CANから始めよ!?『ニュー・エリート論 世界基準のビジネスパーソンが鍛える6つの知性』布留川勝

『ニュー・エリート論 世界基準のビジネスパーソンが鍛える6つの知性』布留川勝の書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】AIと変化の時代に生き残るのは、「好き」を外に探す人ではなく、目の前の「できること」を起点に自分を育てていける人です。布留川勝が提唱するニュー・エリートの条件は、肩書きでも学歴でもなく、変化を自己変革の鏡として使いこなす知性にあります。
 
1.CANから始める自己発見:「好き」を先に探すLike-Seekerの罠を超え、貢献の積み重ねの中に自分を見出す
2.アダプティブ・アジリティ:変化を脅威ではなく鏡として受け取り、IQ<CQ+PQの時代を生き抜く力
3.違和感をビジョンに変える:北極星(True North)は完成形を待たず、日常の怒りや問いの中から生まれる

  • 「自分に向いている仕事が、まだ見つかっていない」――そう感じたことはないでしょうか?
  • 実は、その問いの立て方そのものに、落とし穴が潜んでいます。
  • なぜなら、「好き」や「向いていること」は、先に発見するものではなく、目の前のことに本気で取り組み、誰かの役に立つ経験を積み重ねる中から、じわりと育ってくるものだからです。
  • 本書は、グローバル人材育成の第一線に立つ布留川勝が、変化の時代に求められる「6つの知性」を体系的に論じた一冊です。
  • 本書を通じて、外に自分を探しに行く旅を終わりにして、いまいる場所で自分を育てていくという、静かで力強い視点を手に入れることができます。

布留川勝(ふるかわ・まさる)氏は、グローバル人材育成のプロフェッショナルとして、長年にわたり日本企業のグローバル化を支援してきた実践家です。自身もビジネスパーソンとして海外での実務経験を積み重ね、異文化コミュニケーションや国際的なビジネス現場での試行錯誤から多くの洞察を得てきました。

現在はグローバル人材育成に特化したコンサルタント・講師として活動し、数多くの企業研修や講演を通じて「世界基準で通用するビジネスパーソン」の育成に携わっています。前著『gALf(ガルフ)な生き方』でも独自のキャリア論を展開しており、本書はその思想をさらに発展させた集大成といえる一冊です。

CANを起点にすると、自分が見えてくる

「自分の好きなことを仕事にしたい」という願望は、誰もが一度は抱くものです。しかし、この問いを入口にしてしまうと、多くの人が「永遠の自分探し」という迷宮に入り込んでしまいます。

本書で紹介されるLike-Seekerという概念が、まさにそれです。「好き」を最優先に外の環境を求め続ける人のことで、困難や違和感に直面するたびに「ここでは成長できない」と判断し、次の場所へと移っていく。新しい場所でもまた同じ壁にぶつかり、同じ言い訳を繰り返す。Like-SeekerはLike-Seekerを引き寄せ、互いに共感しながら自分たちを守る繭をつくってしまう。

Like-Seekerは「好き」を先に探し、外に答えを求める。ALPArは「できること」を起点に、好きや情熱を育てていく。長期的に力を蓄え、信頼を築き、良い偶然を引き寄せるのは、間違いなくALPArの生き方だ。

これを読んだとき、「どこを探しても、自分はいない」という言葉が浮かびました。自分という存在は、外の世界に転がっているものではない。いまいる場所で、目の前のことに向き合い、誰かの役に立ち、「ありがとう」と言われる経験の積み重ねの中に、少しずつ姿を現してくるものです。

本書が提唱するALPAr(アルパー)という生き方は、まず「できること(Able)」から入ります。与えられた環境の中で課題を見つけ、スキルと経験を積み上げていく。すると、周囲から感謝や称賛が集まる。その瞬間に初めて「もしかしたら、自分はこれが好きなのかもしれない」という感覚が芽生える。AbleがLikeに変わる瞬間には、必ず人との関わりがあると、著者は言います。

この「好き」がさらに磨かれると、情熱(Passion)へと深化し、フロー状態に入るほどの没頭が生まれる。そしてその情熱がまた新しいAbleを生み出し、次の成長サイクルへと進んでいく。ALPArはALPArを惹きつけ、互いに刺激しながら、開かれた繭をつくっていくのです。

出発点の違いが、長期的には大きな差を生む。「好き」を先に探すのか、「できること」を積み上げながら「好き」を育てるのか。この問いは、キャリアの問題であるだけでなく、自分という存在とどう向き合うか、という根本的な問いでもあります。

いまの仕事を「ただこなしている」と感じている人にこそ、このALPArの視点は刺さるはずです。肩書きに縛られず、役割を自ら再定義する。そのための入口は、いつでも目の前のCANの中にあります。

変化は脅威ではなく、自己変革の鏡である

AIと自動化が急速に進む中で、「自分の仕事がなくなるかもしれない」という不安を抱える人は少なくありません。しかし、本書が示す視点は、その不安に対して「適応せよ」と言うものではありません。もっと深いところに踏み込んでいます。

アダプティブ・アジリティは単なる適応力ではない。自分の前提を疑い、古い価値観を一度手放し、新しい現実の中で再び立ち上がる力。変化を「脅威」ではなく「鏡」として受け入れる知的な姿勢である。

環境に合わせるのではなく、環境を通して自分を変える。この一文に、本書の核心があると感じます。変化の波に流されないために守りを固めるのではなく、変化そのものを自己変革の契機として使いこなすこと。それがアダプティブ・アジリティという概念の本質です。

この文脈で、本書が引用するフリードマンの公式は示唆に富んでいます。IQ(知能指数)<CQ(好奇心指数)+PQ(情熱指数)。知識処理の能力がAIに代替される時代においては、IQの高さよりも、好奇心と情熱の総量が重要になる、という視点です。

実際、グローバルな現場でCQとPQが高いプロフェッショナルは、同じフレームワークを使うにしても「この場、この時間をどうすれば最大限レバレッジできるか?」という問いから入ります。知識があるだけで終わるのではなく、文脈が変わるたびに新しい洞察を引き出し、それを行動に変えていく。この能動性こそが、AIと共存する時代の競争力の源泉になります。

AIを使わない人の存在価値は急速に薄れる。しかし怖いのは「AIに負ける」ことではなく「AIを使う人間に負ける」ことだ、と本書は言います。この言葉は冷静に受け止める必要があります。AIを道具として使いこなすだけでなく、「何を解くべきか」を考える力と、「なぜ解くのか」を問い続ける力を持った人間が、次の時代を切り開いていく。

変化を鏡として使うとはどういうことか。それは、変化に直面したとき「自分はこの状況から何を学べるか?」「この変化は自分のどの部分を問い直しているか?」という問いを自分に向けることです。環境が変わるたびに、自分という存在が少しずつ明確になっていく。ALPArの発想と、このアダプティブ・アジリティの発想は、根本のところでつながっています。

ビジョンは、違和感と怒りの中から生まれる

「ビジョンを持て」と言われると、多くの人は壮大な夢や遠大な目標を描かなければならないと感じてしまいます。しかし、本書が語るビジョナリー・シンキングは、そういうものとは少し違います。

ビジョンは机上の空想から生まれるものではない。むしろ、日々の現場で覚える違和感や苛立ち、あるいは切実な問いから立ち上がってくる。換言すれば、ビジョンの萌芽は常に「問い」のかたちをしている。

「なぜこうなっているんだろう?」「これでいいはずがない」という感覚。それが、ビジョンの種です。違和感に耳を澄まし、怒りを問いに変え、その問いを希望ある未来の構想へと発展させていく。このプロセスを経ることで、破壊的な感情が創造のエネルギーに変わっていきます。

ハーバード・ビジネス・スクールのビル・ジョージが「北極星(True North)」と呼んだリーダーの拠り所も、外から与えられるものではありません。自分の内側で揺れ続ける問いと向き合い続ける中で、少しずつ姿を現してくるものです。その北極星に忠実に生きるとき、周囲の人は「本物(Authenticity)」を感じ取る。ここにこそ、影響力の本質があります。

本書はビジョンを育てる「3つの扉」を示しています。

第一の扉は違和感に耳を澄ますこと。
第二の扉は怒りを問いに変えること。
第三の扉はビジョンを生きること、つまり言葉にしたビジョンを小さな一歩として現実に刻んでいくことです。

「扉の先の風景は、行動した者にしか見えない」という言葉が、静かに胸に響きます。

そして本書は、2種類のビジョンへのアプローチを対比させています。ニーチェ的なアプローチ――既存の価値観の空洞化を見抜き、自らが新しい価値を創造していく突破の姿勢。アリストテレス的なアプローチ――善き人生(エウダイモニア)を目指し、周囲との調和を保ちながら実践知(フロネーシス)を磨いていく姿勢。どちらが正解ということではなく、状況に応じてこの2つを使い分けられる柔軟な知性こそが重要だと、著者は言います。

ビジョンは最初から壮大である必要はありません。いまの仕事の中の小さな違和感、会議の場での小さな「これは違う」という感覚。そこから始めていい。「小さなビジョンから始める」という本書のメッセージは、ALPArの発想と深く呼応しています。CANを起点に貢献し続け、その中から「好き」と「問い」が育まれ、やがてビジョンへと結晶化していく。自分という存在は、外に探しに行くものではなく、目の前の積み重ねの中から手繰り寄せるものです。

まとめ

  • CANを起点にすると、自分が見えてくる――「好き」を先に探すLike-Seekerの罠を超え、目の前の「できること」を積み上げる中でAbleがLikeへ、LikeがPassionへと育っていく。自分は外に探しに行くものではなく、貢献の積み重ねの中から手繰り寄せるものです。
  • 変化は脅威ではなく、自己変革の鏡である――アダプティブ・アジリティとは、単なる適応力ではなく、変化を通じて自分の前提を問い直す力です。IQ<CQ+PQという時代に、好奇心と情熱を原動力にAIと共進化できる人材が次の時代を切り開きます。
  • ビジョンは、違和感と怒りの中から生まれる――壮大な夢を描く必要はありません。日々の現場の違和感や怒りを問いに変え、小さな一歩として現実に刻んでいくプロセスの中に、自分だけの北極星が姿を現してきます。

実践のためのQ&A

本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。

今の仕事が好きになれないとき、ALPArの考え方はどう活かせますか?

まず「好きかどうか」という問いを一度脇に置くことから始めてみてください。目の前の仕事の中で「自分が最も貢献できること」に意識を向け、その精度を上げることに集中する。誰かから「ありがとう」と言われる瞬間が増えてきたとき、「好き」の萌芽が生まれます。好きは先に見つけるものではなく、貢献の中から育つものです。

AIが進化する中で、ビジネスパーソンとして何を最優先に磨けばいいですか?

本書が示すCQ(好奇心指数)とPQ(情熱指数)の総量です。AIが得意とするのは知識処理と情報検索であり、「何を問うべきか」「なぜそれを解くのか」という問いを立てる力は依然として人間の領域にあります。AIを道具として使いこなすだけでなく、問いを立て、要約し、発信する力を一体として磨いていくことが、最も長く価値を持ち続けるスキルセットといえます。

ビジョンがなかなか言語化できません。どこから手をつければいいですか?

ビジョンは「考えてつくるもの」ではなく「日常から拾い上げるもの」です。まず、最近感じた「これは違う」「なぜこうなっているんだろう」という違和感を、メモに書き出してみてください。その違和感が繰り返し出てくるテーマの中に、あなたのビジョンの種があります。言葉にしたら、小さな一歩として行動に移す。ビジョンは行動した者の目にだけ、少しずつ姿を現してきます。

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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