- どうしたら短くて長い人生を、よりよく作り上げていくことができるでしょうか。
- 実は、プロティアンという考え方かも。
- なぜなら、変化し続ける、変幻自在で、一人数役を演じるという意味があり、それは、変化を自分のものにしていく考え方として非常に社会と相性がよいのです。
- 本書は、プロティアンという概念について触れて人生をより良くするためのヒントを提供します。
- 本書を通じて、自らの生き方やスタンスを俯瞰するきっかけを得ることができるでしょう。

変化こそが、最良の戦術!?
田中研之輔さんは、社会学者であり、法政大学キャリアデザイン学部教授。専門はキャリア論、ライフコース論、組織社会学です。企業のキャリア形成支援にも深く関わっており、アカデミックな知見を基盤としつつ、実務に活かせる実践的な提言を行うことで知られています。
また、一般社団法人プロティアン・キャリア協会の代表理事も務め、「プロティアン・キャリア」という考え方の普及に注力してきました。この理論は、変化の激しい時代において、組織依存ではなく、自らの意思と戦略でキャリアを築いていく姿勢を重視するものです。
企業研修や人材育成の分野でも活躍しており、資生堂やサントリー、三菱UFJ銀行など、数多くの大手企業の人事戦略にも助言を行っています。また、LinkedInの公式インフルエンサーとしても活動しており、SNSを通じて最新のキャリア観を発信し続けている人物です。
「プロティアン(Protean)」という言葉は、ギリシャ神話の海神プロテウス(Proteus)に由来します。プロテウスは自在に姿を変える神とされており、この語源から「プロティアン」は「変幻自在な」「柔軟に変化する」という意味を持つ言葉として現代に伝わっています。
この神話的な比喩を、キャリアの文脈に持ち込んだのがアメリカの心理学者ダグラス・ホール。そして日本において、この「プロティアン・キャリア」の概念を実践理論として展開してきたのが、田中研之輔さんです。
変化が激しく、予測不能な時代——。
かつてのように、ひとつの会社に長く勤めていれば安泰という時代はすでに終わりました。では、私たちはどう生き、どう働き続けるべきなのでしょうか。
PROTEAN(プロティアン)には、「変化し続ける」「変幻自在な」「一人数役を演じる」という意味があります。
プロティアン×キャリアから見えてくる世界線は、非常に可能性に富んだものになります。
なぜなら、プロティアンというスタンスで変化を受け入れて過ごしていることによって、自分自身のものごとのとらえかたや、その結果による世界が変化し続けていくからです。
そのことによって、さらにプロティアンに資する状況を自ら作り出していく原動力を得ることができるのではないでしょうか。
まったくヒントが無い中で、どのように生きるのかを考えるのは難しいですが、現状をプロティアン思考で見つめることで、自らの中の変化をポジティブに受け入れるマインドセットを呼び覚ますことができるのです。
マインドセットのあり方については、キャロル・S・ドゥエック先生の「やればできる!」(投稿「【あなたは硬直型!?それとも、しなやか型!?】マインドセット:「やればできる!」の研究|キャロル・S・ドゥエック」もぜひご覧ください)の研究もヒントになります。

プロティアン・キャリアとは、単に「転職を繰り返す」といった表層的な意味ではなく、「自らの内的価値観に基づき、自律的かつ柔軟にキャリアを築いていく」ための深い哲学に根ざしています。
プロティアン・キャリアを軸に「生涯を通じて変身し続ける術」について考えていきます。
本書の狙いというのは、人生100年時代を生き抜くうえで欠かせない先祖ん戦略としての「変化への対応」です。
キャリアの主導権を取り戻せ?
キャリアを「会社に用意された道」ではなく、「自らが創り上げていく軌跡」として捉え直すこと。ここに、プロティアン・キャリアを起動させるための第一歩があります。
つまり、キャリアとは、与えられるものではなく、選び取り、耕し、変化させていくものなのです。
そしてもう一つ、忘れてはならない視点があります。それは、キャリアを「結果」ではなく「過程」として捉えること。
昇進や転職といった成果のように見えるものは、あくまで通過点にすぎません。本質的には、日々の選択や対話、自分の内面との向き合い方こそがキャリアそのものであり、それがプロティアンの精神と深く響き合っています。
このような過程思考に立つことで、たとえ思うように進まない時期があっても、「いまこの瞬間もキャリアの一部だ」と受け止めることができるでしょう。停滞ではなく、熟成。回り道ではなく、発酵。そんな風に、自らの歩みに意味を見出すことができるようになるのです。
以下に伝統的なキャリア観と、プロティアンとしてのキャリア観の対抗を記します。
項目 | 伝統的キャリア | プロティアン・キャリア |
---|---|---|
キャリアの所有者 | 組織 | 個人 |
価値観 | 昇進、権力 | 自由、成長 |
組織内外の移動の程度 | 低い | 高い |
成果 | 地位、給料 | 心理的成功 |
姿勢 | 組織のコミットメント | 仕事の満足感、専門的コミットメント |
アイデンティティ | 組織から尊敬されているか(他人からの尊重)自分は何をすべきか(組織認識) | 自分を尊敬できるか(自尊心)自分は何がしたいのか(自己認識) |
アダプタビリティ | 組織に関連する柔軟性(組織内での生き残り) | 仕事に関連する柔軟性現行のコンピテンシー(市場価値) |
*出典:ダグラス・ホール著『Careers In and Out of Organizations』(2002)より一部修正
いつまで「鵜飼の鵜」を続けるのか。
これまでのキャリア観は、たしかに誰かに与えられるものでしたので、それはそれで安心や安楽を感じられたかもしれません。でも、残念ながらそうした大きな物語を個人に継続的に提供できる主体はいなくなりました。
なぜなら、国家や会社も、変化にさらされて人の人生という80~100年の間で、絶え間ない変化を余儀なくされているからです。
だからこそ、逆転の発想で、個人のキャリア観に磨きをかけていきながら、総体を再構築していくような感覚を持って、自ら主体的にものごとを考えていくことが、よりよい環境を作るために必要な視点となっているのです。
3つの視点を意識してみましょう。
1)キャリアとは個人が創造するものであり、組織が管理するものではない。
2)キャリアに社会的な成功や失敗はない。仕事の報酬は目標が達成された時に得られる「心理的成功」の獲得であると意味づけしてみること。
3)仕事には(本来的には)“遊び”の要素が存在するので、(実は)生活との統合が可能であるということ。

仕事とは“遊び”!?
仕事とは、厳しく、苦しく、耐えるものである。
そうした無意識の前提が、私たちの中には根強くあります。
しかし、プロティアンなキャリア観において、仕事は「自己実現の場」であると同時に、「創造的な遊びのフィールド」として捉え直すことができるのです。
たとえば、子どもが夢中でブロックを積み上げたり、落書きをしたりしているとき、彼らはだれかに「成果」や「評価」を求められているわけではありません。
ただ「面白いから」「やってみたいから」その行為に没頭している。
この状態にこそ、“仕事”が本来的に持ちうる「遊び」の要素が宿っているのではないでしょうか。
「遊び」とは、自由意思によって始まり、そこに一定のルールがありながらも、自己選択と創造の余地があるもの。そして、時間を忘れて没頭できるものです。
この定義を仕事に当てはめたとき、それは単なる労働ではなく、「ライフワーク」としての地平が見えてきます。
田中研之輔さんが言うように、プロティアン・キャリアは「変化にしなやかに適応するための内的基盤」です。そしてその基盤は、義務感や社会的期待だけでは決して築けません。
むしろ、「自分が面白いと思えるかどうか」「夢中になれるかどうか」といった、“遊び心”が鍵となるのです。
この意味で、「仕事と生活の統合」というプロティアンの文脈は、単なるワークライフバランスの議論を超えて、「生きること」と「働くこと」のあいだの境界線を溶かしていく行為とも言えます。
そこには、報酬を得るための労働ではなく、自分の価値観や関心に基づいて“仕事をつくる”という能動性が求められます。
仕事に「遊び」が取り戻されたとき、キャリアは苦役から解き放たれ、人生の一部として深く根を下ろしはじめるのです。それこそが、プロティアンな生き方がもたらす、自由で創造的な可能性なのかもしれません。
“遊び”という誰もが夢中になれる分野やことがらにおいて、熱心に活動を続けてみるのが良いかもしれません。もちろん、現在の働き方や組織のコミットメントの中では、なかなかそれが難しい方もいるかも知れませんが、でも見方を変えれば、きっと抜け道はあるはずです。
- 例えば、仕事の中で自主的に提案をしてみる。
- 例えば、自分の趣味と仕事の重複するところを見つけて、何らかの活動のかたちにしてみる。
- 例えば、形式的な(資格などの)学びを機会に、組織にも、そして自分にもフィードバックをしてみる。
- などです。
こうした活動をしていくためには、資産の管理が重要になります。
なによりも大切なのは、時間の管理です。時間がもっとも貴重な資源であるのは、普遍的な事実だからです。
また、時間を投じて、何が増えていくのか?ということについても、意識を向けましょう。
どのような資産が増えるのか、著者の田中研之輔さんは、以下の3つで分類してくれています。
1)生産性資産
2)活力資産
3)変身資産
日頃から意識することのないごく当たり前の事柄を、無形資産として捉えることで、長期的な視点での取り組みや関わり方が可能になります。
生産性資産とは、スキルや経験、知識など、仕事の成果に直結する力です。たとえば業務遂行力や専門的なアウトプット力、タイムマネジメント力などがここに含まれます。
「いま自分が取り組んでいることは、未来の自分にとってどのような価値となるか?」という視点で、毎日の行動を見つめなおすことが重要です。
活力資産とは、心身の健康や、情熱、人とのつながりなど、働き続けるための“エネルギーの源泉”となるものです。
どんなにスキルがあっても、エネルギーが枯渇してしまえばキャリアは持続できません。運動や睡眠、よい人間関係、そして「好き」という感情も、すべてこの資産を高めてくれます。
もっともプロティアン的なのが変身資産です。これは、変化に適応し、自らを更新し続けるための“しなやかさ”のようなもの。
新しい挑戦に飛び込む力、失敗から学ぶ力、自分の枠を広げる学習力——こうした力を育てることで、キャリアは固定された道ではなく、変化とともに進化していく軌跡へと変わります。
この3つの資産に日々の時間をどう投じているか?
それを問い直すことが、プロティアンな生き方の起点になります。
3つの資産を上手に管理しながら、蓄積していることも肌で感じ、積極的な活動に結実させていきましょう。
ぜひ次回も引き続き、本書『プロティアン 70歳まで第一線で働き続ける最強のキャリア資本術』のレビューを続けて、人生のあり方について検討してみましょう。
まとめ
- 変化こそが、最良の戦術!?――なぜなら、世界こそ変化し続けているからです。
- キャリアの主導権を取り戻せ?――自ら切り拓くものであると覚悟を決めましょう。
- 仕事とは“遊び”!?――本来的な意味合いを求めて、取り戻す思想と行動を鍛えましょう。
