- どうしたら、伝える力について考えることができるでしょうか。
- 実は、ひとりとひとりをまず見つめてみることかも。
- なぜなら、それはコミュニケーションの原点だからです。
- 本書は、ブルータス25年2月号、「伝える力。」の特集です。
- 本書を通じて、「伝える」を生業とする方々との思考をスタートできます。

ラジオを再考してみると?
この雑誌特集の中で、私が特に気になったのが、“ラジオ”で「伝える」ということです。
いま、ラジオの価値が再注目されています。理由はさまざまありますが、ポッドキャストによりいつでも聴取することができるようになったことや、忙しい日常でも「ながら聴き」ができるということも時間を選ばず、生活の中に取り入れることにつながっています。
また、デジタル疲れ(つながり疲れ)という言葉に象徴されるように、主にスマートフォンで視覚から大量の情報を接種することについて、一呼吸おきたい心理もラジオに追い風になっているでしょう。
人のコミュニケーションとは、そもそも音声が起源です。動物のそれと同じように、危険を知らせたり、仲間の名前を呼んだりする時、まず、音声が先立っていたでしょう。文字が発明されたり、印刷技術が進展する中で、視覚からの情報が優位になりましたが、コミュニケーションの原点には、音声コミュニケーションがあったのだと思います。
太古の昔から、人は、ストーリーを口伝してきました。
夜空が満天の星空で満たされる夜に、焚き火を囲んで、人生の先輩からその先輩の体験した物語を語り継いできました。
音声だけというシンプルな媒体を通じて、パーソナリティの声のトーン、間、感情が直接伝わってくることで、不思議と親密感や信頼関係が生まれます。画面がないからこそ、聴き手は想像力を働かせ、自分だけの世界をイメージしながら「対話」を体験できるんですね。
人の声の持つ力や温かみに、人は、どこか故郷を感じ、心に伝わる力を感じるのです。
そんなラジオパーソナリティとして多くのリスナーに支持されているのが、ジェーン・スーさんです。
ジェーン・スーさん(1973年5月10日生まれ)は、日本の音楽プロデューサー、作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティとして多岐にわたる分野で活躍されています。東京都文京区出身で、フェリス女学院大学文学部を卒業後、エピックレコードジャパンやユニバーサルミュージックでの勤務を経て、音楽クリエイターチーム「agehasprings」に所属しています。
その後、コラムニストやラジオパーソナリティとしても活動の幅を広げ、2016年4月からはTBSラジオの『ジェーン・スー 生活は踊る』でパーソナリティを務めています。また、著書も多数執筆されており、幅広い分野で才能を発揮されています。
数々のラジオ番組のパーソナリティを担当するジェーン・スーさん。声でリスナーの心に寄り添うことを常に考えられているといいます。
声には色がある?
そして、その具体的な方法として、放送番組や時間帯に応じて、声色や話し方を使い分けるといいます。
しゃべるのではなく、声で伝えるんです。
例えば、Podcastと通常のラジオ放送では、リスナーの聴取マインドが異なります。Podcastは、目的を持ってしっかり聴きにこられるリスナーさんが多いのですが、ラジオ放送ではまちなかや飲食店、あるいは仕事の最中などにポッと現れる声として聞いてもらえるものです。
両者の違いは、大きなものがあります。
これらを意識して、生活を邪魔しないように昼間の番組、例えばTBSラジオ『生活は踊る』では、なるべくはっきりとしゃべったり、声のトーンを少し上げたりなどを心がけているそうです。
こうした声の工夫というのは、実は多くの人が自然と身につけているものではないか、とジェーン・スーさんは語ります。
友だちとのおしゃべりに、会社のプレゼンと同じような声は使わないし、得意先とのディスカッションに、娘との会話のトーンはやっぱり違います。
“声のTPO”というのは、誰もが自然と身につけていて、そして、実は相手や場を思って、絶えず調整をしているものだったりもします。
ラジオの世界では、「リスナーは、ぼぼ口調で内容を判断している」という認識があるそうです。
例えば真っ当な話題でも、乱暴な口調だったら、その印象に引っ張られるもの。
余計な誤解が生まれないように、声の形や表情というのは、実はとても重要なのです。
何か発信をする時、受け手の意識にどのように伝わっていくか、それを考えるということはとても大切です。
- しゃべる
- 読む
- 伝える
それぞれは、全く違う行為です。
しゃべるというのは、主体が自分で、横にいる人とただ話すような状況で、第三者が聞いて何か役に立つということはないものです。読むというのは、原稿がありそれを滞り無くつたえるということ。そして、伝えるというのは、物理的・心理的な距離のある人にも、耳を傾けてもらえる内容を届けることです。
私が音声メディアでしているのは、常に“伝える”ことだと思います。
大切なのは、自分が嫌われるとか、好かれるとか、そういう心理に惑わされること無く、自分の態度で相手の心にどんな感情が起こるのか、を想像するということです。
そうした相手との関係性を十分に考えてみてこそ、「伝える」ということは、成立していくのだと思います。

不完全な言葉を通じて?
もうおひとりのラジオの人は、藤井青銅さん。
藤井青銅(ふじい せいどう)さんは、放送作家、作家、作詞家として幅広く活躍されています。1955年、山口県下関市に生まれ、1979年に第1回星新一ショートショート・コンテストで入選を果たしました。以降、放送作家としての活動を始め、小説やショートショート、エッセイなど多彩なジャンルで執筆活動を展開しています。
放送作家としては、伊集院光さんやウッチャンナンチャン、オードリーなどのラジオ番組に携わり、特に『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送、2009年~)では長年にわたり放送作家を務めています。また、ニッポン放送の『夜のドラマハウス』など、多くのラジオドラマの脚本も手がけてきました。
そんな藤井青銅さんが、伝えることについて思うのは、“基本、話は伝わらないということ”です。
何事も言葉だけで完璧に伝えようとすることは、とてつもなく難しいです。
例えば目の前に見える景色を描写しようとした時、そこの雰囲気や情報を事細かに完璧に伝えることなどできないように、いくら言葉を尽くしても、残念ながら人にはそれとまったく同じ状況を追体験してもらうことはできないのです。
でも、一生懸命何かを伝えようとしていることだけは伝わる。
話すのが苦手な人はゆっくりになっても、噛んでもいい。トークで大事なのは、確実に伝えることよりも、伝えようとする姿勢の方だと思います。
言葉というのは、実は不完全なものです。
人の意識というのが実は膨大なのかもしれませんが、その意識のほんの上澄みしか表現することができません。そして、もうひとつ厄介なのが、言葉の定義も、微妙にひとりひとりの中で異なります。
同じ、青色でも人によっては全く異なるように、少しのゆらぎのあいまいさの中で、私たちは伝えるを考えていくことが大切なのです。
寄り道しても、人間味が伝わればいい。
藤井青銅さんがおっしゃるように、伝わるということは、情報だけではなく、その人の人柄や、あるいは温度感というもの、そしてそこに乗せることができるかもしれない、信頼感だったりするのかもしれません。
人が言葉で交換しているものは、もしかしたらもっと多くの何かが含まれているのかもしれないと思いました。
いま、ラジオという声のメディアがあらためて注目されていることについて、触れ、おひとりおひとりの声について、考えてみるのもまた、良いかもしれませんね。
まとめ
- ラジオを再考してみると?――コミュニケーションの本質が見えてきます。
- 声には色がある?――相手を想い、声の表情を意識してみるとよいでしょう。
- 不完全な言葉を通じて?――人柄や温度、そして、信頼を交換しているのかもしれません。
