- どのように社会を構築していくことが理想でしょうか。
- 実は、既存のシステムを前提にものごとを考えないことが重要かも。
- なぜなら、それさえ崩して再構成する可能性も、技術の進展等により可能であるからです。
- 本書は、成田悠輔さんによる民主主義の在り方のアップデートに関する1冊です。
- 本書を通じて、そもそも民主とはなにか、意識とは何かを考えるヒントを得ます。

民主主義は、瀕死?
選挙とか政治とか、を考える時、私たちは、前提をいまの仕組みの中で考えがちです。どのようにそのゲームに参加するか、そしてプレイするか。
でも、「選挙に行こう」という広告キャンペーンがあったとしても、仮にそれで若者の投票率が向上したとしても、それは、既得権益を持つ人たちに対する支持にしかならないかもしれません。
手のひらの上でいかに華麗に振る舞って、いかに考え抜いて行って、「#選挙に行こう」とSNSに投稿したところで、今の選挙の仕組みで若者が超マイノリティである以上、結果は変わらない。
ただの心のガス抜きにしかならないかもしれない、と、成田悠輔さんはいいます。
本書は、もっと大事なことに向き合うための、ある種の思考実験的1冊です。仮に、選挙の仕組み自体を根本から覆すことを考える時、どのような理想形態を私たちは、求めるのでしょうか。
そして、そもそも、民主主義とは何なのか、みんなで社会をつくるということはどういうことなのかについて、検討するきっかけを提示してくれます。
民主主義と資本主義、それぞれが補完関係にあって、これまでの世界は、よりよい成長を目指してきました。
資本主義だけで突破しようとすると、強者がさらに勝ち進み、格差がとてつもなく広がっていきます。そもそも持たざるものが、絶対に勝てないゲームになってしまいます。
そこで、民主主義によって、富の分配の仕組みを持つことによって、なるべくその格差を是正するような仕組みづくりがトライされてきました。生まれてしまった弱者に耳を傾ける仕組みとしての民主主義。世界の半分は、そのような力で運営されてきました。
しかし、昨今、この民主主義が劣化しています。劣化を象徴するのは、ヘイトスピーチやポピュリズム的政治言動、政治的イデオロギーの分断などです。
この劣化は、特に民主国家で加速しています。
民主国家ほど未来に向けた資本投資が鈍り、自国第一主義的貿易政策が強まって輸出も輸入も滞っている。これらの要因が組み合わさって民主主義の失われた20年が引き起こされたようなのだ。
これまでの仕組みそのものを疑い、どうしたら民主主義自体を再構築・再構成することができるのか。
新しい民主主義の方策に向けて?
民主国家の中でもさまざまな実験が、視点が展開されています。
今の選挙と民主主義の故障の構造を探り、選挙制度を作り変えられないか内側から闘争したり、独立都市・国家へと逃走して新しい政治制度をゼロから手作りしたり、無意識データ民主主義の構想をデザインしたりしてみよう。
例えば、「世代別選挙区」や「余命投票」などでしょう。これは、それぞれの投票者がどのくらい生きるかという視点で1票に重み付けをする考え方です。
ちなみにこの考え方で計算すると、2016年の米国大統領選挙の結果は、ドナルド・トランプ氏ではなく、ヒラリー・クリントン氏に軍配が上がる結果になるそうです。
また、「液体民主主義」という仕組みも発案されています。
液体民主主義は、代表制民主主義と直接民主主義の良い点を融合させた新しい政治参加の形態です。この仕組みでは、市民は自分で投票するか、信頼できる代理人に投票権を委任するかを選択できます。
最大の特徴は「委任の連鎖」が可能な点です。Aさんが専門家Bさんに委任し、そのBさんがさらに特定分野の専門家Cさんに委任することで、知識と信頼の連鎖が形成されます。また、いつでも委任を取り消して自分で投票できる柔軟性も備えています。
デジタル技術の発展により実現可能となったこのシステムは、ドイツの海賊党やアイスランドの市民運動など、一部の政治組織ですでに実験的に導入されています。
メリットとしては、①市民の政治参加障壁の低減、②専門知識の活用、③政治的無関心の緩和が挙げられます。
一方、課題としては、①デジタルデバイドの問題、②委任の集中による権力の偏り、③システムの複雑さがあります。
液体民主主義は従来の民主主義の限界を乗り越える可能性を秘めていますが、実装には技術的・制度的な課題も多く、今後の実験と検証が期待されています。
また、こうした既存の国家の「民主」をリバイタルするような考え方と並行して、どの国も支配していない地球最後のフロンティアとしての「公海」を活用した、脱出計画なども囁かれています。
これは、公海の特性を逆手にって、ここに漂う新国家群を作り、お気に入りの政治制度を実験して、事実上の新しい国家を作ってしまおう!という考え方です。
億万長者たちが、新しい“ヘブン”を目指して、逃げ出してしまう世界も実現してしまうこともあるかもしれません。

無意識民主主義とは?
さらに、一歩踏み込んで、成田悠輔さんが構想するのは、「無意識データに基づく民主主義」です。
これはこれからさらに進展するテックを活用した、私たちの深層心理を捉えて、無意識を可視化し、民主を言語化し、政治に活用する構想です。
インターネットや監視カメラが捉える会議や街なか・家の中での言葉、表情やリアクション、さらには、心拍数や安眠の度合いなどなどあらゆるデータを集約して、分析、選挙に限らない無数のデータ源から人々の自然で本音な意見や価値観、民意を汲み取るものです。
個々の民意データは歪みを孕んでハックにさらされているが、無数の民意データを足し合わせることで歪みを打ち消しあえる。
これらのデータ分析には、GDP・失業率・学力達成度・健康寿命・ウェルビーイングといった成果指標データを組み合わせることで、目的関数を最適化するように作られるといいます。
こうした過程によって、人々が無意識にそもそもどのような政策論点が重要だと思っているか、についても検討をして、レビューすることが可能になります。
どのような成果指標を組み合わせ、目的関数を最適化するのか、つまり民主主義の思考を数式化し、そして絶えずダイナミックにその数式から再検討するプログラムを内蔵する社会を構成していくものです。
無意識民主主義=エビデンスに基づく目的発見+エビデンスに基づく政策立案
無意識民主主義は大衆の民意による意思決定(選挙民主主義)、少数エリート選民による意思決定(知的専制主義)、そして情報・データによる意思決定(客観的最適化)の融合を目指します。
成田悠輔さんがとくに重要視されるのは、こうした視点を持つことによって、既存の枠組みだけに依らない、自らの感性や考え方を改めて紐解くことの論点です。
本書をきっかけに、ぜひ、「一人ひとりが民主主義と選挙のビジョンやグランドデザインを考え直していく」、そういう論点を日常の中で持ってみることを進めてみるのも良いかもしれません。
社会を考えるためには、こちらの1冊「【社会は作れる!】自分で始めた人たち~社会を変える新しい民主主義|宇野重規」も大変おすすめです。ぜひご覧ください。

まとめ
- 民主主義は、瀕死?――民主国家を中心に民主主義が根幹から揺らいでいます。
- 新しい民主主義の方策に向けて?――すでにさまざまなテストトライが行われています。
- 無意識民主主義とは?――無意識データに基づく、真の民意の言語化と目的・手段の最適化手法です。
