この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】「借り物の言葉では、相手の心に何も残らない」——言語化とは技術ではなく、自分の内側を掘り起こす習慣です。さわらぎ寛子が説く「自分の言葉」を持つための実践的なプロセスを紹介します。
1.観察と分解の習慣:モヤモヤを放置せず分解することで、自分だけの言葉の原石が見えてくる
2.問いを立てる力:意見とは考え+根拠。日常に「問い」を持つ習慣が、言語化力の土台になる
3.BEで自分を定義する:HAVEではなくBEで自分を語ることで、人生の主語を自分に取り戻せる
- 「自分の言葉で話している人」と「借り物の言葉で話している人」。その違いは、どこから来るんでしょう?
- 実は、言葉のうまさや語彙の豊富さとは、あまり関係がありません。
- なぜなら、言葉は「持っている知識の量」ではなく、「自分のものの見方」と「自分らしい言葉選び」が結びついたときにはじめて、相手の心に届くからです。
- 本書は、コピーライターとして長年活躍してきたさわらぎ寛子が、自分の内側にある思いをどうやって言葉に変えていくかを、具体的な習慣と実践の視点から解き明かした一冊です。
- 本書を通じて、「言葉にする」という行為が、単なるコミュニケーション技術ではなく、自分を知り、自分の人生を自分でつくっていくための根本的な習慣であることに気づいていただけるはずです。
さわらぎ寛子は、コピーライター・文章コンサルタントとして活動し、言葉を通じた自己表現と伝達の専門家として知られています。企業や個人向けのライティング指導、セミナー、コーチングなど幅広く活動するなかで、「自分の言葉を持つこと」の重要性を一貫して伝えてきました。
本書はその集大成とも言える一冊で、言葉にすることの技術論にとどまらず、言語化を通じた自己発見と人生の再定義にまで踏み込んでいます。
借り物の言葉では届かない——「自分の言葉」の起点
言葉を「うまく」使おうとするとき、多くの人は外側に答えを求めます。
本で読んだ表現、誰かのプレゼンで聞いたフレーズ、ネットで見つけた「刺さる言い回し」。そうした言葉を借りて、自分の思いを伝えようとする。
でも、そこには決定的に欠けているものがあります。
「その人なりのものの見方」と「その人らしい言葉選び」——この2つが結びついていない言葉は、どれだけ洗練されていても、相手の心に何も残らないんです。
では、自分の言葉はどこから生まれるんでしょう?
本書が提示する出発点は、驚くほどシンプルです。「観察する」「何でも口に出す」「感覚や感情に敏感になる」——この3つを習慣にすること。
なかでも私が注目したのが、「モヤモヤを分解する」というアプローチです。
違和感、モヤモヤを感じたら、それを分解してみましょう。
日常のなかで感じる違和感やモヤモヤは、多くの場合そのまま流されていきます。「なんか嫌だな」「なんか違うな」と感じても、忙しさに紛れてやり過ごしてしまう。
でも、そのモヤモヤこそが、自分の言葉の原石なんです。
コンサルタントとして経営者と向き合ってきた経験から言うと、言語化が得意な経営者は、例外なくこの「モヤモヤをそのままにしない」姿勢を持っています。「なんとなく違和感がある」という感覚を大切にして、そこに言葉をあてていく。その積み重ねが、独自のビジョンや判断軸になっていくんですね。
本書ではさらに、「要するに」と抽象化しようとするより、「何が一番」と具体のなかから1つを選ぶ方が言語化しやすい、とも言っています。
「要するに」と抽象化するのは、難しいもの。それよりも、「何が一番」と、書き出した具体の中から1つを選んでください。
これは深い指摘だと思います。
私たちはつい、「要するに〜ということだ」と早々にまとめようとしてしまう。でも、それは本当の意味での言語化ではなく、ただ圧縮しているだけかもしれません。
「何が一番引っかかっているのか」「何が一番嬉しかったのか」と、具体の感覚に寄り添いながら言葉を選んでいく。その丁寧さが、借り物ではない言葉を生む土台になります。
もうひとつ、本書で印象的だったのが「人の言葉に触れない時間が、自分の言葉を作る」という指摘です。
自分の言葉を作るには、人の言葉から離れる時間が必要です。つまり、誰の言葉にも触れない孤独な時間です。
情報があふれる時代に、これはとても逆説的に聞こえます。でも、言語化力という観点から見ると、これは本質を突いています。常に誰かの言葉にさらされていると、自分の感覚が何なのかわからなくなっていく。思考の余白をつくることが、自分の言葉を育てる環境になるんです。
意見を持つとは、問いを立てることだ
「あなたはどう思いますか?」
この問いに即座に答えられる人と、言葉に詰まってしまう人。その差はどこにあるんでしょう?
本書によれば、意見とは「自分の考えや思いつきに、根拠をつけて、相手が納得しやすいかたちにしたもの」です。そして意見を持つための起点は、「問いを立てること」だと言います。
意見が答えだとすると、問いは「質問」であり「問題意識」です。
つまり、意見がない人は、問いを立てていない人。答えが出てこないのは、そもそも問いを持っていないからかもしれません。
経営の現場で感じることがあります。「自分の意見がない」と悩む人の多くは、実は意見がないのではなく、「違和感」や「気づき」を問いに変える習慣がないんです。
「これはどういうことだろう」「なんか違うな」「なんでそう思うんだろう」——こうした小さな引っかかりを、そのまま流さずに問いとして立てていく。その積み重ねが、自分の意見を持てる人をつくります。
本書では、意見の構造を次のように整理しています。
①前提(立ち位置、言葉の定義)
②考え(自分なりの答え)
③考えに至った根拠(理由、ファクト)
この構造は、コンサルティングで使うロジカルシンキングのフレームとも重なります。でも、本書のアプローチが面白いのは、ロジックの前に「自分の感覚・違和感」を大切にしている点です。感覚から問いが生まれ、問いから考えが育ち、考えに根拠が加わって意見になる——この順序が逆になると、どこか他人事のような言葉になってしまいます。
また、本書には「それっぽいことを疑う」という章があります。
世の中には「それっぽい言葉」があふれています。誰もが「なるほど」とうなずくような、洗練されたフレーズ。でも、そこで立ち止まって「本当にそうなのか?」と疑う姿勢が、思考を深めていきます。
問いが広がると、考えが深まる
「それっぽい言葉」に安住せず、自分の問いを持ち続ける——これは、経営判断においても同じです。業界の常識、コンサルの定石、流行りのフレームワーク。それらを「それっぽいもの」として疑い、自分の文脈で問い直す経営者ほど、独自の言語と戦略を持っています。
そして、もうひとつ大切な視点が「意見を否定されても、自分は否定されない」ということです。
自分の意見を言いたくない理由のひとつに、「否定されることへの恐れ」があります。でも、意見はあくまで現時点での考えであり、更新されるものです。意見が変わることは、成長の証。自分という存在とは切り離して、意見を扱えるようになると、ずっと自由に言葉を出せるようになります。
答えがすぐに出ないときは、無理に結論を出さなくていい、とも本書は言います。
その場でうまく言葉にできなかったら、帰ってから、お風呂の中で思考を巡らせてみる。即座に出てきた言葉と、ゆっくり生み出された言葉、どちらの価値が高い、なんてことはないのです。
即答できることが「意見を持っている」ことではありません。
じっくりと育てた言葉にも、十分な価値があります。
これは、コンサルタントとしての対話の場でもよく感じることです。すぐに出てくる答えより、少し間を置いてから出てきた言葉の方が、経営者の本音に近いことがある。
言語化は、自分の人生を自分でつくる行為
言語化の話をするとき、多くの人はコミュニケーション技術の話だと思っています。
でも本書の終盤で語られるのは、もっと根本的なことです。言葉にするという行為が、自分の人生そのものを作っていく、という視点です。
本書には「人生の主語を自分にする」という章があります。
「あの人に〜された」「クライアントがわかってくれない」——こうした悩みは、受け身の発想です。相手が主語になっていて、自分は何かをされる側に立っています。
これは刺さります。
ビジネスの現場で「お客様が買ってくれない」「上司が評価してくれない」という言葉を聞くとき、問題は相手ではなく「主語の置き場所」にあることが多い。「自分は何ができるか」「自分はどうしたいか」と主語を自分に変えるだけで、思考が能動的になり、言葉が変わり、行動が変わっていきます。
さらに本書は、「HAVE(何を持っているか)」ではなく「BE(ありたい姿)」で自分を定義することを提案します。
○○会社の営業です、課長をしております——こうした「HAVEは、価値基準を自分の外に求めるものです。人との比較で自分を考えることになり、ずっとしんどいままです。
肩書き、役職、所属——こうした「外側の定義」は、状況が変われば揺らぎます。でも「BEの定義」、つまり「自分としてどう生きるか」という内側の軸は、環境が変わっても持ち続けられるものです。
著者自身は自分を「表現者」と定義しています。講師でも教える人でもなく、「表現する人」として生きている。この定義があるから、仕事も子育ても日常のすべてが自己表現として一貫した意味を持ちます。
経営者と話すとき、「自分の仕事をどう定義しているか」が、経営の質に直結していると感じます。「○○社の社長」ではなく、「こういう世界をつくりたい人間」として自分を定義できている経営者は、言葉に一貫性があり、人を動かす力があります。
自分の仕事を、自分の言葉で定義できると、自分で仕事を作っていけるようになります。「○○社の営業さん」ではなく「○○さん」と名前で仕事ができる人になれるのです。
「名前で仕事ができる人」——これは言語化力の最終形のひとつだと思います。
そして本書は、言語化の万能性も否定しません。
言葉が万能ではないし、言語化がすべてではありません。けれど、言葉にすることで、今よりも深く自分を知ったり、誰かとわかりあえたり、また、自分の生き方や未来を言葉で作っていくこともできたりするのです。
言葉にできないものは確かにあります。感情の深い部分、身体の感覚、言葉にした瞬間に失われてしまうようなもの。それを認めたうえで、それでも言葉に向かっていく。この誠実さが、本書全体を貫いているトーンです。
言語化とは、自分の内側を整理するための道具であり、他者とつながるための橋であり、自分の未来を形づくるための素材です。「借り物の言葉」ではなく「自分の言葉」を持つこと——それは生き方の問いでもあります。
まとめ
- 借り物の言葉では届かない——「自分の言葉」の起点——モヤモヤを分解し、「何が一番」と具体から選ぶ習慣が、自分だけの言葉の原石を掘り起こす。人の言葉から離れる孤独な時間もまた、言語化力を育てる土壌になる。
- 意見を持つとは、問いを立てることだ——意見の起点は「気づき」や「違和感」を問いに変えること。「それっぽい言葉」を疑い、感覚から問いを育てることで、借り物ではない自分の考えが生まれる。
- 言語化は、自分の人生を自分でつくる行為——HAVEではなくBEで自分を定義し、主語を自分に置くことで、言語化は人生の設計図になる。言葉の限界を認めながらも、それでも言葉に向かい続けることが、自分と他者への理解を深めていく。
実践のためのQ&A
本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。
この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。
