場を作るために重要なこと!?『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』坂田幸樹

『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』坂田幸樹の書影と手描きアイキャッチ

この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール

【経営ビジョンの視点で読み解く本書の核心】戦略とは「差を埋める指針」ではなく、人と組織が出会い、新しい意味を共に生み出す“場”をデザインする営みです。坂田幸樹が実践知から導き出す、現代ビジネスに不可欠な動的戦略思考の全貌。
 
1.場づくりという新レイヤー:モノ・コトを超えた「関係性・共創・文脈」の設計が、持続的な価値を生む
2.動的な視点と価値の再定義:バックキャストで未来から逆算し、ユーザーの感情の動きに本質的ニーズを探る
3.PVSで戦略を現場につなぐ:Perspective・Value・Systemの統合が、小さな場から包括的な仕組みへと育つ

  • あなたは今、誰かと「本当に協働できている」と感じていますか?
  • 実は、経営理論やフレームワークをどれだけ習得しても、それだけでは戦略は立てられないんです。
  • なぜなら、現代のビジネス環境では、「目標と現状の差を埋める」という静的な戦略がもはや機能しにくくなっているからです。そこには、人と人が出会い、意味を共に生み出す「場」という、まったく新しいレイヤーが生まれています。
  • 本書は、経営コンサルタントとして日本・シンガポール・複数のアジア拠点で実践を重ねてきた坂田幸樹が、ゼロから「勝ち筋」を導き出すための10の問いを通じて、戦略をデザインする力の本質を提示した一冊です。
  • 本書を通じて、他者とのよりよい協働を生み出すための「場づくり」という視点が、あなたの戦略思考に新たな次元を加えてくれるはずです。
坂田幸樹
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坂田幸樹(さかた・こうき)さんは、株式会社IGPIの共同経営者(パートナー)であり、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役を務めています。早稲田大学政治経済学部を卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。

日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプに参画し、アパレル企業やファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援に従事されました。支援先のシステム会社に転籍して代表取締役に就任するという異色の経歴も持ちます。

その後、経営共創基盤(IGPI)に入社し、2013年にはIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールへ。現在は3拠点・8国籍のチームで、日本企業や現地企業、政府機関向けプロジェクトを手がけています。IEビジネススクールでMBAを取得し、ITストラテジストの資格も持つ坂田さんは、理論と実践の両輪を持つコンサルタントとして高い評価を受けています。

単著に『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)があります。

「場づくり」という新レイヤーが出現した

ビジネスの世界は長い間、「モノづくり」を中心に回っていました。優れた製品をつくれば売れる。技術が差別化をもたらす。そうした時代が確かにありました。やがてサービスや体験の重要性が認識され、「コトづくり」の時代が到来しました。顧客の感動やプロセスに価値を見出す発想が主流になりました。

しかし今、さらにその上に新たなレイヤーが生まれています。それが「場づくり」です。

場づくりとは、モノやコトの価値を超えて、人や組織が出会い、新しい意味や体験を共に生み出す”場”をデザインする取り組みです。

この定義を読んだとき、戦略の概念そのものが根底から変わりつつあることを実感します。

モノや機能の優劣を競う時代から、人と人がどう出会い、何を共に生み出せるかを設計する時代へ。この転換は、経営の世界だけでなく、私たちひとりひとりの働き方にも深く関わっています。

場づくりは、モノづくりやコトづくりを否定するものではありません。むしろ、それらの価値を束ねて意味づけ、持続的に拡張するための「統合的な仕組み」として位置づけられます。製品の品質(モノ)があり、体験の設計(コト)があり、そこに関係性と共創の文脈(場)が加わることで、価値は指数関数的に広がるのです。

中小企業診断士として多くの企業の経営支援に携わってきた経験から言えば、この「場」の欠如こそが、多くの組織が抱える根本的な課題だと感じています。優れた製品も、洗練されたサービスも、それを受け取る人たちの間に「場」がなければ、価値は点のままで広がらない。逆に、場さえあれば、多少荒削りなアイデアでも、協働の中で磨かれ、予想外の価値を生み出すことがある。

本書が示すのは、「場づくりの時代における戦略とは、多様な主体や資源が結びつき、価値が共創される構造を設計し、それを持続的に拡張していく営み」だということです。これは静的な計画ではなく、動的なデザインです。環境が変わるたびに問い直し、再構成していく力が求められます。

この視点の転換は、日本企業にとって実は大きなチャンスでもあります。おわりにで触れられている「日本人が得意とする創造的統合」という言葉が示すように、単独の技術や製品で勝負するより、関係性と文脈を統合することで独自の価値を生み出すことに、日本人の気質は向いているのかもしれません。

視点と価値を動的に再定義する

戦略を立てるとき、多くのビジネスパーソンは現状分析から始めます。SWOTを整理して、競合を調べて、自社の強みを確認して……。しかしそのアプローチには、根本的な問いが欠けていることがあります。「そもそも、何を目指しているのか?」という問いです。

本書が提示するバックキャストという思考法は、この問いに真正面から向き合います。

バックキャストとは、実現したいビジョンを先に描き、そこから逆算して今何をすべきかを考えるアプローチです。

現状から未来を予測する「フォアキャスト」に対して、バックキャストは未来から現在を見る。この発想の転換は、思った以上に大きな影響をもたらします。なぜなら、現状からの積み上げは、どうしても「今できること」の延長になりがちだからです。バックキャストは、「今できないこと」を前提にしながら、それでも実現すべき未来を描くことを可能にします。

「良い戦略は、10年後の社会を変える」という言葉は、この文脈で深く響きます。日々の業務に追われていると、つい目先の課題解決に意識が向きがちです。しかし本当に意味のある戦略とは、社会の在り方そのものを変える可能性を持つものだという視点は、私たちの志の水準を引き上げてくれます。

もうひとつ、本書が鋭く指摘するのが、ユーザーの本質的ニーズへのアクセス方法です。

ユーザーの行動や感情は再現性が低いため、外から観察するだけでは真のニーズを把握するのは困難。

これは実践を通じて深く共感する指摘です。顧客インタビューやアンケートで「欲しいもの」を聞いても、それが本当のニーズを表しているとは限りません。人は自分が本当に望んでいることを、必ずしも言語化できないからです。

では、どうするか。本書が示すのは「心が動いた具体的な瞬間を言語化すること」です。感情が動いた瞬間——喜びでも不満でも驚きでも——その瞬間に、本質的なニーズが宿っています。表面的な行動パターンではなく、感情の揺れに注目することで、まだ誰も満たせていないニーズを発見できる可能性があります。

これを「場づくり」と結びつけると、さらに深い意味を持ちます。場とは、まさにそうした感情が動く瞬間を意図的に生み出す設計だからです。人と人が出会い、共に何かを経験する中で、予期しない感情の動きが生まれる。そこに新しい価値の種が宿っている。

戦略の視点(Perspective)とは、こうした「普通の人が見ていないものを見る力」です。同じ市場を見ていても、視点が違えば見える景色は変わります。坂田さん自身、先輩コンサルタントやクライアントからのフィードバックを繰り返し受ける中で、この「視点をデザインする力」を磨いてきたと語っています。視点は生まれつきの才能ではなく、問いかけと対話を通じて鍛えられるものだという事実は、多くのビジネスパーソンにとって力強いメッセージです。

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PVSで戦略を現場につなぐ

どれほど優れた戦略も、現場に根ざさなければ絵に描いた餅に終わります。本書のもっとも実践的な貢献のひとつが、「場づくりのPVS」という統合フレームワークです。

独自の視点(Perspective)を持って、価値(Value)をデザインする。そして、局所的サービスの立ち上げを起点に仕組み(System)をつくり、やがて包括的サービスへとつなげていく。

P(Perspective)= 視点、V(Value)= 価値、S(System)= 仕組み。このシンプルな構造が、「考える」と「動く」を橋渡しします。

多くの組織が陥りがちな罠は、戦略と現場の乖離です。経営層が描く大きなビジョンと、現場が日々対処する具体的な課題の間に、深い溝が生まれてしまう。PVSはこの溝を埋めるための設計図として機能します。

まず視点(P)。独自の視点なき戦略は、競合との差別化ができません。みんなが見ているものを、みんなと同じ角度で見ていれば、同じ結論しか出てこない。自社ならではの視点——それは業界経験かもしれないし、特定の顧客との深い関係かもしれない——を明確に言語化することが出発点です。
 
次に価値(V)。視点が定まれば、そこから「自分たちにしか提供できない価値」が浮かび上がります。重要なのは、この価値が顧客の感情と結びついているかどうかです。前セクションで触れた「感情が動く瞬間」との接点を意識することで、価値の定義はより鋭くなります。
 
そして仕組み(S)。ここが最も見落とされがちなステップです。良いビジョンも、価値の定義も、それを持続的に実現する仕組みがなければ一過性で終わります。本書が示すのは、最初から大きな仕組みを作ろうとするのではなく、「局所的サービスの立ち上げを起点に」することの重要性です。

戦略を現場とつなぐための、小さな「場づくり」

この言葉に、本書の実践知が凝縮されています。大きな戦略変革は、小さな場から始まる。部署横断の対話の場でも、顧客との定期的な勉強会でも、社内有志のプロジェクトでも——「小さく始めて、学びながら拡張する」というアジャイル的な発想が、PVSの仕組み(System)の根底にあります。

坂田さんが代表を務めたシステム会社での経験や、シンガポールでの多国籍チームとの実践は、この「小さな場から始める」アプローチの有効性を裏付けています。8国籍のチームを束ねるには、共通のフレームワークや文化的理解だけでは不十分です。それぞれの視点が交わり、新しい意味が生まれる「場」を意図的に作り続けることが、多様性を力に変える鍵だったはずです。

ここで図表0-1を改めて見てみましょう。モノづくり(製品・技術・装置)→コトづくり(体験・サービス・プロセス)→場づくり(関係性・共創・文脈)という重層的な構造は、PVSのSystem(仕組み)が単なる業務プロセスではなく、人と人の関係性を育む「場の設計」であることを示しています。

戦略のデザインとは、この3層を統合して動的に進化させていく力です。どれかひとつが欠けても、持続的な価値創造は難しい。逆に言えば、今自分たちの組織に何が足りないかを問うことが、次の一手を見つける出発点になります。

まとめ

  • 「場づくり」という新レイヤーの本質――モノやコトの価値を超え、人と組織が出会い意味を共創する”場”をデザインすることが、現代の戦略の中核です。静的な差を埋める発想から、動的に価値を拡張し続ける営みへの転換が、今求められています。
  • 視点と価値を動的に再定義する――バックキャストで未来から逆算し、ユーザーの感情が動く瞬間に本質的ニーズを探ることで、誰も見ていない価値の源泉が見えてきます。視点は才能ではなく、問いと対話によって磨かれるものです。
  • PVSで戦略を現場につなぐ――Perspective・Value・Systemの3要素を統合した「場づくりのPVS」は、大きな戦略と現場の実践を橋渡しします。小さな場から始めて学びながら拡張するアジャイル的発想が、持続的な価値創造の鍵です。

実践のためのQ&A

本書の内容を踏まえ、読者が直面しやすい「1歩先の疑問」についてまとめました。

場づくりを実践したいが、どこから始めればいいか?

本書が示すように、まず「小さな場」から始めることが重要です。全社的な変革を狙うより、部門内の定期的な対話の場や、顧客との少人数勉強会など、動かしやすい単位で試してみましょう。PVSの「S(System)」は局所的サービスの立ち上げを起点とするという考え方が、その背中を押してくれます。

バックキャスト思考を日常業務に取り入れるには?

週次・月次の振り返りに「10年後にこの仕事がどんな社会的価値を生んでいるか?」という問いを加えてみましょう。本書が示すように、良い戦略は10年後の社会を変えるという視座を持つことで、日々の意思決定の質が変わります。

最初は小さな「ビジョン仮説」で構いません。フィードバックを受けながら磨いていくプロセス自体が、戦略をデザインする力の土台を築きます。

多様なメンバーが集まるチームで「場づくり」を機能させるには?

坂田さんが8国籍のチームを率いた経験が示すように、多様性を力に変えるには共通のフレームワークだけでなく、「感情が動く瞬間」を共有できる場の設計が不可欠です。

具体的には、チームメンバーそれぞれの「心が動いた体験」を言語化し共有するセッションを設けること。それが互いの本質的な価値観への理解を深め、共創の土台となります。

坂田幸樹
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この記事を書いた人:増田 浩一(増田みはらし書店 店主/中小企業診断士)プロフィール
ビジョン思考・組織・ブランド・生き方について、良書とともに探究しています。

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