デジタル時代だからこその、紙!?『紙から始めるシニアマーケティング』神開隆一

紙から始めるシニアマーケティング
  • シニア市場で成功するには何が必要でしょうか!?
  • 実は、紙媒体がシニア層の心をつかむ鍵となります。
  • なぜなら、デジタル時代だからこそ、相対的に見出される紙のチカラがあるのです。
  • 本書は、シニアマーケティングの第一線で活躍してきた著者による実践的ノウハウの集大成です。
  • 本書を通して、超高齢化社会での新たなビジネスャンスを見出せるでしょう。
神開隆一
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超高齢社会の主役は紙!?

デジタルが全盛の現代においても、シニア層の心を真に動かすのは「紙」のパワーなのです!

本書の著者・神開隆一さんは、自らも60代の「令和シニア」として、長年シニア向けマーケティングに携わってきた経験から、紙媒体の有効性を実体験をもとに熱く説いています。

その独自の視点と、長年の実践から導き出された知見は、超高齢社会の日本におけるビジネスの可能性を格段に広げてくれるものです。

特に印象的なのは「紙ネイティブ」という独自の概念です。若者が「デジタルネイティブ」と呼ばれるのに対し、現在60〜78歳の「令和シニア」は紙の媒体に親しんで育った世代。そのため、紙から得る情報に高い信頼を置き、紙の温もりや質感に安心感を覚える傾向があるのです。

「紙ネイティブ」にとって、ネット隆盛の今の時代は、いわば異国で現地語でのコミュニケーションを余儀なくされているのに等しく、そこに長く滞在すればするほど、母国に対する郷愁は募っていきます。ネット社会に息苦しさを感じ、ふとした瞬間、紙媒体の温かみを思い出すことがある方もシニア世代には多いのではないでしょうか。

このような鋭いインサイトは、著者が自らもシニア世代であり、かつ長年マーケティングの最前線に立ってきた経験からこそ導き出されたものであり、説得力に満ちています。

著者は自身のキャリア遍歴も赤裸々に語ります。お仏壇販売会社での飛び込み営業から始まり、通信販売会社での華々しい活躍、そして民事再生という挫折からの独立と、その浮き沈みの激しい人生は、まさに「令和シニア」世代の典型的な経験そのものです。

こうした実体験を通して描き出される「令和シニア」像は、解像度が高く、読む者の心に強く響きます。

バブル期の熱狂と、その崩壊の痛みを知る世代特有の消費行動や心理的特性についての考察は、単なるマーケティング論を超えた社会学的な観察記録としても興味深いものがあります。特に「モノ消費」の時代を経験し、現在は「コト消費」へと価値観をシフトさせつつも、その根底には依然として「モノ消費」のメンタリティが生きているという分析は鋭く、シニア層の複雑な消費心理を読み解く重要な視点を提供してくれます。

「令和シニア」の実像と市場の可能性とは?

本書の第1章と第2章では、「令和シニア」とはどういう人たちなのかという根本的な問いから始まり、その実態と市場規模について詳細な考察が展開されています。

まず驚かされるのが、シニア市場の巨大さです。

60〜78歳の「令和シニア」は約3702万人、全人口の29.3%を占めるという数字だけでも圧倒的ですが、著者はさらに年代別の平均貯蓄残高と人口ボリュームを掛け合わせ、令和シニア世代が持つ消費市場規模が約760兆円に及ぶという推計を示しています。これは40代〜50代の消費市場よりも遥かに大きく、日本経済の最大の原動力がシニア層にあることを如実に示しています。

そして、令和シニアが共有する4つの時代体験として挙げられるのが以下の要素です。

  1. 戦争の経験者の両親のもとで育つ
  2. 戦後リベラル民主主義が尊ばれる教育のもとで育ち、受験戦争を潜り抜けてきた
  3. 右肩上がりの経済成長の時代、バブルの時代を実体験として知っている
  4. その崩壊と、その後の経済的低迷を当事者として体験している

こうした共通体験を基盤としながらも、個々のシニアのライフスタイルは多様化しています。本書では、令和シニアに見られる5つの特徴的な生活スタイルとして、以下を上げてくれています。

  • 「自分でできることは自分で」
  • 「シンプルが一番」
  • 「健康は自分で守る」
  • 「頭は常にクリアに」
  • 「家族には負担をかけたくない」

「この『プチ贅沢』という現象には、令和シニアの消費動向を読み解くヒントと、ちょっとした悲哀が隠されているように感じます。『プチ贅沢』は、令和シニア世代がかつて疚しさを感じながらも謳歌した『モノ消費』としての『贅沢』を、年齢相応の上品さでもって満たしながら、その上品さが『コト消費』にも通じ、令和シニアの今のメンタリティにフィットした消費スタイルを提案しています。」

著者はまた、令和シニアの変わりゆく食生活や消費態度についても詳細に分析し、コロナ禍を経た現在では「プチ贅沢」という形で「モノ消費」と「コト消費」の良いとこどりをする傾向が強まっていると指摘します。この「プチ贅沢」という消費傾向こそ、令和シニアの心をつかむ重要なキーワードだとされています。

令和シニア世代は、戦前生まれで本当の飢えを知る両親に育てられたことにより、比較的質素な生活の子ども時代を送っていました。しかし、大人になり、その反動とバブルの最盛期という時代の波もあり、贅沢な「モノ消費」を謳歌します。

そして、その消費スタイルはその後も基本的にはそれほど変わらず続けてきましたが、還暦を超えた今、残された人生の時間からの逆算により「モノ」よりも「コト」を重視するようになりました。

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キーはギブアンドギブ?

本書が他のマーケティング書籍と一線を画すのは、単なる理論や概念の紹介にとどまらず、すぐに実践できる具体的な手法やノウハウを惜しみなく披露している点です。

特に第3章「令和のシニアマーケティング」と第四章「シニアマーケティングは紙で成功する」では、テストから本格展開までの具体的なステップが詳細に解説されています。

著者が特に重視するのが、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の最大化です。

「一人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす価値」を高めることが、シニアマーケティングの最大の目標であると著者は説きます。そして、この目標を達成するための具体的な方法論として、次の5つの要素をあげています。

  1. 顧客数を上げる
  2. 顧客単価を上げる
  3. 継続率を上げる
  4. 商品原価を下げる
  5. 販売費を下げる

これらの要素をバランス良く管理することが、持続可能なシニアビジネスを構築する鍵だと著者は述べています。特に「販売費を下げる」という観点から見た紙媒体の活用法は、本書の中心的なテーマとなっています。

紙媒体には「物理的制約」「CPOのコントロールが難しい」「ターゲティングの限界」という3つの短所がありますが、著者はこれらの短所を抑え込み、長所を最大限に引き出すための具体的な方法を提案しています。特に、テスト期間の設定、媒体テスト、クリエイティブテスト(ABテスト)の重要性が強調されており、これらのテスト方法についても詳細な解説がなされています。

また、シニア層に響く広告クリエイティブの作り方については、「AIDA(アイダ)の法則」と「3つのO」の組み合わせが提案されています。

「AIDA」とは:

  • Attention(注意):広告に目を止めてもらう
  • Interest(関心):内容に関心を持ってもらう
  • Desire(欲求):購買意欲を喚起する
  • Action(行動):実際の購買行動を促す

「3つのO」とは:

  • Only You(一人に向けて)
  • One Need(一つのことだけを言ってニーズを絞って)
  • Off Course(もちろん大丈夫だと安心させる)

これらの基本的な広告理論に加え、著者は令和シニアに特に響く5つの要素として、「自立した生活」「ミニマリズム」「エイジングケア」「認知機能低下の回避」「家族介護者へのサポート」を挙げています。これらの要素を組み込むことで、シニア層により強い共感を得られると著者は説きます。

令和シニアは長らくハピネスを求め、消費社会を謳歌してきましたが、ここにきてウェルビーイングを求める傾向が出てきているように感じます。

つまり、令和シニアの間では超高齢になっても自分の生活をコントロールし、活動的であり続け、可能な限り独立して生活し、死ぬまでウェルビーイングを維持し続けること。

これらのニーズと関心を満たす製品、サービス、サポートが日本のシニア市場には欠かせないでしょう。

最後に、「ギブ&ギブ」のマインドが拓くシニアビジネスの未来についてみていきましょう。

本書のもっとも感銘深い部分は、著者が提唱する「ギブ&ギブ」のマインドセットです。

通常のビジネスでは「ギブ&テイク」が基本とされますが、著者はあえて「ギブ&ギブ」を唱えます。

これは一見、矛盾や理想論に聞こえますが、著者は長年のビジネス経験から、この「ギブ&ギブ」こそがシニアマーケティングにおいて最大の成果をもたらすことを確信しています。

「ギブ&ギブ」とは、単に「与え続ける」だけを意味するものではありません。著者はこれを次のように説明します。

ビジネスとは結局、お客様に価値あるものを与えるという奉仕が基本であり、お客様にはお支払いいただいた金額以上のものを提供しなければなりません。これはもちろん、原価より安く売るべきと言っているのではありません。
商売である以上、原価割れは絶対に避けなければなりませんが、しかし、それにもかかわらず、お客様の心の中で「この金額でこれだけやってくれるとは、なんて安いんだ!」と、感動や感謝の気持ちを呼び起こすことは可能です。そのために何より必要なのが「ギブ&ギブ」なのです。

著者はこの「ギブ&ギブ」の精神を「偽善をやり抜くことにビジネスの本質を見ている」とも表現しています。つまり、表面的には矛盾するように見えるこの姿勢こそが、シニア層との深い信頼関係を構築し、結果として最大のリターンを生み出すという信念です。

この「ギブ&ギブ」のマインドセットは、単なるビジネス戦略を超えた人生哲学とも言えるものであり、読者の心に強く訴えかけます。著者自身が実践してきたこの信条が、長年のビジネスの成功と、クライアントからの厚い信頼を生み出してきたという事実が、その有効性を裏付けているのです。

本書の最後に紹介されている、お取引先へのインタビューでも、この「ギブ&ギブ」の精神が高く評価されています。「安さばかりを売りものにする営業マンは、一度反響が出なかったら二度と顔を見せない傾向もあり、逆に信頼できない」というクライアントの言葉に、著者の長年の姿勢が報われていることが感じられます。

ギブの概念については、こちらの1冊「【正しく、“ギバー(Giver)”になるには!?】GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代|アダム・グラント,楠木建」もぜひご覧ください。

まとめ

  • 超高齢社会の主役は紙!?――紙媒体がデジタル時代だからこそ、相対的に特別視されています。
  • 「令和シニア」の実像と市場の可能性とは?――消費旺盛なマスボリュームでもあります。
  • キーはギブアンドギブ?――常に飽きないの基本(初心)に立ち返ることが重要です。
神開隆一
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