- どのように事業やビジネスをスタートして育てていくのがよいでしょうか!?
- 実は、「小さく」でも確かに始めていくということが重要です。
- なぜなら、それが次のステップへの光を照らしてくれるからです。
- 本書は、リーンスタートアップの考え方と手法を振り返る1冊です。
- 本書を通じて、確実に歩みを進めていくためのヒントを得ることができます。

ビジネスとは幸せである!?
本書の著者である斉藤徹さんは、経営者であり教育者、そして“共感資本社会”の実践者としても知られる人物です。早稲田大学ビジネススクールで教鞭をとる一方、長年にわたってIT業界で起業家として活躍してきました。
1980年代からインターネットビジネスの最前線で活躍し、1991年にはインタラクティブ・マーケティングの先駆企業であるトライバルメディアハウスを創業。数々の企業ブランディングやデジタルコミュニケーションのプロジェクトを手がけてきました。その後も株式会社ループス・コミュニケーションズを創業し、SNS黎明期から“共創”を軸にした社会のあり方を模索し続けています。
近年は「共感資本社会のつくりかた」「ソーシャルシフト」「BEソーシャル!」などの著書を通じて、企業や個人が“共感”をベースにした経済活動をいかに実現するかを説いてきました。
本書『小さくはじめよう』では、そうした思想の実践編として、より個人にフォーカスを当て、自分らしい仕事のつくりかたを丁寧にガイドしています。
斉藤さんが伝えてくれるのは、実は、「幸せの循環のメソッド」であると言います。
事業やビジネスというのは、その人が実は人生をかけて、真剣に前のめりに進めていくものにほかなりません。事業、ビジネスと言うとどうしても経済や収益、利益などの数字面がちらついてきてしまうものです。
でも、よく考えてみると、これは価値の交換であるということ。
事業とは何か。それは「社会の役に立つ商品やサービスを提供して、感謝の気持ちとしてお金をいただき、それが持続的な経済活動として成立していること」といえるだろう。
そこでは、他者との関係性があるし、自分自身の特徴特技があるし、自信の考え方についてもアップデートできるものであるし、具体的な活動をしていくことが重要な視点となります。
また、豊かさのための資産活用という側面もあるでしょう。自分のスキル、社会とのつながり、結果としてお金・・・そのようなあらゆる視点で、自分と社会の接点を考えながら豊かに生きることを思考するきっかけと行動を促してくれるものです。
そんな“自分らしい豊かさ”を形にする手段として、「マイクロ起業」という概念が提案されています。これは、大きな資金調達やスケール志向とは無縁の、小さくて、等身大で、持続可能な起業のかたちです。
特徴的なのは、いわゆる“スタートアップ”のような急成長モデルとは異なり、自分の「好き」や「得意」を起点に、最初の一歩を踏み出すことに重点が置かれている点です。
斉藤さんは、マイクロ起業を以下のようなステップで捉えます。
- 好きなことを言語化する
- 小さく顧客に価値提供してみる
- フィードバックを受けて磨く
- 共感を広げ、仲間をつくる
このプロセスは、単なる起業ノウハウではありません。そこには、自己理解と社会的価値の発見があり、他者とのつながりを深めていく過程そのものが“ビジネス”になっていくという思想があります。
この本の目的は、自分らしい事業を手作りすることだ。
また本書では、多くの実例とともに、読者自身が手を動かしながら「自分自身のビジネスの原型」をつくっていけるワークも多数収録されており、まさに“手づくりのビジネス書”と呼ぶにふさわしい構成です。
幸せから始めよう!?
何より大切なのは、小さく背伸びをするよりも、自分の好きなことを見つけて、小さく始めてみることが重要なのです。
それを真剣に見つめていることが、もっとも重要なスタート地点となります。
背伸びをするよりも、自分の好きなことを見つけ、小さく始めてみること。すこしずつ育てていくこと。
これが重要なのは、なぜか?
それは、冒頭にも触れた通り、事業やビジネスが幸せの好循環であるということなのです。
誰の幸せか?それは、自分自身と他者との関係性の中で育まれるものです。だからこそ、自分自身も蔑ろにしてはならないのです。
「幸せ視点」から始めていきましょう。
こうした「幸せ視点」が昨今の経営者のスタンスになってきているのではないか?ということを斉藤さんは伝えてくれます。
<20年前の主流的な発想>
①世界を変えるようなビッグアイデアをひらめく
②経営環境を分析し、立派な事業計画をつくる
③起業チームを結成し、起業資金を集める
④オフィスを借りる、人を雇う、Webをつくる、広告をうつ
⑤いかにお金を集めるか、いかに集客するか
⑥社員とも顧客とも、お金を通じた関係になる
⑦キーとなるのは、資本戦略、製品戦略、マーケティング戦略
⑧目標は、最短距離の成長、トップシェア、企業価値の最大化
<今の主流的な発想>
①自分が夢中になれるスモールアイデアをひらめく
②計画より前に、経験を積み、学習し続ける
③その過程で、コンテンツが磨かれ、同志の輪が自然と広がる
④価値観をともにする友人のチカラを借りて、小さくはじめる
⑤いかにいいサービスをつくるか、いかに顧客の事前期待を上回るか
⑥一期一会。人との出会いを大切にする
⑦無理に告知しない、無理に戦略をたてない、無理に拡大しない
⑧ビジョンはあるが、自然な流れを大切に、幸せの連鎖を広げる
このように、斉藤さんが提唱する「小さくはじめる」ビジネスのあり方は、いわゆるユニコーン的な急成長モデルではなく、持続可能で共感ベースの「ゼブラ企業」のようなスタイルと響き合っています。
ゼブラ企業とは、成長とともに社会課題の解決を両立させる企業のこと。斉藤さんが強調するように、収益性だけでなく、関係性や共感、継続性といった「見えにくいけれど大切な価値」にこそ、これからのビジネスの重心が移ってきているのです。
だからこそ、「幸せの循環」を起点にするという発想は、単なる理想論ではありません。むしろ、変化の激しい時代をしなやかに生き抜くための“現実的な選択肢”とも言えます。
それは、スキルや戦略よりも先に、「自分の心が震えること」を掘り下げること。そして、その価値を誰かと分かち合おうとする姿勢に、経済的な価値も、人的なつながりも、後からついてくるという順番です。
この順番を信じることができるかどうか。そこに、本書の問いかける「勇気」と「希望」が詰まっているように感じました。
1)Why = なぜ私が? → 自分が本当にしたいことを言語化して、好きや強みを探索する
2)What = どんな価値を? → 自分の好き強みを組み合わせて、自分らしいアイデアの種を探索する
3)How = どのように提供する? → アイデアの種をもとに、問いと対話で深堀りし、最終的に1つに絞る
事業やビジネスの種を見つける「始め方」から上述のように、スタートさせてみましょう。

具体的にするには!?
こうしたマインドセットから、新しい事業やビジネスのヒント(コンセプト)を考えながら、続いてCPFに進んでいきましょう。
CPFとは、「Customer Problem Fit(顧客の課題との適合)」の略であり、顧客が本当に抱えている課題と、自分のアイデアがどのようにフィットするのかを検証するプロセスのことです。
従来のビジネスモデルでは、「こういう商品が売れそうだ」と市場に先回りしてアイデアを形にし、マーケティングの力で売り込むというアプローチが主流でした。しかし、マイクロ起業においては、まず“誰かの困りごとに本当に寄り添えているか?”を問い直すことから始まります。
それは「売れるかどうか」ではなく、「感謝されるかどうか」という視点に近いのかもしれません。たとえ小さなニーズであっても、それを丁寧にすくいあげ、自分の想いや強みと接続させていくことで、唯一無二の価値が生まれていきます。
斉藤さんは、CPFの探求を「好き」と「ありがとう」の交差点に見いだしていくように促してくれます。自分の“好き”と、他者の“困りごと”が重なったところに、小さな価値創造の芽があるのです。
その芽は、最初は誰にも気づかれないかもしれません。けれど、じっくりと水をやり、他者との関係のなかで育てていくことで、やがて小さな木になり、やさしい影をつくるような存在になるかもしれません。
CPFの段階で「誰かの困りごと」と「自分の想い」が交わる場所を見つけたら、次はその課題に対して、具体的にどんな解決策を提示できるかを考えるフェーズです。言い換えれば、「共感した問題に対して、自分は何を提供できるか?」という問いに向き合うステップです。
そして、その次には、PSF「Problem Solution Fit」の段階に進みます。
PSFの重要なポイントは、完璧なサービスを一気につくろうとしないこと。斉藤さんが一貫して伝えているのは、「プロトタイピング思考」です。つまり、小さく、仮の形でつくってみて、相手に届けてみて、その反応から学ぶ、という循環を回していくこと。
この段階では、たとえば、以下のような動きが含まれます。
- 小さな有料サービスとして試してみる
- SNSでアイデアを共有し、共感の声を集めてみる
- 1人か2人の知人に提供して、リアルなフィードバックを受ける
- 提供してみて、自分自身が“手応え”や“ワクワク”を感じられるかを確かめる
ここで大切なのは、「自分自身の幸せ」と「相手の役に立つこと」が同時に立ち上がってくるかどうか、です。押し売りではなく、自然に「ありがとう」が返ってくるような関係が生まれているなら、それはPSFが得られた証かもしれません。
PSFは、自己満足のアイデアを「社会的な価値」に翻訳するための、もっとも重要な架け橋です。だからこそ、このプロセスは焦らず、じっくりと、自分と社会の“関係性のチューニング”として捉えることが大切なのです。
初期段階の最終レベルとして、いよいよPMF(Product-Market Fit)へと進みます。
PMFとは、「自分が提供するサービスや商品が、特定の市場のニーズにぴたりと合致している状態」のことを指します。つまり、「これは欲しかった!」「誰かに紹介したい!」と自然に人が動くような状態のことです。
ただし、ここで注意すべきなのは、PMF=一気に売れる状態、ではないということ。
マイクロ起業におけるPMFは、「大きな市場でバズる」ことではなく、「小さな市場で深く共感される」ことにあります。最初の顧客がリピーターになり、自然と口コミが生まれ、少しずつ“共感の輪”が広がっていく。この静かなうねりこそが、マイクロ起業におけるPMFの本質です。
そして、PMFの達成において見逃せないのが、プロダクトの“芯”が通っているかどうかという点です。たとえ機能が未完成で、洗練されていなかったとしても、そこに「コンセプトとの一貫性」が感じられ、基本機能と応用機能の要素がしっかり含まれていることが求められます。
ユーザーが最初に触れる機能に、「あ、これって自分の課題をよくわかってくれているな」と感じられるかどうか。そこに、たとえ多少の不便さがあったとしても、「このサービスはきっと良くなる」「応援したい」と思わせる力が宿るのです。
つまり、完璧である必要はない。でも、“らしさ”がにじみ出ていて、必要な骨格がすでに存在している。そうしたプロダクトは、たとえミニマムでも、共感と信頼を生み、PMFへと導いてくれるのです。
斉藤さんは、このPMFを「幸せの連鎖が起こりはじめたサイン」として位置づけています。つまり、自分の“好き”が誰かの“役に立つ”に変わり、それを受け取った人が、今度は別の誰かに“伝えたくなる”という連鎖です。
それは、利益の最大化よりも、関係性の最適化を目指すアプローチ。急成長ではなく、持続可能な“共感のエコシステム”を育てていくこと。それこそが、斉藤さんの描く「新しい事業のかたち」なのだと思います。
事業を作っていく過程は、自らの価値観をブラッシュアップしていく機会を提供してくれます。
新しい価値観を模索するために、以下の10の視点をもとに、自分の事業アイデアにふさわしい価値観を考えてみよう。そこから新しい気づきが生まれるはずだ。
- 報酬のかわりに、自己成長を実感できる
- 報酬のかわりに、信頼しあい、助け合える友ができる
- 社員も顧客も優しく穏やかな気持ちになる
- 完璧主義を手放して、もっと寛容な場をつくる
- 感謝したり、親切にすることで、お互いが幸せを感じる
- 無理なことをやめて、ナチュラルにする
- 競争のかわりに、共創にする
- 仕事を細切れにせず、一貫させることで楽しさや熱中を生む
- 「しなくちゃ」をやめて「したい」だけで仕事を設計する
- みんなで、安心できてワクワクするコミュニティをつくる
事業の作り方については、こちらの1冊「【既存のものさしで測るな!?】新規事業の実践論|麻生要一」もぜひご覧ください。

まとめ
- ビジネスとは幸せである!?――“あなたとわたし”の幸せの接点が事業やビジネスなのです。
- 幸せから始めよう!?――それが自分の相手の幸せを作ることになります。
- 具体的にするには!?――CPF、PSF、PMFへとステップを踏んでいきましょう。
