- どうしたら、誰もない道を進む勇気を持つことができるのか？
- 実は、自分なりの指標をもとに行動してみることが重要です。
- なぜなら、正解のない仕事には、失敗も無ければ、間違いもなく、基準もないからです。
- 本書は、そんな道を歩む上で、大切なことをラジオの企画現場にいる石井玄さんの視点で描き出す１冊です。
- 本書を通じて、自らを信じて進むヒントを得られるでしょう。
ポチップ
関係性を編み直す！？
石井玄（いしい・ひかる）さんは、ラジオディレクター・イベントプロデューサー・エッセイストとして、企画という“見えない仕事”の最前線を歩んできた方です。
『オードリーのオールナイトニッポン in 東京ドーム』をはじめ、『あの夜を覚えてる』『佐藤と若林の3600』など、多くのリスナーの記憶に残る番組やイベントの裏側には、石井さんの「企画力」があります。
学生時代からラジオに惹かれ、専門学校を経て制作会社へ。深夜ラジオのADからスタートし、やがてチーフディレクターとして番組を任されるように。そして2024年には、ニッポン放送を退職し、自らの会社「玄石」を設立。現在も、ラジオやイベントの企画・プロデュースを手がけるかたわら、言葉を紡ぐエッセイストとしても活躍しています。
企画の現場で常に向き合ってきたのは、「答えのない問い」と「何もないところから立ち上げること」。だからこそ、石井さんの言葉には、実感と静かな勇気が宿っているのかもしれません。
本書で描かれているのは、石井玄さんがラジオやイベントの現場で「まだ誰もやっていないこと」に挑んでいく過程です。番組の企画、収録の場づくり、そして他者との協働。そのどれもが、「正解がない」という前提から始まっています。
たとえば引用にあるように、石井さんは「主導権を握るための発言」をやめ、参加者全員が“等しく発言できる場”を意図的に設計します。そのうえで、「ここはこうかもしれません」「でも、その部分はあちらのやり方にさせてください」と、丁寧に翻訳し、すり合わせていく。
そこには、声の大きさでも、正論でもなく、「関係性」から生まれる納得や、合意形成のプロセスが重視されています。
この姿勢は、まさに“見えないリーダーシップ”と言えるのではないでしょうか。
正面から指示を出すのではなく、目線を合わせ、言葉を寄せ合い、相手の中にある“ことばにならない違和感”をすくい取る。そしてそれを、場に合わせて丁寧に翻訳し、前に進む。まるで、水をすくうように。
こうした在り方は、今の時代に求められているリーダー像と深くつながっているように感じます。どんなにAIが発達しても、こうした“間合い”や“気配”の調整までは、まだ難しいかもしれません。
石井さんの姿は、「誰もいない道を一人で進む」のではなく、「誰も通ったことのない道を、誰かとともに歩いていく」──そんな営みを、静かに体現しているようです。
では、こうした状況で求められる「リーダーシップ」とは何なのでしょうか。
石井玄さんが本書の中で繰り返し示すのは、「主導権を握る」のではなく「翻訳し、共有する」というスタンスです。たとえば、以下のような場面が象徴的です。
「私は、お互いに補い合うために集まっているのだから、主導権を握るための発言はやめましょうと伝えたかった。だから、『これはラジオの物語です。みなさん、ラジオのことはわかっているのですね？ 僕はラジオのことはわかっていません。他のことは何もわかりません。だから、みなさんが持っている知識を教えてください。自分たちだけの都合や、文句だけを言わず、一番いいものにしていくために協力しましょう』と言って、その場を収めた。」
この姿勢は、現場を牽引するというよりも、関係性を編み直す役割と言えるかもしれません。
さらに石井さんは、各所で発せられる「文句」を「一文にしてみましょう」と言い、
「言い分を翻訳して噛み砕いて有るようにする」と述べています。
ここに見えるのは、“言語化されていない不安”や“ばらついた思い”を、みんなの共通言語に整えるという作業です。
このとき石井さんが重視しているのが、「間合い」です。
それぞれのセクションが感じている温度を察知し、言葉を合わせ、必要に応じて「この部分はそちらに任せます」と判断していく。
これはまさに、見えない文脈を感じ取り、関係性の中に納得を育てていくタイプのリーダーシップです。
号令やカリスマ性ではなく、「今、何を翻訳すれば、場が少し前に進むのか？」を問い続ける姿勢。
だからこそ、石井さんはAIでは難しいであろう「間合い」や「気配の翻訳」という営みの重要性を、現場から静かに提唱しているのです。
このようなリーダーシップは、成果を出すことよりも「共にいること」を整えることから始まります。
誰かが主語になるのではなく、「みんなで主語を見つけること」。そのプロセス自体に、大きな意味が宿っているのではないでしょうか。
リーダーシップとは！？
このようなリーダーシップは、成果を出すことよりも「共にいること」を整えることから始まります。
誰かが主語になるのではなく、「みんなで主語を見つけること」。そのプロセス自体に、大きな意味が宿っているのではないでしょうか。
そして、もうひとつ重要なのが「越境」です。
石井さんの仕事は、いつも“現場”にあります。しかもその現場とは、単なる内側の話ではなく、「社内」と「社外」、「構想」と「実装」、「専門」と「素人」など、異なる領域の“際（きわ）”に立っているのです。
印象的な一節があります。
「こうした多くの関係者が集まるまったく新しい取り組みは、企画をどんどん広げてクオリティを高めていく段階と、企画を成立させるために動き方を切り替えていく段階があることを強く意識するようになった。」
ここで語られているのは、内側でつくり込み、外に向かって広げていく中で、プロジェクトのフェーズに応じて“ふるまい”を切り替える必要があるということ。
つまり、内部で深めるだけでもだめ、外部からの刺激だけでも不十分。そのどちらも行き来しながら、関係を編み直す──この「行き来の感覚」こそ、石井さんのリーダーシップに宿る越境性です。
ラジオやイベントのようなメディア的企画は、ともすると「誰が主役か」「どこまで仕込むか」が不明確になりがちですが、石井さんはあえてその“あいまいな場所”に立ち、「翻訳」と「調整」の役割を引き受けながら、人と人、人と環境の接点を構築していきます。
それは、単に「仲介」するのではなく、新しい意味や温度感をその都度デザインし直すということ。
そして、その営みのすべてが、「まだ名前のついていない未来」をかたちづくっていくのだと思います。
越境思考についてはこちらの１冊「越境せよ！？『新時代を生き抜く越境思考 ～組織、肩書、場所、時間から自由になって成長する』沢渡あまね」もぜひご覧ください。おすすめです。
ポチップ
「フラットさ」が創造を動かす！？
石井さんの企画に共通しているのは、ヒエラルキーや役職に頼らない「フラットな関係性」の設計です。
「肩書きや役職で括らずに、できることはなんでもやる」「肩書きはいらない」という考えを持ちはじめた。
プロデューサー、ディレクター、クライアント、出演者、ユーザー──立場や役割が固定されがちなメディアの現場において、石井さんは意識的にそれを解体しようとします。
なぜなら、「いいもの」は枠を越えた対話と行動からしか生まれないからです。
だからこそ、石井さんの現場では「誰が上か下か」ではなく、「誰がこの椅子に今座るべきか」が問われるのです。責任をとる人が決まっているという意味でのプロデューサーではなく、「誰が最もこの場に貢献できるか」という視点で役割を再構成していく。
こうした「場のための役割設計」は、役職や制度で動く組織論とは異なる、“プロジェクト駆動型”のリーダーシップと言えるでしょう。
肩書きを手放すことが、可能性を広げる
「実際に、自分も会社を辞めてからますますなんと括っていいかわからない存在になっている。でも、その方が仕事していても楽だし、自分の中の幅が広がる」
石井さん自身が会社という枠を抜け出したこともまた、この思想の延長線上にあります。
自分を何かで定義しないということ──それは不安でもありますが、同時に「出会い」「広がり」「余白」を生む源泉でもあります。
そしてそれは、誰かにだけ許される特殊な立場ではなく、今の時代において誰もが選び取ることのできるスタンスなのではないでしょうか。
「あたらめて肩書きを捨てて、括らずに生きてみたら、楽しいですよ。」
この言葉は、企画者だけでなく、私たちひとりひとりに開かれたリーダーシップのあり方を示してくれているように思います。
まとめ
- 関係性を編み直す！？――自分一人でできることを認識し、他者との関係性を見出していく過程にこそ、創造性が求められます。
- リーダーシップとは！？――それは、内外を超える力とその実行によって積み重ねられるものなのかもしれません。
- 「フラットさ」が創造を動かす！？――立場や役柄を超えて、互いにより良いものを目指す視点でつながることができるかが重要です。
ポチップ
