- 人の知性とは何でしょうか!?
- 実は、脳を見つめることで見えてくることが多いかも。
- なぜなら、脳の反応に知性の原点があるからです。
- 本書は、脳の本質を見つめる1冊です。
- 本書を通じて、自分という生物の理解のヒントを得ることができます。

脳の6つの機能とは?
まず、脳という臓器の基本的機能を知るところから始めてみましょう。本書の中で述べられる結論です。
脳というのは、次にあげるような6つの基本的機能を人に提供しています。
1)環境を知る
2)複数データに基づき推論する
3)誤差を修正する
4)環境に働きかける
5)神経修飾物質で精度をコントロールする
6)世界のモデルを学び続ける
1. 環境を知る:世界を感じ取る驚くべき能力
私たちの脳は、五感を通じて絶え間なく環境からの情報を受け取っています。目で見る光の強さ、耳で聞く音の周波数、指先で感じる温度や質感など、数え切れないほどの情報が毎秒処理されています。これらの情報は、単なるデータの集まりではなく、意味のある世界の認識として統合されます。
2. 複数データに基づく推論:パズルのピースを組み合わせる
脳は、様々な情報源からのデータを組み合わせて、状況を理解し判断を下します。例えば、道を歩いているときに、視覚情報(クルマが近づいていることが見える)、聴覚情報(エンジン音)、過去の経験(類似状況での記憶)を統合して、「今、道を渡るべきか」という判断を瞬時に行います。
3. 誤差修正:学習と適応のメカニズム
予測と実際の結果の違いを検出し、そこから学ぶ能力は、脳の重要な特徴です。例えば、新しいスポーツを始めるとき、最初は動きがぎこちなくても、練習を重ねることで脳は誤差を修正し、動きを洗練させていきます。
4. 環境への働きかけ:思考を行動に変える
認識や判断を実際の行動に変換する能力も、脳の重要な機能です。これは随意運動(意識的な動き)から、心拍数の調整といった自律神経系の働きまで、幅広い範囲をカバーしています。
5. 神経修飾物質によるコントロール:精度の微調整
ドーパミンやセロトニンなどの神経修飾物質は、脳の活動を微調整する重要な役割を果たします。これらの物質は、注意力の制御、感情の調節、記憶の形成など、様々な認知機能に影響を与えています。
6. 継続的な学習:世界モデルの更新
脳は常に学習を続け、世界についての内部モデルを更新し続けています。新しい経験や情報を取り入れ、既存の知識を修正・拡張することで、より効果的な問題解決や環境への適応が可能になります。
脳というのは、このように6のの基本的な機能を時に組み合わせて、複雑な推論や思考を行い、私たちの知的活動を司っています。
そして、こうした機能は、現代の人口知能の発展にも大きな影響を及ぼしていることが知られています。
例えば、ディープラーニングモデルによる誤差の取り扱いは、脳の誤差修正機能にヒントをえていると言われています。
私たちの脳の働きをより深く理解することは、人間としての自己理解を深めるだけでなく、より優れた人工知能システムの開発にもつながる可能性を秘めているということかもしれません。
そしてこれらの6つの機能が駆動するためには、強調しておくべきは、身体による知覚機能でしょう。
今一度、知覚と運動が一つのサイクルとなり、これを繰り返して私たちは環境とのインタラクションを行っていることを強調しておきたい。
AIが、実用化される中で、人との違いについて論点になるのが、この身体性です。
AIになくて、人にはある身体という感覚が、人ならではの環境認識を可能にして、特有の感性を発動させる機会となります。
期待自由エネルギー?
本書の中で取り扱われる概念で、非常に興味深いのが「期待自由エネルギー」というものです。
期待自由エネルギー原理:脳の予測システムを理解する
期待自由エネルギー原理は、脳の基本的な働きを説明する画期的な理論です。この理論は、私たちの脳が常に行っている「予測」と「予測誤差の最小化」に焦点を当てています。
基本的な考え方
私たちの脳は、常に周囲の環境を予測しようとしています。
- 次に何が起こるか
- 自分の行動がどんな結果をもたらすか
- 感覚入力がどのような意味を持つか
これらの予測と実際の入力との差が「予測誤差」です。期待自由エネルギーとは、この予測誤差の期待値を表す数学的な量です。
予測誤差を減らす2つの方法
脳は予測誤差を減らすために、主に2つの方法を使います。
- 知覚の更新
- 予測が間違っていた場合、内部モデルを修正
- 新しい情報を基に予測システムを更新
- 学習による予測精度の向上
- 能動的推論
- 行動を通じて環境に働きかける
- 予測に合うように状況を変える
- 新しい情報を積極的に収集
なぜ予測誤差の最小化が重要か 予測誤差の最小化は、生存に直結する重要な機能です。なぜなら、変化し続ける環境の中で、自己を維持していくために、不可欠な「思考の力点」となるためです。
例えば、次のような機能を人にもたらします。
- 環境の変化を素早く察知できる
- 効率的な行動計画が可能になる
- 不確実性を減らし、適応的な行動を可能にする
実際の応用例 この原理は、様々な現象の説明に役立ちます。例えば、以下のような論点です。
- 錯覚の理解 予測と実際の入力の不一致が、特殊な知覚体験を生む
- 学習のメカニズム 予測誤差を最小化する過程として学習を説明できる
- 精神疾患の理解 予測システムの異常として、様々な症状を説明可能
AIへの応用 この理論は人工知能の開発にも影響を与えています。例えば、以下のような視点での活用です。
- 予測ベースの学習アルゴリズム
- 能動的学習システムの設計
- 知覚と行動を統合したAIモデルの開発
期待自由エネルギー原理は、脳の働きを統一的に理解するための強力な枠組みを提供しています。この理論は、認知科学から人工知能まで、幅広い分野に影響を与え続けています。
この期待自由エネルギーについて深く見つめていくと、モチベーションや好奇心の発火点を見出すことができます。
期待自由エネルギーは、実利的価値と認識的価値から構成されると述べた。2つの価値の和から成るので、どちらか一方が小さくても、もう一方が大きくなるのは良くない。期待自由エネルギーは負の価値の和なので、期待自由エネルギーを最小化する一番の手立てとは両方のバランスをうまく取りながら、価値の和を最大化することである。
期待自由エネルギーを最小化しよう(誤差をなくそう)として、外発的モチベーションと内発的モチベーションが、活性化されるということになります。
もう少し詳しく説明してみると、次のように言えそうです。脳は、以下の2つの価値を常に考慮しています。
- 実利的価値:実際の行動で得られる価値
- 例:食事をして空腹を満たす
- 例:危険を避けて安全を確保する
- 認識的価値:新しい情報を得ることの価値
- 例:未知の場所を探索する
- 例:新しいことを学習する
これら2つの価値は、どちらも大切です。
- いつも安全な場所にいるだけ(実利的価値が高い)で、新しいことを学ばない(認識的価値が低い)のは良くありません
- 逆に、新しいことばかり追い求めて(認識的価値が高い)、基本的な安全や生存を軽視する(実利的価値が低い)のも問題です
脳が最も効率よく働くのは、この2つの価値をうまくバランスを取りながら、両方の合計値を高めていく時です。言い換えれば、「安全を確保しながら新しいことを学ぶ」や「学びながら実践的な価値も得る」といった状態が理想的だということです。
人が何らかの行動を起こすとき、そこには不足している何かへの欲求が存在し、不足を回避することが行動のモチベーションにつながる。
そして、好奇心や探求心は、認識的価値(内在的価値ともいう)も深く関係しているということです。
認識的価値とは、ある行動を起こしたとき、どれだけ不確実性が低下するかの量だと考えて見るとよいでしょう。

好奇心とは?
同様に、期待自由エネルギーが最小化されるのは、認識的価値が最大化したときだということを覚えておこう。
認識的価値は、実は当人しかわからない価値であるということが重要です。
本人(固有)の好奇心や探究心に基づく行動によって、もたらされるものが、認識的価値なのです。
これらのことをまとめていくと、行動の重要性と、そして、自分の心を理解する重要性に触れていくことができるような気がします。
身体を使って新しい経験や体験を獲得しながら、そのことによって、「実利的価値」はもちろん「認識的価値」を獲得してみること、そしてその両方をバランスして満足させるように、絶えず行動しながら、自分の認識さえも変えていくような行動が、好奇心や探究心をさらに高めていくことになるのだと思われます。
自分が持っているそれまでの知識(信念)がもっとも大きく書き換えられる可能性があるということだ。
不確実性が大きくなるということに人は一気に注目度を上げます。そして夢中になる本能を持ちます。
不確実性というのは、外的な環境について使われることが常かもしれませんが、案外、その対象の一つには、自分自身も含まれるのかもしれません。
期待自由エネルギーを最小化する行動の選択は、未来における反実仮想を考え、その中から一つの行動を選択し、その仮説を実行し確認していくことに他ならない。
私たちは、前に進みながら、変わっていくことを知性として持つことを許された生き物なのかもしれません。
脳を切り口に自分を俯瞰してみるには、こちらの1冊「【あなたは4人いる!?】WHOLE BRAIN 心が軽くなる「脳」の動かし方|ジル・ボルト・テイラー」もおすすめです。

まとめ
- 脳の6つの機能とは?――6つの機能で基本的な脳の活動を捉えてみましょう。
- 期待自由エネルギー?――期待自由エネルギーを最小化するということがプログラムされています。
- 好奇心とは?――私たちは絶えず変わりながら、価値を見出し、前に進む生き物です。
