なぜ、あなたの話は相手に伝わらないのか！？『言葉を短くする技術』岡田真一

岡田真一さんは、ユニシンク合同会社代表として活動されているコミュニケーション専門家です。1970年生まれで、高校を首席で卒業後、大学では応用電子工学を専攻。その後アメリカに留学し、グローバルな公関関係を学ばれました。

興味深いのは、その多彩な経歴です。教育機関での指導から、フィットネスクラブでの健康産業まで、幅広い分野で人と関わってきた経験が、岡田さんの深いコミュニケーション洞察の基盤となっています。現在では5000人以上にセミナーや研修を提供され、様々な業界・職種の方々のコミュニケーション課題に向き合ってこられました。

特に印象深いのは、岡田さんが現代社会における「話しすぎる文化」に対して持つ危機感です。スマートフォンの普及によって変化した私たちの脳の働き方、SNSが生み出した新しいコミュニケーション環境、そして日本人特有の「丁寧に話そうとして却って伝わらなくなる」という現象まで、幅広い視点から問題を捉えています。

本書は、そうした現代的な課題に対する実践的な解決策として「言葉を短くする技術」を提示した、極めて時代性の高い一冊となっています。

現代人が陥る「言葉の罠」の正体

この本を読んで最も衝撃的だったのは、私たちが日常的に陥っている「言葉の罠」の実態を知ったことです。

現代人のコミュニケーション問題は、単なる技術不足ではありません。もっと根深い構造的な問題なんです。岡田さんが指摘する３つの症候群を見ると、その深刻さがよく分かります。

まず「文章終わらない症候群」。これは本当に身に覚えがあります。

そのような状況の中で、本当に大切なものが埋もれ、見過ごされているのではないでしょうか。

話している本人は丁寧に説明しているつもりなのに、聞き手にとっては要点が見えない。情報過多の時代だからこそ、この症状は深刻化しているんです。

次に「主語がない」問題。日本語の特性でもありますが、これが現代のコミュニケーションでは大きな障壁になっています。誰が何をするのか、何について話しているのかが曖昧なまま会話が進んでしまう。結果として、

相手が興味・関心を失った時点で、その会話は失敗に終わっているのです。

そして最も深刻なのが「無音になれない」という現代病です。

スマホがもたらした「脳」の変化。なお最近では、これまで以上に、長い話に耐えられない人が増えています。

私たちの脳は確実に変化している。

短い情報に慣れ親しんだ現代人にとって、長い話は苦痛でしかない。

でも話し手は気づかないまま、延々と話し続けてしまう。

これらの問題は個人のコミュニケーション能力の問題ではなく、時代の変化に私たちの話し方が追いついていないという構造的な問題なんです。だからこそ、意識的に「言葉を短くする」技術を身につける必要があるんですね。

「短くする」ことの本質的な価値

「言葉を短くする」というのは、単なるテクニックではありません。相手への深い配慮の表れなんです。

岡田さんの洞察で特に印象深かったのは、

要するに、「長すぎる」のです。

この一言に込められた重みです。

問題の本質はここにある。私たちは「うまく話そう」「丁寧に説明しよう」という善意から、結果的に相手の時間を奪い、理解を妨げているんです。

その原因とは、「うまく話そうとするから」なんです。

この指摘は目から鱗でした。上手に話そうとする意識が、かえって冗長で分かりにくい話し方を生んでしまう。皮肉なことに、相手のことを思うがゆえに、相手に負担をかけている。

さらに深く考えさせられたのは、現代人の集中力の変化についてです。

時間は有限ですからね。

この当たり前の事実を、私たちはどこか忘れがちです。相手の時間を尊重するということは、その人の人生を尊重するということ。だからこそ「短く話す」ことは、最高の礼儀なんですね。

また、エグゼクティブクラスの人ほど話が短いという事実も興味深い発見でした。

彼らは、話の短い人――話さない人に近寄ってきます。自分と同じ価値観だからです。

これは単なる効率性の問題ではなく、同じレベルでコミュニケーションが取れる相手への信頼感の表れなんです。簡潔に話せる人は、相手の立場や状況を理解できる人。だから信頼される。

短く話せば話すほど、相手に真意が伝わる！

この原則は、私たちのコミュニケーション観を根本から変える力があります。

多くを語ることが誠意ではなく、少ない言葉で本質を伝えることこそが真の誠意なんです。

実践的な変革への道筋

理論だけでなく、実践的な技術も充実しているのがこの本の素晴らしさです。

最も印象的だったのは「区切る」技術の重要性です。

話は無理してでも区切ったほうが圧倒的にうまく伝わる

これは技術的なポイントですが、効果は絶大です。長い説明を一気にするのではなく、適切なポイントで区切る。相手の理解度を確認しながら進む。この小さな意識の変化が、コミュニケーションの質を劇的に向上させるんです。

さらに実践的だったのは、相手のレベルに合わせたコミュニケーションの重要性です。

「○○会社で営業事務をしているのですが、そのことについては初めて会った女性に紹介されるのですが、初めて会った人にはもう少しくだけたお話をされているなというようなことですぜひお話を聞かせていただいて。勉強になりますし、ぜひ勉強もそうですし、いかがでしょうかという気になりましたか？」

この例を見ると、いかに私たちが日常的に冗長で分かりにくい話し方をしているかがよく分かります。相手のことを考えているつもりで、実は自分の話したいことを一方的に押し付けている。

対照的に、簡潔で相手に配慮した話し方をすると、

シンプルに短く話すことで、相手と心と心でつながることができました。

この変化は単なる技術の問題ではなく、相手との関係性そのものを変える力があるんです。

ここで重要なのは、「言葉を短くする」ことと「要約」は全く違うということです。

まとめることで効率よく相手に伝わるように思いますが、ごと話し言葉において、「要約」は危険です。

この指摘には目から鱗でした。要約は既存の長い内容を後から短くまとめる作業。

でも「言葉を短くする」のは、最初から簡潔に話すこと。根本的にアプローチが違うんです。

聞いているほうは、行間を読まなければいけないからです。

要約された話は、聞き手に大きな負担をかけてしまう。

省略された部分を推測しなければならないし、脳の処理能力も余計に使ってしまう。

一方、区切ることは、ばらばらにして並べるだけなので、脳はただやく処理できます。

この違いは本当に重要です。区切ることで話を整理するのと、要約で情報を圧縮するのでは、聞き手への負荷が全然違う。

特に「イコール言葉を区切る技術」という概念は、実践しやすい具体的な指針になります。

話を短くするというのは、イコール言葉を区切る技術とも言い換えられます

ひとつの長い話を複数の短いメッセージに分割する。

これだけで、相手の理解度も集中力も格段に向上する。

そして何より重要なのは、相手の「会話レベル」を見極めることです。エグゼクティブには簡潔に、初対面の人にはより丁寧に、でも冗長にならないように。この匙加減こそが、真のコミュニケーション技術なんですね。

コミュニケーションについて考える時こちらの１冊「言葉とは、そもそも何か！？『読解力は最強の知性である　１％の本質を一瞬でつかむ技術』山口拓朗」もとても刺激的な示唆を提供してくれるかもしれません。おすすめです。

まとめ