- どうしたら状況や環境をよりよく理解することができるでしょうか。
- 実は、マトリクスが使えるかも。
- なぜなら、これは全体を2軸で整理して、全体像を理解するフレームだからです。
- 本書は、現実的に理解しやすい形での認識の枠組みに関する1冊です。
- 本書を通じて、全体観を見失わない方法にふれることができます。

たった2本の線が世界?
たった2本の線を引いて象限の意味を考えたり、要素をプロットしてみるだけで、全体感を見失わずに、自分の位置や、あるいは、要素の相互関係・距離感を理解することができるのが、マトリクスのポイントです。
さまざまなシーンでの課題解決に非常に高い効果を発揮します。
マトリクスで考えることは、確かに効果があります。
思考が可視化されるだけではなく、他者とも共有がしやすいため、チームで同じ世界観を共有しながら、アイデアや方策を検討することを見出していくためのムーブメントを作ることができるのです。
重要なのは、いかに軸をとるか?ということです。
ここに世界を見立てるオリジナリティが育まれていくからです。
軸の取り方次第で、ロジカルにものごとを整理することにも、じつはまだない世界を知り、創造性を育むためにもマトリクスは使うことができます。
そうした意味では、意思決定やコミュニケーションの創発、クリエイティビティに寄与する共通の下敷き(情報整理OS)としてのマトリクスの可能性を見つめることができるでしょう。
マトリクスを使いこなせ?
マトリクスには、5つあります。
1)ポジショニング型
2)セル型(分類型)
3)セル型(方向性型)
4)メカニズム型
5)センターボックス型
1)ポジショニング型
ポジショニング型マトリクスは、2つの軸に沿って要素を配置し、相対的な位置関係を視覚化するマトリクスです。各要素は特定の座標に位置づけられ、その位置によって特性や戦略的意味が示されます。
例えば、市場シェアと成長率を軸にしたBCGマトリクスや、コスト優位性と差別化を軸にしたポーターの競争戦略マトリクスなどが代表例です。このタイプのマトリクスは、競合分析や製品ポートフォリオ管理に特に有効で、「どこに位置しているか」という視点から戦略的な判断を導きます。
2)セル型(分類型)
セル型(分類型)マトリクスは、要素を明確に区分けされたカテゴリーに分類するためのマトリクスです。各セルは独立した特性や条件を表し、要素はいずれかのセルに分類されます。
例えば、重要性と緊急性によるタスク管理のアイゼンハワーマトリクスや、SWOT分析などがこれに該当します。このタイプのマトリクスは、要素の特性を明確に分類し、それぞれに適した対応策を検討する際に役立ちます。分類することで優先順位の決定や資源配分の判断をサポートします。
3)セル型(方向性型)
セル型(方向性型)マトリクスは、各セルが特定の行動指針や戦略方向を示すマトリクスです。アンゾフの成長マトリクスのように、現状から目指すべき方向性や取るべきアクションを示す点が特徴です。
例えば、既存市場/新市場と既存製品/新製品の組み合わせによって、市場浸透・市場開発・製品開発・多角化という4つの成長戦略を示します。
このタイプのマトリクスは、「どの方向に進むべきか」という戦略的意思決定を支援し、組織の成長や変革の道筋を明確にします。
4)メカニズム型
メカニズム型マトリクスは、要素間の相互作用や因果関係を表現するマトリクスです。システム思考に基づいて、各要素がどのように影響し合い、全体としてどのような動きを生み出すかを示します。
例えば、バランススコアカードの因果連鎖や、N×Nのマトリクスで各要素の相互影響度を評価する構造分析などがこれに該当します。このタイプのマトリクスは、複雑なシステムや組織の働きを理解し、レバレッジポイント(小さな介入で大きな効果が得られる点)を特定するのに役立ちます。
5)センターボックス型
センターボックス型マトリクスは、中心に核となる概念や目標を置き、周囲に関連する要素や方策を配置するマトリクスです。
例えば、中心に企業のミッションを据え、その周囲に財務・顧客・業務プロセス・学習と成長といった視点を配置するバランススコアカードの表現方法などが該当します。
このタイプのマトリクスは、中心概念との関係性を明確にしながら全体像を把握できるため、組織の理念や目標を軸にした統合的な戦略立案や実行管理に適しています。全体の整合性や方向性の一貫性を確保するのに役立ちます

既存フレームもマトリクス?
実は、マトリクスは、すでに馴染みのあるモデルでも活用されているものが多いです。
例えば、以下のようなモデルです。
- 3つの基本戦略
- 戦略グループ
- 魅力度/優位性構築可能性マトリクス
- IRフレームワーク
- 両利きの経営
- シナリオ・プランニング(軸は任意)
- CE/CS分析
- SL理論
- PM理論
- インクルージョンのマトリクス
- SECIモデル
・3つの基本戦略
マイケル・ポーターが提唱した競争戦略のフレームワーク。コスト・リーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略(ニッチ戦略)の3つの基本戦略を2軸(競争範囲と競争優位性の源泉)で整理。
企業が持続的な競争優位性を構築するための基本的なアプローチを示しています。
・戦略グループ
同一産業内で類似した戦略特性を持つ企業群を識別するマトリクス。主に2軸(価格帯・品質、地理的範囲など産業特有の変数)で企業をグループ化し、競合関係や参入障壁、戦略的移動の可能性を分析します。
競争環境をより精緻に理解するのに役立ちます。
・魅力度/優位性構築可能性マトリクス
GEマッキンゼーマトリクスとも呼ばれ、市場の魅力度と自社の競争優位性構築可能性を2軸として事業評価を行うフレームワーク。
投資、選択的成長、撤退などの戦略的判断を支援します。複数事業を抱える企業のポートフォリオ管理に有効です。
・IRフレームワーク
重要性(Importance)と実現可能性(Realizability)を軸にした意思決定フレームワーク。
優先的に取り組むべき課題や施策を選定する際に活用され、限られたリソースの効果的な配分を支援します。簡潔ながら実用的な判断基準を提供します。
・両利きの経営
既存事業の深化(Exploitation)と新規事業の探索(Exploration)をバランスよく追求する経営アプローチを示すマトリクス。
短期的な効率性と長期的な革新性を同時に実現するための組織設計や資源配分の考え方を提供します。
・シナリオ・プランニング(軸は任意)
不確実性の高い未来に備えるため、複数の可能性(シナリオ)を想定するフレームワーク。
重要な不確実性を2軸で設定し、4つのシナリオを構築して各シナリオに対する戦略的対応を検討します。将来の変化に対する組織の適応力を高めます。
・CE/CS分析
顧客期待値(Customer Expectation)と顧客満足度(Customer Satisfaction)を軸にした分析フレームワーク。
顧客の期待と実際の満足度のギャップを把握し、重点的に改善すべき要素や過剰品質の領域を特定するのに役立ちます。
・SL理論
状況対応リーダーシップ理論。部下の成熟度(能力×意欲)と、それに応じたリーダーの行動スタイル(指示的行動×協労的行動)を2軸で整理。
部下の発達段階に合わせた4つのリーダーシップスタイル(指示型、説得型、参加型、委任型)を提示します。
・PM理論
三隅二不二が提唱したリーダーシップ理論。
目標達成機能(Performance)と集団維持機能(Maintenance)を2軸としてリーダーシップスタイルを分類。効果的なリーダーは両機能をバランスよく発揮する(PM型)ことを示唆しています。
・インクルージョンのマトリクス
多様性(Diversity)と包摂性(Inclusion)を軸にした組織文化のフレームワーク。多様な人材の存在とその活躍の実現度を評価し、真の包括的組織への発展段階や課題を可視化します。組織の多様性・包摂性戦略の立案に有効です。
・SECIモデル
野中郁次郎と竹内弘高が提唱した知識創造プロセスのモデル。
形式知と暗黙知の変換過程を表し、共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、内面化(Internalization)の4つのフェーズからなります。
組織的な知識創造・イノベーションの仕組みを説明します。
対峙する課題に対して、どのような示唆を期待するのか、マトリクスにどのような効果を期待するのかを想定しながらマトリクスを考案することが基本
いずれにしても、問題や課題を抱えている時、それを理解するため、あるいは、解決策を考えていくため、さらには、可能性を見出していくために、マトリクスは役立つ可能性があるということです。
また、私が対話においてとても大切だと思うのが、「ジョハリの窓」です。
ジョセフ・ルフトとハリー・インガムによって1955年に開発された対人関係や自己認識を理解するためのフレームワークです。自己と他者の知識に関する2軸(自分が知っているか/知らないか、他者が知っているか/知らないか)で4つの領域を定義しています。
- 開放の窓:自分も他者も知っている領域。透明なコミュニケーションが可能な部分です。
- 盲点の窓:自分は知らないが他者は知っている領域。自己認識の盲点となり、フィードバックを通じて気づくことができます。
- 秘密の窓:自分は知っているが他者には知られていない領域。自己開示によって他者と共有できる部分です。
- 未知の窓:自分も他者も知らない領域。共同探索や新たな経験を通じて発見される可能性を秘めています。
このモデルは、対話の質を高め、相互理解を深めるための重要な視点を提供します。
価値や能力というのは、他者との間で適切に花開きますが、そうした関係性の可能性に焦点を当てる時に、両者で何を共有できているのか、いないのか?新しく見出された概念は何なのか?を整理するためにもジョハリの窓、つまりマトリクスが有用であるということです。
対話を通じて自己開示と相互フィードバックを促進することができれば、信頼関係の構築と創造的な問題解決もつながっていきますね。
対話については、こちらの1冊「【対話こそが変革を生む!?】企業変革のジレンマ「構造的無能化」はなぜ起きるのか|宇田川元一」もぜひご覧ください。おすすめです。

まとめ
- たった2本の線が世界?――象限が世界を端的に理解する線引を可能にしてくれます。
- マトリクスを使いこなせ?――5つの基本の型を運用してみましょう。
- 既存フレームもマトリクス?――すでにあるモデルもマトリクスを応用したものが多いのです。
