- 質問の力をどのように借りることが理想でしょうか。
- 実は、具体化→抽象化の順番にヒントがあるかも。
- なぜなら、具体化によって、クリティカルな問題という鉱脈をあてることができるから。
- 本書は、人間の関係を質問という切り口で説く1冊です。
- 本書を通じて、問いの冒険の入口に立つことができます。

上下の質問を使いこなす!?
前回の投稿「それは、聴くこと!!『QUEST「質問」の哲学――「究極の知性」と「勇敢な思考」をもたらす』エルケ・ヴィス」では、こちらの1冊『QUEST「質問」の哲学』をご一緒に見つめてきました。
本書は、ただ答えを引き出すための問いではなく、思考を深め、関係性を育てるための「問い方の哲学」を提示しています。古代ギリシアのソクラテスの対話を現代に蘇らせるように、著者は「無知の知」の態度を土台に、相手と共に思考するための質問の技法を解説しています。
また、問いには3つの姿勢があることも紹介しました。「私」を主語とした主張的な問いから、「あなた」に耳を傾ける受動的な問い、そして最も重要なのが「私たち」で問い合う姿勢です。これは、相手とともに思考空間を開くための成熟した問いのあり方であり、良い質問の本質を体現しています。
今回はその続きを踏まえ、実際にどのような質問が人との関係性を深め、思考を促すのか。具体的な技術や実践例を通して、ご一緒に「問いの“冒険”」の道をさらに歩んでいきたいと思います。
さらに実践的な、質問の技術を見ていく時、前提となる考え方があります。
「上向きの質問」と「下向きのの質問」を使いこなす。
上向きの質問には、抽象化する傾向があり、下向きの質問には、その反対で、具体化する傾向があります。
具体化方向とは、まさに日常生活のことで、具体的な事実のことです。
五感を通じて検知される方向性であると言っても良いかもしれません。
下向きの質問(事実や現実に向かう質問)
目的: 現実の具体性に立ち返り、出来事や事実の構造を明らかにする
使いどころ: 発言の背景にある「状況」「順序」「感覚」の明確化を図りたいとき
主な質問例
・それはいつ起きたのか?
・その時、何を見た?聞いた?感じた?
・実際に何が起きたのか?
・次に何をしたのか?
・誰がそこにいたのか?
ポイント: 下向きの質問は「記憶の中のリアリティ」を丁寧に引き出し、主観ではなく経験の地面を踏み固めるための問いです。感情や意見が浮き上がってきたとき、「どこからそう感じるようになったのか?」と現場に戻ることで、対話の基盤が整います。
上向きの質問(抽象や思考へ導く質問)
目的: 発言の中にある信念、価値観、期待など、抽象的な思考へと登っていく
使いどころ: 発言の奥にある「意味」や「関係性」を探究したいとき
主な質問例
・それはあなたにとってどういう意味?
・その理由は何だと思う?
・XとYの関係は?
・なぜ、それが大切だと思うの?
ポイント: 上向きの質問は、「なぜそう思ったのか?」「その背後にある考え方は?」を丁寧に掘り下げ、抽象化された視点にアクセスするための問いです。個別の事実から、より普遍的なテーマや哲学的な構造に展開していく力を持ちます。
クリティカルポイントへ向かえ!?
人はその具体的な事実にふれる(上述の質問においては、下向きの方向の領域)とき、必ずと行ってよいほど、心を動かします。情動によって、その事実を解釈して、自分の手元に引き寄せます。
その状態では、あるがままをかたること、認識することはとても難しくなっています。
私たちが現実について自分の考えを話し始めると、物事は複雑になる。私たちは発言し、主張をするのだ。
質問において重要なのは、具体的な事実に基づき、その事実によって生じた情動に触れに行くということです。
これを「クリティカルポイント」に達するといいます。
クリティカルポイントとは、話のすべてに決定的な影響を及ぼすポイントであるとも言うことができます。
例をみていきましょう。
たとえば本書に出てくるエピソードのように、スーパーでのささいなトラブルがあったとき、人は往々にして「怒りが爆発した瞬間」や「相手が失礼だった言葉」を話し始めます。しかし、よく聞いてみると、怒りや感情が湧き上がったのは、もっと前の、何気ない一言や空気の変化だったりします。
その「思わず反応してしまった瞬間」――それこそが、会話におけるクリティカルポイントです。
エルケ・ヴィスは、ソクラテス式問答法にならって、「表層の意見」ではなく「その意見が生まれた瞬間」にまで問いを重ねていくべきだと語ります。
つまり、質問の目的は「何が起きたか?」ではなく、「それは、いつ・なぜ・どのように感じたのか?」に向かうこと。
そのプロセスの中で、相手が自分でも気づいていなかった感情や価値観に触れたとき、会話は質的に変わります。そこで初めて、問いはただの情報収集ではなく、「相手の思考の再構成」へとつながっていくのです。
良い質問は、相手の記憶の細部を丁寧にたどりながら、その人の「考えのスイッチ」が入るクリティカルな瞬間をともに発見していく行為でもあります。
クリティカルポイントに達したら、「相手の怒りや悲しみ、不満、認識、意見、視点の背後にある理由を尋ね続けること」が初めてできるようになります。
クリティカルポイントへ向かうには、上述の「下向きの質問」を使います。
例えば、「何が起きたのか」「誰がそこにいて」「何を話したのか」などの詳細なイメージを描いていくことです。
事実を明確に把握したら、次は上向きの質問を続けていきます。

質問とは、信頼関係!?
次のような流れを意識して、クリティカルポイントへの到達を練習してみることも良いかもしれません。
- 相手に、最近あった感情を強く刺激されるような経験について話してもらう。
↓ - 苛立ち、怒り、厳しい判断を伴うような経験です。
↓ - 自分の頭に相手の状況がはっきりとイメージできるレベルまで、具体的な質問を続けます。
↓ - そして、相手にはその時の状況だけではなく、感情も深く描写してもらいます。
↓ - そうして、以下のような言葉を聞けるにまで、至ります。
「・・・(クリティカルポイント)で、私は、・・・をしました。/考えました。/感じました。なぜなら・・・」
↓ - その後は、上向きの質問と下向きの質問を駆使して、相手の思考のプロセスを探っていきます。
この聞き方の根本には、まず相手の話をしっかりと聴くスタンスを大切にするということがあります。その中から、本質的で核心的なものごとに迫るのであるという心構えを持っていなければ、テクニックを機能させ続けることはできないでしょう。
そして、その心構えと、技術が伴った時、初めて、私たちは、問いかけを上手に運用することができるのです。
上向きと下向きの質問がもたらす構造は、あらゆる会話(特に、相手とともに何かの真相を救命したい場合)の強固な支えになる。
ここまで掘り下げるには、当然相手との「信頼関係」が前提となりますね。それをゼロから構築していくためにも、まずよく聴いて、互いにどのような人間なのかを知ることが何より大事なのかもしれません。
そして、質問する側は、常に“教えてほしい”と思い続けることも大切なのかも、と思います。
教えてあげるではなく、何があったのか、何を感じたのか、その解像度を自分も共有してほしい、との思いは、深い関係性の起点となりうるのだと思います。
まとめ
- 上下の質問を使いこなす!?――具体→抽象の流れを質問で実現しましょう。
- クリティカルポイントへ向かえ!?――そこが互いの対話を始める論点となります。
- 質問とは、信頼関係!?――互いをよく知りたいと思えることから始まります。
