私たちは、すでに自由である！？『さとりをひらいた犬　ほんとうの自分に出会う物語』刀根健

刀根健さんは１９６６年、千葉県生まれ。産業カウンセラー、TAマスターコンサルタントとして、企業や病院、官公庁でコミュニケーションやリーダーシップ開発の研修講師として活躍されていました。

しかし２０１６年９月１日、肺がんステージ４と診断されます。翌年６月には脳転移治療のため１カ月入院。精密検査の結果、脳、両目、左右の肺、首のリンパ、肝臓、腎臓、脾臓、そして全身の骨への転移が見つかりました。医師からは「いつ呼吸が止まってもおかしくない」と告げられる絶望的な状況でした。

ところが、その極限状態で刀根さんは不思議な神秘体験をされます。そしてその体験の後、奇跡的に回復。２０１７年７月末の診察では、がんはほとんど消失していたのです。

現在は、その体験を通して得た気づきをもとに、講演、セミナー、執筆活動を展開されています。著書に『ストローク・ライフのすすめ』『僕は、死なない。』があります。

死の淵から生還した刀根さんだからこそ語れる「ほんとうの自分」「ほんとうの自由」。その深い洞察が、この物語には込められています。

前回は、本書『さとりをひらいた犬　ほんとうの自分に出会う物語』の主人公・ジョンが「知らない」ことに気づき、身体・エゴ・魂のバランスを学び、恐怖という幻想を見抜くまでの旅をお伝えしました。今回の後編では、ジョンが聖地ハイランドで見た景色、そして「ほんとうの自由」の本質に迫っていきます。

前回の投稿は、こちら「魂の声に耳を傾けるには！？『さとりをひらいた犬　ほんとうの自分に出会う物語』刀根健」からぜひご覧ください。

苦しみの正体――抵抗を手放すということ

「苦しいとな……苦しみとは、いまの目の前に起きている体験を受け入れないということじゃ」

ジョンの旅の中で、彼はこの深い真実と出会います。苦しみ。私たちは誰もが経験するこの感情を、どこか避けられないものとして受け入れてきました。でも、本当にそうなんでしょうか。

「苦しいとな……苦しみとは、いまの目の前に起きている体験を受け入れないということじゃ。目の前に展開する現実に抵抗しているということじゃ。ガジョンは、おんしは何を拒んでおるのじゃ？　何に抵抗しておるのじゃ？」

この言葉は、私たちの苦しみの本質を突いています。苦しみとは、現実そのものではないんです。苦しみとは、現実に対する私たちの「抵抗」なんです。

「こうあるべきなのに」「こうじゃなければいけないのに」「なぜこうなってしまったのか」
――こうした思いが、私たちを苦しめます。

現実は現実として、ただそこにある。
でも、私たちはそれを受け入れず、抵抗する。その抵抗こそが、苦しみを生み出しているんです。

雨が降っている。それは現実です。でも「雨なんて降らなければいいのに」と抵抗すれば、苦しみが生まれます。大切な人が去っていく。それは現実です。でも「行かないでほしい」と抵抗すれば、苦しみが深まります。

「ほんとうの強さとは、自分が弱い存在だと知っていることじゃ。わしらは光と影の合わさった存在なのじゃ。光の部分だけがわしのじゃない。影の部分も自分の一部なのじゃよ。光と影、その両方が合わさった存在が自分だと知ること、これがほんとうの強さを連れてくるのじゃよ。ありし・ありしは青白い・強いやつとひともわおらん。あの太陽だってそうじゃ」

私たちは、自分の中の「良い部分」だけを認めようとします。強く、優しく、賢く、正しくありたい。でも、弱さも、醜さも、愚かさも、間違いも、すべて自分の一部なんです。光と影。その両方が統合されて初めて、私たちは「ほんとうの自分」になれるんです。

影を拒絶すれば、それは抵抗になり、苦しみを生みます。でも、影も自分の一部だと受け入れたとき、不思議なことに苦しみは消えていくんです。

「真実というものなど、どこにもありゃせん。ただこの世界に真実などというものはない。おんしがおんしの世界を創っている。おんしがおんしの頭の中に勝手に真実を創っている」

これは衝撃的な言葉です。真実は存在しない？でも、よく考えてみてください。

同じ出来事を経験しても、人によって受け取り方は違います。

ある人には悲劇でも、ある人には学びです。
ある人には終わりでも、ある人には始まりです。

現実は中立なんです。意味づけをしているのは、私たち自身。「これは良いこと」「これは悪いこと」と判断しているのは、私たちの頭の中なんです。

「おんしが創った世界が創造主なのじゃ。全てはおんし自身なのじゃ。おんしは自分自身を目の前の世界に投影するだけなのじゃ。自分を罪人だと思っている者は、どんな出来事も罪を証明するような出来事に見えるし、それを証明するようなことが次々とやってくるように解釈するする。この世界は戦いだと思うておる者は、戦いに向かうことになり、闘う相手が次々と現れる。そういうことじゃ」

私たちは、自分が信じている世界を創り出しているんです。

世界が危険だと信じれば、危険ばかりが目に入ります。
世界が美しいと信じれば、美しさが見えてきます。

現実そのものは変わらない。でも、私たちの解釈が世界を創っているんです。

だから、苦しみから解放される道は、現実を変えることではなく、抵抗を手放すことなんです。いまを受け入れる。光も影も受け入れる。そして、自分が意味づけを創っていることに気づく。そのとき、苦しみは静かに消えていくんです。

「死ぬときに問われること」という箇所で、ジョンはこう学びます。

「おい、おんしはつくづく受けだな。お前は、誰にも聞かれることなく、何だろ？」「俺だろ？」「……」「ほい……ほんとうのことは『どう生きたか？』、なのだ……。死ぬときに、それはその者の『存在』が、まさに、問われるときなのだ。何を持っているかということ、どんなガジンクスは持っているかということ……。地位にいようと、どんな実績があろうと、そんなものはいっさい関係ない。あっちの世界には、そんなガジンクスは持っていけないのだ。死ぬときに問われるのは『どう生きたのか？』『どういう存在であったのか？』」

最期に問われるのは、何を持っていたかではない。どう生きたか。どう在ったか。それは、抵抗せず、いまを受け入れ、光と影を統合して生きたか――という問いなのかもしれません。

存在することの３つの価値――創造・体験・態度

旅の途中、ジョンは存在することの意味を深く理解していきます。そして、それは３つの価値として示されるんです。

「我々には、３つの生きる価値がある」
「３つの価値？」

人は、ただ生きているだけで価値があります。でも、その価値とは具体的に何なんでしょうか。

「そうだ。３つの価値だ。１つは『創造』するという価値だ。自分の行為によって何かを創り上げる。君の場合はガルドスや自衛隊たちとの実際、ある意味ではこの『創造』価値なのだ」

第１の価値は「創造」です。私たちは、自分の行為によって何かを創り出すことができます。仕事で成果を出す。作品を作る。誰かを助ける。家族を育てる。形は違えど、私たちは日々、何かを創造しているんです。

これは、多くの人が理解しやすい価値です。「何かを成し遂げること」「結果を出すこと」。それは確かに価値があります。でも、それだけじゃないんです。

「１つ目は『体験』する価値だ。君がどんなことを感じたかということ。何を感じたか、森を感じ、太陽、そして世界を感じながったか？」

第２の価値は「体験」です。何を感じたか。どんな体験をしたか。それ自体に価値があるんです。

美しい夕日を見て心が震える。大切な人と過ごす時間に幸せを感じる。困難を乗り越えて達成感を味わう。失敗して悔しさを噛みしめる――これらの体験、すべてに価値があります。

結果を出さなくても、何かを創造しなくても、ただ感じること、体験することそのものに意味があるんです。森を感じる。太陽を感じる。世界を感じる。それは、生きているからこそできることです。

「『態度』による価値？」「そうだ。『態度』による価値だ。どういう場面においても、自分の魂の声を聴き、その声に従って語り高く、愛に満ちた自分でいること。『これが私だ』という私である（Being）ということじゃ。『態度』による価値だ」

そして第３の価値、これがもっとも深い価値かもしれません。「態度」による価値。Beingとしての在り方です。

どんな状況でも、自分の魂の声を聴く。その声に従って、愛に満ちた自分でいる。「これが私だ」と胸を張って在ること。それは、何をするかではなく、どう在るか、という価値なんです。

成功しても失敗しても。健康でも病気でも。若くても老いても。どんな状況であっても、「これが私だ」と言える在り方。それは、外側の条件に左右されない、内側からの価値です。

この３つの価値は、段階的に深まっていきます。

創造する価値から、体験する価値へ。
そして、態度による価値へ。
最後の「態度」は、何も持っていなくても、何もできなくても、ただ在ることで発揮できる価値なんです。

そして、これらの根源には何があるのか。ジョンは学びます。

愛と恐れ。この２つの根源的な感情が、私たちのすべての行動を決めているんです。

愛から行動するのか、恐れから行動するのか。愛から選択するのか、恐れから選択するのか。同じ行動でも、その根源が愛なのか恐れなのかで、意味が変わってくるんです。

恐れから生きれば、人生は縮こまります。失敗を恐れ、拒絶を恐れ、変化を恐れる。安全な場所にとどまり、新しいことに挑戦できません。

でも、愛から生きれば、人生は開かれていきます。誰かのために行動する。自分の成長のために挑戦する。世界をより良くするために貢献する。恐れはあっても、愛の方が大きいから、一歩を踏み出せるんです。

ジョンの旅は、恐れから愛へのシフトでもありました。
最初は不安と恐怖に満ちていた旅が、次第に愛と信頼に変わっていく。
それは、彼が３つの価値を理解し、愛という根源につながっていったからなんです。

私たちは、毎日、選択をしています。その選択は、恐れからですか、それとも愛からですか。この問いを持つだけで、人生は変わり始めるんです。

ハイランドはここにあった――自分から自由になる旅の終わり

ジョンは、ついに伝説の聖地ハイランドへの到達を果たします。
長い旅の果てに、彼が見た景色とは何だったのでしょうか。

実は、ハイランドは「外側」にはなかったんです。
探し求めていたものは、最初から自分の中にあった。

これが、ジョンの、そして私たちへの最大の教えです。

私たちは、幸せを外側に求めます。理想の仕事、理想のパートナー、理想の生活。「あれが手に入れば幸せになれる」「あそこに行けば答えが見つかる」――そう信じて、外側を探し続けるんです。

でも、ジョンが気づいたように、ハイランドは外側にはありません。
すでにここにあるんです。いま、この瞬間に。あなたの中に。

大いなるものと一体化している感覚。それは、分離していると思っていた自分が、実はすべてとつながっていることに気づくことです。自然も、他者も、宇宙も、すべては一つ。その一部として、私たちは存在しているんです。

「そう。エゴを見張っているということ、エゴを外から見ることができるということは、君はエゴではないということじゃ」

そして、ジョンは重要な気づきを得ます。エゴを見張れるということは、自分はエゴではないということ。

「エゴを、正しく使うんですか？」「そうじゃ。エゴも大切な機能じゃからの。エゴがなければわしらは生活ができん。名前も覚えてもらえんじゃろう。でもでも、エゴにだって来ることができる。この世界を生きいくことは難しいことじゃがエゴじゃ。しかし、いつの間にかエゴが頭の中を支配してしまって、エゴが自分だと思いこんでしまうと、それに振り回されてしまうんじゃよ」

エゴは必要なものです。社会で生きていくために、自己認識は欠かせません。

でも、エゴに支配されてしまうと、私たちは本質を見失うんです。

「私はこういう人間だ」「私はこれを成し遂げなければならない」「私は認められなければならない」――こうしたエゴの声に振り回されて、私たちは苦しみます。

でも、エゴを外から見ることができたら？

「ああ、いまエゴが騒いでいるな」と気づけたら？そのとき、私たちはエゴから自由になり始めるんです。

「ほんとうの自由とは何か、わかったかね？」「はい、ほんとうの自由とは、外側の何かから解放されることではなく、自らの内側、エゴの声といった『自分』から自由…これがほんとうの自由です」「そうじゃ。ほんとうの自由とは『自分の内側の自由』なのじゃよ。そのことの魂の声が開こえるのじゃよ」

ほんとうの自由。

それは、鎖を断ち切ることでも、どこか遠くへ行くことでもありません。

自分の内側の自由なんです。

エゴから自由になること。条件づけから自由になること。「こうあるべき」という思い込みから自由になること。

そして、そのとき初めて、魂の声が聞こえてくるんです。

ジョンの旅は終わりました。でも、それは同時に新しい始まりでもあります。なぜなら、彼は「ほんとうの自分」に目覚めたからです。ハイランドは外側になかった。すでにここにあった。そして、それは私たち一人ひとりにも当てはまる真実なんです。

あなたが探しているものは何ですか。
それは本当に外側にあるのでしょうか。
もしかしたら、すでにあなたの中にあるのかもしれません。

苦しみは抵抗から生まれます。でも、いまを受け入れ、光と影を統合し、エゴを見張ることができたとき、苦しみは消えていきます。

存在することには、３つの価値があります。
創造する価値、体験する価値、そして態度による価値。
どんな状況でも、あなたは「これが私だ」と在ることができるんです。

そして、ほんとうの自由は、自分の内側にあります。
エゴから自由になり、魂の声を聴く。
それが、「ほんとうの自分」を生きるということなんです。

ジョンの旅は、私たち自身の旅です。あなたも、もう旅を始めています。そして、その旅の終わりに気づくでしょう。探していたハイランドは、すでにここにあったのだと。

まとめ