- どのように自らの意志に向き合っていくことが理想でしょうか。
- 実は、「欲望」について触れることかもしれません。
- なぜなら、それは、他者によって大きく影響されているものという見方もできるからです。
- 本書は、欲望を通じて、自分の意志の真実を確かめる1冊です。
- 本書を通じて、自分が何を求めるのか、そしてその根源に触れます。

欲望とは!?
本書の著者であるルーク・バージスさんは、ニューヨーク大学スターン経営大学院(NYU Stern School of Business)でビジネスを学び、ローマの教皇庁立大学で神学を修めました。
その後、ウェルネス、消費財、テクノロジー分野で複数のスタートアップ企業を創業し、起業家としてのキャリアを築きました。2006年には『ビジネスウィーク』誌の「25歳未満の起業家トップ25人」に選出されています 。
現在、ワシントンD.C.にあるカトリック大学アメリカ校(The Catholic University of America)のブッシュ・スクール・オブ・ビジネスで臨床助教授を務めるとともに、同大学のチョッカ・センター(Ciocca Center for Principled Entrepreneurship)で起業家教育プログラムのディレクターを務めています 。
彼はまた、カトリック高校向けの起業家教育プログラム「CEDE(Catholic Entrepreneurship and Design Experience)」を立ち上げ、若者の起業家精神の育成に力を注いでいます。
代表作『欲望の見つけ方 お金・恋愛・キャリア』(原題:Wanting: The Power of Mimetic Desire in Everyday Life)は、フランスの思想家ルネ・ジラール氏の「模倣の欲望」理論を基に、人間の欲望が他者の欲望を模倣することで形成されるという視点から、お金、恋愛、キャリアにおける欲望の在り方を探求しています。この著作は23以上の言語に翻訳され、国際的な評価を受けています 。
本書は、まず以下のような問いからスタートします。
あなたが欲しいと思うものを、あなたはなぜ欲しいのか。
こうした問いを持ったことはあるでしょうか。そもそも、なぜ自分の欲望はいまここにあるのか、を考えることは、実は多くの方が見つめたことはそもそもないのではないでしょうか。
この問いと向き合う時、まず、マズローの欲求段階を思い出します。
生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現の欲求──私たちはこの階段を登ることで、自分の人生を豊かにし、より良く生きようとしているのだと理解してきました。
しかし、ルーク・バージスさんによる『欲望の見つけ方』は、そこに新たな光を当てます。
マズローのピラミッドのような自己完結的な欲望の成長モデルではなく、他者との関係性の中で欲望が生まれ、育ち、変容するという「模倣の欲望(ミメーシス)」の視点です。
私たちは本当に「自分が欲しい」と思っているものを欲しているのでしょうか?
それとも、誰かが欲しいと感じるものを、気づかぬうちに模倣し、自分の欲望として取り込んでいるだけなのでしょうか?
たとえば、SNSで誰かが新しいガジェットを手に入れたことを知り、それが急に「欲しいものリスト」に入った経験。友人がキャリアアップして輝いて見えるとき、自分もまた焦りを感じ、何かを成し遂げなければという衝動に駆られる瞬間。
こうした私たちの欲望の多くが、実は「モデル(他者)」の存在に引き寄せられた結果であることを、鮮やかに解き明かしていきます。
本書を読むと、欲望は孤立したものではなく、社会的であり、関係的なものであることに気づかされます。
そして、自分が本当に大切にすべき「濃い欲望」と、他者から借りてきた「薄い欲望」とを見極めることの重要性を痛感させられます。
マズローの階段を登ろうと焦る前に、まずは立ち止まって、この問いに向き合う必要があるのです。
──あなたの欲望は、誰のものか?
私たちは、事実として、「他の人が欲しがるものと同じものを欲しがること」を学びます。
それはまるで、同じ言語を話し、そして同じ文化規範によって行動することを学ぶのと同じようにです。
SNSとは!?
欲望は模倣されていきます。それは時代によって異なるミーム(文化の遺伝子)のようにわたしたちに知らず知らずのうちに共有され、そして、社会的な感情のように蠢きながら、少しずつかたちを変えながら、私たちの生活に影響を及ぼし続けていきます。
バージスさんは、この「模倣の欲望」の連鎖を断ち切ることこそが、私たちが本当の意味で自由になり、自己の道を歩むための鍵だと説きます。
他者に引き寄せられ、他者に規定された欲望は、しばしば不毛な競争や、達成後の虚しさを生み出します。私たちはそれを「社会の流行だから」「みんなが憧れているから」という理由で欲しいと思い込んでいないでしょうか。
つまり、キーは、マズローの内、生存本能が満たされた後のことです。
生き物として基本的な欲求が満たされたあと、私たちは人類の欲望の世界に足を踏み入れる。
そして欲しいものを知ることは、必要なものを知ることよりもずっと難しいし、それが他者によって影響をどれだけ受けているかを感じることもとても難しいものです。
実は、Facebookは、この「欲望」をテコにビジネスを展開していると言えます。
私たちは、Facebook(現Meta)のようなSNSを通じて、他者の欲望や行動に日常的に触れています。
・・・誰かが素敵な旅行に行った、昇進した、魅力的な買い物をした──それを目にしたとき、私たちは単に情報を受け取っているのではなく、その裏にある「欲望のモデル」を無意識のうちに受け入れ、模倣し始めます。
「模倣の欲望」は、SNS時代においてますます加速しています。なぜなら、SNSのアルゴリズム自体が、私たちが他者の欲望に反応する仕組みを見抜き、それを強化するよう設計されているからです。つまり、私たちが「いいね!」を押したとき、それは単なる好意の表明ではなく、モデルとしての欲望の受け渡しを加速させる行為ともいえるのです。
Facebookは、他者の欲望を可視化し、私たちの比較心を刺激することによって、私たちをより長く画面に引きつけ、広告やコンテンツの消費を促進します。この「欲望の連鎖」に気づかない限り、私たちはSNS上で次々と提示される欲望を借り続け、自分自身の軸を見失っていくリスクを抱えています。
だからこそ、本書は現代において極めて重要な一冊です。単に個人の欲望を見つめ直すだけでなく、社会全体がどのように欲望を増幅・操作し、それを経済の原動力にしているのかという、鋭い洞察をもたらしてくれるのです。
欲望のモデルによって、フェイスブックは強力なドラッグとなっている。
フェイスブックが生まれる前、私たちの欲望の対象は、身近に存在していました。友達、家族、職場、雑誌やテレビなどのマスメディアの中にです。
しかし、デジタル(フェイスブック)によって、この模倣の対象が拡張されました。人の数だけではありません。その人の生活の仔細が事細かに受け取れることで、さらに欲望を加速度的に広げていると言ってもよいでしょう。

自分のはずみ車を作れ!?
欲望は加速度的に広まっていく時代を私たちは生きています。
模倣の欲望は社会的なものなので、文化を通じ人から人へと広まる。
私たちは、この欲望に無防備にさらされているだけでしょうか!?
じつは、ルーク・バージスさんは、そうではないと指摘します。
欲望によって2つのサイクルが駆動していることをよく見つめることが重要であると説きます。
負のサイクル(破壊的模倣のサイクル)
他者の欲望を盲目的に模倣し、比較や競争に陥り、最終的には自己喪失や対立、虚しさを生むサイクルです。
SNSや現代の消費社会は、まさにこの負のサイクルを強化し続けています。他者のモデルに引き寄せられ、手に入れても手に入れても満たされない感覚。それは、本来の自分の欲望ではなく、借り物の欲望を追い求め続けた結果なのです。
正のサイクル(創造的模倣のサイクル)
一方で、模倣の性質そのものは悪ではなく、健全に使えば学びや成長、創造の源泉となりえます。他者の良いモデルに触れ、自分の内面と響き合わせることで、より高次の価値や意味を生み出していくサイクル──それが創造的模倣のサイクルです。
この正のサイクルに入るためには、自分が誰をモデルとしているのかを意識的に見つめ直し、「濃い欲望」に従って生きる覚悟が必要です。
これらのサイクルは、「はずみ車」のようにさらに加速度を増します。私たちがどちらのサイクルを積極的に選択できるかは、私たち一人ひとりに関わっています。
そして何より、これらのサイクルの選択は、いまここという時間(つまり、最も貴重なリソース)の使い方にも関わってくるのです。
日常が習慣となり、最終的には人生として結実されていきます。
人はみな自分のはずみ車をつくらなければならない。
欲望のポジティブなはずみ車を回しましょう。
まずは、自分自身にとって欲望のポジティブなサイクルがどのようなものであるのか?を感じましょう。そしてそれについて真剣に考えていくのです。これは、まさに自分とはなにか?について真正面から考える時間になっていくでしょう。
この結果、あなたの生活がきっと変わるかもしれません。
それは、子どもや家族ともっと長い時間を過ごすような生活の変化かもしれないし、あるいは、もっと自由になる時間を増やすことかもしれません。
「はずみ車」は、実は全体の構造ではなく、「始め方」がキーです。まずは、自分自身が持っている「濃い欲望」から始めるのが良いでしょう。
「濃い欲望」とは、とは、他者に引き寄せられた借り物の欲望ではなく、自分の内側からじわじわと湧き上がってくるような、核となる願いや関心です。
それは、他人に説明するのが難しかったり、社会的な承認を得にくかったりするかもしれませんが、間違いなく「自分のもの」であると感じられるものです。
バージスさんは、この濃い欲望を見極め、それを起点に小さな行動を積み重ねていくことで、創造的な「はずみ車(フライホイール)」が回り出すと説きます。つまり、いきなり大きな構想を立てる必要はないのです。むしろ、正しい出発点を選ぶことが重要です。
たとえば、誰かに認められたくて始めた挑戦は、途中でモチベーションが切れやすいかもしれません。一方、自分の奥底にある「ずっとこれがやりたかった」という思いから生まれた挑戦は、たとえ壁にぶつかっても粘り強く続ける力を生み出します。はずみ車は、一度動き始めればやがて自力で回り続けますが、その最初の小さな一押しは、濃い欲望によって生まれるのです。
バージスさんは、模倣を完全に否定するのではなく、むしろ正しい模倣の起点を選ぶこと──それこそが、現代の欲望の渦を生き抜くための戦略だと語ります。
これらの発見と行動は、自分自身に深い「充足」をもたらします。
そしてこの「充足」を得るための濃い欲望によるはずみ車は、以下のような要素で成り立っていることも指摘されます。
1.行動であること・・・受動的に経験したことではなく、あなたが具体的に行動して、あなたが主役となって過ごした時間と受け取れたことによる。
2.自分でうまくやったと思っていること・・・他の誰でもなく自分で評価して、非常にうまくやったと思えることでないといけません。
3.充足感をもたらすこと・・・行動した結果、深い充足感を覚えなければなりません。喜びさえも感じられる何かに成っていくべきです。
SNSに代表されるような受動的にあなたの人生を奪い続ける「薄い欲望」はこの世の中にいくらでも溢れています。だからこそ、自ら主体的に自らをデザインしていくことを忘れないようにしたいのです。
自分の主導権は、自分自身にあるということを強く意識して、いまここそして、自分に向き合ってみる活動がなにより大切なのです。
記号としての消費を考えていくことも重要な論点です。
ルーク・バージスさんの議論をさらに深めると、私たちはモノそのものを欲しているのではなく、しばしばそれが持つ記号的価値──つまり「それを持つことで他者にどう見られるか」「どんな意味をまとうか」を欲しているのだと気づかされます。
ブランドバッグや高級車、SNSにアップする写真、キャリアの肩書──それ自体が純粋に必要なのではなく、他者との関係性の中で形成された「意味の束」としての欲望が私たちを駆り立てているのです。記号消費の概念は、バージスが語る模倣の欲望と深く結びついています。
たとえば、ラグジュアリーブランドのバッグを欲する人が、本当に求めているのはその革の質感や縫製の技術ではない場合が多いでしょう。それを持つことで得られる「社会的な位置づけ」や「認められ感」が欲望の本質であり、それは模倣の欲望によって絶えず更新され続けています。
バージスさんは、こうした記号的欲望の連鎖を見破り、自分の欲望の奥底にある本質的な価値や願いに戻ることの大切さを説きます。消費社会の中で生きる私たちは、単なる「物欲」ではなく「意味欲」の世界に生きていることを理解しなければなりません。
こうした論点については、こちらの1冊「【贅沢とは何なのか!?】目的への抵抗―シリーズ哲学講話―|國分功一郎」もぜひご覧ください。

まとめ
- 欲望とは!?――ミーム(文化の遺伝子)のように環境によって提供されるものです。
- SNSとは!?――つまりこれは、欲望のネットワークです。
- 自分のはずみ車を作れ!?――それが何者でもない“あなた”を構築していくことになります。
