チームの生産性どうしたら上がる!?『「答えを急がない」ほうがうまくいく』三浦麻子

「答えを急がない」ほうがうまくいく
  • どうしたらプロジェクトをより良く進めていくことができるでしょうか。
  • 実は、「答えを急がない」というスタンスが重要かもしれません。
  • なぜなら、ものごとの成果や結果は、一朝一夕には生まれないからです。
  • 本書は、いかにこの変化の時代において、待つことができるのかを考える1冊です。
  • 本書を通じて、レジリエンスについて検討することができます。

脳の機能は変わっていない!?

本書が、語るのは、「のんびりいこう」とか、「結論を先延ばしにしよう」とかそういう精神論や心構えのことではありません。

もっと短いスパンの話です。

瞬間的に、意識的に、反射してしまう私たちの思考やものごとを捉える仕組みについて、自覚的になってみるということを促します。

衝動的に沸き起こる感情や感覚というのは、意識することで、制御することはできないまでも、自分で自覚して、「少し待ってみる」ことが可能になるのです。

少しは答えを急ぎたい気持ちもまぎれて、あいまいさに耐えやすくなると思う。

人は、想像以上に曖昧さを避けたい生き物です。不確定要素というのは、そもそも生存本能からして、とても避けたいものなのです。

1万年以上私たちの脳はそのままと聞いたことがありますが、絶えず変化する自然環境の中で、どのように生き延びるかが課題だった頃から私たちは、変化にさらされ変化を耐えて、乗り越えることで、生命を永らえてきました。

そうした本能は、変化をピンチと捉え直してしまいます。なるべくどっちにも転びそうな曖昧な状況にケリをつけて、安心することをどうしても求めてしまうものです。

事前予測を立てづらい場面では、人はどう感じるのだろうか。まず、不安が湧き起こる。意識しているかいないかにかかわらず、できれば一刻も早くその状態を脱したいという気持ちも起こってくる。

翻って、現代。非常に変化が早い時代を私たちは生きています。

情報という観点からすると、石器時代のそれとは、大きく異なる、さらに大きな変化の時代を生きていると言ってもいいかもしれません。

社会を構成するメンバーとして、人とともにあることがとても重要になっています。それは、プロジェクトを立ち上げ、運営していく時に欠かせないファクターです。プロジェクトには、当然、私たち自身という、「人生のプロジェクト」も含まれます。

曖昧な状況を毛嫌いして、断定をしてしまうこと、答えを急いでしまうことで、もったいない状況を作ってしまっているかもしれません。

現代において、あいまいな状態からさっさと抜け出すことにどれだけのメリットがあるでしょうか。

はっきりと結論付けられないような問題を、無理やり単純化して、素早く答えを出してしまうことで、弊害が生じてしまうのではないでしょうか。

勝手にせっかちモード!?

脳には2つのモードがあります。それが、「せっかちモード」と「じっくりモード」です。

著名な心理学者で行動経済学を提唱したダニエル・カーネマンさんの著書『ファスト&スロー』を参照してみましょう。

システム1(せっかちモード)

  • 直感的で自動的、素早く働く
  • ほとんど努力を必要とせず無意識的
  • ステレオタイプや経験に基づく判断を行う
  • 例:顔の表情を読み取る、簡単な計算(2+2)、危険を感じ取るなど

システム2(じっくりモード)

  • 論理的で意識的、ゆっくり働く
  • 注意力と集中力を必要とする
  • 複雑な計算や分析的思考に使われる
  • 例:複雑な数学の問題を解く、統計分析を行う、新しい状況での意思決定など

この2つのシステムの相互作用が、私たちの意思決定や判断に大きな影響を与えています。システム1は効率的ですが認知バイアスを生みやすく、システム2はより正確ですがエネルギーを消費します。

システム1は、オートマチック運転のクルマのようなものです。一方でシステム2は、マニュアル。慎重にクラッチを繋がないと発信しないし、絶えず変化する交通環境と、自分のクルマの状況を把握しなくては、クルマを目的どおりに動かすことは困難です。

じっくりモードであれば、拙速な判断をせずに済むし、状況が変わることを待つことだってできるのです。

しかし、じっくりモードいいじゃん!と思うのですが、でも欠点があります。というのは、このじっくりモード、非常に脳のメモリをくうのです。

このじっくりモードが「認知資源」というコストをたくさん必要とするからだ。

人の使える認知には、限界があるので、これをなるべく抑えるためにせっかちモードが存在していると言えるのです。

認知は資源であり、使いすぎると枯渇してしまいます。そのために、エコなせっかちモードを人は生み出したのですが、これが一方でバイアスの原因にもなっているということです。

着る服や食事内容をルーティンであらかじめ決めておくことで、認知を節約することできます。

認知資源は、数値ではかれるものではないし、人によっても異なるそれこそ、明確なものではないのですが、確実に私たちのものごとをとらえる状況に影響を与えます。

なるべく枯渇しないようにすきあらば勝手に節約しようとするというのは、人のデフォルトモードであるということを理解しておくとよいでしょう。

あいまいさを抱えながら!?

勝手に認知資源を節約してしまう人の認知モードですが、これに俯瞰的になり、なるべく、踏みとどまることで、わたしたちは、待つ事ができるようになります。

あいまいさに耐えられる人がうまくいく7つの理由(メリット)を見つめてみることで、自分の思考を意識するモチベーションを高めてみましょう。

1.状況から受ける影響を考慮できる。
2.リスクや利益を正しく見積もれる。
3.人間関係がうまくいく。
4.感情をふまえて判断できる。
5.ネット社会とうまく付き合える。
6.創造的な思考ができる。
7.偏見に気づき、抗える。

こうしたメリットをえられるというのは、裏返せば、人について以下のように言うことができるからです。

人間は状況に影響を受ける社会的動物である。

自分の意識の特徴を理解してみるのに、プロスペクト理論を知ることもとても参考になるでしょう。

プロスペクト理論は、同じくダニエル・カーネマンと彼の同僚アモス・トベルスキーによって1979年に開発された行動経済学の理論です。この理論は人間の意思決定、特に不確実性がある状況での判断パターンを説明しています。

主な特徴は、以下の4つがあります。

  1. 参照点依存性:人々は絶対的な結果ではなく、参照点(現状)からの変化として利得や損失を評価する。つまり、相対的にしか状況を理解できないということです。
  2. 損失回避:人々は同じ価値の利得よりも損失により強く反応する(損失回避性)。一般的に、損失の心理的インパクトは同額の利得の約2倍と言われている。得ることより、失うことを忌避するということです。
  3. 確率加重関数:人々は客観的確率をそのまま評価せず、低確率事象を過大評価し、高確率事象を過小評価する傾向がある。低い確率のものを、大きく捉えて、大きな確率のものを、小さく捉えてしまいます。
  4. 価値関数:S字型のカーブを描き、利得領域では凹型(リスク回避的)、損失領域では凸型(リスク選好的)になる。価値の感じ方に歪みが生じます。「得」よりも「損」が重視される傾向にあります。

人は、こうした感覚を起動させて、理論的な判断をすることができにく生き物であるという前提に立つ必要があるでしょう。

あいまいさというのを許容することは、生産性の高いチームを構築するためにも欠かせない論点となります。

なぜなら、あいまいさを許容すると協力行動が生まれやすいからです。

人との協調において、あいまいさが役に立つのは、感情が動いたときや葛藤が生じた時、落ち着かない不快な状況を許容できる力として互いで共有できるものです。

ここでせっかちモードが働いてしまうと、非合理的な判断をしてしまいます。その判断が、結果的に、自分の信用を落としてしまったり、チームのパフォーマンスを低下させてしまうことがあります。

キーは、メンタリングモデルにあります。

メンタルモデルとは、私たちが現実世界を理解・解釈するための思考の枠組みや概念的なツール。

これは個人の経験、学習、価値観から形成され、状況を分析したり問題を解決したりする際の「思考の地図」として機能します。

例えば、プロスペクト理論や確証バイアスの理解もメンタルモデルの一種と言えます。

チームでメンタルモデルを共有することで、カーネマンの言う「せっかちモード」(システム1)を抑制し、「じっくりモード」(システム2)の思考を促進できます。

チーム内で共通の思考フレームワークを持つことにより、以下の効果が生まれます。

  1. 無意識の判断プロセスが意識化され、直感的な反応から分析的思考への移行が促される。
  2. 多様な視点による相互チェックで、個人では気づきにくい認知バイアスが発見される。
  3. 意思決定の共通言語が確立され、論理的思考に基づく説明責任が生まれる。
  4. 「立ち止まって考える」習慣が組織に根付き、反射的反応が減少する。
  5. 個人の認知限界を超えた集合知の活用が可能になる。

この取り組みは、単なる思考法の共有を超え、組織文化として「熟考」を大切にする風土を育みます。結果として、短期的な判断ミスの減少だけでなく、長期的な組織の意思決定品質の向上につながるのです。

メンタリングモデル、つまり共通の思考のフレームワークや基準をチーム内で共有することにより、実は、あいまいさを許容するしなやかな強さを引き出すことができるのです。

この時に重要なのは、そのモデルを言語化して、みんなで共有してみることです。

どんな目的のために、どんなものごとの捉え方をして、どのように思考するのか、そして、特に互いの存在をどう捉えるのか?この点について、言葉にして、互いに取り扱えるようにしてみることが欠かせないアクションになります。

多様な発想をするメンバーが、お互いにちょっとした視点を見つけようとしながら協働できれば、創造的なアイディアを生み出せる集団になるだろう。

誰もがあいまいな状況に耐えられないという性質を共有していることを、まず認識して、そこからどのようなチームを作っていくのか、互いに協力して考えてみる機会を作るのも良いかもしれません。

まとめ

  • 脳の機能は変わっていない!?――太古の昔から人の認知能力は向上していません。
  • 勝手にせっかちモード!?――認知資源エコモードが、人のデフォルトです。
  • あいまいさを抱えながら!?――あいまいさを抱えながら、自分の認知に客観的になりましょう。
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