- どのような価値観を持って、人生を進めていくことが理想でしょうか。
- 実は、ゼロサムではなく、プラスサムの着眼点が重要かも。
- なぜなら、それは奪い合いではなく、持ち出し合いを広げていくからです。
- 本書は、経営+教育という新たな視点で、ものごとの見立てをアップデートしてくれる1冊です。
- 本書を通じて、よりよい社会の捉え方を得て、人生を構築していく新たな価値観を育てます。

なんで辛いの?
本書の問題提起は、「なぜこんなにも生きづらい」時代であるのか?ということです。
会社内でも、ニュースを見てみても、なんだかいつも「誰が悪い!」となぜだか、相手を批判するような論調を多く聴くような気がします。
でも、結局批判されている側も、結構辛かったりします。
大切なのは、このつらい状況の原因を「誰か?」に求めるかということではなく、全体観を忘れずに見つめてみながら、社会に対する見立てをアップデートしてみるということです。
大切なのは、私たちが先入観として知らず知らずに運用している「ゼロサム」という価値観です。
ゼロサムの価値観とは、資源や利益が有限であり、一方が得るものは必ず他方が失うという考え方です。この概念は主にゲーム理論や経済学から生まれました。
ゼロサム思考の特徴とは、以下のようなものがあげられます。
- 総和がゼロ:すべての利得と損失を合計すると常にゼロになる
- 競争的:誰かの勝利は必ず誰かの敗北を意味する
- 二項対立的:「勝者」と「敗者」という単純な区分けになりがち
しかし、現実の多くの状況はゼロサムではなく、協力や相互作用によって全体の価値を増やす「ポジティブサム」や、不適切な対応によって全体の価値が減少する「ネガティブサム」の性質を持っています。
- 協力によって生まれる新たな価値を見落としがち
- 長期的な関係構築を難しくする
- 創造的な解決策を制限する可能性がある
なぜ、ゼロサムが優位になってしまうのかというと、次のような前提に立ってしまうことにあります。
価値あるもの(イノベーション)は作れない、市場は大きくできない、社会全体の所得は増やせないといった「思い込み」が存在するからです。
価値あるものが有限であるとする発想は、人を苦しめます。
個人レベルでの例では以下のようなことあるでしょう。
- 承認欲求の競争: SNSでの「いいね」の数や注目を得ることへの執着。他者が注目を集めると、自分の価値が下がると感じてしまう。
- 時間の不安: 「充実した人生のために今すぐ行動しなければ」という焦りから、常に忙しさを求め、休息を怠り、燃え尽き症候群に陥る。
- 自己成長の比較: 他者の成功を見て「パイは限られている」と考え、自分の価値が相対的に下がったと感じ、嫉妬や自己否定に陥る。
- 人間関係の閉鎖性: 「真の友情は数人しか持てない」という思い込みから、新しい人間関係を築く機会を逃す。
会社・組織レベルでの例では、以下のようなことがみられていると思います。
- 昇進競争: 限られたポジションを巡る社内競争が、協力よりも足の引っ張り合いを促進し、組織全体の生産性を下げる。
- 予算配分の争い: 部署間での予算獲得競争が、会社全体の最適化ではなく、個別部署の利益のみを追求する行動を生む。
- 人材の囲い込み: 「優秀な人材は限られている」という発想から、社員の成長や流動性を阻害し、結果的にイノベーションを抑制する。
- 市場シェア固執: 「市場は限られている」という思い込みが、新たな市場創造よりも競合との消耗戦に向かわせ、業界全体の発展を妨げる。
また、企業の不正を助長させることも危惧されます。コーポレートガバナンスへの影響です。
- 株主と他のステークホルダーの対立: 「株主利益の最大化」を唯一の目標とする考え方は、従業員、顧客、地域社会、環境といった他のステークホルダーの利益を犠牲にする決断を正当化しがちです。
- 短期的利益への執着: 四半期決算重視の文化は、長期的な企業価値創造よりも短期的な株価や業績数字を優先させ、持続可能な成長戦略の実行を妨げます。
- 役員報酬の歪み: 限られたリソースの中で経営陣の報酬を最大化しようとする動きが、一般従業員との報酬格差を拡大し、組織の一体感を損なうことがあります。
- 情報開示の制限: 「情報は力」というゼロサム的発想から、企業が透明性を制限し、投資家や規制当局との信頼関係を損なうケースがあります。
- 取締役会の多様性欠如: 「パイは限られている」という思考が、同質的な取締役構成を維持し、多様な視点や革新的なアイデアの導入を阻害します。
さらに、人口減少ということがらも、こうした状況をさらに助長させてしまうことが考えられます。
人口減少、何回目?
ここで重要なのが、次のような視点の展開を可能にする方法論の探索です。
価値あるものの奪い合いを脱して、価値あるものの創り合いができる方法
実は、私たちはこれまでの時代において、こうした方法論を発明して、人類の繁栄を現実のものにしてきました。
私たちが体験する人口減少は、いまが初めてではないのです。
以下のように、これまでもなんと4回(過去に3回、現在が4回目)も人口減少の事象を体験しながら、それでも人口を伸ばすだけの突破口を探り、展開してきました。
- 縄文時代後期の人口危機:人口が3分の1にまで大幅に減少
- 鎌倉時代後期の人口減少:それまでの右肩上がりの人口増加が停滞・減少に転じた時期
- 江戸時代後期の人口停滞:室町時代以降の人口増加(6倍)の後に訪れた人口成長の停滞期
- 現代の人口減少:明治期以降の大幅な人口増加の後に直面している4度目の人口減少期
これらの危機について、以下のような課題を発明やアクションを通じて、乗り越えてきたのです。
縄文時代後期の人口危機
何を: 狩猟採集による限られた食料生産と不安定な生活
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何で: 水田稲作と金属器の導入による安定的な食料生産と協働システム
鎌倉時代後期の人口減少
何を: 武家社会の行き詰まりと経済的停滞
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何で: 農業技術革新(二毛作)と商工業の発展による経済多様化
江戸時代後期の人口停滞
何を: 鎖国体制下の技術停滞と社会構造の硬直化
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何で: 西洋技術の導入と教育普及による近代産業社会への転換
価値を創り出すことで、世界を前に進めることを可能にさせています。そして、いま私たちは、4回目の人口減少の問題について、鋭意現状認識を進めて、どのように対応するべきか模索中であると捉えることができます。
現代の人口減少(取組み中)
何を: 少子高齢化による労働力不足と社会保障の持続性危機
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何で: 技術革新(AI・ロボット)と多様性受容による新たな社会モデルの構築
いずれのアクションも、価値を有限なものから、実は無限なものではないか?という気づきを提供してくれたものであると、冷静に振り返ると想像することができます。

突破口は?
会社で、少ないマネージャーの席を奪い合うことも、犯罪が増えてしまうことも、ものやものごとを捉える視点が固定的に、有限思考であることが問題の根幹であるということを認識してみることが必要です。
人類史を振り返ってみても、価値有限思考は明らかな間違いであり無知なのです。
私たちが認識してみる必要があるのは、地球の資源は、たしかに有限ではあるものの、それを活用したり捉えたりする視点や価値観ということは無限であるという事実です。
足元1万年で地球の質量はほとんど増減がありません。
でも、経済成長は、いったい何倍になったでしょうか!?
なぜそんなことができるのか。
それは、価値というのは、「資源の組み合わせ方」次第であるという事実があるからです。
プリミティブな風景を見つめてみると、石器時代には、洞窟に穴を開けるとさらに多くの人が、雨風をしのげるようになります。あるいは、鋭利な石に木の枝をつけるとものを加工するときに便利な道具になることに気づきました。
私たちは、絶えず、ものごとを組み合わせて、加工して、そして付加価値を生んできたということになります。
本を1冊手にとってみても、「インクのシミがついた紙束」としてとらえることもできます。ですが、そのインクのシミの紙束が、確実に「価値」を含有しているのです。
今回は、価値有限思考ではなく、価値無限思考に立つことで、閉塞感のある現代に突破口を改めて見出すことができるのではないか?という視点を触れることができました。
次回の投稿でも引き続き本書『経営教育 人生を変える経営学の道具立て』を取り上げさせて頂き、具体的にどのように「価値無限思考」を実装していくのかを学んでいきましょう。
まとめ
- なんで辛いの?――それは、自らゼロサム的価値観を運用してしまっているからです。
- 人口減少、何回目?――実はこれまでの歴史の中でも3回もありました。
- 突破口は?――「価値無限思考」をインストールして、意識して活動してみることです。
