- どうしたら、よりよく仕事を進めることができるでしょうか。
- 実は、「急がば回れ」の実践がキーかもしれません。
- なぜなら、ものごとには、時間をかけて成るものも少なくないからです。
- 本書は、ネガティブ・ケイパビリティの実践を説く1冊です。
- 本書を通じて、日常生活の中で、“寝かせる”を期待する方法を学ぶことができます。

ネガティブ・ケイパビリティとは?
不確かさを受け入れる力 ―― それが「ネガティブ・ケイパビリティ」です。イギリスの詩人ジョン・キーツが1817年に提唱したこの概念は、現代社会を生きる私たちにとって、重要な示唆を与えてくれます。
ネガティブ・ケイパビリティとは、「不確実さ、謎、疑問の中にあっても、性急に事実や理由を求めることなく、その状態に留まることができる能力」のこと。SNSで即座に答えを求めがちな現代人にとって、むしろ逆説的に必要とされる能力かもしれません。
たとえば、職場での複雑な人間関係、将来への不安、家族との価値観の違いなど、私たちの周りには「正解のない問題」が溢れています。そんなとき、すぐに解決策を求めるのではなく、その状況をじっくりと受け止める。その過程で、新たな気づきや創造的な解決策が生まれることもあるのです。
本書は、そんなネガティブ・ケイパビリティを日常生活の中で、取り入れるためにはどのような考え方や視点が必要なのかを説く1冊です。
ものごとには、「すぐに解決しない」ということが、最終的には、よりよい結果をもたらす、あるいは、時間をかけることが、直接的ないし、間接的に解決策になっていくということもたくさんあるのです。
沢渡あまねさんは、日本の社会では、「ポジティブ・ケイパビリティ」が優勢になって、時間をいかに短く、すぐに解決できるかどうか、行動に移していくほうが優勢になっているといいます。
まず、ポジティブ/ネガティブ双方のアプローチを比べてみましょう。
ポジティブ・ケイパビリティ | ネガティブ・ケイパビリティ |
---|---|
・課題に対し、情報を大量に、収集し、最良の解を見出して、即実行する力。 ・現代社会の価値観。 | ・最適解が見つからない状態に耐える能力。 ・考えたくないことを考える能力。 ・正解なるものに安易に飛びつかない能力。 |
多くのリーダーはこの価値観を備えていて、ポジティブ・ケイパビリティにもとづく行動を日々実践し、高度な課題解決に取り組んでいる。 | ポジティブ・ケイパビリティ+αで求められる能力で、複雑性や多様性に対処し、より賢明な判断を下すために必要。 スピード解決一辺倒でない機会を持つことで、難易度の高いビジネス課題に向き合うことができる。 |
重要なのは、これら2つのアプローチが存在するということを、念頭において、自分の視野を広げてみることです。
日本には「急がば回れ」なる格言があります。
目的地に急いでいきたいのであれば、むしろ回り道を・・・と説くこの格言は、やはりものごとの本質をついているのかもしれません。
ネガティブ・ケイパビリティが、不足していると組織においてどのような状況に陥ることになるでしょうか。
取り返しがつかないこと?
ネガティブ・ケイパビリティ欠乏症になると、次のような状態を引き起こします。
1)声なき声が無視されてしまう。
2)メンバーのエンゲージメントを下げる。
3)熟考する習慣を組織から奪う。
その場で大きな声だけが優先される組織は、声なき声を無力化してしまいます。そうした組織では、内在する問題や、あるいは、外的な機会を取り入れることが、どんどんできなくなっていくでしょう。
さまざまな意見を創造的に用いて、判断できることが、組織の冗長性を担保して、可能性のある戦略オプションを見過ごさない力になります。
その場で意見を言わない(言えない)人を無能扱いするのではなく、その人が感じていることを引き出すことの方が、組織全体を活性化させて、一人ひとりの参画意識を高めていくためには重要です。
特に、ダイバーシティ&インクルーシブな組織デザインが、課題になる中で、そうしたアクションは、今後さらに歓迎されていくことが期待されているのではないでしょうか。
その場で、意見を言う人や、気の利いたことを言う人だけが評価されてしまうと、そうした組織文化は可能性を狭めていきます。あるいは、「心にもないこと」を言う人だけが残ってしまう、権力を持ってしまうことだって考えられるのです。
何よりじっくりものごとを考える機会を組織から奪ってしまうことになります。
つまり、ポジティブ・ケイパビリティ“のみ”が優勢になると、次のような弊害を知らず知らずもたらすということです。
1)当事者目線の欠如
2)共創機会の逸失
3)ブランド毀損(ステークホルダーの共感を得られなくなるため)
良い組織づくりには、自己肯定と自己否定の両輪が不可欠。
組織に所属する一人ひとりが、「ネガティブ・ケイパビリティ」を意識して、行動してみることから、初めて見るのが良いかもしれません。

習慣化のために?
ネガティブ・ケイパビリティを意識するにはどのような習慣を身に着けていくことが大切でしょうか。
まずは、目の前のタスクや課題を以下のように分類してみることからはじめてみることが大切かもしれません。
緊急度・高い | 緊急度・低い | |
重要度・高い | 第1領域 | 第2領域 |
重要度・低い | 第3領域 | 第4領域 |
重要なのは、振り分けられたタスクや課題を第1領域を他の領域に振り分けることができるか?ということ、そして、第2象限が空白のままになっていないか?を検討してみることです。
とくに、組織の問題(人に関わる問題を含む)というのは、一般的に解決を目指していく行程が長いものです。それこそネガティブ・ケイパビリティのちからがものをいいます。
日頃から、いかに第2領域に配分されたタスクや問題について、少しずつ考えて、実践していけるかということが大切なのですね。
例えば、グーグルでは20%ルールといって、本業や本職の課題やタスクにあてる以外の時間を2割作って、自分の研究や自由なタスクに挑戦することを推奨しています。その2割には、上記の第2領域のタスクが十分に含まれれてくるようにルールを設計されていると捉えてよいでしょう。
すぐに何かに手を付けるということではなく、「一旦寝かせてみよう」という合言葉も大切にしてみると良いでしょう。
何かをすぐにトライすると、一気呵成にやっている感を得て、なんだか盛り上がりますが、本当に大切なことなのかの見極めがないままなので、空振りしてしまうこともあります。
常にスピード優先にするのではなく、気合や根性論で突破していくことだけを考えるのではなく、何にリソースを配分していくのか?について、俯瞰的な視点で冷静に見つめてみることが重要です。
どこかに置き忘れてしまった人間らしさや感性を取り戻そう。
沢渡あまねさんは、そう結びます。
その背景には、私たち人が、社会や組織という本来手段であったはずの概念を目的化してしまい、反対に、自分たちの人生を手段化してしまっているのではないか?という警鐘を感じることができるように思います。
少し立ち止まって、何が大切なのか、そして目に見える瞬間的な成果だけに期待しない視点を自分たちの中に、持つことができるか?そして、それを共有することができるのか?についても、是非検討をしてみたいものです。
ネガティブ・ケイパビリティについては、こちらの1冊「【焦るな!耐えろ!】ネガティブ・ケイパビリティ|帚木蓬生」もぜひご覧ください。

まとめ
- ネガティブ・ケイパビリティとは?――長い目をもって踏みとどまり続ける力のことです。
- 取り返しがつかないこと?――時間をかけなくては解決し得ないことは、気づいたときに対処することがしづらいものです。
- 習慣化のために?――タスクを重要度・緊急度で分けて、「寝かせてみる」選択肢を持ちましょう。
