Whyを絶えず問いかけよ!?『エグゼクティブコーチが教える 戦略と組織づくりの教科書』三浦将

『エグゼクティブコーチが教える 戦略と組織づくりの教科書』三浦将の書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】戦略と組織づくりは、多くのリーダーが別々に語りがちなテーマです。しかし三浦将は、この2つを連動させてこそ初めて機能すると説きます。戦略を現場で生きた力に変えるためのリーダーシップ論の決定版です。
 
1.戦略は人を通してしか動かない:正しい戦略も、人の内側に届かなければ現場で消える。合理性だけでは組織は動かないという本質を理解する
2.組織のOSを刷新する:評価制度・会議設計・心理的安全性などの構造が旧来のままでは、組織は合理的に「変わらない方向」へ動くことを知る
3.Power of Yetで自分を更新し続ける:才能の思い込みを超え、リーダー自身が「まだ途中」という姿勢で変化し続けることが両利きのリーダーシップの土台になる

  • 「うちの戦略は正しいはずなのに、なぜ現場が動かないのか」と感じたことはありませんか?
  • 実は、その問いへの答えはシンプルかもしれません。
  • なぜなら、戦略の問題ではなく、戦略を実行に変えるための「組織のOS」が噛み合っていないからです。
  • 本書は、数百人の経営者・幹部に伴走してきたエグゼクティブコーチ・三浦将が、戦略と組織づくりの断絶をどう埋めるかを体系化した一冊です。
  • 本書を通じて、戦略を描く力と組織を動かす力の両方を手に入れ、「戦略が現場で生きる組織」をつくるための思考と実践を獲得できます。

三浦将(みうら・しょうま)さんは、株式会社チームダイナミクス代表取締役。大阪府立大学工学部卒業後、大手広告会社、リーバイス・ギャップ・バートンなどの外資系企業でブランディング業務に携わったのち、エグゼクティブコーチとして独立されました。

英国立シェフィールド大学大学院で理学修士を取得され、アドラー心理学やコーチング・コミュニケーションを基盤にした独自メソッドで、多くの企業経営者・幹部・オリンピック日本代表アスリートなどにコーチングを実施してきました。

「休み明けの朝、元気に仕事に向かう人をこの社会に増やす」というパーパスのもと、研修リピート率95%超という実績を誇ります。習慣力シリーズをはじめとする著書累計は30万部を超え、中国・韓国・台湾・香港でも翻訳出版されています。

戦略は「正しさ」だけでは動かない

「なぜ戦略が正しくても、現場で力を失っていくのか」——この問いこそ、本書全体を貫く核心です。

多くの組織では、戦略の議論において「正しさ」や「合理性」ばかりが重視されます。スライドに落とし込まれた戦略は理路整然として見えても、それが現場の一人ひとりの意思決定や行動に変換されるプロセスは、驚くほど軽く扱われてきました。

戦略は、最終的に一人ひとりの意思決定と行動を通してしか、実行されません。にもかかわらず、戦略の議論では「正しさ」や「合理性」ばかりが重視され、人の内側で何が起きているかは、しばしば置き去りにされてきました。

この指摘は鋭いと思います。

戦略会議の場で「この方向性は正しいですよね」と確認し合うことと、それが現場で血肉になることは、まったく別の話です。

逆に組織づくりの文脈では、人の気持ちや関係性は丁寧に扱われる一方で、それが戦略とどう結びつくのかが曖昧なまま終わるケースが多い。この分断こそが、多くの経営者が直面しているリアルな問題です。

この問いをさらに深めるのが、湖池屋の事例です。

ポテトチップス市場でカルビーに次ぐ2番手の湖池屋は、かつては競合と同じような風味バラエティの商品展開をしていました。そんな中、2016年にキリンビールから乗り込んできたのが、現社長の佐藤章さんです。「低価格・大量供給の土俵ではカルビーに勝てない。ならば付加価値で勝つ」という戦略的な判断を下した佐藤さんは、製造現場の職人たちと何度も直接対話を重ねました。そのとき伝え続けたのは、売上目標でも商品スペックでもなく、「湖池屋は何者として戦うのか」「自分たちはどんな価値を世の中に届けたいのか」という問いでした。

ここに、戦略を機能させる本質があります。

戦略とは、単なる方向性の選択ではなく、「自分たちは何者であるか」という問いへの回答です。その問いに現場の一人ひとりが共鳴したとき、初めて戦略は行動に変わります。「フォロワーではなくチャレンジャーとして、自分たちにしか作れない価値を出す」という覚悟が共有されたとき、湖池屋は市場のゲームチェンジャーになりました。これは大企業の特別な話ではなく、どんな組織でも問われていることです。

戦略の浸透を妨げているのは、論理の弱さではなく、意味の欠如です。「なぜこの戦略なのか」「それが自分の仕事とどう繋がるのか」——この問いへの答えが現場に届いていないとき、戦略は正しくても死んでいきます。

WHYという論点も非常に参考になります。こちらの1冊「【考えるとは!?】「Why型思考」が仕事を変える 鋭いアウトプットを出せる人の「頭の使い方」|細谷功」もぜひご覧ください。

組織のOSが戦略の命運を握る

戦略の問題を解決しようとするとき、多くのリーダーは「伝え方を工夫しよう」「もっとコミュニケーションを増やそう」と考えます。

しかしそれだけでは、根本的な問題は解決しません。本書が指摘するのは、もっと構造的な問題です。

「戦略を実行に変える〝組織のOS〟が、戦略と絡み合っていない」

この一文は非常に示唆的です。評価制度、権限委譲、人材配置、優先順位、時間の使い方、会議の設計、そして心理的安全性——これらが旧来のままなら、組織は合理的に「変わらない方向」に動きます。どれだけ優れた戦略を掲げても、OSが古いままでは新しいアプリは動かない。これは比喩ではなく、組織のリアルです。

では、組織のOSを刷新するために何が必要か。本書が提示する答えは「目的への共鳴」です。パーパスやビジョンが現場にも共有されると、3つのことが起きます。

まず、判断基準が揃うこと。パーパスやビジョンが腹落ちしている組織では、メンバー一人ひとりに判断の軸が生まれます。上司に確認しなくても、「これは自分たちの目的に沿っているか」という問いで行動できるようになる。これは、組織の自律性を根底から変えます。

次に、意味が供給されること。人は意味を感じられない行動を長く続けることができません。目指すところへの共鳴がない状態では、戦略は「会社が言ってるからやる」「上から降ってきた方針だからやらざるを得ない」という受け取られ方をします。この状態では、やがて戦略実行へのエネルギーは枯れ果てる。これは脅しではなく、組織の自然なサイクルです。

そして、行動の共通言語が生まれること。目指すところが共有されている組織では、「それは私たちの目的にどう貢献するのか」「このやり方は、目指す姿に相応しいか?」という問いが、部門や役割を越えた共通言語になります。部門間の壁が低くなり、摩擦が減り、スピードが上がる。

リーダーに求められるのは、まず自分自身がパーパスやビジョンを深く理解し、最も近いメンバーへその真意とストーリーを伝えることです。そして、どんな意味合いに共鳴するのか、どんなブランドストーリーに心が動くのかを確認しながら、全体への伝え方を工夫していく。

このプロセスを飛ばして「浸透させよう」としても、それは砂漠に水を撒くようなものです。

ドラッカーはマネジメントを「Management is doing things right」と表現し、
リーダーシップを「Leadership is doing the right things」と表現しました。

やるべきことを正しくやることと、正しいことを選ぶこと——この2つが組み合わさったとき、組織のOSは本当の意味で機能し始めます。

「知っている」から「やっている」へ——Power of Yet

戦略も組織づくりも、結局は「リーダー自身が変わり続けられるか」という問いに行き着きます。

本書の後半で印象的なのは、才能に関する問いかけです。レベルが上がってくると、実際の能力に関係する因子ではなくなってくるという指摘があります。つまり、ある地点を超えると、才能の有無よりも「才能がないから無理」という思い込みそのものが、最大の障壁になるということです。

これらのことから、何でも才能のせいにすることは、そろそろやめにした方がよいのではないかと思います。できないと思っている人が乗り越えなければいけないのは、「才能がないから」と決めつけている思い込みそのもの。

これはリーダーシップ論として読むと、非常に深い意味を持ちます。「自分はマネジメントタイプで、戦略は苦手」「組織づくりは得意だけど、数字の話は…」という思い込みは、多くのリーダーが抱えています。しかしそれは才能の問題ではなく、「まだやっていない」というだけの話かもしれません。

ここで登場するのが、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授による「Power of Yet」という概念です。できなかったことや成功しなかったことを「自分には無理なこと」ではなく、「まだ力を発揮できていない状態(Not Yet)」として捉える。この視点の転換が、成長マインドセットの核心です。

ドゥエックさんの1冊は、こちら「【あなたは硬直型!?それとも、しなやか型!?】マインドセット:「やればできる!」の研究|キャロル・S・ドゥエック」からどうぞ!

両利きのリーダーシップ——戦略を考える力と、組織を動かす力——は、生まれつきの資質ではなく、育てていくものです。「知っている」から「やっている」へ。この移行こそが、本書が最終的に問いかけていることだと思います。

何度も試みて、失敗して、また試みる。

そのプロセスの中でリーダーは育ちます。エグゼクティブコーチとして数百人の経営者に伴走してきた三浦さんが、この本を通じて本当に伝えたいのは、戦略の立て方でも組織論の教科書でもなく、「リーダーとして自分を更新し続ける覚悟を持て」というメッセージだと思います。

What——何の問題を解決したいのか。
Where——その先にどんな未来をつくりたいのか。
How——どうやってそこへ行くのか。

この問いの順序を守り、しかもHowではなく「何をやって、何をやらないと決めたか」を核心に置く。この戦略思考のフレームを、リーダー自身が体現し続けること。それが、本書が提示する両利きのリーダーシップの本質です。

リーダーシップのあり方については、こちらの1冊「リーダーは技術である!?『できるリーダーの仕事のルール』リチャード・テンプラー」も大変おすすめです。ぜひご覧ください!!

まとめ

  • 戦略は「正しさ」だけでは動かない――戦略の合理性を高めるより先に、「人の内側に届いているか」を問う必要があります。湖池屋の事例が示すように、「何者として戦うか」という問いへの共鳴が、組織を動かす起点になります。
  • 組織のOSが戦略の命運を握る――評価制度・会議設計・心理的安全性などの構造が旧来のままでは、戦略はいくら正しくても実行されません。パーパスへの共鳴が判断基準・意味・共通言語を生み出し、OSを刷新する土台になります。
  • 「知っている」から「やっている」へ——Power of Yet――才能の思い込みを超え、リーダー自身が「まだ途中」という姿勢で学び続けることが、両利きのリーダーシップの根幹です。戦略と組織の両立は、生まれつきの資質ではなく、育てていくものです。

実践のためのQ&A

本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。

戦略は浸透しているはずなのに現場が動かない。何から手をつければいいですか?

まず「組織のOS」を点検することをお勧めします。評価制度・会議設計・権限委譲・心理的安全性のどれかが旧来のままになっていないか確認してください。特に評価制度と戦略の方向性がズレていると、どれだけ伝えても行動は変わりません。構造を変えることが、最も確実な浸透への道です。

パーパスやビジョンをつくったが、形骸化している。どう立て直せばいいですか?

まず自分自身が「その言葉を思うと心が動くか」を確認することが出発点です。リーダー自身が共鳴していないパーパスは、必ず形骸化します。次のステップは、最も近いメンバーへその真意とストーリーを丁寧に伝え、どんな意味合いに共鳴するかを確かめること。全体への発信は、その確認の後です。

戦略思考と組織づくりを同時に磨くのは難しい。どちらを先に鍛えればいいですか?

本書の答えは「どちらでもなく、両方を連動させる意識を持つこと」です。ただし、入口としては「What——何の問題を解決したいのか」という戦略の問いを自分の言葉で語れるようになることが先決です。その問いが明確になれば、組織に対して何を求め、どう関わるべきかが自然と見えてきます。

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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