点に立ち、自分だけの正義を手放すことから始めてみてください。そして「人に優しくする前に、自分に優しくする」という順序を守ること。自分の兵站が整っていないまま他者へのケアを続けると枯渇します。余白から生まれるおすそ分けの関係性こそ、長く持続できる人間関係の基盤です。

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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