人の生きるは、“あいだ”にある!?『関係人口~都市と地方を同時並行で生きる~』高橋博之

関係人口~都市と地方を同時並行で生きる~
  • 豊かな人生を立ち上げていくためには、何が大切でしょうか。
  • 実は、“関係人口”を指標にしてみることが重要かもしれません。
  • なぜなら、“関係人口”を起点にすることで、人間の本質的な欲求である社会の中でつながりを持ち続けて生きることを志向できるからです。
  • 本書は、『東北食べる通信』の創設者である高橋博之さんによる、生き方を考える1冊です。
  • 本書を通じて、私たちのそもそもの欲求に触れることができます。

関係人口にフォーカスしよう!?

高橋博之(たかはし・ひろゆき)さんは、元・岩手県議会議員、元・岩手県知事選候補という政治の現場を経て、「NPO法人東北開墾」や「ポケットマルシェ」の代表として活躍されている実践者です。地方と都市の架け橋となるサービスを通じて、関係人口のリアリティを形にしてきた人物でもあります。

特に注目すべきは、「食」や「生産者と消費者の関係」にフォーカスしながら、都市住民が地方と“関係”を持つ新しい仕組みを創り続けている点です。

みなさんは、「定住人口」や「交流人口」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

しかし、本書で鍵となるのは、その中間的な存在である「関係人口」です。

関係人口とは、単に観光客として訪れるだけでなく、かといって定住するわけでもない──「地方と継続的に関わり続ける人々」のことを指します。

この関係人口が生まれることで、都市と地方の間に“循環”が生まれ、経済や文化、価値観に多様性が生まれていくのです。

ではなぜ、今このタイミングで「関係人口」なのでしょうか?

その背景には、「一極集中型の都市生活」や「地方の過疎化」といった社会構造の限界があります。

本書では、定住や人口の奪い合いではなく、「関わりの総量を増やす」という視点が重要だと説かれています。

「関係性」は、定住以上に人と人、地域と地域をつなぐ“絆”になる。

これは、人口減少社会を生きる私たちにとって、新しい発想の転換を促す重要な提案です。

高橋博之さんは、指摘します。

現代社会では、本来不可分である「消費者と生産者」「都市と地方」「人間と自然」が分断されてしまっている。僕たちの会社は、「消費者と生産者」の接触面積を広げ、都市と地方のあいだに「関係人口」を生み出すことで、日本中あらゆる場の可能性を花開かせていきたいと考えている。

地域の中には、たくさんの資源があるのに、それを上手に活用することはできていないし、それを掘り起こして、新しい価値を生み出すための体質改善に役立つのが、「関係人口」という概念です。

高橋さんは、本来は連続していたはずの関係が、現代では分断されてしまっていると指摘します。

たとえば、私たちの暮らしを支えている「食」。本来は、顔の見える関係の中で成り立っていた「生産」と「消費」の循環が、効率化と分業化の中で切り離され、誰がどのように作ったものかを意識する機会は減ってしまいました。

「都市」と「地方」もまた、ライフスタイルや経済構造の違いから、互いに遠い存在となりつつあります。

そして、「人間」と「自然」。この最も根源的なつながりさえも、都市の生活では見えにくくなってしまっているのです。

そうした断絶の時代において、「関係人口」という考え方は、それらの間に“橋をかける”概念だといえるでしょう。

消費者と生産者の接点を増やす。

都市と地方を一方通行でなく、往還可能な関係にする。

人と自然の感覚的な距離を縮めていく。

そうした小さな往復運動の積み重ねが、地域の新たな資源を掘り起こし、社会の体質を変えていく鍵になるのです。

動きを起こす関係性!?

関係人口があれば、つながりを持つ双方のマインドセットを喚起することができるのです。

働きかける側、働きかけられる側、双方の「生きる」を喚起しながら。

関係人口とは、実は、個に閉じないということから、人間の生きるニーズに触れる、あるいは、ネットワークのインパクトをもたらすものとして捉えることができます。

関係人口とは、実は、個に閉じないということから、人と人との「あいだ」に宿る価値を育てる営みなのかもしれません。

現代社会は、自己完結的な生き方や「自分らしさ」の追求が強調されがちですが、それだけでは人は深く根を張れません。他者との関係、社会とのつながり、見知らぬ土地との縁──そうした「あいだ」の関係性こそが、人の内なる「生きる力」を刺激し、再起動させてくれるのです。

つまり、関係人口とは、単なる地方創生の手段や観光の延長ではなく、都市に住む私たち自身が、自らの“他者性”に出会い直すための装置でもあるということ。

誰かに必要とされる感覚。

自分の行動が誰かの暮らしにつながる実感。

そうした“関係の手ごたえ”が、自らの存在を肯定するまなざしへとつながっていきます。

関係人口は、人を動かすのではなく、人の中に“動きを起こす”。

その動きは、やがて社会の風通しをよくし、都市と地方という構造さえも編み直すことにつながるのではないでしょうか。

高橋さんは、地域は、今、主体性を失っていると危機感として訴えます。

その洞察は、哲学的でもあります。

たとえば、フランスの思想家ミシェル・フーコーは、「近代の権力」はもはや「殺す自由」ではなく、「生を管理する自由」であると論じました。これがいわゆる「生権力」の概念です。人々の暮らしや健康、教育、経済活動にまで国家が積極的に介入し、「良き生」を制度的に設計しようとする権力構造──そこでは、個人や地域の主体的な選択は、知らぬ間に“管理”のもとに置かれていきます。

これと呼応するように、スペインの哲学者オルテガ・イ・ガセットは、その状況を「生の国有化」と呼びました。

今日、文明を脅かしている最大の危険はこれ、つまり生の国有化、あらゆるものに対する国家の介入、国家による社会的自発性の吸収である。(『大衆の反逆』)

高橋さんは、この「社会的自発性の吸収」が、まさに現在の日本の地方にも当てはまると指摘します。

補助金や制度、行政主導の地域振興──それ自体が悪いわけではありませんが、それが地域の「問いを立てる力」や「自ら動き出す意思」を奪ってはいないか。

いつしか、「してもらう」ことが前提になり、「自ら仕掛ける」ことを忘れた地域。

それが、人口減少や経済衰退以上に深刻な問題であると、本書は私たちに突きつけているのです。

芸術家の岡本太郎さんの引用をもとに、空虚感をレビューしてくれています。

スタンドでの感激はあっても、やはりただの見物人であるにすぎないのです。ひとがやったこと、あなたは全人間的にそれに参加してはいない。けっきょく、「自分」は不在になってしまう。空しさは、自分では気づいていなくても、カスのようにあなたの心にたまっていきます。楽しむつもりでいて、楽しみながら、逆にあなたは傷つけられている。言いようのない空しさに。(『今日の芸術』)

どこか虚しさを常に伴う不足感としての空虚感から卒業するためには、自分自身に充足するために“グラウンド”に降りることが大切であると、説きます。

生は、常にリスクテイクである!?

高橋博之さんは、地域が本当の意味で主体性を取り戻すためには、「生きるとはどういうことか」という問いを避けては通れないと説きます。

そこには、「死」という言葉すら隠れていません。むしろ、はっきりと示されているのです。

現代社会は、死を日常から遠ざけ、「安全」「安心」「成長」という言葉で未来を設計しようとします。しかし、命には限りがあり、地域にも終わりがあるかもしれない──その現実を直視したときにこそ、逆に人間の創造性やコミュニティの可能性は芽吹いていくのではないか。

「このままでは、私たちの地域は本当に終わってしまうかもしれない」

その切実な自覚が、「誰かが何かをしてくれる」という依存の構造から、「自分たちが何を為すか」という自発的な行動へと、人々を突き動かすのです。

それはまさに、“リスクを引き受ける”という態度に他なりません。

そもそも、僕たち人間にとって、生きることそのものがリスクと言えないだろうか。

高橋さんが提案する「関係人口」も、ある意味では“他者と関わるリスク”を受け入れることから始まります。

都市の人が知らない土地に関わり、慣れない文脈の中で自分を差し出す。

地域の人が、外から来た人に自分たちの誇りや課題をさらけ出す。

こうした相互の「小さなリスクテイク」が、やがて「わかり合う」という信頼の種を育てていくのです。

だからこそ、最初の一歩は、死を意識するほどの本気さ、つまり「覚悟」からはじまるのだと、高橋さんは私たちに語りかけているのではないでしょうか。

必要なのは、完璧な未来像でも、万能な政策でもない。

むしろ、「このままでは終わるかもしれない」という“終わり”を引き受けた先にある、「それでもやってみる」という希望なのです。

衝動は、深入りせず淡白な「ツルツル」した人間関係からは生まれない。複雑かつ濃厚な「ごにょごにょ」した人間関係から生まれる。

高橋博之さんは、そうした「濃度ある関係性」こそが、生きることそのものであると語ります。

「関係人口」とは、単なる地域活性のための手法ではありません。
それは、人と人とのあいだ、都市と地方のあいだ、個人と社会のあいだに生まれる“ゆらぎ”を受け入れ、そのゆらぎの中で生きることそのものを、もう一度信じてみる営みです。

便利さや効率化だけを追い求めれば、「あいだ」は摩擦として処理されていきます。
しかし、そうした摩擦の中にこそ、私たちは他者と出会い、自分自身の手触りを取り戻すことができる。

本書『関係人口』は、そのような“あいだ”を生きる勇気を、そっと背中から押してくれる一冊です。

もしかすると、今、私たちに必要なのは「どこに住むか」ではなく、「誰とのあいだを耕すか」を見つめ直すことなのかもしれません。

まとめ

  • 関係人口にフォーカスしよう!?――つながりにこそ可能性が生まれるのです。
  • 動きを起こす関係性!?――関係人口が動きを作り出します。
  • 生は、常にリスクテイクである!?――生ききる覚悟を持つことが重要なのです。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!