価値を創造せよ!?『「価値」こそがすべて!』フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー

「価値」こそがすべて!
  • どうしたらよりよい事業を創造することができるでしょうか。
  • 実は、大切なのは、価値を考えることです。
  • なぜなら、価値が持続性を担保する指標になるからです。
  • 本書は、ハーバード・ビジネス・スクール人気論点の書籍レビューです。
  • 本書を通じて、いかに価値が重要なのか、そして、売上や利益に代わる着眼点としてどのように運用するべきかを知ります。
フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー,原田 勉
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戦略とは!?

「戦略=価値の移動」!?

著者フェリックス・オーバーフォルツァー=ジー(Felix Oberholzer-Gee)氏は、ハーバード・ビジネス・スクールの教授として、長年にわたり企業戦略と価値創造のメカニズムを研究・指導してきました。

従来のように、業界内でポジションを取ることや、競合と差別化をすることに固執するのではなく、「バリュー・スティック」という明快なフレームを用いて、企業の戦略行動を「価値の流れ」として捉え直すことを提唱します。

本書を貫く中心的なフレームワークが「バリュー・スティック(Value Stick)」です。

これは、戦略を「価値の分配」として可視化するためのシンプルかつ強力なツールであり、企業がどこで価値を生み出し、どこでその価値をステークホルダーに還元しているかを明らかにします。

バリュー・スティックは、縦軸に4つの指標を配置した1本の“棒”のような図で構成されます:

  1. 顧客の支払意思額(Willingness to Pay, WTP)
     ──顧客がその商品やサービスに対して、最大で支払ってもよいと感じる金額。
     
  2. 価格(Price)
     ──実際に顧客が支払う価格。顧客にとってはコストであり、企業にとっては収入。
     
  3. 企業のコスト(Cost)
     ──その商品やサービスを提供するために、企業が支払うコスト。
     
  4. 従業員の最低受容額(Willingness to Sell, WTS)
     ──従業員やパートナーが、その労働や資源を提供するために最低限受け取りたいと考える対価。

この4点を縦に並べることで、以下の2つの「価値創出余地」が浮かび上がります。

  • 顧客余剰(Customer Delight)= WTP − Price
     ⇒ 顧客が感じる「得をした」分。つまり、「この価格でこれだけの価値が得られるとは!」という満足感です。
     
  • 企業の経済的価値(Firm Margin)= Price − Cost
     ⇒ 企業が得られる利益の源泉。価格とコストの差分。

さらには、従業員やパートナーの満足を高めるには、WTS(働く側の受け取りたい最低額)とCost(企業が実際に払っている額)の差、つまり従業員余剰(Employee Satisfaction)も戦略の重要項目として扱われます。

WTPとWTSの差、つまりバリュースティックの長さが、企業の生み出す価値になります。

この「棒」を伸ばすこと、それこそが価値を増やすという戦略の本質なのだ――そう著者は語ります。

価格を上げるのか、支払意思額を上げるのか、あるいはコストを下げるのか。それとも、従業員の最低希望額に対して十分な報酬や意味を与えるのか。

どこに働きかけ、どこに価値を移動させるのか。

ここに、企業がとるべき行動と意思決定の道筋が示されるのです。

バリュードライバーを設定せよ!?

大切なのは、多くの戦略的なオプションの中から、“少数のバリュードライバー”――すなわち、バリュースティックを最も効果的に伸ばすための要素を見極め、それを集中して高めていくことです。

オーバーフォルツァー=ジー教授は、「戦略とは選択である」と繰り返し強調します。

つまり、「あれもこれも」と追い求めるのではなく、企業の特性や市場環境、ステークホルダーの期待を踏まえた上で、どこに最も大きな価値のレバレッジがあるかを見極め、そこに資源を集中すべきだという考え方です。

たとえば、ある企業にとっては「顧客の支払意思額(WTP)を高める」ことが最大のドライバーかもしれません。その場合は、顧客体験やブランド価値、製品機能などを高める取り組みが戦略の中核となります。

一方、別の企業にとっては「従業員の最低受容額(WTS)を下げる」こと――つまり、働きがいを高め、給与以上の価値を感じてもらうことが重要かもしれません。その場合は、企業文化や職場環境、リーダーシップのあり方が主戦場になるのです。

どのバリュースティックをどのように押し広げるか?
それをシンプルに、かつ意図的に設計し、行動に落とし込むことこそが「現代の戦略」です。

ここで大切なのは、「価値創造」という言葉を抽象的な理念で終わらせず、具体的なドライバーに分解し、日々の意思決定や実務レベルにまで落とし込む“翻訳力”なのだと思います。

アップルの事例

Appleは、まさにWTP(顧客の支払意思額)を高めることに特化した戦略をとる企業です。

iPhoneやMacBookが他のスマートフォンやPCよりも高価格で販売されていても、世界中のファンはそれを「高い」とは感じず、むしろ「妥当」と納得して購入します。なぜでしょうか?

それは、Appleが以下のような多面的な価値を提供しているからです。

  • 製品の美しいデザイン直感的な操作性
  • OSからハードまで一貫した垂直統合モデル
  • 他ブランドを寄せつけないブランドの象徴性
  • Apple Storeなどを通じた一貫した体験設計

これにより、支払う金額(Price)よりもはるかに高いWTPを顧客に抱かせているのです。
バリュースティック上で言えば、「上限を押し上げている」状態。これがAppleの利益率の高さを支えています。

Appleのすごいところは、この「WTPの上限」を引き上げながら、Price(価格)とCost(コスト)も適切に管理し、企業にとってのマージンも最大化している点です。

つまり、「バリュースティック全体を押し広げた上で、自社に価値を残す」戦略を実現しているのです。

相互依存は、例外ではなく、原則です。WTP、価格、コスト、WTSはすべてつながっています。WTPを高めると、バリュースティックを構成する要素も同様に動くのが一般的です。

アマゾンの事例

一方のAmazonは、「価格(Price)とコスト(Cost)を下げる」ことを最大のバリュードライバーとしています。

「できる限り安く、早く、確実に」商品を届けることこそが、顧客にとっての最大の価値である――という強い信念が、Amazonのビジネスモデルの根幹です。

では、なぜこれが戦略として成立するのでしょうか?

  • 自社で物流網を構築し、規模の経済を実現
  • システムの自動化・AI活用によって、人件費や管理コストを削減
  • データに基づく需要予測で在庫ロスを最小限に

これらによって、AmazonはCostを限界まで下げながら、Priceも競合より低く設定できるわけです。
その結果、顧客にとっての余剰(WTP − Price)を広げ、ロイヤルティの高い顧客基盤を獲得し続けています。

さらに注目すべきは、Amazonが物流現場や本社勤務者に対しても高い従業員満足を実現しようとしている点です。これは、バリュースティック下部の「WTS(最低受容額)」と「Cost」の差を考慮した、従業員バリューの最適化でもあります。

2社を比較して見えること

このように、Appleは「WTPを押し上げる」戦略Amazonは「PriceとCostを下げる」戦略で、それぞれバリュースティックの異なるレバーを押して価値を最大化しています。

戦略は多様であってよい。ただし共通しているのは、「バリューをどこで生み出し、誰にどう配分するか」を意図的に選び抜いている点です。

フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー,原田 勉
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価値こそが全てとは!?

本書のタイトルに掲げられた「価値こそがすべて(Better, Simpler Strategy)」というメッセージ。

それは単なるキャッチーな言葉ではありません。

むしろ、現代の複雑で多様化した経営環境において、企業が迷わずに進むための“北極星”のような指針として提示されています。

戦略とは「価値創造こそがすべてである」という点です。

戦略というと、難しいフレームワークや抽象的な理論に振り回されがちです。しかし本書は、その迷いに明快な道筋を示します。

価値こそがすべて。

それはつまり、「誰に、どのような価値を、どう届けるか」にすべての戦略思考を集約すること。
顧客にとっての価値、社員にとっての価値、社会にとっての価値――ステークホルダーの視点から価値を見つめ直すことが、戦略の出発点であり、終着点でもあるということです。

そして、そうした価値を明確に見定めたうえで、それを支えるドライバー(要因)に集中する。
バリュースティックは、そのプロセスを誰でも、明日から使える戦略の道具へと翻訳してくれるフレームです。

複雑な戦略論を、シンプルで、価値に根ざした行動に変える。
それがこの本の最大の贈り物なのではないでしょうか。

価値の創造を考えるには、こちらの1冊「価値は、互いに創れる!?『経営教育 人生を変える経営学の道具立て』岩尾俊兵」もぜひご覧ください。

まとめ

  • 戦略とは!?――価値創造を行うための活動を定義することです。
  • バリュードライバーを設定せよ!?――自社にとって重要指標を選定しましょう。
  • 価値こそが全てとは!?――ステークホルダーとの関係性を検討することです。
フェリックス・オーバーフォルツァー・ジー,原田 勉
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