一流の“質問の極意”とは!?『世界最高の質問術』マイケル・J・マーコード,他

世界最高の質問術―一流のビジネスリーダー45人が実践する人を動かす「問いかけ」の極意
  • どうしたら人とものごとによりよく関わっていくことができるでしょうか。
  • 実は、“質問”こそが重要なアクションかも。
  • なぜなら、それは人の主体性を引き出すから。
  • 本書は、“質問”を通じてより良い関係を築くためのヒントに満ちた1冊です。
  • 本書を通じて、聞くことの“利”を知ります。
マイケル・J・マーコード,ボブ・ティード,黒輪篤嗣
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質問は人を陥れ、同時に活かす!?

著者マイケル・J・マーコード(Michael J. Marquardt)は、リーダーシップ開発と組織変革の国際的な権威として知られる人物です。米ジョージ・ワシントン大学大学院の教授を務め、Action Learning(行動学習)の第一人者でもあります。

彼は世界中の政府機関、グローバル企業、非営利組織でリーダーシップ開発プログラムを実施しており、70か国以上で数百を超える組織と関わってきた実績を持ちます。その実践を通じて得られた知見が、本書の土台を形成しています。

また、彼は国際行動学習協会(WIAL: World Institute for Action Learning)の会長としても活躍し、問いを活用した組織変革の実践モデルを広く伝えてきました。

本書『世界最高の質問術(原題:”Leading with Questions”)』は、もともと「なぜ優れたリーダーは質問をするのか?」という素朴な問いから始まりました。

多くのリーダーが「答えること」に注力するなかで、マーコードは世界各国の組織リーダーへのインタビューとフィールドワークを通じて、“本当に強いリーダーほど、問いかける力を武器にしている”という法則を見出します。

この気づきをもとに、2006年に初版が出版され、以降、各国語に翻訳されながら改訂が重ねられています。2023年には最新版の日本語訳が登場し、VUCA時代の組織マネジメントにおける「質問の力」を再評価する動きと呼応しています。

世界の賢いリーダーたちは、“質問”の力を最大限に引き出しています。

例えば、以下のような場合にも。

  • メンバーの意欲向上
  • チームワークの改善
  • 画期的なアイデア、常識にとらわれない発想の促進
  • 部下に権限を与えてその能力を引き出すエンパワーメント
  • 顧客との関係構築
  • 問題解決
  • リーダーシップの強化
  • 組織やコミュニティの変革

質問というのは、万能なのです。

でも、実は、質問というのは、良くも悪くも転がります。

実は、悪く転がることを知らずして、いつでも質問を繰り返してしまうことは、状況を悪化させる力も持ち合わせているということを知るのが良いでしょう。

「能力を抑圧するような」質問について、見てみましょう。

  • なぜ予定より遅れているのか。
  • 誰が遅れているのか。
  • この計画の何がいけないのか。
  • それは誰の発案か。

こうした問いかけには、どこか「責める」ニュアンスが含まれています。問いの形をとりながらも、実際には過去の失敗を掘り返し、犯人探しを促すような構造になっているのです。

その結果、メンバーは防御的になり、言い訳や沈黙に走り、建設的な議論からは遠ざかっていきます。つまり、問い方次第で、人の思考や感情は閉ざされるのです。

マーコードは、こうした「思考を止める質問」ではなく、「思考を開く質問」を意識的に選ぶことがリーダーに求められると説きます。

本当に大切なのは、「能力を引き出す(エンパワーメント)」質問です。

良い質問とは!?

その「能力を引き出す(エンパワーメント)」質問を検討していく時に、本書では45人の活躍するトップリーダーをの行動や実際の取り組みをレビューしているのです。

ちなみに、かの有名なピーター・ドラッカーは、有能な重役には次のような実践をする傾向があることを発見したといいます。

  • 「何をすべきか」と尋ねる。
  • 「目標の達成には何が必要か」と尋ねる。
  • 行動計画を立てる。
  • 決定の責任を持つ。
  • 意思の疎通に責任を持つ。
  • 問題よりもチャンスに目を向ける。
  • 会議を建設的なものにする。
  • 「わたし」ではなく「わたしたち」と考える。
  • まずは聞き、そのあとで話す。

まさにこれらの聞き方というのは、本書が大切にする「能力を引き出す(エンパワーメント)」の質問となります。

いい質問の条件をまず確認してみましょう。

それは結果として次のような効果をもたらすことです。

  • 重要なことに関心を向けさせ、潜在的な力を引き出す。
  • 深い熟考を促す。
  • 長いあいだ当たり前と思われ、もっといい新しいやり方が取り入れられるのを阻んでいたことに疑問を投げかける。
  • 勇気と長所を引き出す。
  • 発想の転換につながる。
  • 優れた解決策への扉を開く鍵が含まれている。
  • 状況がよりはっきりと見えるようにする。
  • 心を開かせるとともに、ものごとを深く見つめさせる。
  • 先入観に目を向けさせ、なぜ自分がそうしているのかを考えさせる。
  • 前向きで、力強い行動を促す。

まさに、「良い質問」とは、それ自体が小さな変革装置のようなものです。

つまり、問いの力とは、相手の認識の枠組みをゆさぶり、未来への道筋をともに描いていく行為なのです。

抽象化してまとめてみると以下のような論点が「良い質問」に関して見えてきます。

第1の原則:聞くことに徹する
質問は、相手に話させるための鍵です。しかし、多くのリーダーは「問いかけながら、実は自分の考えに誘導しようとしている」という罠に陥りがちです。
マーコードは、「良い問い」とは、相手の視点を尊重し、心からその答えに耳を傾ける姿勢とセットになって初めて機能すると説きます。

第2の原則:自分が答えを持っていると思わないこと
問いを立てるという行為には、謙虚さが必要です。正解を与えるのではなく、「ともに考える」姿勢こそが、信頼を育み、創造性を引き出します
マーコードが重視する「行動学習(Action Learning)」の手法では、答えを提示するのではなく、問いを通じてチームメンバー自身に考えさせ、行動を促します。

第3の原則:問いを通じて「学びの空間」をつくる
優れた質問は、ただ情報を引き出すものではありません。それは、組織やチーム全体に「考える文化」をもたらす触媒になります。
「なぜそうなっているのか?」「もし違う視点から見るとしたら?」という問いは、現状に対する疑問を生み出し、イノベーションの火種となります。

まさにある意味、1オン1のような対話形式の相互交流の引き金としての「質問」という立ち位置です。

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触媒としての質問とは!?

その引き金を引くやり方として、以下のような質問をアレンジしてみると良いかもしれません。

本書では、「問い方を少し変えるだけで、人の意識や行動が大きく変わる」という視点から、実践的な“問いのリフレーミング”を提案しています。

たとえば、以下のような言い換えは、まさに「能力を引き出す質問」への第一歩となるでしょう。

元の質問言い換えた質問効果のポイント
何をするか何をしたらよいか行動の選択肢を広げ、自発性を促す
誰が知っているか知っている人はいるだろうか受け身から探索的思考へ切り替える
何をめざすべきかどのような結果をめざせるか義務感から希望や可能性へシフトさせる
理由は何かどういう理由が考えられるか一つの正解から、多様な視点を探る思考へ
どこを見るべきかどのあたりを見ればいいか指示から共創へのスタンスへ転換

こうした小さな言い換えが、相手の心を開き、思考を深め、行動を引き出す。まさに、言葉を変えることで「問いの質」が変わり、「対話の質」が変わるのです。

最初からいい質問ができるリーダーはいない。
いかにしていい質問を見つけるかは、すべてのリーダーの課題だ。

「学習する組織」で著名なピーター・ゼンゲ氏は、いい質問をするにはどうしたらいいか?という問いかけに、以下のように答えています。

  • 状況を把握する──より大きな文脈を感じ取って、現在のビジネス環境を広範囲に見渡すとともに、その輪郭を摑む。状況の悪化や好転の兆しに注意する。
  • 核となる問いを見つける──問いを分類して、問いどうしのあいだにどういう関係があるかを考える。隠された深いテーマを突き止める。
  • どういうことが可能かを思い描く──「大きな問い」への答えが見つかったら、どのような状況が生まれるかを考える。できる限りくっきりと、どういうことが可能かを思い描く。
  • 実行可能な戦略を練る──実行可能な戦略は、切実な問いへの答えと、その問いから喚起された展望から生まれる。

よい質問を投げかけるということは、「あなたの考えを大切にしたい」という意思表示でもあります。つまり、質問とは、相手をリスペクトし、共に創る姿勢の表れでもあるのです。

とりわけ組織やチームの中では、次のような関係性の変化をもたらします。

  • 上司と部下 → メンターと探究者
  • 命令と従属 → 共創と自律
  • 問題と解決者 → 可能性と協働者

質問によって、ただの「報告・連絡・相談」の関係が、「考える仲間」「学び合うパートナー」へと変わっていくのです。

私たちはつい、答えを出すことにばかり意識を向けがちです。けれども、本当に人を動かすのは、的確な答えではなく、良質な問いかもしれません。

問いには、相手の思考を刺激し、新たな視点を呼び起こす「思考の起爆剤」としての力があります。さらに、問いを通じて「あなたの考えを聞かせてほしい」と働きかけることは、相手に敬意を払い、対話の余地をつくる行為でもあります。

つまり、よい質問は信頼の触媒です。問いの姿勢そのものが、相手の自己肯定感を育み、関係性を豊かにし、共に未来を考える土台をつくります。

マイケル・J・マーコードが本書で伝えているのは、単なるテクニックではありません。「問い」という言葉の力を通じて、リーダーシップの在り方そのものを変えていこうという提案です。

答えを与えるのではなく、問いをともにするリーダーこそが、これからの時代に求められている──
そうした信念が、この1冊には貫かれています。

質問の力については、こちらの1冊「LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる|ケイト・マーフィ」も合わせてご覧ください。

まとめ

  • 質問は人を陥れ、同時に活かす!?――質問の力は、実はとても偉大なのです。
  • 良い質問とは!?――思考の枠組みをシェイクして、未来への道筋をともに描いていくものです。
  • 触媒としての質問とは!?――それはフラットな共同関係へとつながるきっかけなのです。
マイケル・J・マーコード,ボブ・ティード,黒輪篤嗣
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